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あの人が特権階級なのは解っている。自分と住む世界が違うことぐらいは。 だが、恋せずにはいられない。 あの瞳を見つめたからには。 知盛はぐうたらに見えても、仕事はきちんとこなしている。 望美はいつもぷりぷりしているが、わざとそうさせているかのように楽しんでいる。 「…望美…、今夜は解っているだろうな…」 クッと喉を鳴らすと、まるでからかうように視線を向けてくる。瞳の奥に深い艶を感じ、背筋に冷たいものが競り上がってきた。 「あ、あの…」 「クッ…、いつもの威勢の良さはどうした?」 「識りませんっ!」 望美が拗ねてそっぽを向くと、知盛はまるでギャグ映画を見るかのように笑っていた。 なんて憎らしいのかと思う。 だが、心の奥にあるほのかな恋心がくるくると躍っていた。 不意に、部屋に電話のけたたましい電子音が鳴り響き、望美は直ぐに出た。 「はい、マネージャー室です。お待ち下さいませ」 望美は知盛の席に電話をきびきびと転送する。 「マネージャー、源様からお電話です」 「…ああ? 源食品か…」 けだるそうに受話器を上げながら、さらさらとメモを取る。 驚くほどに美しい指に握られたシャープペンシルが嫉妬するほどに羨ましかった。 「…では、今夜、お伺い致します…」 今夜。 その言葉に、嫌な予感が過ぎる。折角のご褒美がなくなってしまうのではないか。 それでは切な過ぎて、胸が痛かった。 知盛が電話を切ると、望美は直ぐにその顔を見た。 その表情を見るだけで、知盛は直ぐに意味を組んだらしく、立ち上がった。 「…今夜は源食品主催のパーティーがある…。お前も来い。ドレスは用意させる…」 反論出来ない。 望美が瞳に涙を滲ませながら、絶対君子を睨みつけると、知盛はまた愉しげな笑みを浮かべた。 「…今日の約束は反古ですか?」 「…そんな…予定はない…。…反古にする予定はな…」 意味深に笑みを浮かべると、知盛は望美のボディラインに視線を這わせる。なまめかしいそれに、何故だか犯されている気分になった。 「ド、ドレスはこの間、買って頂いたばかりなのでいらないです。今日は、一応はお洒落をしてきたつもりなので…」 知盛に見せたくて、私服は少しばかり気合いを入れてきたのだ。 何だか恋するメス猿のようで嫌だったが、知盛へのときめきには勝てなかった。 「…見せろ…」 「あ、じゃあ着替えてきます」 「…着替えなくていい…。持って来い」 なんて艶やかな目で見つめてくるのだろうか。そんな眼差しで見つめられれば、躰の芯が熱くほてってしまう。 望美はこれ以上まともに知盛の視線を受け止めることが出来ず、思わず俯いてしまった。 甘い空気のようで何処かあだめいた香りがする。 心臓がそれこそ鞠のようにぽんぽん弾んでいる。 「解りました。直ぐに持って来ます」 望美は窒息をしてしまうのではないかと思い、逃げるように部屋を後にした。 ロッカーで服を取る間も、躰は激しく震えていた。 早く戻らなければならないと思いながらも、あれでは心臓が持たないと感じていた。 水をコップ一杯飲んでから戻ると、知盛の厳しい視線が真っ直ぐ入ってきた。 「…遅い…」 「あ、すみません…」 知盛は、息がかかる距離に近付いてくると、望美が手に持っているスーツを見た。 「それは駄目だ…」 「えっ!?」 自分でも奮発をして買ったつもりのもので、可愛いと思っていたのにこう簡単に否定をされてしまうのは、やはり辛い。 「可愛いですし、接待ぐらいは…」 「普通のビジネス接待じゃない…。あくまで格式を重んじるフォーマルなパーティーだ…。勿論、仕事がらみではあるがな…。普通とは違う…。それは不可だ…」 冷たく切って捨てると、知盛は望美のブラウスに手をかけた。 綺麗な指がボタンをひとつ外していく。まるで躰を愛撫されているようだ。奥深いところが刺激をされて、ジンジンと音を立てて疼いていた。 自分ではどうすることも出来ないほどに熱くなり、望美は力が入らなくなった。 「…色っぽい顔をするな…。その顔は…俺だけのために取っておけ…」 知盛はまたひとつボタンを外す。 まるで戯れを愉しんでいるかのように、形の良い薄い唇に艶のある笑みを浮かべている。 知盛はわざとじらすように望美のボタンを丁寧に外していった。 「…何の真似ですか…?」 「…クッ、身体検査に決まっているだろう?」 知盛はブラウスのボタンを全部外してしまうと、次はスカートのホックにかかる。 乱暴と優しさの中間ぐらいの器用さで、ホックを外した。 スカートが床に落ちた瞬間、望美は恥ずかしさの余りに消えてしまいたくなる。 ベージュのストッキングを黒いガーターベルトで止めていたから。 知盛はそれを見るなり、眉を上げた。 「…それは、俺に期待をしている…ということか…?」 嘲るような声に、望美は肩を震わせる。 「そんなことはありません…!」 きっぱりと言い切りながらも、心では完全に否定をすることが出来なかった。 肩が震える。 「…充分…愉しませてくれるじゃないか…」 知盛は下着を見て薄く笑う。 今日は刺激的な紐がついたものだったからだ。 知盛は、望美のブラウスをするりと肩から落とし、ブラジャーを見る。 本当に真剣な視線で見ている。 ブラジャーの肩紐を掴まれた時、もう躰の芯がとろけてしまうのではないかと思った。 「…ストラップレスではないのだな…」 「…はい」 「…では、下着も新しいものを用意させなければな…」 知盛は薄く笑うと、望美から離れた。 知盛が離れると、望美は倒れそうになる。甘い緊張が、狂おしい気分にさせる。 知盛は電話を取ると、まるで絵画を眺めるかのように、望美の躰を見つめてくる。 見られるだけで、このまま砂糖のように溶けてしまうのではないかと思った。 余りに熱い視線で見つめてくるものだから、望美は思わず自分の腕で自分を抱きしめる。 「…ああ。…直ぐに行くから…手配を頼む…」 受話器を置いた後、知盛は望美をしげしげと見つめる。顎の下で指を組んで、ただ真っ直ぐ望美だけを見つめてくれた。 「…服を着ていいですか?」 「…まだ、駄目だ…」 知盛は静かに望美に近付くと、いきなり肩を抱き、髪をかきあげてきた。 「あ、あの…」 うなじをあらわにされて、望美は息が出来ない。 まさかこんな場所で、知盛がふしだらな行為に及ぶとは思わないが、それに近い雰囲気はあり、焦った。 「…あっ…!」 うなじに息がかかり、背筋にゾクリとしたものが競り上がってきた。 いきなり強くうなじを吸い上げられる。 余りに強く吸い上げられて傷みすら伴った。 唇を離した後、知盛は悪びれることなく笑う。 「…弟が来るから…マーキングだ…」 知盛の弟。 嵐の予感がした。 |
| コメント パラレルな知望です。 書いていて楽しいです(笑) 濡れ場に早く行きたいなあと思っています。 |