Tea For Two

3


 アンジェが一生懸命作ってくれたカレーだ。
 見てくれは悪いかもしれねえが、味は美味いかもしれねえから…。

 アリオスはアンジェリークの折角作ってくれたどろどろカレーを食べる決意をして、テーブルに着くことにした。
「ミネラルウォーター付き〜」
「サンキュ」
 初めて姪が作ったカレーにアリオスは畏まって舌鼓を打つことにする。
「いただきます〜」
 ふたりはカレーを食べ始める。
 最初の一口は、よくある天使印のカレーの味と同じで、アリオスは頷いた。
「美味いぜ、アンジェ」
「ホント!! 良かった〜!!!」
 アンジェリークは嬉しそうに笑いながらアリオスを見つめてくる。
 こんな笑顔を見れば、どんな夕食だって何倍も美味しくなるものだ。
「おまえの心がこもってつからな…」
 次の一口を食べた瞬間であった。

 ん----------!!!!

 強烈な味が口の中に広がり、アリオスは慌てて水を流しこむ。
 だがそれでも治まらず、アリオスは水道水をがぶ飲みした。
 それに間を空けることなく、アンジェリークもまたコップの水を一気に流しこむ。
 その後はアリオスの行動に追随した。
「…アンジェ、何入れた!?」
「え? 何って、本の通りに入れただけだ! なのに〜!!」
「おまえ、にんにく丸ごと入れてたんだよ」
 アリオスは深呼吸をしながら、アンジェリークを見る。
「嘘!? にんにくなんて入れてないよ!」
 アンジェリークはアリオスに使った食材のゴミを見せ、彼は即座にそこからネットと皮を取り出す。
「-----証拠」
「え!? それって”たまねぎ”じゃないの?」
 アンジェリークはびっくりしたとばかりにアリオスを大きな瞳で見詰めてくる。
「これは”にんにく”だ、アンジェ」
「そんな…。タマネギとばっかり思ってた!」
 アンジェリークは自分の失敗に哀しくなって、しゅんとうなだれてしまった。
「…タマネギとニンニクの区別もつかないなんて…」
 アンジェリークは自分の出来なさ具合に、ひどい落ち込みようで、大きな瞳には涙を浮かべている。

 叔父ちゃん、俳優さんなのに…。
 ニンニクとか御法度なのに…。
 それなのに私…。

 その表情は子犬のように可愛くて、アリオスはぽんと華奢な肩を叩く。
「にんにくさえ食わなかったら美味いカレーなんだから、ニンニクよけて食おうぜ?」
「-----叔父ちゃん、明日キスシーンとかない?」
「んなもんはねえよ。詐欺師の役にはそんな見せ場はねえから、心配すんな」
 アリオスはアンジェリークの栗色の髪を撫でて慰めてくれる。
 その指がとても優しくて、アンジェリークは心の奥が温かくなるのを感じた。
「でも台詞とか言うのにニンニク臭かったら、女優さんとかに迷惑かけちゃうでしょう?」
「大丈夫だから、そこまで気にすんな。俺は職業柄、ニンニク臭さをとる方法なんていくらでも知ってるんだからな」
「叔父ちゃん…」
「早くメシ食っちまおう。冷めちまうからな」
「うん」
 アリオスに慰められて、アンジェリークはようやく食卓に着いた。
 ふたりは慎重にニンニクをよけて、カレーを食べる。
 初めて本格的に作ったカレーは、アリオスの心を感じられるカレー。
 食べるとその想いが混じり合っていてとても美味しいような気がする。
「美味いぜ、アンジェ。おかわり貰ってくる」
 アリオスがニンニクをよけながらも、美味しく食べてくれる。
 それが何よりも、アンジェリークには最高のスパイスになった。
「…美味しいね。叔父ちゃんと食べたら…」
「俺もアンジェと食ったら、凄く美味く感じるぜ」
「有り難う」
 初めて自分で作った食事であり、アリオスとも少しうち解けるきっかけを作ってくれたカレー。
 アンジェリークにとっては思いで深い食事になるには違いなかった。


 夕食に後かたづけをふたりでした後、アリオスがドリンクを作ってくれる。
「ニンニクの匂い撃退牛乳だ。ニンニク料理を食ってから30分以内に牛乳を飲むと効果がある。この牛乳に蜂蜜を入れるんだが、これも利くぜ?」
 アリオスはふたり分の蜂蜜牛乳を作ってくれ、アンジェリークに手渡してくれる。
 それが彼女にはとても嬉しかった。
「後、パセリを食うのもいい。俺は念のために食うが、おまえは?」
「うん、食べる」
 アンジェリークはアリオスと並んで一気に牛乳を飲み干した。
 コップを離すと、アンジェリークの口の周りにはうっすらと牛乳を飲んだ跡が残り、その姿が妙に愛らしかった。
「クッ、おまえすげえ格好だぜ?」
「え!?」
「口の周り」
 アリオスに指摘されて慌てて近くの鏡を見ると、口の周りには髭のようにミルクの痕がついている。
「あ、ああ〜!!」
 アンジェリークは恥ずかしさのあまりに、腕で口の周りのミルクを拭った。
「あ、叔父ちゃんだって!!」
 アンジェリークはアリオスの唇についている牛乳痕を指さして笑う。
「俺もか? まあ、俺たちは似たもの同士だな?」
 ふたりは目を合わせると、笑いあう。
「こんなところで血のつながりって出ちゃうのね〜」
 アンジェリークはからからと笑いながら叔父を見る。
 だが、アリオスの瞳の奥が少し陰ったことを彼女は気がつかなかった。
「ほら、パセリも食っておけ」
「うん」
 渡されたパセリを口に含むなり、その味にアンジェリークはかわいらしくも顔をしかめる。
 その味は、とても苦かったが、アンジェリークは想い出の味になるに違いないと思う。

 こんなことにならないように、お料理頑張らなくっちゃ…。
 叔父ちゃんに褒めてもらえるように一生懸命頑張ろう…。

 アンジェリークは心に強く誓う。
 ふたりにとって、この食事が大切な記憶になったのは間違いなかった-------

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
アンジェちゃんとアリオス叔父ちゃん。
まだまだお互いを知る段階です。
恋はここから始まります------




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