佐保姫


 同じ大学にも無事受かり、望美と将臣は、残りの高校生活を楽しむ態勢に入っている。
 だが進学準備も色々と大変で、何かと手も取られたりするが、そこは楽しさが煩わしさを消してくれていたりする。
 ふたりで一緒の大学に行けるのだから、当然だ。
 休日で何も予定を立てていなくても、自然にデートになってしまうのは、蜜月が長いからだろうか。
 今日も、望美はごく自然に、将臣の傍にいた。
「望美、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだが、構わねぇか?」
 顔を合わせるなり将臣に面と向かって言われ、望美は頷いた。
「いいよ。私で良ければ」
「サンキュ。お前でねぇとダメだからな」
 将臣にそのまま連れられ駅まで向かう。いつも以上に手をしっかりと握り締められて、望美はドキドキとワクワクを同居させながら、着いていった。
「何、買い物?」
「まあ。そんなところ」
「だったら、私も何か見ようかなあ」
 望美は電車に揺られながら、あれこれとショッピングの計画を立てていた。
 電車のなかでも、気にせずに将臣は手を握ってくれる。望美はそのおかげで、車内で体勢を崩すことはなかった。
 将臣に導かれるような形で、望美は電車を降りて乗り換える。
「将臣くん、どこに行くの?」
「ナイショ」
「何だか、マジカルミステリーツアーみたい」
「まあそんなもんだろ」
 将臣はさらりとはぐらさすと、薄く笑った。
 結局、将臣が降り立ったのは、文教区で識られる駅。ショッピングモールも鎌倉と同じような店が入っており、わざわざここまで来て買い物をすることはないだろうと、望美は思った。
「何を買うの?」
「正確には、買うんじゃなくて、借りるんだけれどな」
 将臣は勿体振って言った後、すたすたと早足で歩いていく。
「ねぇ、借りるって!?」
「ここは大学も近いだろ? だから部屋を借りるんだよ」
 将臣は何でもないことのように言うと、不動産仲介の店に入っていく。
 望美は複雑だった。
 大学も同じで、一緒に通学出来ると思っていたのに、それが叶わないだなんて。
 何だか急に寂しくなった。
「そっか…。高校出たら独立するって言ってたもんね…」
「まあな。今回はそれをどうしてもしねぇとな」
 将臣は力強く言ったものだから、撤回されることはないだろうと、望美は薄々感じている。
 それがとても胸が痛かった。
 将臣の傍にいられないのが、苦しい気分にさせられる。
「有川です。頼んでいた物件を、いくつか見せて頂いていいですか?」
 将臣が担当に告げると、直ぐに車で連れていってくれた。
「お前にも見てもらわねぇとダメだと思ってな。こればかりは、俺の一存では決められねぇからな」
「いいよ。だけど、最終決断は将臣くんがしてね。住むひとが気持ちが良いのが一番だと思うから」
「まあ、それはそうだけれどな」
 先ず訪ねたのは、小さいがとても可愛いアパートだった。新婚用だと、担当は説明してくれる。
 2DKでひとり暮らしには少し広いが、家賃も築がかなり経っているので割と安い。きちんとリフォームされているのにも、好感が持てた。
 望美は楽しげに辺りを見回し、まるで自分で住むような気分になりながら、あちこちを見て回った。
「なかなか住みやすい感じね。これだったら、遊びにきても、ゆっくり出来て良いかも。駅から近いしね」
 望美は何度も確かめるように頷くと、将臣に向き直った。
「一軒目で凄く良いなあって思うよ」
「ああ、ここは第一候補だったからな」
 将臣は、先に外に出た担当者の隙を狙うように、望美を背後から抱きしめてきた。
「あっ…」
 息が出来ないぐらいに抱き竦められて、思わず甘い声を上げた。
 冷たい唇が、耳たぶにかすむ。
「…ここで、俺と一緒に暮らさないか?」
 胸の奥が痛いぐらいに幸福で、膝の裏ががくがくするぐらいに嬉しくて。望美は耳たぶの裏まで鼓動を感じながら、そっと頷いた。
「…私も一緒に暮らしたいよ…」
「じゃあ決まりだな。ダブルベッドを買って、ふたりの必要な家具を買わないとな」
「ベッドが最重要事項なの?」
 望美が拗ねるように言えば、将臣は悪びれることなく「当然」とストレートに呟いた。
 将臣と、春に向かう陽射しに囲まれながら、短くても想いが篭ったキスをする。
 この部屋でふたりでスタートする第一歩だから、その想いを唇に刻みつけた。
「あんまり待たせてもしょうがねぇからな。望美行くぞ」
「うんっ!」
 ふたりはしっかりと繋いだ手を離さないままで、部屋を出た。

 手付け金を打った後、ふたりは清々しい気分で鎌倉に帰る。
「後はお父さんたちを説得しないとね」
「そうだな。一番の難関はお前の親父さんだよ。かなり怒るかもな。娘を取られるんだからな」
「そうだね。お母さんたちは両手を上げて賛成しそうだし、将臣くんのお父さんも賛成してくれると思うけれど、肝心のお父さんがね…」
 父親が反対する姿が簡単に瞼に浮かぶ。望美はそっと溜め息をついた。
「その関所さえ越えたら何とかなるだろうが、譲のヤツが、おじさんに荷担しそうだからな…」
 将臣は苦笑いをしながらも、溜め息をついた。
「だね…」
「まあ、それでも俺は、お前を連れて行くけれどな」
「うん。連れていってくれなきゃ嫌だからね」
 もう二度と離れないと、お互いに決めたのだから、それぐらいの脅迫まがいにも、望美は屈しない。
「一緒に住んだら、毎日、お前を抱けるのが嬉しいぜ」
 将臣は相変わらずセクシィな笑みを浮かべながら、望美を見つめる。
「…もう、えっち…」
「好きな女を毎日抱きたいと思うのは当たり前だろ?」
 好きな女と言われると、嬉しくて、照れくさくて、それだけで降参してしまう。将臣には逆らうことなんて出来ない。
「おじさんを説得しようぜ。みんなで話し合いの席を設ければ、自然と賛成せざるをえなくなるだろうからな」
「そうだね」
 ふたりは仲良く家に帰りながら、父親をどのように説得わするのかを、じっくり話し合っていた。

 望美たちがさりげなく一緒に食事をしたいとけしかけ、有川家、春日家が集まり、合同の食事会となる。いつものように明るい雰囲気で、部屋が活気を持っている。
 ふたりは何度も目配せをさせながら、話すタイミングを計っていた。
 ふたりの父親のアルコールが回る頃、将臣は望美の父親に酌をしながら、突如切り出した。
「おじさん、この春から、望美と一緒に暮らしたい」
 将臣の切り込むような爆弾発言に、望美の父親は動揺し表情を強張らせる。
 そして、将臣の両親と、望美の母親は、待望の展開に目を輝かせていた。
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キリ番で書いた「筒姫」の前段階のお話です。



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