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誕生日というのは、ある意味きっかけを与えてくれるイベントだ。 例えば告白をする勇気をくれたりもする。 いつもそばにいて、友達以上恋人未満にしかなれない関係。 本当は恋人になりたい。 誰よりもそばにいたい。 なのにいつも傍らには、綺麗な女性がいる。 今年もやはり綺麗なひとに祝って貰うようだ。 「将臣くんの今年のバースディは何か企画を立てているのかな?」 望美はやんわりと将臣の動向を確認してみる。内心はドキドキしていて、喉もからからに渇いているのに緊張の余りに笑うことしか出来ない。 「今年は、前日から海に行って、泊まりがけで祝って貰うことになってんだよ」 「そ、そうなんだ。じゃあ毎年のファミリーバースデーはどうするの?」 望美は動揺を隠そうと必死になりながら、将臣を切ない瞳で見つめた。 やはり将臣はもう望美のことなんてどうでも良いと思っているのだろう。 「ファミリーバースデー? ああ、今年は面倒臭いだろうからしなくて良いって言っておいた。だからしねぇんじゃねぇの?」 将臣はさらりと何でもないことのように言うと、時計を見た。 「悪ぃ、約束があるから行くな? 誕生日プレゼント、楽しみにしているぜ?」 「もうっ! 現金なんだからっ!」 わざと軽口を叩く自分が哀しくなってくる。望美はこころがキリキリと痛むのを感じながら、ただ笑顔でしかいられなかった。 将臣が行ってしまった後、涙が溢れてきてどうしようも出来なくなる。 せめてファミリーバースデーだけでも、一生懸命祝ってあげたかった。なのに今年はそれすらも出来ないのだ。 「…男と女が何時まで経っても子供のような仲良しこよしは出来ないってことなんだよね…」 望美は腕でゴシゴシと涙を覆うと、笑うように努力をした。しかしそれは全くの無駄に終わってしまった。 上手に笑うことなんて、これから出来るのだろうかと、そんなことすら考えながら、望美はトボトボと自室へと戻っていった。 パーティーがないのなら、せめてプレゼントだけでも渡してあげたい。 いつも一緒にいることが多いが、こうしてプレゼントをいざあげるとなると、何をあげて良いのかが解らなかった。 将臣は元々物に固執をするタイプではないので、いつも最高の想い出を作ることに努力をしていた。 今年もそうしようと思っていたのに、結局、将臣自ら断りを入れてきてしまった。 将臣に最高の想い出を作ってあげたい。いや、本当は望美が最高の想い出を作りたかったからだ。 「結局は自分のためだものね…。将臣くんだって、そんな邪なバースデーパーティーなんて嫌だよね…」 来月は望美もバースデーを迎える。いつも有川家と合同で祝って貰っていたが、今年は断ってしまったほうが良いのかもしれない。 将臣や譲もいつまで経ってもぶら下がっている幼馴染みは嫌だろうから。 望美は将臣へのバースデープレゼントを買いに、横浜まで出た。 誕生日の前日にでも渡せば喜んでくれるだろう。 将臣へのプレゼントは、キーホルダーケースにしようかと思っている。 これぐらいしかプレゼントすることは出来ないだろうから。 プレゼントを選ぶというのは、何とも幸せなドキドキがするものだと思う。 選んでいる間だけは、将臣のことを独占しているような気分になり、嬉しかった。 将臣らしいキーケースを見つけた後、望美はそれを綺麗に包装して貰った。 包装を待っている間に、不意に視界には将臣が飛び込んできた。 相変わらず綺麗なひとと一緒に歩いている。 あの隣に自分が行くことは、最早ないのかと思うと、寂しい気持ちになる。 「…しょうがないんだけれどね…」 望美は将臣たちから視線を逸らすと、ひたすらレジカウンターを見つめていた。 