約束〜キスメット〜

後編


 アリオスはいつも仕事を優先。だが、その後に甘いお詫びがあるから、アンジェリークは怒れない。
 ドレスを汚してはいけないから、アンジェリークは先ずは汚れても大丈夫な恰好をしてヘアメイクに臨む。
 アリオスもまだきちんっ支度はしていなくて、白いカッターシャツにスラックスの出で立ちだ。
 当日のヘアメイクを花婿がするなど、やはりアリオスが優秀なヘアメイクデザイナーであるからにほかならない。
 先ずはいつもより念入りにベースを作る。ブライダルメイクは、花嫁の汗や涙で崩れてはならないしろものだからだ。
 元々白磁器のようなアンジェリークの肌を、アリオスは更に美しく磨きをかけてくれた。
 眉を整えアイラインをインサイドに入れ、いつもは付けない付け睫毛まで付ける。ノーカラーでも、いつもに比べるとかなり綺麗に仕上がっている。しかしアリオスは更に色を入れて、華やかな花嫁色にしていってくれた。ラベンダーとピンクを主にしたアイシャドーを塗り、チークは幸せ色のピンクを入れてくれた。
 唇への色は入れずに、髪にかかった。
 昨日綺麗にヘアエステをしてもらったので、髪は美しく巻かれて上げられる。
 白い花を髪に飾ったところで、アリオスは離れた。
「今からドレスを着せてもらえ」
「ルージュは!?」
「ルージュは最後の仕上だ。俺も準備があるからな。入れ代わりにレイチェルが来てくれるから、従え」
「うん、有り難う」
 アンジェは切ない気分を味わいながら、アリオスの背中を見送った。
「アンジェ! ドレスを着る手伝いに来たよ!」
「有り難う、レイチェル!」
 アンジェリークが機嫌よく迎えると、レイチェルは抱き着いて来てくれた。
「アンジェ、とうとう狼さんのものになっちゃうんだ。結婚したら凄く独占しそうな勢いだから、何だか嫌だなあ」
 レイチェルがあまりに悔しそうな顔をするので、アンジェリークはくすりと笑う。
「アリオスは確かに独占欲が強いかもしれないけれど、大丈夫よ」
「アリオスのことだから、アナタを箱に閉じ込めておく勢いだよっ! だってイメージモデルをした後、あんなにオファーがあったのに、アンジェをモデル界から引かせたのは、アリオスだし!」
「あれは私も望んでいたもの。しょうがないよ。結局はキャンペーンだとか撮影とかで、アリオスとは余り一緒にいられなかったんだもん」
 アンジェリークはアリオスを擁護するように言ったが、レイチェルは首を振った。
「絶対、独占欲からだよ!」
 レイチェルは強く言い、自分の主張はいかに正しいのだと胸を張っている。友人のかたくななまでの主張に、アンジェリークは苦笑いするしかなかった。
「そんなことないよ」
「いいや、ある!」
「お嬢さん方、騒いでいないで。花嫁さんのドレスに袖を通して頂きますよ」
「はい」
 オリヴィエのブランドからわざわざ手伝いに来てくれた女性に着付けを手伝って貰う。
 リハーサルの時に着たときよりも、もっと神聖で特別のような気がする。身も心も引き締まるような気がする。
 夢見ていた花嫁に。
 最愛の男性(ひと)と一生涯を誓うのだ。
 背筋が伸び、アンジェリークは鏡に映るの自分が別人のような気すらしてきた。
 隣に立ったレイチェルが半分泣きそうな顔をして、同じように鏡を見ている。
「アンジェ、すごく綺麗だよ。今までで一番綺麗って言ってもいい。こんな綺麗なアンジェをアリオスなんかにやるのは癪にさわるぐらい」
「レイチェル…」
「本当に綺麗だよ…」
 レイチェルは感激のあまりに泣き笑いの表情を浮かべると、持ってきたブーケをアンジェリークに渡した。
「ワタシが作ったんだよ。アンジェにぴったりだと思って」
「有り難う…!!」
 親友の心遣いに、アンジェリークは感極まって涙を一筋流した。きっと吟味してくれたのだろう。純白のバラやかすみ草などが入った可愛いものになっている。
「ほら、泣かないの。まだ、式すらも始まっていないんだよ」
「うん、そうだね…」
 親友に肩を抱かれて、アンジェリークは何度も頷いて、笑うように努めた。
「さてと、ここからはまたアリオスにバトンタッチだよ」
「うん。有り難う、本当に」
「いいって」
 レイチェルが最高に小粋なウィンクを残して、手伝いの女性と一緒に去ると、アリオスが控え室に入ってきた。
 少し堅苦しいように見えるが、アリオスのタキシード姿はとても様になっており、アンジェリークは見惚れてしまう。胸の鼓動が激しく高まり、アンジェリークは素敵な気分に誘ってくれる。
 頬を赤らめて、アンジェリークはにっこりと微笑んだ。
「惚れ直したよ、アリオス」
「バーカ。俺はいつでもよい男なの。お前こそ良い女だぜ? 最高にな?」
「アリオス…」
 アリオスが腰を引き寄せて、躰を密着してくる。お互いの鼓動がとても近いところに聞こえて、少し恥ずかしい。
「-----おまえをもっと綺麗に出来るように、最後の仕上げだ」
「うん…」
 アリオスはアンジェリークの顎を持ち上げると、唇に、リップスティックを近づける。
「おまえのためだけに開発したピンクのルージュだ。”ランテルディ”。おまえ以外には使わない」
「アリオス…」
 アリオスは官能的にアンジェリークの唇にルージュを塗った後、指で整える。その後のオフはお約束のキス。
「ん…」
 これからアンジェリークを生涯護っていくという誓いを込めて、深く激しいキスを愛する花嫁にする。
 舌を使って丁寧にキスをした後、アリオスはアンジェリークをそっと抱き寄せる。
「幸せにする」
「私もアリオスを名いっぱい幸せにするからね」
「ああ。幸せにしてくれ」
 アリオスは甘く笑うと、アンジェリークの唇に軽くて甘いキスをする。何度も何度もキスをして、祝福のハレルヤが聞こえる気分に盛り上げてくれる。
 恋人から夫婦へ。
 ふたりは誓いも新たに何度もキスをしていた-----


