Saturday is long in coming!
〜土曜日が待ち遠しい!〜


「アンジェ、また、大学部に忍び込んでご飯を食べに行くの?」
 呆れるようなレイチェルの声に、アンジェリークは澄ました涼しい顔をする。
「だって、大学部の学食のご飯美味しいんだもの。附属の生徒が忍び込んでも何も言われないって!」
「まあ、そうだけど、大学部のカフェテリアで顔を売っているのは、アナタぐらいなもんよ」
「美味しいし安いし、土曜日だけだもの。公立と違って、うちは土曜日も授業あるからね。それが楽しみなんじゃない!」
 食べ物のことしか考えないアンジェリークに、レイチェルは苦笑しているようだ。
「じゃあ食べてくるね」
「うん、いってらっしゃい!」
 制服姿堂々と、アンジェリークは大学部のカフェテリアに忍び込んだ。
 大学部は名門として有名で、たとえ附属高校から来る内部進学者であろうと容赦なく切り捨てられる。附属からでも入り難いのである。
 アンジェリークも大学部に行こうと決めている。理由はカフェテリアのご飯が美味しいからだ。内部進学出来るぐらいの能力は兼ね備えているので、大丈夫だ。
 制服姿で、今日はうどんを食べる。うどんひとつとっても大学部のものは美味しかった。
 選んだのはうどん定食で、カレーうどんに野菜の煮た小鉢が付いており、そのうえ日替わりごはんも魅力的だ。今日は、むぎとろごはんだ。
 イチオウ乙女な制服姿なので、汚さないようにハンカチを子供のよだれかけのように付けた。
 少し混み合うので、相席は当たり前だ。
「ここ、かまわねえか?」
「はい、どうぞ」
 アンジェリークはちらりと隣に座った男をちらりと見てから、再びうどんに集中する。やはりカレーうどんは美味しいと、頷きながら食べていた。
 「おい、おまえさんは附属の生徒か?」
不意に低くて甘い声が下りて来た。
「…はい」
「附属にも学食はあるだろうが」
「ここが一番美味しいんです。だからわざわざ食べに来ているんです」
「クッ、わざわざ来るあたり、胃袋は相当気に入っているんだろうな」
 横に座った青年は、喉をくつくつと鳴らしながら、さも可笑しそうに話している。
 美味しいからいいじゃない。恥ずかしさの余りに、アンジェリークは顔まで真っ赤にしていた。
「特に女子学生は、もっと洒落たところで食っているぜ? だが、ここは安くて美味いからな。うちの大学じゃ、良い線いってる」
「ですね。私も凄く気に入っています。美味しいし、栄養のバランスが取れているし…」
「そうだな」
 横に座った青年をよくよく見てみると、とても素敵だった。銀の髪と翡翠と黄金の瞳が印象的な、非常にシャープな顔をしている。
 これではモテるだろう。だが、学生にしては、少し老けているような気もしないではない。
「いつもここで食っているのかよ?」
「土曜日だけです。普通の日は結構混んでますから…」
「だな。それに、先生に怒られちまうからな」
「今日だって見つかったら大変です」
「のわりには、堂々とした制服姿だな」
 可笑しそうに喉を鳴らしながら、青年はまた笑う。黙っていると、どちらかと言えば、冷たさを助長するタイプなのに、こうして笑うと厳しさと冷たさが取り払われる。こういったギャップが、アンジェリークにはたまらなく素敵に思えた。
 いつもは小さくなって、味を噛み締めるようにして食べるが、今日は楽しく食事が出来る。いつもより更に美味しくも感じる。
 しっかりとご飯をぱくぱく食べていると、青年も横でしっかりと食べている。
 ご飯まで食べ切った後は、うどんの中には肉と玉葱がぷかぷかとだし汁の中に浮いている。
「わーい!」
 大好きなものにようやくありつくことが出来る。アンジェリークの顔はすっかり恵比須顔だ。
「おまえさんも好きなもんを最後に残して食いタイプかよ?」
「はい! 友達のレイチェルに言わせれば、最後に美味しくて好きなものを残していたら、お腹一杯になった時に、食べられなくなって悔しいくなるって言ってましたけれど、大好きなものはやっぱり別腹なんですよね〜! それにマズイもので最後を終わらせたら、マズイ後味が残って、凄く嫌なんですよね!」
 アンジェリークが力説すると、青年は楽しそうに笑う。
「だよな。最後にマジーもん食ったら、気分まで悪くなっちまう…」
「そうです!」
「美味いもんを最後に食ったらその後まで幸せだもんな。理解出来ねえってヤツもいるが、俺こそ、最初に美味いもんを食う気持ちが解らねえよな」
「はいっ! そうです!」
 久し振りに自分と同じ意見の人間を見つけて、非常に嬉しい。アンジェリークはにこにことしながら、大好きなものを食べることが出来た。
「美味いか?」
「美味しいです。この玉葱の甘さが堪らないんですよね〜」
 普段から凄く美味しいと思っているが、今日は格別に美味しく思える。
「あー、美味しかった」
「デザートはどうだ?」
 青年は笑いながら、煙草を口にくわえている。
「予算オーバー」
 がまぐちの小銭入れをアンジェリークが振って見せると、青年は立ち上がった。
「フローズンヨーグルトはどうだ? 奢ってやるよ」
「いいんですか? 有り難うございます!」
 それこそ、アンジェリークは飛び上がりたいぐらいに嬉しかった。
「買ってきてやる」
 青年がフローズンヨーグルトを買いに行っている間、アンジェリークは鼻唄を歌いながら喜んでいた。
「ほらよ」
 買ってきてくれたのは、甘いピーチ味のフローズンヨーグルトだ。味まで好みのもので、本当に嬉しくてしょうがない。
「有り難うございます。凄く嬉しいです」
 アンジェリークは早速カップのかわを剥いて、ヨーグルトを口に入れる。甘酸っぱい味が口に広がり、今、まさに至福の時。
「おいしぃ〜!」
 アンジェリークは本当にこんな幸せなひと時はないと、思わずにはいられない。
「良かったな?」
「はいっ! 有り難うございますっ!」
 アンジェリークはとろとろの笑みを浮かべながら、綺麗にフローズンヨーグルトを食べ切った。その間に、煙草を片手に、目の前の青年はじっと見つめてくれていた。
「ご馳走様でした」
 礼儀正しく手を合わせてから、青年に向かって一礼をする。
「どういたしまして」
 青年が立ち上がり、席を離れようとする。
「あの!」
 声をかけると、青年は静止してくれた。
「私、附属の高校三年のアンジェリーク・コレットです。あの、あなたは…何回生ですか?」
「俺はアリオス。この大学の学生じゃねえ」
「じゃあ、私と一緒で、ここには忍び込んでご飯を食べていたんですか?」
「残念ながら、そうじゃねえ。想像に任せる」
 アリオスと名乗った青年は、それだけを言って立ち去る。肝心なことは解らないが、名前だけでも解ったのはよしとしなければならない。
「…素敵なひとだったな…」
 アンジェリークはうっとりとアリオスの後ろ姿を見つめていた。


