magic noodle

前編


 放課後、いつものようにレイチェルと楽しくお買い物。
 学生ゆえに、ウィンドーショッピングしか出来ないが、見て回るだけでも楽しかった。
 でも、一番の目的は、カジュアルなフレンチレストランのオーナーシェフを一目見ること。
 彗星のごとく現れたフレンチレストラン、レ・テは、オーナーシェフアリオスのセンスで、今やアルカディア界隈では超有名店になっている。
 セレブも多く訪れ、おしゃれな名店として雑誌に紹介されないことがないほどだ。
 その上、オーナーシェフのアリオスが、俳優以上の容姿を持っているせいもあり、美しい女性との噂が絶えない。
 アンジェリークは、17歳の誕生日にプレゼントの一環として、両親に”レ・テ”に連れて行って貰ってから、アリオスに心を奪われたのだ。
 瀟洒な雰囲気と、誕生日だと言うことで、アリオス自らがテーブルに挨拶に来てくれたのだ。
 その上、プレゼントと言うことで、アリオスが作ったデザートが無料で付いたのだ。
「Happy Birthday よい17歳になりますように-----」
 それ以来アンジェリークはアリオスに一目惚れし、夢中だ。

 ランチタイムが終わり、お茶どきになると、パティシエに任せて、アリオスはほんの少し外出をするのだ。
 一目だけでも見るために、それを目当てに、アンジェリークはわざとその前を通る。
 今日も、銀髪のオーナーシェフアリオスが休憩に出ていくのをアンジェリークは確認し、うっとりとしていた。
「やっぱりかっこいい・・・」
 後ろ姿が見えなくなるまで見つめ、感嘆の溜め息を吐くと、アンジェリークは幸せな思いに包まれていた。
「もう、いい?」
「うん、有り難うレイチェル」
 いつも付き合ってくれる親友には、とても感謝している。
 にこりと微笑んだ後、アンジェリークは歩きだそうとした。
 不意に、レストランの隣にある店が目に付く。
「ねえ、レイチェル、お店のお隣りにアンティーク雑貨屋があるよ。行ってみようよ!」
 今まで気付かなかったのか、賑やかな通りの隅に、ぽつんとある雑貨店。
 アンティーク好きのアンジェリークには、堪らないしつらえの店だった。
「何かさ、怪しそうじゃない?」
 レイチェルはいかにも訝しげだ。
 確かに不思議な雰囲気は漂っている。
 それにも増して、鉱石以外のとアンティークというものは、レイチェルは余り好きではない。
「行こうよ!」
 だが、アンジェリークはどうしても行きたかったので、親友に喰い下がる。
「しょうがないわね・・・」
 レイチェルは大きな溜め息を吐くと、アンジェリークの後についていった。
「こんにちは・・・」
「いらっしゃいませ」
 カウンターから挨拶をしてくれた青年は、少し妖しい雰囲気を漂わせている。
 見事な金髪と紅すぎる唇。
 目を引く美青年だ。
「ちょっと見せて頂いてよろしいですか?」
 おずおずとアンジェリークが尋ねると、青年は快諾してくれた。
 色々と見ているだけで楽しい。
「これ・・・」
 だが、アンジェリークの目に付いたのはなぜかカップラーメン。
 アンティークショップにカップラーメンとは奇妙なこともあるものだと、アンジェリークは小首を傾げる。
 摩訶不思議な空間に摩訶不思議なカップ麺。
 アンジェリークは気になり過ぎて、穴が開くほど、じっとカップ麺を見つめた。
「気にいった? それ」
 妖しい青年がにこにこと笑いながら話しかけてくる。
「あ、こんなお店にカップ麺って変わってるなあって・・・」
「それは何でも願いごとが叶うカップ麺だよ」
 アンジェリークは思わず目を見開いて丸くした。
「使い方は普通のカップ麺と同じ! お湯をかけた後3分間、ひとつだけ願いごとを祈り続けるだけ! 願いは叶うよ」
 少し眉唾ものだとも思いながらも、アンジェリークは惹かれずにはいられない。
「これ・・・、おいくらですか?」
「50円だよ」
「え!?」
 余りの安さにアンジェリークは息を飲むと共に、気持ちは決まった。
 お買い上げ。
 お小遣いでも全然痛くない金額だ。
「これ! 買います〜!!」
 アンジェリークは、すぐにカップ麺を手にとりレジに行く。
「アンジェ、やめなよ」
 レイチェルは得体の知れないものには少し不気味がっていた。
 だが、アンジェリークは、願いが叶うというならば、そんなことは一向に構わない。
「安いし、買うだけ買ってみようかな」
 天使特有の好奇心から、つい手に取ってしまう。
「これ下さいな」
「まいどあり」
 アンジェリークは青年に50円を払うと、彼は綺麗にラッピングまでしてくれた。
 これでは、ラッピング代だけでこの価格にいってしまう。
 かなり得したと思い、ほくほく顔のアンジェリークに対して、レイチェルは疑心暗鬼だ。
「どうも有り難う〜。また来てね〜」
 青年に見送られて、アンジェリークは本当に嬉しそうにしているが、レイチェルは厳しい表情をしている。
「ホント、そんなもん捨てちゃいなさいよ!」
「願いが叶うかもしれないもの・・・」
「あのレストランのシェフ?」
 その瞬間、アンジェリークは耳まで真っ赤になる。
 図星というわけである。
「・・・あんなにカッコいいし・・・、綺麗な人と噂があるし・・・」
 告白する勇気がないとばかりに、アンジェリークは小さくなっている。
「まあ・・・、そのラーメン、飾っとくだけだったらいいけど、食べたりしちゃ駄目だよ」
 アンジェリークは笑うだけだったが、どこか何が起こるかわくわくしていた。