 結婚行進曲が鳴り響き、アンジェリークは父親とともに祭壇へと向かう。そこにはアリオスが待ってくれている。
 バージンロードを父親と歩きながら、今までのアリオスとの時間が懐かしく思い出されてくる。
 今までは課程。そしてこれからが本当の意味でのスタートなのだから。
 父親の手を離れ、いよいよアリオスの手を取る。
 もう二度と離さないで-----そんな思いを込めて、しっかりと腕を絡め合う。
 神父の前に歩みでて、二人は定番の誓いの言葉を交わす。
 指輪の交換とキスを追えた後、祝婚歌とばかりに、ゴスペルの代わりに本当の歌手が教会の二階部分から歌を歌い始めた。
 これにはアリオスもアンジェリークも驚く。驚いている間もなく、今度は参列席に隠れていたサックスやトランペット奏者、ギタリストが音楽を奏でてくれる。
 教会中に響く素敵な音楽は、愛をテーマにした有名なもの。
 アンジェリークがうれしさの余りに泣き、アリオスが支えながら笑っていると、してやったりのオリヴィエやレイチェルたちが笑っていた。
 こんな素敵な結婚式はない。
 最高のスタートを切れたと思う。
 これから二人で歩いていく道を彩るには最高の演出だ。
 こんなに素敵なことをして貰ったのだから、喧嘩をしただけで罰が当たってしまうような気がした。
「有り難う…みんな」
 アンジェリークは小さくささやくと、アリオスの肩に甘えるように凭れて、うっとりと友人たちのサプライズプレゼントに聞き入っていた。


「やべえ!」
 素敵な庭園でのウェディングバンケットの最中に、アリオスはしまったといった表情をした。タキシードのポケットをもぞもぞと探るなり、後悔のため息を吐いている。
「どうしたの?」
「いいから、ちょっと来い!」
 すぐにアンジェリークを呼び寄せると、そのまま腕を引っ張って、死角に連れて行く。
「ちょっと!アリオスっ!」
「おい、これを穿いてこい」
「え、なに?」
 アンジェリークはアリオスがポケットから出したものを見て、絶句する。
「…あ…!!!!!」
 アリオスが見せたのは、アンジェリークのレースの下着。とたんにアンジェリークは真っ赤になった。色魔でのわずかな間に、アリオスに求められた結果、ノーパンで神様の前で愛を誓ったのだ。
「わ〜ん!! 恥ずかしい〜!!」
 アンジェリークは全身を真っ赤にさせると、アリオスから泣きそうな顔で下着を受け取る。
「みんなにばれねえように、そっとな」
「解ってるよ…」
 アンジェリークは幸せだけれどいたたまれない恥ずかしさに身を焦がしながら、急いで花嫁控え室に向かう。

 きっと、いろいろな意味で、忘れられない結婚式になりそうだ-----


コメント

310000HITを踏んで下さいましたゆうこ様のリクエスト。
「(I LONG TO BE)CLOSE TO YOU」の設定で、
幼なじみなふたりの結婚です。
アリオス美容師×アンジェです。
 サイトのあらゆるところに二人は出張っておりますので、
忘れられた方はまたお読み下さいませ(笑)
オチは二人らしいということで〜(苦笑)




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