Tea For Two

5


 叔父ちゃんと暮らし始めて一週間。
 御飯作りにはまだまだ馴れてはいないけれど、ふたりで過ごすごはんとお茶の時間が楽しみな今日この頃。

 アリオスが部屋に入ってくる音が聞こえ、アンジェリークは早速出迎えにいく。
「おかえりなさい、叔父ちゃん!」
「ああ。今日は疲れたぜ。激しいベッドシーンがあったんだからな」
 アリオスはシャツのネクタイを緩めながら、本当に疲れたように溜め息を吐くが、話の内容が内容だけに、アンジェリークは真っ赤になってしまった。
「ベ、ベッドシーン・・・?」
「ああ。腰をつかわねえといけねえから、辛いのなんのって」
 アンジェリークはこれ以上、恥ずかしくて言葉を繋げられない。
「アンジェ、今日のメシは?」
「あ、ハンバーグ、すぐ焼くね」
「ああ」
 アンジェリークがハンバーグを焼いて準備をする間、アリオスは部屋に戻り、楽なスタイルに着替えた。

 今日は焼くだけだから、大丈夫でしょう・・・。

 緊張しながらも、アンジェリークはハンバーグを焼いて準備を始める。
「お、いい匂いだな」
 駅で買ってきたおっさんの新聞”夕刊スポーツ”を片手に、アリオスはダイニングテーブルに座る。
「叔父ちゃん、おまたせ〜」
 ほどよく焼けたハンバーグを、彼女はテーブルに運んだ。
「焼くだけだから、なんとか」
 包丁を使わなくていいレタスとプチトマトの付け合わせと、カットワカメで作った味噌汁に、スーパーでカットされた漬物だ。
「いただきます」
 ふたりで手を合わせて、挨拶をしてから食べ始めようとした。
 が。
「おまえっ、生焼け!」
「あっ、ごめんなさいっ! すぐ焼くからっ!」
 アンジェリークはキッチンに入ると、ばたばたと調理を始める。
「とろ火で、蓋してやれよっ!」
「うんっ!」
 アンジェリークが焦りながらも一生懸命調理をする姿が何とも可愛く、アリオスはじっと見守っていた。
 夕食と片付けが終わった後は、お茶の時間。
 テレビを見ながらばたばたとすることが多い。
「湯のみ買ってきたぜ」
「ホント!!」
 アリオスはキッチンに立つと、包み紙をはがして、湯のみを綺麗に洗ってくれる。
 お茶を美味しそうに淹れてくれた後、アンジェリークの元に持ってきてくれた。
「アンジェ、お茶だ」
「有り難う〜!!」
 アンジェリークは目の前に置かれたお茶に感激をする。
 湯のみには”アンジェ”と書かれていた。
「特注、だったんだからな」
 少し照れ臭そうにする叔父が、凄く可愛らしくて、アンジェリークはくすりと笑う。
「でも、本当に有り難う」
「ああ」
 アンジェリークは嬉しくて堪らなくて、自分の名前のところを指でなぞった。
 アリオスの湯のみを見ると、おそろいで”アリオス”と書かれてある。
「これからお茶が凄く美味しくなるね。嬉しい。大事にするね」
 アンジェリークの嬉しい笑顔に、アリオスは更に照れくさそうにした。

 こんなに美味しいお茶は初めてだわ・・・。

「五臓六腑に染み渡る美味さだわ」
「おまえおっさんみてえ」
「そ、そうかな」
 アンジェリークはくすりと笑いながら、アリオスを見る。
 こんなに温かくて、素敵なティータイムがいつまでも続けばと、思わずにはいられなかった。

 翌日、アンジェリークはレイチェルと一緒に、料理クラブに向かった。
「今日はケーキについてお話します。作るのは今日は簡単なスポンジケーキです。生クリームを使ったケーキですが、白いから生クリームを使ったケーキは”天使のケーキ”、チョコレートを”悪魔のケーキ”と言います。だから、今日はこのケーキの基礎を作りましょう」

 天使のケーキ・・・。
 叔父ちゃんみたいだわ・・・。

 アンジェリークはそう思った瞬間、はっとする。

 な、何考えているの・・・!!
 バカバカバカ!!!

 アンジェリークは真っ赤になりながら、闇雲にホイップを泡立てる。
「アンジェ、あんな生クリームに恨みでもあんの?」
 アンジェリークが力任せに泡立てたせいで、ふわふわになる。
 そのおかげでロールケーキはとても美味しいものになった。
「アンジェのおかげよ!」
「えへへ」
 アンジェリークは笑いながら、少し照れ臭そうにした。

 叔父ちゃん、甘いもの好きかな・・・。
 少し残して持って帰っちゃおうかな?

 アンジェリークは初めて作ったケーキを、心の中で”天使のケーキ”と命名した。
 箱に綺麗に入れて、アンジェリークはご機嫌になる。
「アンジェ、一緒に途中まで帰ろうよ」
「うん!」
 レイチェルに誘われて、アンジェリークも一緒に途中まで帰ることにした。
「これ、エルンストにあげるんだ」
「きっとよろこんでくれるわ」
「うん」
 ふたりは大切な人達のために、一生懸命作ったケーキを丁寧に持っていく。
「あれ、あんなところでロケやってる」
「ロケ?」
 ロケと言われて、アンジェリークは一瞬ドキリとした。
 ひょっとしてアリオスがいるかもしれない。
 そう思いながら、アンジェリークはつい気になってちらちらとそちらを見る。
「何だ、アンジェも気になるんだ?」
「そんなことないよ」
 アンジェリークは気も漫ろにロケ現場を見ていた。
「もう・・・」
 苦笑しながら、レイチェルはアンジェリークの様子を見ている。
「誰か気になる俳優さんが出ているの!」
「うん・・・、ちょっとね」

 叔父ちゃん!!

「あっ! アリオス! だったら、これロクなシーンのロケじゃないわよねえ」
 アンジェリークはドキドキしながら、アリオスの姿を見た。
 アリオスはスタッフの誰かと打ち合わせをしている。

 叔父ちゃん、やっぱりちょっとだけ素敵かな?

「アンジェ、行くよ!」
「待って!!」
 先に歩き始めたレイチェルを追いかけるように、後ろ髪を引かれながら、アンジェリークはその場を離れようとした、その時だった。
「アンジェ!!!」
 アンジェリークが信号を渡ろうとした時、車が突っ込んで来ようとする。
 迫る恐怖にアンジェリークは立ちすくむ。
 目を瞑った瞬間に、躰がふわりと舞った。
 力強い腕に抱き上げられ、アンジェリークはしっかりと目を開けた。
 白く眩しい影。
 白い羽根がふわりと目の前で揺れたような気がした。
 アリオスだ。
 胸の奥が切なくときめき、アンジェリークは甘く苦しくなった。
「叔父ちゃん・・・」
「大丈夫か!?」
 周りが凄くざわついているのが耳に入る。
「叔父ちゃん? アリオスの姪ごさんか」
「子供じゃなかったんだ…」
 アンジェリークはアリオスの腕がとても逞しくて、心地よかった。

 助けてくれた叔父ちゃんは、まるで天使様のようだった…。

 目を閉じて、アンジェリークは安心してその胸に甘える。
 
 叔父ちゃんはやっぱり天使様のケーキ。
 私にとっては白い王子様…


コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
アンジェちゃんとアリオス叔父ちゃん。
まだまだお互いを知る段階です。
恋はここから始まります------




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