1
「将臣くんのヒップラインステキよね!」 突然母親が言い出した一言に、望美は食べていた目玉焼きを吐き出しそうになった。 「もうっ! 突然何を言い出すかと思ったらっ!」 望美は焦りながら真っ赤になり、半熟の卵部分をぐちゃぐちゃにしてしまう。全く、いつも突然、突拍子もないことを言うおひとである。 「お母さんが後二十若かったら、絶対に襲っていたわよ。いいわねー」 母親は夢想にふけるようなうっとりとした瞳をし、にやにやと笑っている。 「やっぱり男の子はヒップラインでしょ」 いけしゃあしゃあと言う母親を、望美は強く睨みつける。 「もう、バカッ!」 「あの腰からヒップにかけては本当にステキよね。ジーンズ履いてきたら、抱き着きたくなっちゃうんだもん」 「お母さん…、それじゃあ犯罪を冒すおばさんみたいだよ」 望美は諦めたように溜め息をつくと、目玉焼きの最後の部分を食べ終えた。 「望美、あのヒップライン、誰にも渡しちゃダメよ! あなたになら譲ってあげてもいいからっ!」 「譲るって…、最初からお母さんのものじゃないじゃない」 望美がむくれていると、玄関が開く音がした。 「おはようございます、望美、いるか?」 将臣の声が聞こえるなり、望美はダイニングからひょっこりと顔を出した。 「待って、すぐ行くから」 将臣の姿を見るなり、腰から大腿部にかけてのラインを意識して、真っ赤になってしまう。 あの時空から還ってきて、元々かなり良かったスタイルに、益々磨きがかかってきた。今やセクシィという死語を越えて、フェロモンボディになっている。 母親の一言で余計に意識をしてしまい、望美は姿を見るだけで真っ赤になってしまった。 「将臣くん、いらっしゃい! お茶でもいかが?」 母親は嬉しそうに笑いながら、将臣を招き入れている。 急いで支度をしながら、母親が馬鹿なことを言い出さないかと、望美はずっとはらはらしどうしだった。 今日は少し筋肉が緊張する。 望美を、映画をだしにして外に誘ったものの、将臣は紳士でいられる自信など、微塵もなかった。 最近の望美は異常と言えるぐらいに色香があり、近付くだけで、こちらの筋肉が官能的な緊張をする。 そもそも、将臣の母親が悪い。煽るようなことを言ったからだ。 「将臣、望美ちゃんってどんなコロンをつけているの?」 「さあ、知らねぇし、んなことは気にしたことなんてねぇよ」 本当は嘘だ。いつも意識をしまくっている。望美からほんのり甘い香りがするのは前から気付いていた。あの甘い香りを嗅ぐたびにドキドキしてしょうがない。 セックスは初めてではないくせに、望美が相手だとまるで経験値のないような気分になった。 「あの香りステキよね。銘柄解ったら、お母さんも買おうかしら」 「やめとけよ、あんな甘ったるい香り、似合わねぇよ」 あの香りを母親に纏われても困る。望美とダブると、四六時中ドキドキしなければならない。 「そうねぇ。望美ちゃんみたいなふわふわしたマシュマロみたいに、柔らかくて、スタイルの良い子だったら似合うかもねぇ…。スタイルって言えば、望美ちゃん、あんなに細いのに、どうして胸だけはぽよぽよしていて大きいのかしら? 将臣、理由知っている?」 いきなり何を言い出すかと思えば、こちらが火が出るぐらいに恥ずかしいことを、母親は平気で言ってくる。そんなことはこっちが知りたいと、将臣は思う。 「…知らねぇよ。聞いてどうすんだよ。今更だろ?」 将臣は目の回りをほんの少し赤らめながら、母親を睨みつける。 「お母さん、ちょっと興味があったのよ。だけど望美ちゃんの胸って柔らかそうよねぇ。一度触ってみたい」 それはこちらの台詞だと、将臣は思わずにはいられない。それぐらい、将臣は望美を意識してしまっていた。 母親に背を向けると、隣の春日家に向かう。母親はにんまりと笑って見送ってくれた。 春日家に着くと、直ぐに望美がひょっこりと顔を出してくれた。 今日は、ふんわりとした薄いピンクのモヘアワンピースで、胸が強調されている。先程の母親の言葉を思い出し、将臣は余計に意識をしてしまった。 このままでは欲望を爆発させてしまうぐらいに、熱くなってしまっていた。 望美の母親に呼ばれて、軽くお茶をご馳走になっている間も、ばたばたと準備をする望美を意識してしまう。 「ごめんなさいね、いつも段取りが悪くて」 「いいえ」 ちらちらと望美の見事なボディラインに意識を置いて、しっかりと見てしまっていた。 「うちの娘もなかなかのものでしょ?」 「あ、はい」 望美をずっと目で追いながらも、将臣は言葉を窮していた。 