ライン


「将臣くんのヒップラインステキよね!」
 突然母親が言い出した一言に、望美は食べていた目玉焼きを吐き出しそうになった。
「もうっ! 突然何を言い出すかと思ったらっ!」
 望美は焦りながら真っ赤になり、半熟の卵部分をぐちゃぐちゃにしてしまう。全く、いつも突然、突拍子もないことを言うおひとである。
「お母さんが後二十若かったら、絶対に襲っていたわよ。いいわねー」
 母親は夢想にふけるようなうっとりとした瞳をし、にやにやと笑っている。
「やっぱり男の子はヒップラインでしょ」
 いけしゃあしゃあと言う母親を、望美は強く睨みつける。
「もう、バカッ!」
「あの腰からヒップにかけては本当にステキよね。ジーンズ履いてきたら、抱き着きたくなっちゃうんだもん」
「お母さん…、それじゃあ犯罪を冒すおばさんみたいだよ」
 望美は諦めたように溜め息をつくと、目玉焼きの最後の部分を食べ終えた。
「望美、あのヒップライン、誰にも渡しちゃダメよ! あなたになら譲ってあげてもいいからっ!」
「譲るって…、最初からお母さんのものじゃないじゃない」
 望美がむくれていると、玄関が開く音がした。
「おはようございます、望美、いるか?」
 将臣の声が聞こえるなり、望美はダイニングからひょっこりと顔を出した。
「待って、すぐ行くから」
 将臣の姿を見るなり、腰から大腿部にかけてのラインを意識して、真っ赤になってしまう。
 あの時空から還ってきて、元々かなり良かったスタイルに、益々磨きがかかってきた。今やセクシィという死語を越えて、フェロモンボディになっている。
 母親の一言で余計に意識をしてしまい、望美は姿を見るだけで真っ赤になってしまった。
「将臣くん、いらっしゃい! お茶でもいかが?」
 母親は嬉しそうに笑いながら、将臣を招き入れている。
 急いで支度をしながら、母親が馬鹿なことを言い出さないかと、望美はずっとはらはらしどうしだった。

 今日は少し筋肉が緊張する。
 望美を、映画をだしにして外に誘ったものの、将臣は紳士でいられる自信など、微塵もなかった。
 最近の望美は異常と言えるぐらいに色香があり、近付くだけで、こちらの筋肉が官能的な緊張をする。
 そもそも、将臣の母親が悪い。煽るようなことを言ったからだ。
「将臣、望美ちゃんってどんなコロンをつけているの?」
「さあ、知らねぇし、んなことは気にしたことなんてねぇよ」
 本当は嘘だ。いつも意識をしまくっている。望美からほんのり甘い香りがするのは前から気付いていた。あの甘い香りを嗅ぐたびにドキドキしてしょうがない。
 セックスは初めてではないくせに、望美が相手だとまるで経験値のないような気分になった。
「あの香りステキよね。銘柄解ったら、お母さんも買おうかしら」
「やめとけよ、あんな甘ったるい香り、似合わねぇよ」
 あの香りを母親に纏われても困る。望美とダブると、四六時中ドキドキしなければならない。
「そうねぇ。望美ちゃんみたいなふわふわしたマシュマロみたいに、柔らかくて、スタイルの良い子だったら似合うかもねぇ…。スタイルって言えば、望美ちゃん、あんなに細いのに、どうして胸だけはぽよぽよしていて大きいのかしら? 将臣、理由知っている?」
 いきなり何を言い出すかと思えば、こちらが火が出るぐらいに恥ずかしいことを、母親は平気で言ってくる。そんなことはこっちが知りたいと、将臣は思う。
「…知らねぇよ。聞いてどうすんだよ。今更だろ?」
 将臣は目の回りをほんの少し赤らめながら、母親を睨みつける。
「お母さん、ちょっと興味があったのよ。だけど望美ちゃんの胸って柔らかそうよねぇ。一度触ってみたい」
 それはこちらの台詞だと、将臣は思わずにはいられない。それぐらい、将臣は望美を意識してしまっていた。
 母親に背を向けると、隣の春日家に向かう。母親はにんまりと笑って見送ってくれた。
 春日家に着くと、直ぐに望美がひょっこりと顔を出してくれた。
 今日は、ふんわりとした薄いピンクのモヘアワンピースで、胸が強調されている。先程の母親の言葉を思い出し、将臣は余計に意識をしてしまった。
 このままでは欲望を爆発させてしまうぐらいに、熱くなってしまっていた。
 望美の母親に呼ばれて、軽くお茶をご馳走になっている間も、ばたばたと準備をする望美を意識してしまう。
「ごめんなさいね、いつも段取りが悪くて」
「いいえ」
 ちらちらと望美の見事なボディラインに意識を置いて、しっかりと見てしまっていた。
「うちの娘もなかなかのものでしょ?」
「あ、はい」
 望美をずっと目で追いながらも、将臣は言葉を窮していた。
「あの子はなかなか良い娘に育ったと思うけれど、将臣くんもステキになったわよ」
 望美の母はふたりの仲を探るような眼差しで、じっと見つめてくる。
 息苦しくなったところで、望美が救いの神のように準備を終えた。
「将臣くんっ! 仕度済んだよ。行こう!」
「ああ」
 ようやく緊張から解放され、将臣はホッと躰から力を抜いた。
 ふたりはお互いに意識をしながら、家を出た。

