Saturday is long in coming!
〜土曜日が待ち遠しい!〜

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 土曜日が待ち遠しい!
 まだ名前しか知らない存在ではあるが、心の中ではこっそりと”デート”と呼んで、つかの間の幸せを楽しんでいる。
 ご飯が美味しいだけでなく、また楽しみが増えた。土曜日の贅沢と呼んでいる行為も、アンジェリークにとっては更にゴージャスなものに思えた。
「今日も大学でご飯を食べるの?」
 土曜日の午後、レイチェルに呼び止められて、アンジェリークは振り返った。
「うん、そうよ」
「だったら、私も一緒にしようかなあ。これから大学の内部進学者へのガイダンスとキャンパス説明会があるし…」
「うん、行こうか」
 アリオスとふたりきりじゃない。
 一瞬心に過ぎったが、アンジェリークは笑顔でそれを掻き消した。
「うん、じゃあ、行こうか?」
「うん!」
 ほんのたまにはレイチェルと過ごすのも悪くはない。アンジェリークは笑顔になると、親友と仲良く大学部に向かった。
 今日もいつものうどん定食を選ぶ。天ぷらうどんと筍ご飯、それにじゃこ、わかめ、キュウリの酢の物が添えられている。
 ご飯を取りに行って、席にについてからも、アンジェリークはついついアリオスを探してきょろきょろとしてしまう。
「どうしたのよ? キョロキョロして?」
「…別に、何もないもん…」
 アンジェリークは頬をうっすらと赤らめながら、何気ない風にしているが、見るからに挙動不振だ。
 レイチェルはあたりを見回した後、どこか含み笑いをする。その顔で見つめられると、たじろいでしまった。
「なるほどね〜」
「何よ」
「アンジェがここでキョロキョロとしているのが解った」
「解ったって…」
 レイチェルが余りにも得意げに笑うものだから、アンジェリークは警戒するように僅かに躰を避けるような仕種をする。
「目当ての素敵な男性が出来たんだ!」
 ズバリ言い当てられて、アンジェリークは狼狽する。何とかごまかしたくて、おたおたとした。
「わ、私は別に…そんなことないよ…」
 明らかに声が上擦っていたので、レイチェルには爆笑される。
「やっぱり、そうなんじゃない?」
 からかうように言われて、アンジェリークは益々真っ赤になってしまった。
「そんなことないよ〜!」
 アンジェリークは視線を合わさないようにすると、割り箸を震える手で割る。
「さてと、おうどんでも食べようかなあ、ここのは凄く美味しいから」
 ごまかすように、アンジェリークはうどんに集中したが、そんなことはレイチェルにはお見通しだった。
「そね、とりあえずは昼ご飯食べてしまわなくっちゃ。うどんがのびてしまうもんね」
 レイチェルはウィンクをすると、意味深に笑ってからうどんを食べ始める。それがアンジェリークにはとても居心地が悪かった。
 うどんをすすりながらも、アリオスがすぐ近くにいるのではないかと、目線は自然と彼を探してしまう。だが、どこにも見掛けなかった。
「この値段にこの味、悪くないと思うよ」
「でしょう?」
 アンジェリークは半分は上の空になりながら、レイチェルの話を聞いていた。
 うどん定食を食べ終わるまで、アンジェリークはそわそわと何度もアリオスを目で探したが、結局は見つからなかった。
 入ってくる姿すらない。
 いつも週一度の土曜日を楽しみにしていたのに、今日は会えない…。
 アンジェリークは切ない想いでいっぱいになっていた。

 食事が終わり、レイチェルとぶらぶらとガイダンスがあるホールに向かう。今日は内部進学者の為だけのガイダンスなので、割とこぢんまりとしていた。
「この後の学部別も聞くでしょ?」
「うん」
「ワタシが地学部の宇宙生成学科でアンジェが工学部の建築科か…。きょうび、やっぱり理系は強いものね〜!」
 アンジェリークもレイチェルも、まだまだ女子には少ない理系を専攻することににしている。その方が後々楽だし、楽しく勉強が出来るからだ。
 一通りの大学についてのガイダンスを受けた後、各部事の説明になる。こういった受験生への丁寧な応対が、大学の質を更に高めているといっても良かった。
「じゃ、アンジェ、またね?」
「うん!」
 アンジェリークはレイチェルと別れた後、工学部の説明に向かう。レイチェルは地学部で、しかも大好きなエルンストが教鞭を取るせいか、どこかウキウキしているようにも見えた。
 アンジェリークが工学部の説明教室に入ると、かなりぎょっとする。やはり、男子生徒が殆どを締めている。最近は、長引く不況のせいで、工学部の需要は伸びているようで、かなりの生徒の数だ。勿論、アンジェリークのような女子生徒も以前に比べれば少なくはない。
 少しだけドキドキしながら、アンジェリークは女生徒が沢山いるところに座った。
「こんにちは!」
 明るい笑顔で声をかけてきてくれる少女に、アンジェリークもどこかほっとする。
「こんにちは。私はアンジェリークって言うの」
「私はエンジュです。どうそ宜しくね」
 隣に人懐っこい少女がいて、アンジェリークは嬉しくなる。これで不安は解消されたようなものだ。
「あなたはどこの学科を目指しているの?」
「私は建築科、エンジュちゃんは?」
「私は工学デザイン科なんだけれど、建築科、相当厳しい先生がいるって、聞いたよ」
 エンジュの何気ない言葉に、アンジェリークは目を丸くする。
「うそっ!?」
「ホントに泣かされた女子が多いって噂…」
「えー!」
 アンジェリークは背中に汗が流れるような気分になる。
「あっ、来たみたい!」
 エンジュの声に、アンジェリークは入口に注目する。その瞬間、時間が止まったような気分になった。
 そこには不機嫌な顔をしたアリオスが入ってくる。