「あの子はなかなか良い娘に育ったと思うけれど、将臣くんもステキになったわよ」 望美の母はふたりの仲を探るような眼差しで、じっと見つめてくる。 息苦しくなったところで、望美が救いの神のように準備を終えた。 「将臣くんっ! 仕度済んだよ。行こう!」 「ああ」 ようやく緊張から解放され、将臣はホッと躰から力を抜いた。 ふたりはお互いに意識をしながら、家を出た。 望美は、フェロモンを纏った将臣の精悍な躰を、ちらちらと見ながら、奥深いところがとろけそうになるぐらいに熱くなる。 意識すればするほど、母親が指摘をした、腰から大腿部にかけての逞しい張りに目を奪われる。 将臣のようにヒップラインを上向きでしっかりとしていると、ジーンズがとても似合う。 余り意識はするなと、自分に言い聞かせれば聞かせるほど、望美は将臣を意識してしまっていた。 触れたい。 その躰にぴったりと自分の躰を押し付けてみたい。 そう考えると、頭のなかがピンク色に染まり、何も考えられなくなってしまった。 俯いてよそ見をしていたせいで、望美はつまずいてしまう。 「おいっ!?」 そのまま倒れそうになった望美を、将臣は逞しい腕で支えてくれた。 望美も将臣も、一瞬硬くなる。将臣の腕は、望美の乳房に食い込んでいる。お互いに意識をせずにはいられなかった。 その腕の筋肉の張り具合は男らしく、温もりは護ってくれそうな優しさがある。耳たぶまでパルスのリズムを感じ、望美はときめく余りに俯いた。心臓がまるでドラムみたいに鳴り響いている。 「有り難う…」 「ったく…ぼうっとすんなよ」 将臣が苦笑しながら鼻を摘むものだから、望美も笑うことが出来た。 「しょうがねえな」 将臣は大きな手を望美に差し出すと、柔らかく包み込んでくれる。 温かくて、力強い感覚に、望美は胸が苦しくなるぐらいに追い詰められていた。 将臣くんと密着したい。 まだ柔らかな感触が腕に遺っている。思い出すだけで、下半身がほてる。 望美は想像以上に柔らかくて、優しい温もりを持っていた。 だからこそこのまま抱きしめてしまいたくなる。 反省をして、子犬のようにしゅんと頭を垂れる姿は、このままベッドに押し倒してしまいたいぐらいの可愛いらしさだ。 手をこうして繋ぐだけでも、全身がヒートアップする。なのに触れずにはいられなかった。 もっともっと望美に近付きたい。 抱きしめてこのまま映画ではなくホテルへ行きたいと、健全な青年である将臣は思ってしまう。 熱くてしょうがないというのに、クールを装わなければならないのが辛かった。 望美をちらりと見る。 丸みを帯びた躰は、すんなりと柔らかさが一緒になっていて、最高の躰のように思えた。 望美は、腕や脚、ウエストはかなり細くてしなやかなのに、ヒップや胸は柔らかくて豊かだ。正に理想的な体型と言えた。 望美がワンピースを脱げば、一体どんなに綺麗なボディが出てくるのだろうか。それを想像するだけで、甘い気分になった。 抱きしめたい。 繋がりたい。 セックスがしたい。 将臣の頭のなかでは、もう映画などどうでも良くなっていた。 ふたりで横浜まで出て、映画を楽しむことにした。見る映画は、望美が好きなロマンティックなラブロマンス。 将臣の趣味では全くなかったが、望美を煽るために了承したのだ。 「有り難う、将臣くんが一緒に見てくれるなんて思わなかったよ」 「たまにはな」 ふたりで隣あって座れば、自然と手を繋ぎたくなる。 将臣は自然体を装って、望美の手を握った。 将臣に手をしっかりと繋がれて、望美はドキリとした。手の力がとても強くて心地良い。 軽く握り締めると、将臣もまた返事をしてくれる。 気持ち良さに、息が詰まりそうになっていた。 将臣の手を意識し過ぎて、もう映画どころではない。それぐらいにロマンティックだった。 映画を見終わっても、ふたりのロマンティック気分は消えることはなかった。 将臣に手を引っ張られて、映画館を出る。 将臣のヒップラインに触れたい。 逞しい胸に触れてみたい。 望美は悶々としながら、欲望の強さに驚いていた。 このまま手を繋いだままでいると、それが大きくなる。 お互いに触れ合いたい。 キスしたい。 甘い感覚に狂いそうだ。 どこの店に入るのではなく、ただ一緒にいたかった。 チラチラとお互いに盗み見してしまい、望美はとうとう泣きそうになった。 「どうした?」 軽蔑されてもいいから、望美は正直な気持ちを漏らす。 「将臣くんに触れたくて、触れたくて…」 そこまで言ったところで、将臣と目が合った。 「来いよ」 将臣が引っ張っていった先には、ブティックホテルが見えた。 |
| コメント 「迷宮」の将臣のヒップラインに触発(笑) |