毎年、みんなで集まっている節分。 有川家と春日家では、毎年合同で節分を開いている。 将臣と望美の恋人たちは、節分デートをしようと今年は遠慮をすることにした。 節分の日に過ごすのは将臣のアパート。 ふたりで手巻き寿司パーティをするのだ。 手巻き寿司ならば、料理が苦手な望美も何とか出来るからという理由もある。 寿司飯は、酢などは使わずに、粉末タイプをふりかけて混ぜれば良いのだから。 だが、流石に分量を間違えては拙いので、そこは将臣の役になる。 ふたりで先ずは節分のお参りに行く。 源平の時空に帰ってきてから、こういった古来からの風習を楽しむようになった。 これもあちらでの生活が大きいのだろう。 「あ! 厄除け饅頭だよっ! 美味しそうだね、買いに行こうよ!」 「ああ」 望美は厄除け饅頭を四つ買い、ふたつは食後のデザートにして、ふたつは今、食べることにする。 「蒸したてだから今食べようよ」 「ああ」 将臣とふたりで手をしっかりと繋ぎながら、厄除け饅頭を勢いよくかじる。 「やっぱ、蒸したては最高だよー」 望美がほくほくとした気分で蒸し饅頭を食べていると、将臣は苦笑いを浮かべた。 「…ったく、そんなに食ってばっかいると太るぞ」 「良いんだもんねー。だけど将臣くんだって太るよ」 「俺は良いの。スキンダイビングをしたりして、ちゃんと躰を鍛えているんだからな」 将臣は不意に望美をじっと見つめる。 「な、何!?」 いつも一緒だとはいえ、将臣に見つめられるとドキドキしてしまい、思わずうろたえてしまう。 「…あ、何?」 「お前は俺と一緒に激しい運動をしているから、大丈夫か」 望美は、将臣の言葉の意味が一瞬分からなくてきょとんとしてしまったが、次の瞬間、意味が分かり耳まで真っ赤にさせた。 「…あ、あの…、もう、バカッ!」 自分でも恥ずかし過ぎて訳が分からなくなってしまい、望美は思わず将臣の背中を叩く。 「いてっ!」 将臣がわざと声を上げると、望美はけらけらと笑った。 「えっちなことを言うからだよ」 「ったく…、すげぇ馬鹿力! 今夜、覚えてろよっ! 凶暴になる余裕すらねぇように、しっかりと運動をさせてやるから」 「…あ」 将臣に意味深にニヤリと笑われてしまい、望美は口を尖らせてはにかんで拗ねた。 「饅頭食ったらスーパーに行って買い出しだな。今夜は手巻寿司だからな」 「楽しみだよ」 ふたりは手を繋いだままでスーパーに向かう。 流石に今日は沢山の手巻き寿司の材料が売られていて壮観だった。 「やっぱり鮪は外せないな」 「だよねー。後は梅のペースト、大葉、サーモンなんかも。あ、寿司の素と焼海苔も買わなくっちゃね」 ふたりでこうして買い物をするのは、なんて楽しいのだろうかと思う。 「後はジュースとチューハイだとか…、あ、豆!」 賑やかにふたりで買い物をするのは、本当に嬉しい。 将臣と一緒に買い物をするのが、何よりも楽しかった。 スーパーから出て、重いものは将臣が持ってくれる。 何だか新婚のようで妙に照れ臭かった。 将臣のアパートに着いて、ふたりで手巻き寿司の準備を始める。 料理が苦手だから、殆ど将臣に頼ってしまうのが妙に恥ずかしい。 望美は自分が出来る範囲内で、頑張るようにした。 寿司飯の素は将臣が加減をして入れてくれ、望美はそれを混ぜるだけだ。 仕上げの切るように混ぜるのは、将臣がやってくれ、望美は結局は団扇で扇いだ。 「何だか小さい時にみんなで扇いだのを思い出すね。凄く小さい時はスミレおばあちゃん、その後はうちのお母さんが寿司飯を混ぜていたね」 「そうだな。懐かしい」 将臣は思い出して甘酸っぱい気分になったかと思うと、苦笑いを浮かべた。 