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「一緒に住むなんて、とんでもありません!」 望美の父親のお株を取るような形で、譲が絶叫をした。予想出来たこととは言え、いつもに増してヒートアップする譲に、望美と将臣は苦笑いをしながら顔を見合わせた。 「将臣、望美ちゃん、どんな部屋に住むの?」 母親は、譲の怒り等全く無視して、将臣に話し掛け、それを望美の母親が横からのぞき見するという、こちらもまたお約束な対応に、ふたりして笑ってしまう。 「2DKだから、お互いに集中して勉強も出来るし、便利だと思って。家賃も物件の割には安いし。まあ、新築じゃねぇからだけれど」 物件の図面を見せると、母親たちは興味深々のようだ。きちんとセパレートになっているせいか、少しがっかりしたようだった。 「なんだかこれだとルームシェアリングをしてしるみたいね」 「まあ、それみたいなもんだろ?」 本当はバラバラで部屋を使うなんて考えていないし、フローリングは寝室、和室は勉強をしたり、テレビを見たりする部屋だと決めている。 だがここは、望美の父親と譲への体裁のために、そういうことにしておいた。実際には、母親たちのご期待に思い切り沿うことになっているのだが。 「…ルームシェア…か」 父親は痛いところを突かれてきたせいか、表情が少し軟化する。 「確かに大学は遠いし、アルバイトや諸々のことを考えれば、下宿もいいだろうし…。ふたり一緒なら、家賃も安くなるしな…」 望美の父親が、急に態度を賛成方向に出したせいで、譲は焦る。 「それでも男女がひとつ屋根の下に住むのは、道徳上どうかと…」 譲はもはや孤独な闘いを強いられている。望美は、将臣とテーブルの下で手を握り合い、事態の推移を見極めていた。 「解った! 望美、将臣くんとルームシェアしていいだろう。ただし、月一度はちゃんと顔を出すように」 父親にとってはかなりの決断であったらしく、どこか躰を震わせていた。 「おじさんっ!」 譲がいくら言っても、もう取り返しがつかない。 望美と将臣はホッと肩を撫で下ろし、しっかりと力を入れて手を握りあった。 それからは、譲以外の面々は和気藹々と食事をし、とても盛り上がっている。 将臣と望美も、またひとつハードルを越えたと感じ、お互いに心からの微笑みを浮かべた。 食事会が済み、将臣と望美は、ふたりきりで鎌倉の空を見上げていた。 庭の片隅でひっそりとしたふたりだけの空間を作っている。 「良かったね」 「そうだな。良かったな」 将臣は大人びた穏やかな笑みを浮かべると、望美をそっと抱き寄せる。 「こんなふうにもうこそこそしなくて良いのは、嬉しいよな。お前と時間や場所に関係なく、休みの日はヤレるからな」 「もうっ! 将臣くんはそればっかりなんだからっ!」 真っ赤になって怒りながら、望美は拗ねる気などないくせに、つい拗ねたような顔をする。将臣へのちょっとしたお仕置きだ。 「ずっと一緒にいられるのは良いよな」 「そうだね」 ふたりは唇をどちらからともなく重ね合い、しっかりと抱き合う。 有川家の庭は、かつて将臣たちの祖母スミレが愛した場所だ。この場所でキスをするのは、スミレへの報告になるのではないかと、ふたりは思う。 何度も、何度も唇を重ねて、離れないことをスミレに報告をした。 それからはとても忙しく、バタバタとした日々が続いた。 引っ越し準備は以外と時間がかかったが、ふたりで使う家具等を見るのはとても楽しい。 特に、引っ越しの翌日に狙ったように運び込まれる予定のベッド選びは、かなり嬉しくて恥ずかしかった。 「ダブルベッドは大きすぎるから、セミダブルだな。そのほうが密着出来る」 「ま、将臣くんは背が高いけれど大丈夫?」 