ライン


 知盛が初めてジーンズを身につけた時、なまめかしくて、おかしくなりそうだった。
 スタイルはメンズ雑誌に載っているモデルよりも完璧で、全く隙などない。やはり武道と、戦場で鍛えた躰だからだろうか。
 モデルには太刀打ち出来ない美しい肉体がある。思わず鼻血でも出てしまいそうな勢いだ。
 デートだというのにー望美はそわそわして、知盛の逞しい張りのある下半身ばかりを見てしまう。望美は喉がからからになり、早春だと言うのに、躰の内側が沸騰しているような気がした。
「……どうした…? 随分と…挙動不審だな…」
 せせら笑いながら、知盛は望美を意地悪でクールな眼差しで見てくる。
「…望美……、真っ赤…だな…」
 くつくつと喉を鳴らされて笑われると、何故だかとても腹が立ってしまった。
「関係ないじゃない、知盛になんか」
「……関係は大有りだと…思うからな……」
 知盛の解りきったような笑みを向けられると、苛々してしまう。
 どうしてこんなにも余裕があるのだろうか。
 年上だから?
 経験値が上だから?
 私のほうがもっともっと好きだから?
 これらが総て当て嵌まるような気もしたし、当て嵌まらないような気もした。
 知盛は相変わらずクールで、だがセクシャルな雰囲気を纏っている。
 情熱と冷静のバランスが良く、望美を翻弄していた。
 知盛に少しでもドキドキして欲しくて、望美は今日、春らしい柔らかな色のミニ丈のワンピースと、Gジャンで決めて来た。勿論、惑わすようなリップグロスも忘れてはいない。
 なのに知盛はちっともときめいてくれないどころか、逆に不意を突いたジーンズ姿で望美をときめかせている。
こんなのは切ない。
 実り発展させる恋に勝ち負けなんかはないことは解ってはいるが、なんだかいつも翻弄されていて悔しい。
 頬を染めて、望美が俯くと、知盛が手を握ってきた。
 余りに強い力に、驚いて顔を上げると、知盛はフッと目を細めた。
「……俺だけを…煽るのなら…構わないが…、他の男まで煽るな……」
 戒められて、望美は不本意な気持ちになる。全くそんな気はないというのに。
「知盛を煽りたいとは思ったけれど…、別にそれだけだよ。他のひとのことなんて考えていないもん!」
「…お前が考えて…いなくても…ほかのヤツはどうかと思うぞ…」
「そんなの言われても」
 望美が言い訳めいたことを口にすると、知盛はいきなり道路の隅に追い詰めてきた。
人通りの多いこの往来で何をするというのだろうか。人の目など、全く気にも止めていない様子だった。
「ど、どうするのよ!?」
「どうするも…クッ、お前には…よく解っているはずだ……」
 優位な笑みを浮かべて追い詰めてくる知盛が、とても悔しい。睨んだところで、望美には敵いはしなかった。
 喉を鳴らして笑いながら、知盛は唇を重ねてきた。
 深く重ねられたものだから、望美は一気に意識が遠い場所に行ってしまったような錯覚に、襲われてしまった。
 ここが往来激しい場所で、ふたりの熱烈なキスを、誰もが興味深く見ていることすらも気にならなくなる。
 知盛が、しっかりとした強さがある、ジーンズに包まれた大腿部を押し付けてきた。
 あのなまめかしいラインが押し付けられるだけで、ここがどこであろうと、素敵な場所に変身するような気がした。
 キスが終わり、知盛が艶のあるエロティックな微笑みを向けてくる。
 その瞬間、往来の音が聞こえ、望美はここがどこであることを思い出した。
 全身に血液がまわり、熱くなる。沸騰しそうな熱さに、酔っ払ってしまいそうだ。
 恥ずかしさに、このまま走り出したくなると、知盛の腕にがっしりと捕まえられた。
「…逃げるな……。俺を…煽った…責任は…、取ってくれる…んだろ…?」
 責任を取るもなにも、こんなにしっかりと捕まえられていたら、逃げようがない。いやがおうでもとらされてしまうのは、目に見えている。
 知盛を睨み付けると、逆に笑われた。
「……クッ、着いてこい…。そんな目で俺を見るやつは…お仕置きが…必要だからな…」
 腕を掴まれたまま、望美は知盛にどこかへ連れて行かれてしまう。
 不安はないが、何だか闇鍋を食べるみたいにドキドキした。
「…ここだ…」
 ぴたりと知盛の動きが止まり、望美はうろたえる。
 そこはネオンも麗しいブティックホテル。
 昔に比べるとかなり素敵になったとはいえ、やはり引いてしまう。
「……したいだろう…? 俺は…したい…」
 知盛はフェロモンを纏った低い声で、望美をストレートに誘ってくる。
 誘いに乗らないわけにはいかないではないかと思う。
 したい。
 望美も欲望をたぎらせているのだから。
「凄くしたいの?」
「…凄く…したい…」
 恥ずかしげもなく知盛が言うものだから、望美も素直に頷いた。
「良いよ」
「…クッ…お前は…全く良い女…だぜ…」
 知盛は薄い笑みを浮かべると、望美の手を握り締めた。
「…この世界は…便利だな…。わざわざ…家に帰らなくても…睦みあえる…から…な」
 望美はお金がかかるけれども、直ぐに愛し合えるのはとても便利だと、心のなかで呟いてみた。
 知盛とふたり、堂々とホテルに入り、フロントに行く。
 どれか部屋を選べと言われ、知盛は奇妙な顔をした。
「…どれと言われても…な。望美…おまえは……どの部屋が良い……」
「落ち着ければ、それで…」
「…そうか…」
 知盛は頷くと、適当な部屋を選んでくれた。
 通された部屋は、和風の落ち着く部屋。
「来いよ」
 腕を広げられて、望美は喉を鳴らしながら従うしかなかった。
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ヒップラインシリーズ(笑)



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