〜I don't tell you the truth〜
〜将臣の場合〜
俺はただずっと傍にいたかっただけだ。 だが、時間が経つにつれて欲張りになってきた-----おまえを独占したいって。 でも言えねぇ。 肝心の一言が…。 傍にいる特権が、俺に勇気くれない。 幼なじみという特権が---- その日、望美は迎えに来なかった。 将臣には理由ぐらいは判っている。 昨日告白してきたあの超美人が原因だと言うことを。 彼女のことをとても綺麗だと想うし、付き合っても楽しいとは想う。 だが、それと望美が一緒に学校に通わないのは、関係がないと将臣は想っていた。 いつもそうだ。付き合う女に、望美が気兼ねする必要はない。 だが、いつも望美は将臣の彼女にかなりの気を使うのだ。そしてそれが結果的に、将臣の心が彼女から離れてしまうことを、望美はちっとも解ってはいないのだ。 歴代の彼女は、全員望美に負けたと言うことになる。 逢う度に望美の事を将臣が思いだし、結局、望美が大事だという結論に至ってしまう。 いつもそうだった。 江ノ電の駅まで自転車で飛ばし、いつものように電車に飛び乗る。 いつもなら、横で望美が激しく息を切らして「今日も遅刻を免れたね!」と笑っているのに、今日は笑っていない。それが何だかr苛立つ。 朝から将臣は不機嫌な顔で、登校する羽目になった。 教室に入ると、案の定、既に望美が席に座り、クラスメイトの女子と楽しそうに話していた。 話題は、今週末に始まる近くの神社の小さな夏祭りのことだ。毎年、将臣と望美は一緒に行っていた。将臣に彼女がいたときは、望身は他のメンバーと行っていたが。 将臣がゆっくりと不機嫌な顔で近付くと、周りの友人達はただならぬ雰囲気を感じ取ったようで、急におしゃべりを止めた。 「あ、おはよ、将臣君」 望美は何事もないかのように、将臣に朝の挨拶をしてくる。 こっちはこんなに気を揉んでいるのに、朝から爽やかな笑顔の望美が疎ましい。 「ああ、おはよ。おい、どうして今朝は来なかったんだよ?」 将臣は問いただすように言い、望美の机の上で何度か本を叩くような仕草をした。 「ああ。いつもの恒例だよ。将臣君、私に気を使わなくても、良いからね」 またいつものアレだ。将臣は更にむかつき、こめかみがぴくぴくと痙攣するのを感じる。 「おまえはいらねえ気を遣わなくても良いんだよ。いつものようにしておけば」 「…うん。それはそうなんだけれどね…」 望美は戸惑うように言葉を選びながら言っているようだ。その表情がまら将臣の癪に障った。 「ともかくヘンな気は回すな。ただでさえ、ちかんとかに遭いやすいくせに」 「今日は譲君が一緒だったから、大丈夫だったよ」 譲-----その名前に将臣は敏感に反応する。 将臣の弟であり、望美しか見ていない純粋で真っ直ぐな弟の恋------ その名前を出されるだけで、将臣の不機嫌は頂点に達した。 「ったく、勝手にしろ!」 将臣が突然怒ったものだから、望美はどうして良いか解らないようで、戸惑った瞳を大きく見開き、傷ついた子鹿のように将臣を見ていた。 そのうちチャイムが鳴ってしまい、結局は謝らないままで、授業に突入してしまった。 形だけの彼女と昼休みに中庭で会う。 今朝の望美の傷ついた顔ばかりが浮かび、将臣は話半分しか訊けていない。 「有川君、土曜日の夏祭りだけれど、一緒に行かない?」 「ああ」 将臣は心はここにあらずと言ったような雰囲気で、ただ返事だけをしてしまった。 そして、夏祭りの当日。 将臣が約束の場所に行こうとすると、望美が同じタイミングで家から出てきた。 長い髪をアップにして、夏らしい浴衣を身につけている。 首筋から色香が漂い、将臣ははっとした。 瑞々しい果実が実るように、花が朝露を浴びて咲くように、今の望美は涼やかな色っぽさがあった。 その美しさに惹かれ、将臣は暫し立ち尽くす。 花の美しさに酔ってくる蜂のように、将臣は今、望美に吸い寄せられる。 「望美…!」 名前を呼ぶと、望美がゆっくりとこちらを振り返ってくる。見返り美人の絵を見ているかのようだ。 心臓が早鐘を打って、将臣はどうしようもなかった。 「将臣君…」 ほのかに頬を染めて名前を呼んでくれた望美を、このまま連れ去りたい衝動を覚える。握りこぶうぃで何とかそれを抑えて、将臣は望美の横に立った。 「今から、祭りか? おまえも」 「うん。そうだよ。友達と約束しているの。譲君達弓道部のみんなとも合流する予定」 譲-----またあの弟の名前が出てくる。 将臣にとって、譲という名前は、可愛い弟であると同時に、いつもライバルだった。 その名前が出るのが、将臣には気にくわない。 「わいわいガキっぽい話をするんじゃねえだろうな」 将臣は急に不機嫌な声を出し、望美を牽制する。本当は望美を牽制したところで意味はないのに。 「良いもんガキっぽくて。将臣君は彼女とデートでしょ?」 彼女とデートでしょ? 望美にこんな事を指摘されると、余計に腹が立つ。腑が煮えくりかえるようだ。 「だったら、ちょっと、離れた方が彼女は気を遣わなくて…きゃあっ!」 望美は馴れない浴衣に下駄だったからだろう。そのまま足を取られて躓く。それを将臣は直ぐに抱き留めてやった。 「ったく、よそ見ばっかしてるからだぜ」?」 「ご、ごめんなさい〜!」 望美は半分べそをかきながら、将臣に謝ってくる。 その顔は幼い頃の望とそっくりなのに、今腕の中にいる望美は、明らかに違っている。 胸を蕩かすようなシッカロールの香りと、華奢だが色気のある肢体。 将臣は離したくなくて、暫く腕の中に望美を閉じこめる。 どんな美人だって、どんなに性格がよい女だって、将臣のなかで、望美に叶う存在なんて、結局はなかったのだ。 それを気付かされた。 「将臣君…?」 望美が切ない顔をするので、将臣は腕の中から望美を解放する。 その代わりに、望美の小さな手をしっかりと握り、引っ張る。 「おまえは良く転けるからこれが上等だ」 「だ、だって、彼女が…」 望美が気にして手を解こうとしたが、将臣はそれを許さなかった。 「これが俺の答えだ。望美。今夜は、いつもの通りに、一緒に祭りに行こうぜ。あのコにはちゃんと伝えるから」 望美は将臣の選択に暫く複雑な顔をして泣きそうな顔をしていたが、歩いているうちに、一度だけ頷いてくれた。 将臣は想う。 もうこんな思いを自分がし、望美がするのなら、彼女なんていない方がいい…。 望美よりもずっとずっと大切なものが出来たときに、考えればいいこと。 だが、将臣は心のどこかで予感していた。 望美以上に大切な相手なんて、もう見つかりはしないと----- だけど、まだきちんと『すき」だとは言えない。 この関係が心地よいから。 これを壊したら、今の関係には戻れない気がするから。 恋の大切さを将臣達が知るのは、もう少し先。 運命が動き出してから----- |
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