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眩しい光と白を感じて目が覚めると、アリオスが洗濯ものを干していた。 「叔父ちゃん、おはよう。朝、早いんだ」 「今日は午前中にジャズダンスのレッスンを入れてるからな」 アリオスはベランダに洗濯物を干しながら、淡々と話してくれる。 「おまえの洗濯はちゃ〜んと自分でやれよ。おまえのグンゼのぱんつまで洗う気ねえからな」 「ぐっ、ぐんぱんなんて履いてないわよっ!」 アンジェリークは真っ赤になりながら慌てて否定した。 「ちゃ、ちゃんと自分で洗濯しますっ!」 「ああ。下着泥棒に気をつけろよ」 本気なのかふざけているのか判らないアリオスを、アンジェリークはじっと観察する。 「おまえも学校だろ。朝飯作ってやるから、とっとと支度しろ」 「うん」 慌てて顔などを洗って支度する。 洗濯は帰ってきてからすればいいだろう。 アンジェリークがキッチンに入ると、美味しそうなバターの香りがした。 スクランブルエッグと牛乳、パセリが添えられたサラダがある。 もちろんハチミツも。 それを見るなり、昨日のニンニクカレーを思い出してしまった。 「一応な。今日はキスシーンがあるからな。念のため。昨日はおまえがオニッコに見えたぜ」 アンジェリークは真っ赤になって口を尖らせる。 「そんな顔をしていると、本当にそんな顔になっちまうぜ。ほら、とっとと食っちまえ」 「うん」 美味しそうに焼かれたパンを、アンジェリークは拗ねるような表情でぱくついた。 「・・・叔父ちゃんの意地悪・・・」 「バカなこと言ってねえで、早く食ってしまえ。牛乳とパセリは念のために口に入れとけよ。後、ガムかんで、口臭予防のグミ食っておけ」 「キスシーンするのは叔父ちゃんで、私じゃないじゃない」 「おまえ、女だろ? えちけっとえちけっと!」 アリオスはパンを食べながら、アンジェリークに言い聞かせる。 「なんかオッサン臭いよ、叔父ちゃん」 「おまえより、俺は11もジジィだからな」 大人気ないアリオスの言葉に、アンジェリークはくすりと笑った。 温かくて、楽しい朝食は久し振りだな・・・。 アンジェリークは久し振りに朝の眩しさを、心から受け入れることが出来るような気がした。 授業を受けた後、アンジェリークは決意通りに料理クラブに入ることにした。 「楽しいところだから」 「うん」 親友のレイチェルも入っているし、叔父のためにも、お世話になる以上は苦手な料理も克服せねばならない。 「部長のリモージュです。コレットさん、よろしくお願いね?」 「はい。宜しくお願いします!」 アンジェリークは、ふわふわとしたいかにも女の子らしいリモージュを見つめ、思わず憧れの念を抱かずにはいられなかった。 「うちは課題を自分で決めてやる日や、みんなでひとつのメニューを頑張ってやる日、月一回は、お菓子を作るのよ。楽しみにね!」 ホント楽しみだな〜! もともと色気よりも食い気のアンジェリークには、何ともいえない楽しみとなる。 「はい、皆さん! 今日はドライカレーを作ります!」 カレー。 悪夢の記憶が蘇る。アンジェリークは、つい口を抑えこんでしまった。 にんにくは入らないわよね・・・。 アンジェリークはぼんやりとそんなことをついつい考えてしまった。 「たまねぎはみじん切りにして下さい」 アンジェリークは喉を鳴らして包丁を握る。 た、たまねぎを微塵にするだけよね・・・。 昨日だって、にんにくを刻んだんだから・・・。 アンジェリークは大きな瞳を見開いて、一生懸命たまねぎを刻み始めた。 「いっ、痛い〜! 目が痛い〜っ!!」 不意に目が痛くなって、アンジェリークはぽろぽろと涙を流しながら、大きな声で泣き出す。 「それはそうよ。そんな大きな瞳を開けて玉葱を刻んだら、誰だってそうなるわよ」 横にいたレイチェルがクールに答えている。 「だって〜」 「ほら、顔を洗ってらっしゃい」 「うん!」 アンジェリークは目を擦りながら廊下に出ていく。 「痛い〜っ!!」 