前編
紅白歌合戦が終わりを告げる頃、望美と将臣は、火燵の中で蜜柑を食べながら、足を絡ませあう。 「兄さん、先輩! 俺は仲間と鶴岡八幡宮に行ってきます。そばの準備はしてあるので、温めて下さい」 「ああ。行ってこい」 「いってらっしゃい、譲くん」 望美が見送りに行こうとすると、将臣が火燵の中で足を絡ませ悪さをする。その動きに望美は甘い息をはいた。 「もう、将臣くんの馬鹿!」 「さあな。俺が何かしたか?」 しらっとする将臣が、望美は益々腹立たしくなり、頬を膨らませてそっぽを向く。 「知らないっ!」 将臣が笑うと、望美は益々俯いてしまった。 「おそば食べよう」 今度は将臣に邪魔をされることもなく、望美はすんなりと立ち上がることが出来た。 「俺の分もよろしくな」 「うん」 年越しそばを作ると言っても、譲が作った蕎麦だしを温めて、揚げてくれたかき揚げ、蕎麦、葱を入れるだけ。とてもじゃないがクッキングなんて言えるしろものではなかった。 手早く蕎麦を温めた後、望美は将臣が待つ茶の間へと向かう。 望美にとってはここが一番落ち着く場所だった。 「出来たよ!」 「ああ」 ごろんとして、ちょうど始まった”行く年来る年”を、将臣はまったりと見ている。躰を起こすと、蕎麦を見るなり微笑んだ。 「随分とご無沙汰な感じがするな」 「そうだね」 ふたりは顔を見合わせながら笑うと、いただきますをする。 ふたりの両親は、春日家で恒例の大忘年会と新年会をしている。そのせいで、有川家には、自然と三人で集まっている。 だが、いつもとは違う。 今夜はふたりきりなのだ。 これも恋仲になった望美と将臣を、譲が配慮してくれたからだ。 「みんな二年参りとか言っているが、俺達は明日になってからでいいだろ? 鶴岡八幡宮ではなく、やっぱり江島神社だろ」 「そうだね。江島神社と鶴岡八幡宮両方行こうよ」 「そうだな」 火燵に入り、蕎麦をふたりで啜るなんて、なんて親密で幸せな行為なのだと望美は思う。 だからこそ、この一瞬を大切にしたい。 テレビを通して除夜の鐘を聴きながら、ふたりはひたすら蕎麦を食べる。 「除夜の鐘を聴いても、煩悩はなくならないよな」 「新たな気持ちになって身も心も清めないと!」 「お前といると、特に煩悩は消えねぇから。今だって、蕎麦を食ったらお前を抱きたいと想っているし」 将臣にはほんの僅かな羞恥心も持ち合わせていないらしく、さらりと問題ないことのように言う。 「もう…」 おおらかにもこの後、直ぐに抱くと宣言されてしまい、望美は真っ赤になった。 「新しい年だし、お前を思い切り抱きたいからな。覚悟しておけよ」 「…う、うん」 望美は恥ずかしくて戸惑う余り、将臣をまともに見ることが出来ないでいた。 「とっと蕎麦食ってあったまったら、もっと熱くしてやるよ」 ストレートに宣言されてしまい、望美は火燵の中に潜ってしまいたいぐらいに恥ずかしかった。 「二年参りもいいが、こうやってふたりきりでまったりするのも、悪くはねぇだろ?」 「うん、そうだね」 ふたりで蕎麦を啜り、火燵の中で足を絡ませて年越しをする。 こんなごく平凡なことが、望美には愛おしい大切な瞬間になる。 きっと将臣も同じに違いない。 テレビでは静かな鐘の音が聞こえる。 もうすぐ新しい年だ。 ふたりの鼓動と時計の秒針が重なる。 将臣はしっかりと抱き寄せてくれた。 顔が近づく。 「…あけましておめでとうございます」 アナウンサーの落ち着いた声が響くと同じに、望美と将臣の唇が重なり合った。 激しいものではなく、互いの深く熱い想いを確かめる為のキス。 触れ合うだけで、想いを語ってくれた。 「望美、あけましておめでとう」 「将臣くん、あけましておめでとう」 「これからもずっとよろしくな」 「こちらこそ」 ふたりは暫く抱き合ったまま、じっとしている。こんな正月を迎えられて、自分たちは本当に幸福だと思った。 不意に将臣がテレビを消す。 「行こうぜ」 「…片付けしなきゃ」 自分たちの食べた後を望美がじっと見ると、将臣は軽く舌打ちをした。 「俺がやる。寝るなよ」 「うん。ありがと」 将臣が、驚くぐらいの手際の良さで、後片付けをしてくれる。それを見るのはとても楽しかった。 「終わったぞ」 「うん」 望美が立ち上がろうとすると、将臣は阻止するように抱き上げる。 お姫様抱っこだ。 「何だか恥ずかしいけど…嬉しいな」 将臣のさりげない心遣いが嬉しいのやら、恥ずかしいのやらで、望美は頬を朱く染める。 「優しいね。お正月だから特別?」 「姫始めだから特別」 将臣がさらりとまたえっちな事を言うものだから、望美は口を尖らせる。 「もうっ! 将臣くんってどうしようもないぐらいにスケベなんだからっ!」 望美が叩くと、将臣は少しばかりムッとしていた。 「しょうがねぇだろ。お前としかやりたくねぇんだから」 平然とさらり言う将臣にほんの少しときめいたりもする。 「私だってこんなこと将臣くん以外とは嫌だよ」 首に腕を回すと、望美は将臣に抱き着いた。 将臣の部屋に連れていかれ、ベッドに寝かされる。ここの香りを嗅ぐ度に、胸の奥が、何も識らない乙女のように傷むのだ。 自分たちの顔が解る程度のほの暗い明かりだけをつけ、将臣は望美の上に覆いかぶさってきた。 ぎゅっと抱きしめられて、安心と心地良さが躰に染み入る。 唇を重ね合わせると何だか神聖なところにいるような気がした。 年の始めのセックスは、何だかいつもとは違うような気がする。 望美は何時もに増して胸をときめかせると、大胆に将臣を抱き寄せた。 「…お前の胎内に…全部出させろ…」 |