「しっかし、料理好きで料理自慢のおばさんの娘が、とんでもねぇぐらいに料理下手だとはな…」 「ほっといてよ、もう」 望美は恥ずかしさの余りに口をとがらせる。 「これでも少しはマシになったんだよ」 「袋のインスタントラーメンを上手に作れるようになったんだからな」 将臣が何処か小馬鹿にするのがムッとする。 「…言っておくけど、袋のインスタントラーメンは作るのが難しいんだよ」 「そうか?」 「そうだよ」 望美が拗ねるように言うと、将臣がからかう。いつもそうなのだ。 「…だけど後少しぐれぇは料理を上手くなってくれよ。嫁さんがある程度出来ねぇと子どもが困るからな」 「…あ…」 将臣がさらりと言った台詞に、望美はドキリとさせられる。 確かに旦那様のためにも子どものためにも料理が上手いことにこしたことはない。 「…う、うん。料理をもうちょっと頑張るね」 「ああ。そう言って貰えると嬉しい」 将臣に微笑まれると、頑張らずにはいられないと望美は思った。 「鮪は漬けにするのと、ノーマルなものとに分けようぜ」 「賛成! ツナマヨ作るね」 「ああ」 それぞれ得意なところを分担しあって調理にかかる。 簡単で大雑把な料理ではあるが、ふたりで力を合わせて作ると楽しかった。 後は定番の鰯を焼いて、将臣特製の潮汁を作って完成だ。 「さて食べるか」 「うん。こうやって将臣くんと食事をするのが本当に楽しいんだよね」 「今から丸かぶりするから話し掛けるなよ。大阪の海苔屋の陰謀だが、こうやって食べるのも良いだろう」 「そうだね」 幼い頃にはなかった風習だが、何となく定着してしまった楽しい行事。 「こうやってずっと俺たちは毎年、毎年、節分を過ごして行くんだろうな」 「…そうだね…」 そう考えると、なんて素敵な風習なのだろうかと思う。 節分の豆撒きも楽しかったが、こうして食事でも節分特有のものがあるのはもっと楽しい。 「望美、もう喋るなよ」 「将臣くんこそ」 ふたりはお互いに巻き寿司を作って、口に持っていく。 「今年は東北東だって」 「うるさい」 ふたりはそれからお互いに黙り込むと、東北東に向かって寿司を食べた。 望美の願い事はただひとつだ。 いつまでも将臣と一緒に穏やかな幸せを感じていけますように。 ただそれだけだ。 将臣も同じ想いであって欲しいと願う。 ふたりでこうして穏やかな幸せを感じられることが、何よりも幸せなのだから。 ふたりは巻き寿司を食べ終わると、お互いに息を深く吐いて笑い合う。 「将臣くんの願い事は何をしたの?」 「俺? ひみちゅ」 「私もひみちゅ」 ふたりはお互いにすましあっていたが、解っていた。 同じ願いであるということは。 あれほどまでの切ない想いをして、ようやく恋人関係になれたのだから、もう二度と離れるようなことはしたくはない。 ふたりはその後、お互いに笑顔で食事を続けた。 「お前、寿司を巻くのもど下手だな」 「いいじゃないっ、ちょっとぐらい形が崩れてもっ! 味は最高に美味しいんだからね!」 望美が憤慨しながら言うと、将臣はわざと怪訝そうな顔をする。 「マジかよ」 「マジですっ!」 ふたりは戯れ合うようにして寿司と鰯を食らい、厄除け饅頭を食べ、豆を年の数だけ食べる。 節分らしい夜を堪能する。 豆撒きをしてお互いに鬼になったりもした。 節分が終わり、ふたりはゆっくりとお互いの甘い時間を持った。 「今日を境に運気が変わるらしいぜ? だからもっと幸せになれるぜ」 「うん。そうだね」 ふたりは顔を見合わせると唇を近付ける。 こんなにも素敵な節分はないと思った。 |