幼い頃から、成人式は憬れだった。 綺麗な振り袖を着られて、何だか楽しそうだったから。 近所のお姉さんが本当に綺麗だったのを、今も覚えている。 将臣がうっとりと見つめていて、ほんの少しだけ嫉妬したことも。 だから早く成人式を迎えたかったのかもしれない。 本当に綺麗だった。 自分が成人式を迎える頃には、もっと綺麗でもっと大人だと思っていたのに、実際はと言えばそうじゃなかった。 いつまで経っても子供のままだ。 望美は成人式を迎える女性を憧れに思った頃と、全く変わらないのではないかと思った。 今日は朝から美容室で着付けとヘアメイクをして貰う。 いつもと違った本格的にメイクをする。 このメイクだと、確かに大人の女性に見えると思った。 今日は、極楽寺と鶴岡八幡宮にお参りをし、写真館で撮影をして、有川家と合同の食事会に参加する予定だ。 美容室で綺麗にして貰った後で、望美は一旦家に帰る。 そこで将臣と合流するのだ。 綺麗な姿を将臣にいち早く見て貰いたくて、望美は先ず有川家に向かった。 「将臣くん、支度が出来たよ!」 子供の頃と同じように、望美は玄関先で将臣に呼び掛ける。 将臣がゆっくりと玄関先に出て来てくれたが、スーツを綺麗に着こなしていた。 将臣のスーツ姿に、望美はときめく余りに息を呑む。 いつもとは違うクールで大人びた雰囲気で、思わずうっとりと見つめてしまった。 「…支度出来たか…」 「うん」 余りに素敵過ぎて、望美は言葉を上手く発することが出来ない。 ドキドキしながら、頬を真っ赤にさせて上目遣いで将臣を見た。 「女は大変だな。支度に時間がかかるから。早起きだったんじゃねぇ?」 「うん。だけどこうやって綺麗にして貰ったから、早起きしたかいはあるかなって思うよ」 望美が笑顔で言うと、将臣は「俺なら絶対ムリ」と苦笑いを浮かべていた。 「ヤローは適度にスーツを着れば良いからな…」 ふと将臣の視線が柔らかくなる。甘さの含んだ魅力的な瞳で見つめられて、望美は喉がからからになるのを感じた。 「…まあ、しかし…馬子にも…」 「衣装だって言ったら、望美様のスペシャルエルボースマッシュが飛んでくるよっ!」 望美があくまで笑顔のままで言うと、将臣はほんのりと苦笑いを浮かべた。 「綺麗な格好しているのに相変わらず暴力的だな」 将臣は苦笑いを浮かべて、望美を優しいまなざしで見つめてくれる。こんなまなざしで見つめられると、しおらしくしてしまいたくなった。。 「待っていろ。直ぐに車出すから」 「有り難う」 今日は将臣とふたりだけの成人式を迎える予定だ。 将臣は直ぐに支度をしてくると、車を望美のために出してくれた。 ふたりで車に乗り込むと、ゆっくりと市街地に向かう。 「ふたりでこうして成人式を迎えられるのが凄く嬉しいよ」 「俺もな。まさかこっちでお前と成人式を迎えられるなんて思ってもみなかったからな。というか、あっちじゃ既に成人した年だったんだけれどな」 「そうだね」 こうしてふたりで成人式を迎えられるという事実が本当に嬉しい。 望美はにっこりと微笑みながら、将臣に甘えるように寄り掛かった。 極楽寺に行き、ふたりは参拝をする。 ずっと見守ってくれていた寺だから、報告をしなければならないと思った。 ふたりがこれからも一緒に人生を共に歩むためにも見守っていて欲しい。 それが望美の願いだ。 それ以外には本当に何もない。 将臣と一緒にいることが何よりもの幸せだと思っていた。 将臣と手を繋いで、ゆっくりと境内散策する。 将臣を見上げる度に、本当に逞しくて素敵だと思わずにはいられない。 大人の男として、将臣をじっくりと見つめてしまう。 将臣もじっとこちらを見ていたようで、少しドキリとした。 「今日は綺麗にしているから、いつもみてえに髪をクシャクシャにすることが出来ねぇんだな」 将臣が苦笑いを浮かべながら言うと、望美はふわりと微笑んだ。 