 家に帰り、自分の部屋に戻ると、アンジェリークは、早速、テーブルの上にカップ麺の箱を乗せて、お湯を沸かす。
 いつもならポットのお湯を使うが、今日は念のためにケトルを使うのだ。
 お湯が沸く間、蓋をゆっくりと開けた。お湯が沸き、カップの中に注ぐと緊張が高まる。
 息を詰めながら、アンジェリークはカップの中にお湯を注いだ。
 三分という時間が切ない。
 アンジェリークは、何かあってはいけないと、きちんとストップウォッチで計ってみた。
 ストップウォッチとカップ麺を交互に見やる。

 神様・・・。
 せめて、私が、アリオスさんと話せる勇気を下さい。
 出来たらお付き合いしたいなんて・・・、ダメですよね・・・?

 切なくも熱いアリオスへの思いをアンジェリークは祈った。
 ストップウォッチの数値が一桁を切る。

 神様・・・!!!

 三分きっかりと経った瞬間、アンジェリークはカップ麺に手を延ばした。
「・・・!!!」
 次の瞬間、アンジェリークは何が起こったか判らなかった。
 ただ目の前にいるのは、お湯を滴らせた良い男-------アリオスだ。
「・・・うそ・・・」
 お湯に濡れたアリオスは、本当に素敵で、アンジェリークは思わず見惚れてしまっていた。
「・・・おい、これはどういうことだ!?」
 アリオスは鋭い瞳でアンジェリークを睨みつけている。
「あ、あの・・・、こちらこそ、ラーメンにお湯を注いだら、アリオスさんが出てきて・・・」
 おどおどとしながら、アンジェリークは小さくなっている。
「カップ麺にお湯を注いだら…、か」
 アリオスが足下を見ると、そこに転がっている空の容器を拾い上げた。
 それをいぶかしげに見ている。
「これをどこで買った?」
「あ、その・・・、アリオスさんのお店のすぐ隣で」
 次の瞬間、アリオスの表情が更に厳しいものになる。
「隣の店な・・・」
 益々不機嫌になるアリオスに、アンジェリークはおどおどした。
 真っ直ぐと、異色の瞳に射られる。
 その唇から聞かれた言葉は、意外なものだった。
「・・・あんたが俺のご主人様だ・・・」
「私が!?」
 アンジェリークは、目を大きく見開いて、アリオスを見つめることしか出来ない。
「俺はおまえらとは少し違う、特殊な一族の出身だ。
 俺の一族は一生に一度だけ、誰かの願いを叶えてやることが出来る能力を持っている。
 それに使用されるのが、このカップ麺だ。
 自分を呼び出すことができるカップ麺が、ひとりひとつあって、それが誰に渡るかも判らねえ。
 カップ麺で呼び出されれば、その相手が”ご主人様”となり、願いを叶えることができる。ただし、さっき言ったように、この力は一生に一度だけしか行使出来ねえんだ。
 だからあんたは、俺にとっては最初で最後の”ご主人様”だ」
 アリオスが感情のない声で淡々と話すのを、アンジェリークは一生懸命聴いている。
「ったく、変な風習だぜ? ランプの精のようにもならねえ、中途半端なラーメンの精だ」
 アリオスはじっとアンジェリークを真摯に見つめてくる。
「-------何が願いだ?」
 低い声で言われて、アンジェリークはただアリオスを見つめる。
 手を延ばせば、自分が欲しいものが手に入るのだ。
「あの・・・」
「ん?」
 お湯が滴るアリオスは本当に素敵すぎて、心臓がどきどきする。
 どうしても欲しくなる。
 アンジェリークは生唾を呑みながら、決心を固めた。
 深い深呼吸をしてから、覚悟を決め手口を開く。
「あなたを私の恋人にして下さい!!!」
 思い切り言ってしまった。
 一瞬、沈黙が走る。
 だが、次の瞬間にはアリオスの口角が僅かに上がっていた。
「オッケ、ご主人様」
「あ------」
 喜ぶ暇なんかない。
 次の瞬間、アリオスにアンジェリークは唇を奪われていた。
「----------!!!!」
 唇が離された後も、心臓がばくばくと音を立てて鳴り響く。
 酸素不足の金魚のように、アンジェリークは口をぱくぱくとさせていた。
「よろしくな? 俺の恋人さん?」

 夢が現実になった------???

 TO BE CONTINUED…

コメント

172000のキリ番を踏まれたかなこ様のリクエストで、
お湯をかけるとあらビックリ!即席アリオスです(笑)
アリさん登場!
この後は甘いお話になる予定ですので、宜しくです〜。




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