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「これ財布だから、これを使って買い物に行ってくれ」 「うん」 古びた革の財布を手渡されて、アンジェリークは少し誇らしい気分になる。 「叔父ちゃん、今日も遅いの?」 「今日は普通だ。昼間に撮影があるだけだからな」 アリオスは手早く身支度を済ませながら、玄関に向かう。 「今日の役は?」 「詐欺師」 彼はそれだけ言うと行ってしまった。 詐欺師か・・・。 悪役だもんね…。 アンジェリークはしみじみ思うと、財布に視線を落とす。 叔父ちゃんに家計任されたんだし、がんばらないと! アンジェリークはしっかりと自分自身に言い聞かせるように頷くと、学校に行くことにした。 「ああ、あなたはアリオスの」 玄関先で出会った穏やかな女性がアンジェリークに声をかけてくる。 「あ、おはようございます! リュミエールさん!」 リュミエールはアパートの大家で自らも夫のクラウ゛ィスと共にここに住んでいる。 「元気はいいことですよ。いってらっしゃい」 「はい、いってきます〜」 明るくアンジェリークは挨拶をすると、スキップをしながら学校に向かった。 昨日から通う学校は、家からほど近いところにあり、通いやすい。 早速、隣の席にいたレイチェルとも仲良くなり、学校生活は順風満帆だ。 レイチェルがよくしてくれるものだから、アンジェリークには過ごしやすい環境だった。 授業を受けながら考えるのは、今夜のおかずのこと。 何を作ったらいいのかなあ・・・。 あんまり、お料理得意じゃないし・・・。 叔父ちゃんはお料理上手だもの、何だか緊張しちゃうな。 得意料理だとかレパートリーなど一切ないアンジェリークには、何を作っていいのか全く判らなかった。 「簡単に作れるお料理で、何か思いつくものってない?」 アンジェリークは思い切ってレイチェルに訊いてみた。 「うーん、カレーライスとか?」 「カレーライスか・・・」 これなら、カレー粉や野菜、肉があればいい。本などにも作り方は載っているので、自分でも作れそうな気がする。 「そうね、そうしよう!」 アンジェリークはしっかりと頷くと、輝かしい笑顔でレイチェルを見た。 「有り難う。今夜はカレーにするわ!」 「へえ〜、アンジェは御飯作るんだ偉いね」 レイチェルに感心されると、いささか照れてしまう。 「叔父と一緒に暮らしているから」 「そうか」 レイチェルは何度かしみじみと頷いた。 結局、カレーに何が入るか、しっかりと確認をする為に、アンジェリークは本屋に寄って料理の本を立ち読みすることにした。 だが、一口にカレーと言っても色々あり、どれも本格的な料理ばかりで、とてもではないがアンジェリークの手には作られないものばかり。 結局、子供向けの”よい子のお料理”しかなく、それをおこづかいで購入した。 初心者メニューばかりなので、アンジェリークにはぴったりだ。 「後はスーパーで食材探し〜」 アンジェリークはスキップをしながら、スーパーに向かった。 スーパーで食材を買うのは、妙に緊張する。 アンジェリークは、取りあえず本に載っている食材を買い揃えることにした。 「じゃがいも・・・」 一口にじゃがいもと言っても、メイクィーン、男爵、新ものがあり、アンジェリークはどれを買っていいか判らなかった。 「これ、新鮮よね。名前も”新じゃがいも”だし〜!」 まさか煮崩れやすいじゃがいもだとは思わずに、アンジェリークは籠にいれた。 「人参はこれで」 人参は間違えることはないので、籠の中に一番安いのを入れる。 こういった経済観念だけは、しっかりしている。 「たまねぎさんは、あ、これ小さいからいいわねえ」 手を延ばしたのは、たまねぎではなく、”にんにく”であることを、アンジェリークは全く気がつかなかった。 「後は、お肉とカレールウかあ」 肉は、肉売り場にあるカレーシチュー用を買い求め、カレールウはリンゴとハチミツがとろーり溶けてる天使印のものを選んだ。 後は、牛乳、たまご、パンなどを買い求め、アリオスに内緒でぷりんを一つ買う。 