玉葱エキスの付いた手で目を擦ってしまう。 余計に痛くなってしまい、アンジェリークは激しく顔を洗わずにはいられかった。 何とか家庭科室に戻り、調理を続ける。 これ、持って帰ったら、叔父ちゃん食べてくれるかな? またカレーで怒るかな? 余ったものを夕食にして、せめてもの罪滅ぼしをしたかった。 出来上がったドライカレーは、みんなで作ったせいか、まあまあな出来栄えだ。 「美味しいっ!」 試食もなかなか美味しくて、アンジェリークはすぐにこの味が気に入ってしまった。 「残ったのはみんなタッパーに入れて持って帰るみたい。カレシにでも上げるみたいよ」 レイチェルはアンジェリークにくすくすと笑いながら言う。 「私は・・・、叔父ちゃんぐらいしか食べてもらえる人いないなあ」 「叔父ちゃんかあ。アンジェはカレを作る気はないの?」 レイチェルに言われて、アンジェリークは年頃の女の子らしく、頬を真っ赤に染め上げる。 その様子がとても愛らしかった。 「・・・まだ、そこまでは考えてないし、心の余裕なんてないから・・・」 アンジェリークがはにかむ姿がレイチェルには可愛らしくてしょうがない。 「そっか・・・。彼が欲しいと思ったら、言ってね〜!」 「うん!!!」 親友の心配りが嬉しくて、アンジェリークは笑顔で返事をした。 アパートに帰り、アリオスの洗濯物を取り込んで畳んでおく。 今日のおかずはドライカレーがあるから大丈夫だ。 「味噌汁ぐらいは・・・」 アンジェリークはそう考えるものの、出来上がりの結果を予想して、二の足を踏む。 「ちょっ、ちょっとだけ…」 アンジェリークはそう決心すると、少量の味噌汁を作ることにした。 家庭科の本を見ながら、慎重に作り始める。 具はえのき茸を使う。理由はあまり包丁を使わなくていいからであった。 「えいっ!」 ほとんど物を投げ入れるような状態で、お湯の中に具を入れて、そこに出汁の素と味噌を入れた。 弱火にしてかき混ぜて出来上がり。 アンジェリークはここまでしてほっと息を吐いた。 火を止めて、後はアリオスを待つだけだ。 今日は昨日のリベンジだからね? 叔父ちゃん! アンジェリークは含み笑いを浮かべながら、アリオスを待つ。 今日は自分で食べて美味しかったから、自信があった。 ドアの鍵が開く音がして、アリオスが帰って来たのが判る。 「お帰り、叔父ちゃん!」 「ああ」 「今日は特製ドライカレーよ!」 その瞬間、アリオスの表情が変わる。 「おまえ、まさか・・・」 「大丈夫っ! ニンニク入ってないから」ほっとしたように、アリオスは溜め息を吐いた。 「着替えてくる」 「うん! 準備するね」 自慢のドライカレーを電子レンジで温め直している間、アンジェリークは味噌汁を温め直す。 蓋をして温め直しつつ、ごはんを皿に盛ったりしていた。 「お味噌汁〜 きゃあっ!!!」 蓋を開けようとして、突然吹き出した味噌汁に、アンジェリークは悲鳴を上げる。 「きゃあっ!!」 「アンジェ!!」 勢いで熱い味噌汁を被ろうとした瞬間、アリオスが凄い勢いで駆け付け、背後から助けてくれた。 叔父ちゃん…! その姿は、一瞬皇子様のように見える。 すぐに消火してくれ、背後から守られるようにしてシンクに向かう。 「大丈夫か!? やけどは、ちゃけどはしなかったか!!」 「うん、平気・・・」 アリオスは念のため指を流水で冷ましてくれた。 アンジェリークは胸がどきどきするのを感じる。 どうしてこんなにときめくんだろう・・・。 一瞬大きな温かいものに包まれたような気がした…。 アンジェリークが初めて感じた感情は、甘い恋のきらめきだった。 |
コメント 昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。 悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。 アンジェちゃんとアリオス叔父ちゃん。 まだまだお互いを知る段階です。 恋はここから始まります------ |