Tea For Two

6


「アンジェ、今日はおまえも休みだろ? ワークアウトに行くぞ」
「ワークアウト?」
 聞き慣れない言葉に、アンジェリークは小首を傾げる。
「まあ、エアロビクスみてえなもんだ。休みの日も家でごろごろしていると、ブタになるからな」
 いきなりアリオスに手を引かれて、アンジェリークはたじろいだ。
「え、あ、叔父ちゃん!?」
「俺たち俳優は、躰の動きの切れを良くするためにも、ダンスレッスンは欠かせねえんだ。ほら、行くぜ? 年頃の娘が家でだらだらしていちゃダメだぜ」
「もう! 叔父ちゃん!」
 結局アリオスに半ば強引に引っ張られて、ワークアウトとダンスに連れていかれてしまった。


「う〜、もうダメっ!」
 普段、運動というものをあまりしないアンジェリークは、理想の躰を作り維持するために行うワークアウトで、へばってしまう。
「おまえなあ・・・。ちったあ体力をつけたほうがいいぜ?」
「だって初めてだもん」
「ったく、口答えする元気があるなら、それを他に使え」
 くたくたになっても、拗ねることと減らず口を叩くのを止めないアンジェリークに、アリオスは苦笑した。
「ダンスはここに座って見てろ。いいな?」
「うん」
 結局のところ、アリオスはアンジェリークには甘くて、休憩をゆるしてくれる。
 強引さの中にも優しさのあるアリオスが、アンジェリークは大好きであった。
 アンジェリークが壁際に膝小僧を抱えて座ると、続々と美しい女性が入ってくる。
 誰もが、雑誌やテレビで見たことのある。

 ひょっとして、これは芸能人時間!?

 俄かに興奮してくるアンジェリークだった。
「あ、あのコね、アリオスと一緒に暮らしてる姪っ子は」
「何だか羨ましいし、妬けて来ちゃうわよね〜」
「だって、アリオスよ! そのへんのモデルなんて目じゃないのよ!!」
 ひそひそとモデルたちが噂しているのが聞こえる。

 叔父ちゃんホントはもてるんだ…。
 でもその気持ちちょっと判るかも。

 嫌な気分は別にせず、かえってくすぐったい気分だった。
 軽快でダンスには最適な音楽が流れ始めると、アリオスは流れるようにダンスを始める。

 うわ〜! 叔父ちゃんカッコいい〜!!!
 まるで白い皇子さまみたい・・・。

 スキなく完璧なダンスを見せるアリオスに、アンジェリークは完全に心を奪われていた。

 凄い、凄い素敵だわ、叔父ちゃん・・・。
 料理も美味いし、カッコいいし、その上ダンスも上手いとなれば、叔父ちゃんモテるはずだわ・・・。

 スターの中に入っているにも関わらず、アンジェリークにはアリオスが一番輝いて見えるのだった。
 不意にドアが開け放たれ、そこから独特の存在感が流れ始める。
 不意に横を通った影に、アンジェリークははっとする。

 オスカー!!!!

 今をときめく超人気俳優に、アンジェリークは口をあんぐり開けた。
 大スターをこんなに間近で見るのは始めてだったから。
 ダンスの列に加わると、すぐにオスカーは偉才を放ち始める。

 やっぱりスターは違うな。叔父ちゃんとは違ったオーラを出しているもん。
 けれど叔父ちゃんも凄いオーラをだしているわ。
 私には判るの。
 叔父ちゃんはきっと、オスカーと並び賞されるスターになるに違いないわ・・・。

 いくらオスカーがスーパースターのオーラを出していても、アンジェリークはアリオスから視線を逸らさない。

 やっぱり、叔父ちゃんはかっこいいもん。
 オスカーなんかには負けないわ。

 その気持ちが身内の欲目なのか、それとも恋心なのか、アンジェリークはまだ判ってはいなかった。

 一時間のダンスレッスンが終わり、タオルで汗を拭きながらアリオスが戻ってくる。
「アンジェ、待たせたな。退屈だったか? シャワーを浴びて帰るぞ」
「うん!」
 アンジェリークが立ち上がると、後ろからオスカーがやって来る。
「アリオス、帰るのか?」
「ああ」

 えっ!?
  叔父ちゃんはあのオスカーとお友達なの?