 まさか…。

 心の中で思った。いつも自分には優しいアリオスが、そんな厳しいはずはないと。
 だが奇妙な予感というものは、的中するものである。
 講師や助教授レベルがみんな挨拶をして、学部についてガイダンスをし始める。どうかアリオスが建築科の恐い先生ではありませんように…。そんな願いも空しくなる。
「建築科で建築工学と設計学を担当する講師のアリオスだ」
 
 やっぱり…!

 自分が志望する学科の講師であったことは嬉しい。だが、厳しいとなれば話が別だった。
「俺は、性別だとかでは一切対応を変えねえ。男だろうが女だろうが、俺に着いていくことが出来ねえやつには容赦しねえ。しっかりとやれば、自ずから道は見えてくるはずだ。おまえらもそのあたりを覚悟をして望め。以上だ」

 やっぱりアリオスさんはおっかない存在だったんだ…。

 アンジェリークが躰を縮こませるた時、アリオスと視線がぶつかる。
 呼吸が速くなる。。
 一瞬、彼は驚いた様子だったが、直ぐに僅かな笑みを浮かべた。
「ではこれから、希望していた学科別に簡単なキャンパス案内を行う」
 アンジェリークは力無く席から立ち上がると、エンジュが気の毒そうな眼差しを向けて来る。
「…でもね、アリオス先生素敵だから…、去年も、一部の生徒が建築科に行って、気に入られようと頑張ったらしいけれどダメだったみたい…。アリオス先生は、恋愛と勉強を混同する生徒が何よりも嫌みたい…」
「だと思う…」
 これにはアンジェリークも烈しく同意をした。
「じゃあまた、アンジェリーク」
「うん、ばいばい、エンジュ」
 自分の希望する学科に行ったエンジュを、ほんの少し羨ましく思いながら、アンジェリークは建築科の列に向かう。
 アリオスが集めている建築科志望の生徒は大多数がやはり男子学生で、アンジェリークのような女子はごくごく少数であった。
「実習室などを中心に案内をする」
「はい」
 図面を描くためのテキスタイル教室やCADを入力するための高能力のパソコンを導入したパソコン室まで、アンジェリークには夢が広がる設備だった。

 いつか人が温かく感じられる、素敵な家を設計してみたい…。

 アンジェリークはいつしか、アリオスに抱いていた恐怖心など忘れて、真剣に見入っていた。
「うちの大学は、非常に設備が揃っているから、勉強しがいがあるはずた。授業を真面目に受けて、建築について真剣に学ぶ姿勢があれば、きっと良い建築士になれると想う。しっかりとカリキュラムに着いて来れそうな奴らだけ、建築科を志望しろ」
 それは裏を返せば、勉強をしっかりとするつもりがなければ、建築科を受験するなと言うことを、示していた。
 この後、アリオスカリキュラムなどの簡単な説明があり、そこで終了する。
「今日のガイダンスは以上で終了する。しっかりと勉強して、来年の春には大学生としておまえたちの顔が見られるか、楽しみにしている」
 アンジェリークはただみんなと一緒に「有り難うございました」としか、言うことが出来なかった。

 もっと、言いたいことが山ほどあったと言うのに…。

 自信のない自分が悔しくてしょうがない。
 アリオスが希望する建築科の講師だった。それはアンジェリークにとっては、些かめまいをするような現実。
 きっと生徒と講師の立場になれば、今までのように接してはくれないだろう。
 それが切なくて、辛かった。
 このままだと土曜日は、どんな顔をして会ったらいいのか全く解らない。
 アンジェリークは、土曜日の訪れが、こんなに複雑な気分を産むなんて思ってもみなかった。

コメント

次回に続きます。
厳しい建築かなアリオスさんを
もっと書いていきたいな〜。
頑張る。




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