これでアンジェリークの初のお買い物は終了とあいなった。 「おやつも買ったし、後はごはんを作らないと〜」 鼻歌混じりに家に戻り、まずはぷりんで一息。 「これが美味しいのよね〜!」 ぷりんひとつで幸せに浸りながら、アンジェリークは優雅な時間を過ごした。 この後は、いよいよ料理の時間だ。 いつもにも増して、緊張感を高める。 「や、やるわよっ!」 ジャガイモ、ニンジン、玉葱と思い込んでいるニンニクを前に、アンジェリークは気合いを入れた。 皮は剥けないので、皮剥き機を買ってきた。それで人参とジャガイモの皮を不器用にも剥く。 皮を剥き終わり、アンジェリークはほっと一息ついた。 まるでとてつもない大仕事を本人はしたつもりでいるが、あくまで皮を剥いただけである。 「これを、切らなくっちゃならないのよね・・・」 生唾を一度呑むと、アンジェリークは人参とジャガイモを包丁で切り、ほとんどぶつ切りでごろごろとした大きさなのに満足した。 「玉葱の皮をむかなくっちゃ! これは簡単に出来るよね〜」 アンジェリークは綺麗に皮をむくと、驚く。 「これ、包丁で切らなくていいわ! ラッキー!」 玉葱だと思っているにんにくを、アンジェリークはかけらごとカレーに入れることにした。 「さてと、これをフライパンで炒める」 フライパンを出してきて、アンジェリークは油を敷いて食材を入れてから火を付けた。 「これで塩胡椒で炒める」 フライパンが熱せられ、一生懸命シャモジで炒める。 フライパンが熱せられると、今度は油ごと食材が跳ねてきた。 「ぎゃあ〜!!」 大きな声で叫びながら、アンジェリークは食材たちが憎らしいかのように力強くかき混ぜる。 ようやく炒め終わると、肩で深呼吸をしていた。 「これを鍋で煮込む」 アンジェリークは鍋に水を張り、そこに炒めた食材をぶちこんで、煮込み始めた。 その間に、米を研ぐ。 これだけはやったことのあることだったので、アンジェリークは一生懸命米を研いだ。 すぐに炊飯器にしかけて、どうにか炊飯スイッチを入れる。 そうするとカレー鍋が吹いてきて、慌てて火を小さくした。 「えっと、”あく”を取るって、”悪”???」 アンジェリークは知らない用語に戸惑い、目を丸くする。 悪→正義の味方がやっつける。正義の味方は白。 近くに白いものを探すとキッチンペーパーがあり、それをとりあえずは鍋にかぶせてみる。 これがある意味怪我の功名で、灰汁を取っていってくれた。 「正義の味方は活躍してくれたかなあ〜」 キッチンペーパーを鍋から出し、再び本を見る。 「ここでカレールウ。天使印だから美味しいもんね〜!」 ルウを割り入れて、なべをかきまぜる。するととろりとしたカレーの完成だ。 「味見、味見」 ルーの部分だけ味を見れば、もちろん普通の味だ。 「美味しい〜!」 自画自賛のカレー作りは終了し、アンジェリークは超とろ火でことことと煮込み始めた。 この後、大惨事を引き起こすとは露ほども思わないアンジェリークである。 ドアが開きアリオスが帰ってきた。 「ただいま」 「おかえりなさい〜」 まるで子犬のように、アンジェリークはアリオスを迎えに行く。 「叔父ちゃん、今日はカレーだよっ!」 「ああ。カレーの匂いがするな?」 「うんっ! すぐに温めるよ!」 ばたばたとキッチンに向かい、アンジェリークはカレーを温める。 野菜が大きくてごろごろしてようが、アンジェリークには自慢のカレーだった。 「ごはんだよ〜!」 お盆の上に二人分のカレー皿を乗せて、アンジェリークはダイニングテーブルの上に置いた。 煮込みすぎてジャガイモが煮崩れを起こしているどろどろカレー。 アリオスは一瞬めまいを覚えた------ |
コメント 昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。 悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。 美味しい美味しいカレー。 頑張れアリタン! あんたしか食う人はいないよ(笑) |