 それからと言うもの、土曜日が待ち遠しくてしょうがなかった。
 またあの男性に会えるかもしれない。それとも出入りの業者か何かで会えないかもしれない。
 ふたつにひとつの確率に、アンジェリークは切ない想いを抱いていた。
 ようやく土曜日。
 アンジェリークはいそいそとカフェテリアに向かう。美味しく安いランチと、恋心の為に。
 いつものようにうどん定食を選ぶ。今日はあんかけうどんとじゃこ飯だ。野菜の煮物は大根なので、凄く嬉しい。
「…これだけでも、来たかいがあったかな…」
 アンジェリークはそう口に出すことで、自分に言い聞かせているようであった。
 あたりを少しきょろきょろとすると、アリオスはいない。がっかりしながら、とりあえずは空いていたふたり掛けに座ることにした。
 やっぱりたまたま大学に仕事で来て、ここを利用しただけかもしれない。そう想うと、少し切なかった。
 先週の半分の美味しさだと感じながら、うどんを啜る。しかも大好きなあんかけうどんなのに、その美味しさが半減したような気がした。
 一生懸命食べていると、こんと何かを置く音がする。顔を上げると、いちごの練乳デザートが置かれ、アリオスがいた。
「相席、お願い出来るか? 代金はデザートで…」
 憎らしいほど素敵な笑顔をアリオスは浮かべてくる。これでは断れないではないか。と言っても断る気は甚だ有り得ないのだが。
「あ、アリオスさん!」
「うどん定食か。美味そうだな」
「ボリュームがあって美味しくて、その上、安いから」
「まあな」
 アリオスのプレートの上には、いかにも家庭料理の数々が置かれていた。栄養のバランスも旨く取れている。
 アリオスが食事を始めると、アンジェリークも再び食べ始めた。今日はあんに絡んだ海老や豚肉を残している。これを後から食べるのだ。
「美味し…」
 先程とは比べものにならないくらい、ごはんは美味しかった。ぱくぱく食べ続ける。
 アリオスが見守る中、非常に美味なひと時を過ごすことが出来た。

「またな?」
「はい!」
 アリオスが帰っていくのを再び見送る。
 見送るのがこんなに楽しいとは知らなかった------

コメント

これを書いてたら、なぜかカレーうろんが食いたくなった。
で、冷凍カレー鍋焼きうろんを食べました。

キン○イ最高〜!!!(笑)




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