「当然だよ」 望美はくすくす笑いながら「もし、へんなことをしたら、技かけるよ」と付け加えた。 将臣とふたりでこうして手を繋いで成人式を迎えることが出来るなんて、源平の世界にいる頃は思ってもみなかった。 だからこそ本当に幸せなことなのだと思わずにはいられない。 極楽寺の境内を散策した後で鶴岡八幡宮へと向かった。 鶴岡八幡宮には流石に新成人たちが多数お参りに来ている。 誰もが望美を見てうっとりとするものだから、将臣は手を握り締めて離さないようにした。 今日の望美は本当に綺麗で、うっとりとしてしまうほどだ。 こんなにも綺麗な望美を、絶対に誰にも渡したくはないと、将臣は強く思っていた。 どんなことをしても、最初から誰にも渡す気などはないのだが。 いつもよりも手を強く握り締めるものだから、望美は不思議そうに見つめてくる。 「どうしたの?」 「何でもねぇよ。ちゃんとお参りをしようぜ」 「うん、そうだね」 ふたりは本殿に行きお参りをする。 神だとか仏だとかは信じないが、こうして望美が嬉しく思ってくれるのならば、参拝も悪くはないと思う。 参拝する望美の横顔を改めて見つめながら、なんて綺麗なのだろうかと思った。 望美が目をスッと開ける。 「お参りは済んだか?」 「うん。充分だよ」 「だったら写真を撮りに行こうぜ。そろそろ予約時間だ」 「うん」 笑顔で返事をしてくれる望美は、眩しいほどに可愛い。 将臣はこの瞬間を閉じ込めてしまいたいぐらいだ。 抱き締めたくなる衝動を何とか抑えて、写真館へと向かった。 将臣にとっては成人式の写真なんてどうでも良かった。 だが、望美が望んでいるから一緒に撮ることにしたのだ。 望美ひとりのほうが良いと思ったのだが、たっての願いで一緒に撮ることになったのだ。 「次、有川さんと春日さん」 「はい」 名前を呼ばれて、ふたりはカメラの前に立つ。 「望美、ひとりで写らなくて良いのかよ」 「私は将臣くんと一緒に撮りたいんだ。ふたりの記念だし」 「ああ」 望美と離れることは有り得ないから、ふたりで写真を撮っても別段困ることもないのだ。 「じゃあスタンバイして下さい。撮影しますからね」 カメラマンに言われて、ふたりは最高の笑顔で写真に収まった。 写真館を出た後、このまま帰るのは勿体なくなる。 海を見たいのは山々だが、着物だと砂やで痛んでしまう。 将臣が色々と考えていると、望美はにっこりと微笑んだ。 「…将臣くん、海を見に行こうよ。稲村ヶ崎の公園に、カスター持って。その後さ、ご飯食べに行こうよ」 「…そうだな」 望美は将臣の気持ちを汲んでくれただけではなくて、こうしてそれ以上の提案をしてくれる。 こういうところが望美の愛しい部分である。 「行くか。カスターを買って」 「うん」 ふたりで駅前で鎌倉カスターを買い求めた後、車に乗り込んで稲村ヶ崎までの短いドライブを楽しむ。 車を稲村ヶ崎公園近くの駐車場に停めて、ふたりはカスターを持って公園から海を眺めた。 「成人式の日にカスターかよ」 「私たちらしいんじゃない?」 「確かにな」 将臣はフッと笑うと、カスターをかじりつく。 「写真を子供に見せながら、お父さんとお母さんは成人式の日にカスターを食ったって話すんだろうな」 「そうだね。それもまた、私たちらしいんじゃないかな」 「そうだな」 くすりと望美が笑った唇にカスタードがつく。 それを将臣はキスをして拭った。 「…あま…」 「将臣くんも甘いよ」 「…だな。俺たちはずっとこうやって一緒なんだろうな」 「…そうだね」 望美は頷きながら笑うと、将臣にそっと寄り添う。 いつものふたり。 だが今日はスペシャルな日。 どんな時でも一緒にいられると、ふたりは強く思った。 |