 望美は、フェロモンを纏った将臣の精悍な躰を、ちらちらと見ながら、奥深いところがとろけそうになるぐらいに熱くなる。
 意識すればするほど、母親が指摘をした、腰から大腿部にかけての逞しい張りに目を奪われる。
 将臣のようにヒップラインを上向きでしっかりとしていると、ジーンズがとても似合う。
 余り意識はするなと、自分に言い聞かせれば聞かせるほど、望美は将臣を意識してしまっていた。
 触れたい。
 その躰にぴったりと自分の躰を押し付けてみたい。
 そう考えると、頭のなかがピンク色に染まり、何も考えられなくなってしまった。
 俯いてよそ見をしていたせいで、望美はつまずいてしまう。
「おいっ!?」
 そのまま倒れそうになった望美を、将臣は逞しい腕で支えてくれた。
 望美も将臣も、一瞬硬くなる。将臣の腕は、望美の乳房に食い込んでいる。お互いに意識をせずにはいられなかった。
 その腕の筋肉の張り具合は男らしく、温もりは護ってくれそうな優しさがある。耳たぶまでパルスのリズムを感じ、望美はときめく余りに俯いた。心臓がまるでドラムみたいに鳴り響いている。
「有り難う…」
「ったく…ぼうっとすんなよ」
 将臣が苦笑しながら鼻を摘むものだから、望美も笑うことが出来た。
「しょうがねえな」
 将臣は大きな手を望美に差し出すと、柔らかく包み込んでくれる。
 温かくて、力強い感覚に、望美は胸が苦しくなるぐらいに追い詰められていた。
 将臣くんと密着したい。

 まだ柔らかな感触が腕に遺っている。思い出すだけで、下半身がほてる。
 望美は想像以上に柔らかくて、優しい温もりを持っていた。
 だからこそこのまま抱きしめてしまいたくなる。
 反省をして、子犬のようにしゅんと頭を垂れる姿は、このままベッドに押し倒してしまいたいぐらいの可愛いらしさだ。
 手をこうして繋ぐだけでも、全身がヒートアップする。なのに触れずにはいられなかった。
 もっともっと望美に近付きたい。
 抱きしめてこのまま映画ではなくホテルへ行きたいと、健全な青年である将臣は思ってしまう。
 熱くてしょうがないというのに、クールを装わなければならないのが辛かった。
 望美をちらりと見る。
 丸みを帯びた躰は、すんなりと柔らかさが一緒になっていて、最高の躰のように思えた。
 望美は、腕や脚、ウエストはかなり細くてしなやかなのに、ヒップや胸は柔らかくて豊かだ。正に理想的な体型と言えた。
 望美がワンピースを脱げば、一体どんなに綺麗なボディが出てくるのだろうか。それを想像するだけで、甘い気分になった。
 抱きしめたい。
 繋がりたい。
 セックスがしたい。
 将臣の頭のなかでは、もう映画などどうでも良くなっていた。

 ふたりで横浜まで出て、映画を楽しむことにした。見る映画は、望美が好きなロマンティックなラブロマンス。
 将臣の趣味では全くなかったが、望美を煽るために了承したのだ。
「有り難う、将臣くんが一緒に見てくれるなんて思わなかったよ」
「たまにはな」
 ふたりで隣あって座れば、自然と手を繋ぎたくなる。
 将臣は自然体を装って、望美の手を握った。

 将臣に手をしっかりと繋がれて、望美はドキリとした。手の力がとても強くて心地良い。
 軽く握り締めると、将臣もまた返事をしてくれる。
 気持ち良さに、息が詰まりそうになっていた。
 将臣の手を意識し過ぎて、もう映画どころではない。それぐらいにロマンティックだった。

 映画を見終わっても、ふたりのロマンティック気分は消えることはなかった。
 将臣に手を引っ張られて、映画館を出る。
 将臣のヒップラインに触れたい。
 逞しい胸に触れてみたい。
 望美は悶々としながら、欲望の強さに驚いていた。
 このまま手を繋いだままでいると、それが大きくなる。
 お互いに触れ合いたい。
 キスしたい。
 甘い感覚に狂いそうだ。
 どこの店に入るのではなく、ただ一緒にいたかった。
 チラチラとお互いに盗み見してしまい、望美はとうとう泣きそうになった。
「どうした?」
 軽蔑されてもいいから、望美は正直な気持ちを漏らす。
「将臣くんに触れたくて、触れたくて…」
 そこまで言ったところで、将臣と目が合った。
「来いよ」
 将臣が引っ張っていった先には、ブティックホテルが見えた。
コメント

「迷宮」の将臣のヒップラインに触発(笑)



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