 アンジェリークはなぜか尊敬の眼差しでアリオスを見る。
 不意にオスカーがアンジェリークに視線を止めた。
「このコは?」
「俺の姪だ。今は一緒に暮らしてる」
「アンジェリークですっ!」
 スターを間近に見たのは初めてのせいか、アンジェリークは妙に緊張してしまい、名前を言うのが精一杯だ。
「アンジェリークか。よろしくお嬢ちゃん」
「おまえのいっぱいいる”お嬢ちゃん”と一緒にさせねえからな」
 もちろん、アリオスは牽制するのを忘れてはいない。
「ああ。こんな恐い叔父を持ってるお嬢ちゃんには、益々興味深い」
 ニヤリと挑戦的な微笑みを浮かべて、オスカーはアリオスを見つめる。
 アリオスはただ一度、冷たく鋭い睨みを利かせて、オスカーを牽制した。
「じゃあな、アリオス。またスタジオでな」
「ああ」
「またな、お嬢ちゃん」
「はい、オスカーさん、さようなら」
 アンジェリークはオスカーに軽く会釈をした後、アリオスと共にダンススタジオを後にした。
 シャワーを浴びると、さっぱりして気持ちがよかった。
 たまに躰を動かして汗をかくのも悪くない。
 アンジェリークは少しどきどきしながら、アリオスとの待ち合わせの場所に向かった。
 すでにアリオスはアンジェリークを待っており、その横顔は精悍で素敵だ。
 妙にときめいてしまうのはなぜだろう。
「叔父ちゃん、お待たせ!」
「ああ。ホットドック食いに行くぜアンジェ。美味いとこ知ってる」
「嬉しい!」
 こういった肩の凝らない食事もアンジェリークは大好きだ。
 思わずにんまりと笑わずにはいられない。
「”グラインダー”というやつなんだが、まあホットドックの親戚みてえですげえ美味いんだぜ」
「うん! 楽しみ」
 本当に楽しそうに公園を横切っていくふたりの姿は、どこから見ても恋人同士で、決して叔父と姪には見えなかった。
「あれ、アリオスじゃない?」
 公園にいる女性がひとりアリオスに気付いたようで、こちらをじっと見ている。
 アンジェリークは思わずさっと離れた。
「アンジェ、別に俺たちは疚しくねえ。叔父と姪なんだから」
「うん」
 ”叔父と姪”その言葉は、アンジェリークにとっては重く、切ない響きを持っていた。

 どうしてこんなに胸が痛いの?
 伯父さんは本当のことを言っただけなのに・・・。

 先程の女性とその友人の声が入る。
「まさか、こんな所にいるとは思えないもの。すけべえな役ばっかやってるから、きっと昼間にこんな所にいるわけないわよ」
「言えてる〜」
 女達の言いように、アンジェリークは次第に腹を立てていく。

 何よっ! 叔父ちゃんの素敵なとこなんて、全く判ってないんだから!!

 女達が先を急いで歩き始めると、彼女たちの背中に、アンジェリークは思い切り”あかんべ〜”をした。
「アンジェ、はしたないぜ」
「だって叔父ちゃんのことをあんな風に言って!」
 アンジェリークは泣きそうになりながら、アリオスに切なそうに言う。
 その気持ちはとても嬉しかった。フッと微笑むと、アリオスはアンジェリークの肩をぽんと叩く。
「サンキュ」
 アンジェリークは心がほんのりと温かくなるのを感じた。
「グラインダーふたつと紅茶にコーヒーをくれ」
「まいどっ!」
 アリオスが買ってくれたグラインダーはほんのりと温かく、受け取った瞬間から、とても優しい気分になれる。
「そこで食おうぜ」
「うん」
 ふたりでベンチに座ってグラインダーを頬張るのは、なんて素敵なシーン何だろうか。
 一口食べたグラインダーは、キャベツのサワー漬けにボローニャソーセージ、その上にはマスタードとケチャップという、とてもシンプルなものだった。
 一口食べると素朴な味がして美味しい。
「すごく美味しい〜!」
「だろ? 俺もすげー好きなんだ」
 ”好き”という言葉に、アンジェリークは妙にドキリとした。
「ホント、美味しい・・・」
 少し恥ずかしそうにしながら、アンジェリークは大きく口を開けようとした。
 しかし、アリオスの視線を感じて、大きく口を開けるのが急に恥ずかしくなる。

 どうしてだろ。なんか、叔父ちゃんの前で大きく口を開けるのが恥ずかしい・・・。

 最後まで食べ終わるまで、アンジェリークはちまちまと食べるしかなかった。
「美味かっただろ?」
「うん! 凄く美味しかった!」
 グラインダーを食べた後、ふたりは駅までぶらぶらと公園を横切りながら散歩がてらに歩いていくと、仲良さそうな家族連れが目にはいる。
 親子連れは幸せそうにお弁当を広げて食べていた。
「おかあさんのご飯凄く美味し〜」
「そんなにいっぱい食べて、この子は〜」
「いっぱい食べて大きくなるんだよな」

 ピクニック…。
 お父さんとお母さんが生きてた頃、一緒によく行ってたな…。
 凄く楽しかった…。

 想い出が嵐のように蘇り、アンジェリークは急にしんみりする。
 そんな彼女を、アリオスは優しく見守っていた-----

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
アンジェちゃんとアリオス叔父ちゃん。
どんどん近付いていきます。
次回あたりから恋愛テイストです〜




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