包装が出来上がったプレゼントを受け取っても、こころは浮かなかった。 望美はつけて貰ったカードを見つめながら、きっと最低限のことしか書けないだろうと思った。 プレゼントを持ち帰るのが、こんなにも重い気分になるなんて思わなかった。 ショッピングビルから駅に抜ける通路を歩いていると、突然、声を掛けられた。 顔を上げると、そこには見ず知らずの大学生ぐらいの男性が立っている。 「君、可愛いね。ひとりだったら一緒に…」 男性はそこまで言ったところで息を呑んだ。 望美が何事かと思っていると、突如、背後から抱き竦められる。 「悪ぃな、こいつは俺のツレなんだ。諦めてくれ」 聞き慣れた声に顔を上げると、将臣が男性を睨み付けているのが見えた。 「待たせたな、望美」 「将臣くん…」 まさか将臣が助けてくれるとは、思ってもみなかった。 望美は心臓が急におかしなリズムを刻むのを感じながら、将臣に躰を預けた。 安心してときめきもくれる存在。それが将臣なのだ。 「あっちに行けよ。いくらここにいてもしょうがねぇだろう?」 将臣は苛立っているかのように男に言い放つと、望美を抱き締める腕に力を込めて来た。息が乱れておかしくなりそうだ。 将臣に早く放して欲しいと望む気持ちと、放して欲しくないと望む気持ちが格闘していた。 男が立ち去り、ようやく将臣が手を放してくれたが、望美のこころはおかしなリズムを刻んだままだった。 「ったく…、もっと警戒心を持ちながら繁華街は歩け」 放されるなり、いきなり将臣に説教をされてしまい、望美は躰を小さくさせた。 「ご、ごめん…。帰る時は気をつけるよ」 「ったく、ちゃんとしねぇと危険なんだぜ」 「解ったよ。有り難う」 早く将臣を開放してあげなければならない。 望美はニッコリと笑って将臣から離れようとした。 「うん、有り難う。解ったから、私は行くね」 「おい、何処に行くんだよ」 将臣に腕を掴まれてしまい、望美はその顔を見上げた。 綺麗なひとと歩いていたくせに、どうしてこうやって束縛してくるのだろうか。 「あ、ま、将臣くん、ツレのひととかは、いないの?」 「いねぇよ。おい、冷たいもんでも飲みに行こうぜ」 望美の手を素早く握り締めると、将臣は強引に手を引っ張ってくる。 「フラペチーノとか、お前凄く好きだろ?」 「うん、好きだよ」 「だったら飲みに行こうぜ。暑いから休憩してから帰らねぇと、あとで大変だからな」 「う、うん、そうだね…」 同意をしたが、将臣は手を離さない。むしろ先ほどよりも、強く握り締めてくるような気がした。 将臣が入ったのは、何処にでもあるカフェショップ。 望美が頼もうとする前に、キャラメルフラペチーノを頼んでくれた。将臣自身はアイスコーヒーを頼んでいた。 「ほらよ、ここで逢ったのも縁だからな。おごる」 「有り難う」 望美はまるで素敵なプレゼントを受け取ったような気分になり、ニッコリと微笑んだ。 ふたりはテーブルを探してそこに腰を下ろすと、まるでデートでもしているかのように向かい合う。 将臣はちらりと望美を見つめると、口を開いた。 「な、望美、お前さ、カレシいるの?」 胸が痛む質問に、望美は動揺せずにはいられない。 だがこころが激しく乱れるのを知られたくなくて、望美はわざとさらりと受け流す。 「いないよ。そんなの…。将臣くんじゃあるまいし、私はモテないからさ!」 笑って誤魔化そうとして、将臣と視線が絡んだ。 将臣の視線は真摯で、望美は次の言葉を紡ぐことが出来ない。 「…いないんだな、マジで」 将臣は念を押すように言う。 「いないよ。どうしてそんなことを訊くの?」 望美がフラペチーノを無造作にかき混ぜながら言うと、将臣はただ見つめてくるだけだった。 |