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たっぷりと昼食を堪能した後、ふたりは一端レストランを出るために席から立ち上がった。 「儲け〜、凄い太っ腹よね。まあ、締切が今日っていうのがひっかかるけれどね」 「でも、”誕生日”プレゼントだと思えば、納得も出来るけれど」 アンジェリークは華やかに微笑みながら、親友を見つめた。 「今日はワタシの奢りね」 「いいの?」 「いいって! エルンストから貰ったランチ券を使うから大丈夫だよ〜。だって、エルが”アンジェリークとご一緒にお使い下さい”って言ってたから」 親友の心遣いを嬉しく感じながら、アンジェリークは甘えることにする。御礼を言う為に、親友が手続きを終えるまで、少し待つことにした。 「…あの、今日はこのようなものを頂いて有り難うございました」 丁寧に例を言うと、レジ係の青年がニッコリと微笑んでくれた。 「こちらこそご利用有り難うございます。オーナーからのプレゼントですから、どうかお受け取り下さい」 「すみません…。オーナーの方にも御礼を言いたいですが…」 青年は解っているとばかりにゆっくりと頷いてくれると、直ぐに部下らしいスタッフに合図を送る。 どきどきと心臓の音を響かせながら、アンジェリークはオーナーが来るのを待った。 どうしてこんなにドキドキとするのかが解らない。だが、オーナーである青年が現れた瞬間、ときめきの意味が解ったような気がした。 「オーナーのアリオスです」 「あ、アンジェリーク・コレットですっ!」 現れたのが、ピアノを弾いて聴かせてくれた彼だったので、ときめきによる緊張は頂点に達していた。 「今回は本当に有り難うございました」 しっかりと深々と頭を下げた後、顔を上げると青年と目が合う。 翡翠と黄金が対をなす不思議な瞳。アンジェリークは思わずうっとりとして見惚れてしまう。 なんて…素敵な瞳をしていらっしゃるんだろう…! 「今夜は来てくれるんだろ?」 「あっ、はいっ! もちろん!」 ふたりの視線が絡み合い、そこには誰もいないふたりだけの世界が形成される。 レイチェルやレジの責任者である青年が、もはやそこに存在しない。 「少し横に寄ろうか」 「はいっ」 ふたりの様子を端から見ながら、レイチェルはふたりが恋に落ちたことを確信する。 ここのオーナー、エルンストからちらりと噂を聴いたことはあったけれど、光速に手を出すイメージはなかったけれど…。というより、アンジェが原因!? まあこの娘は凄く可愛いものね! 毒牙にかからないように注意しなくっちゃ! 親友と目の前の青年の相性の良さが見て取れて、ライバル心を燃やすレイチェルである。 ふとタイミング良く、レイチェルの携帯電話が鳴る。着信メロディーはエルンストと専用のものだ。 「はい、エル? 今、アンジェとバースデイデート中よ」 レイチェルは楽しそうに恋人からの電話を取っている。が、しばらくして困ったような表情になり、切なそうにちらりとアンジェリークを見つめる。 「うん、解った。アンジェと相談してから決めさせて」 一端電話を切ると、レイチェルは切なそうにアンジェリークを見つめた。 「アンジェ、エルが用事があるから夕方から会えないかって…」 「だったら、エルンストさんを優先してくれて、私はいいわよ」 いつものように穏やかな笑顔を浮かべて、親友が言ってくれたので、レイチェルはホッとしたような罪悪感があるような複雑な気分だった。 「すみません…。折角ご招待頂きましたが今日は行けません」 恐縮するようにアンジェリークは言う。 「折角だし、おまえさんは俺の招待を受けてくれねえか? 俺が一緒にいるぜ」 それが危険だとばかりに、レイチェルはアンジェリークを守るように一歩前に出る。 「アンジェひとりには出来ないわよ」 一瞬、アリオスに好戦的な視線をレイチェルは向ける。 「大丈夫だから、レイチェル。折角なんだものエルンストさんのところに行って? だってたまにしか会えないんだから…」 「…アンジェはどうするのよ?」 手の早い男の毒牙にかからせてなるものかと、レイチェルは必死になる。 「だから俺がついてるから大丈夫だ。心配せずに恋人に逢って来たらいい」 「そうよ、レイチェル」 親友はこの男がどれほど手が早いか解ってはいない。だが、それを言い聞かせるにのには既に遅すぎることをレイチェルは感じていた。 親友はじっと青年を見ている。それだけで、恋に落ちているのが解る。 もう明らかに。 「ちゃんと未成年は送り届けるから安心しろ」 アリオスも絶対に引く気がなかったせいか、レイチェルにライバル心が溢れ過ぎるほどの視線を送っていた。 「夕方まではおまえさんが彼女の誕生日を祝ってやって、夕方は俺が祝ってやるってことでかまわねえだろ」 有無言わせぬ威圧的な雰囲気がアリオスにはあり、レイチェルを威嚇して来た。 アンジェリークはふたりの雰囲気に少し困ったような表情を浮かべている。 「今夜はここで誕生日を祝って貰うね。どうせ、ひとりだし、今夜は」 「ひとり?」 アリオスが瞳を覗きこむような仕草で見つめてくる。 「両親は仕事で海外に行っているので、私はひとり何です。一週間後には帰ってきますから大丈夫なんですけどね」 アリオスはしっかりと頷くと、アンジェリークに笑みを浮かべる。 「ちゃんと今夜は俺がお祝いをしてやるよ」 「はいっ!!」 素直にアンジェリークが応じてしまった以上、レイチェルはもう何も言うことなんてできやしない。 しかもアンジェリークが瞳に熱い光を滲ませて、アリオスを見ているではないか。 「5時にスタートだから、10分前になったらレストランに来てくれ。いいな」 「はいっ!」 しっかりと返事をするアンジェリークに、もうふたりの間には恋が燃えあがり、邪魔が出来ないことをレイチェルは悟った。 「じゃあ、後でな」 「はい」 余裕の視線を向けるアリオスに、レイチェルは凄く悔しくてしょうがなかった。取りあえずはレストランを出ると、レイチェルは今更かもしれないが、アリオスと間違いがあってはと、アンジェリークに懇々と言い聞かせる。だがアンジェリークにはその想いが充分に届いたか疑わしげだった。 約束の時間になり、仕方なくアンジェリークをレストランまで送って行った。 入口にはラフだが、とても素敵なスタイルをしているアリオスが待っていてくれている。 「待ってたぜ」 「はい」 ふたりの見つめあっている間は、偽りなく引かれあっていてることが理解できた 「じゃあ、レイチェル、またね」 「アンジェ」 アンジェリークは少し頬を赤らめながら、レイチェルを見送る。 その横には向かえに来た、レイチェルにとっては宿敵のアリオスがいる。 「じゃあな。デート楽しんできてくれ」 二人に見送られると、なんだか複雑な気分になる。 アンジェはさっきも、あの男のことばっかり話してたものね。 お互いに一目惚れか〜。 凄いものを見せられたかも。 レイチェルを見送った後、アンジェリークは頬を赤らめながらアリオスを見つめる。 「じゃあ、夜は俺がお祝いしてやるから」 「はい」 光速に手が早い男との恋のディナーが今始まろうとしている。 |
| コメント 今年の誕生日創作は、続き物です。 続き頑張ります 阪神日本シリーズダメでしたが、よく頑張ったと思います。 お疲れ様〜 |