「ああ。お前にぴったりと重なる良い口実が出来ただろ?」 全くなんてえっちなことを言うのかと、望美は思ってしまう。硬派で男気のある将臣が、望美にだけ見せる甘い姿は、誰にも想像がつかないだろう。 「セミダブルでいいけれど、優しくしてね?」 「了解」 将臣はニヤリと余り健全ではない笑みを浮かべると、望美の手をぎゅっと握った。きっと口だけで、烈しくするに決まっている。 助平で俺様な将臣に、結局は折れてしまうのだ。 部屋のスペースに限界もあるので、チェストなどは少なく共同で使えるようにし、家電製品もパソコン以外はひとつにした。 その方が親密に思える。 「大変だね、引っ越しって」 「色々体力使っちまうけれど、まぁ楽しいからな」 「そうだね」 ふたりで引っ越しの買い物をするのはとても楽しくて、母親たちに介入させなくて良かったと、将臣は思った。 ふたりにかかれば、””YES””NO”枕だけでは済まされないような気がした。 協力的なのは物凄く嬉しいのだが、それゆえに、あれこれコーディネートしたがるのが辛い。 「母さんたちに内緒で買い物に行って良かったな」 「うん、同感だよ。きっと凄いことになっていたと思うよ」 「だな」 ふたりで呆れながらも、くすくす笑い、幸せな気分を満喫する。 一緒に住むのは早急だと言われるかもしれない。だが、あの時空で過ごした時間を思えば、これでも遅すぎるのではないかと、思わずにはいられなかった。 いよいよ大学入学も近くなり、春うららかな日に、ふたりは鎌倉の街からしばし別れる。 大学を出れば、また鎌倉に戻ろうと思っている。今度はふたりで蜜月を過ごすのだ。 ふたりで小さなトラック一台だけの荷物なので、割と安くついた。段ボールをいくつも運び込み、いよいよ出発だ。 望美と将臣は、車よりひと足早く、鎌倉を出る。 母親たちが既に新居で待っていてくれるから安心だ。 駅のホームで電車を待ちながら、望美は将臣の手をしっかりと握った。 「いよいよだね」 「そうだな。少しお別れだね、鎌倉も江ノ島も」 一度も離れたことのない故郷を出るのは、やはり切ない。望美は思わず俯いてしまっていた。 「何時でも戻って来られるさ」 「…うん」 「あの時空以外、離れたことがなかったから…」 「そうだな…」 髪をくしゃくしゃにされながら、望美はまるで心許ない子供みたいに頷いた。 いつもなら何も感じないが、今日は電車を乗っても寂しく感じる。 望美が心許ない顔をしていると、将臣はそっと頭ごと胸で抱いてくれた。 「…将臣くん…」 場所柄も考えず、望美は甘えて目を閉じた。 新居に着いてからは忙しく、バタバタと後片付けに追われ、感傷に浸っている暇などなかった。 一段落ついた時にはもう夕方で、母親たちは帰る時間になっていた。 「じゃあ望美、しっかりね。将臣くん望美を頼みますね」 「はい」 「将臣、望美ちゃんを泣かせちゃダメよ」 「解ってる」 将臣は、それぞれの母親にしっかりと、望美を護ることを宣言してくれる。 「おかあさんたちも元気で」 「ええ。ふたりともしっかりね」 母親を見送った後、ホームシックのような気分に、望美は陥る。 泣きそうになっている望美を、将臣は優しく抱きしめてくれた。 「これから頑張ろうな」 「うん…」 返事をしたものの、引っ越しそばも余り食べられなかった。 泣きそうな望美を、将臣は何度も優しさで包み込んでくれた。 風呂にゆっくりと入ってくると、将臣が布団を敷いて待っていた。 先に風呂に入りこざっぱりした将臣は、望美を自分の前に座るように促す。 「来いよ」 「うん…」 腕を広げられると、望美は将臣の胸の中に顔を埋めた------ |
| コメント キリ番で書いた「筒姫」の前段階のお話です。 |