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突然両親が事故で亡くなり、私は叔父ちゃんに引き取られることになった。 今日から叔父ちゃんの家で暮らすことになったものの、初日からひとり・・・。 叔父ちゃんとは両親のお葬式の時に少しお話をしただけ…。 今日は一人で、ここに引っ越してきました。 叔父ちゃんは今日はお仕事で、来られなかったので。 アンジェリークは溜め息を吐きながら、テレビの画面を見る。 そこには銀髪の美形の俳優が写っているが、ヒロインを襲っている。 ・・・まさかこの人が私の叔父だなんて・・・。 テレビドラマには欠かせないけれど、いつも悪役。 今回は、ヒロインをレイプする役だし、前は銀行強盗・・・。 悪役俳優道まっしぐらなのよね・・・。 かっこいいんだけれどな…。 アンジェリークはじっとテレビ画面を見ながら、叔父の観察に余念がなかった。 確かに悪役は、演技力を必要とするけどね・・・。 綺麗な顔で悪役をすると、いかにもな感じがするのよね・・・。 自らの叔父がドラマが終わった後、アンジェリークはテレビのスイッチを切り部屋を見渡す。 叔父との新しい生活の空間は、小さな2DKのアパート。 それでもふたりで充分な空間だ。 狭いが個別に何とか部屋を持つことが出来るし、築は古いが、心地好い空間だとアンジェリークは直感的に思った。 ドアが開くと同時に、タイミング良く叔父が入ってきた。 「ただいま」 低い躰に染み入るような声に、アンジェリークは思わず振り返る。 幼い頃にただ一度だけ逢ったことがある若き叔父。 その時、確か彼は大学生だったように記憶している。 それ以来テレビでしか見たことのなかった叔父が、今、目の前にいる。記憶の中よりも、テレビで見るよりも更に数倍素敵だった。 「あ、あの、アンジェリークです!」 アンジェリークは立上がり、アリオスを見るなり深々と挨拶をした。 「大きくなったな。泥団子作ってて、すげーしょんべん臭いガキだったのにな」 いきなり栗色の髪をくしゃくしゃとしてくるアリオスに、アンジェリークは目を大きく見開いて、見つめることしか出来ない。 「判っていると思うが、アリオスだ」 アリオスは美しいが力強い手を差し伸べてくる。 「叔父ちゃん、これから宜しくお願いします!」 アンジェリークは深々と頭を下げると、アリオスと握手をする。 その瞬間、あまりにも逞しくてドキドキとした。 アリオスはすっと手を離したと同時に、アンジェリークは彼が僅かに笑ったような気がする。 「部屋の片付けとかは終わったか?」 アリオスは、アンジェリークの部屋に入ることはなく、ただ目線で部屋を示しただけだった。 「はい。あんまり荷物はなかったですから・・・」 「そうか。手伝ってやれなくってすまなかったな」 「そんなこと・・・! すぐに仕事は終わりましたから」 アンジェリークはアリオスの気持ちが嬉しくて、笑顔を見せながら一生懸命頷く。 まだ微笑みはぎこちなかったが、アリオスにはまだそれで良かった。 「メシは?」 「まだです」 「残りものになっちまうが、俺が作ってやるよ」 アリオスはすぐに荷物を置くと、手を洗って準備を始める。 「あ、私も手伝います」 「明日から嫌でも手伝ってもらうからな」 「はいっ!」 だか何となく手持ちぶたさなので、アリオスの横で調理をしているのを見てみる。 その手際の良さには正直びっくりした。葱や玉葱を刻み、キャベツの千切りも本当に上手だ。 ハムも使って手早く野菜サラダを作ると同時に、簡単コンソメスープを仕上げた。 その後には、明太子をほぐしてチャーハンを作り始める。 鍋ふりなどを手早く行い、美味しいたまごと明太子のチャーハンをアリオスはあっという間に仕上げた。 「出来たから、皿によそったらテーブルに置いてくれ」 「はい」 アンジェリークはいそいそとテーブルに配膳していく。おなかが空いていたので、とても楽しみだ。 まだ食器がどこにあるか判らないので、アンジェリークはテーブルの上に運ぶことしか出来ないが、手伝いが出来るのは悪くなかった。 「せっかくの初日に、こんな残りもんで申し訳ねえな」 「でもとっても美味しそうだわ! 叔父さん有り難う!!」 目の前に出されている美味しそうなごはんに、アンジェリークは嬉しそうに笑う。 その笑顔に、アリオスも僅かに微笑んだ。 「さあ、食うぜ」 「はい」 二人用の小さなダイニングテーブルに着いて、ふたりでの初めての晩餐が始まる。 「美味しい・・・!」 明太子と卵のチャーハンはごはんがぱらぱらで、とても美味しい、サラダも、コンソメオニオンスープも美味しい。 アンジェリークはぱくぱくと一生懸命食べ、すぐに皿を空にした。 「凄い美味しかったです!」 「そうか」 アリオスも久し振りに食事が心から美味しく感じる。 誰かが一緒だというのは、久し振りのせいか、どんな豪華な料理よりも美味しい。 アリオスもすぐに食べ終わり、ふたりは僅かの時間で完食してしまった。 「お片付けは手伝いますね」 「サンキュ。色々とキッチンのことを言っておく。おまえの茶碗とか買っておかねえといけねえな。明日でも買っておけ」 「有り難う」 自分の茶碗がこの家に置かれる。それだけでも、アンジェリークは何故だか嬉しかった。 「お茶入れてやるよ? 俺、これでも上手いんだぜ?」 「有り難うございます」 アリオスが淹れてくれたのは緑茶。 アンジェリークは熱いお茶を冷ましながら飲むと、とてもよい気分になった。 「美味し〜!」 「だろ? 食後のお茶はとっても大切だぜ? 心を落ち着かせてくれる」 「はい」 本当にアリオス言う通りだと思う。 アンジェリークはただお茶を飲んでいるだけだったが、この時間がとても楽しく、また大切なものに感じていた。 少し休憩をした後、今度はキッチンでの片付けのレクチャーを受ける。 小さなキッチンだが、男所帯の割には、とても綺麗だった。 「食器類は後ろの黒い食器棚に入れてくれ。フライパンや良く使う鍋は鍋はシンクの下に収納している。包丁も扉の内側に差してある。大きな鍋は上の吊戸棚にある。さい箸や軽量スプーンは引き出しな。ごはんはこの炊飯器で炊け。炊飯スイッチを押せば、炊けるから」 アンジェリークはメモを取りながら、一生懸命アリオスの話を聞いた。 「明日から早速手伝って貰うが、いいか?」 「はいっ!!」 もちろんとばかりにアンジェリークはしっかりと頷いた。 「メシ作るのがムリだったら、俺がメモを書いておくから、それを買ってきてくれたらいい」 「でも、頑張ってみます!」 お料理苦手だけれど、何とかやってみよう! 意気込みの良いアンジェリークに、アリオスは満足そうに僅かに微笑む。 「ああ。頼んだぜ」 「うん!!」 この日から、アンジェリークのキッチンバトルは始まった。 |
コメント 昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。 悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。 又書く楽しみが一つ増えました(笑) |