Happy Sweet Birthday

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 アンジェリークは、厚い雲に覆われた空を見つめながら、溜息をひとつ着いた。もうすぐ大好きな男性の誕生日がある。その日は穏やかに晴れて欲しいと思う。
 大好きな男性に告白する日だもの、晴れていたら素直に言えると思うから。
 そんなことを思いながら、スーパーに食材を買いに出掛ける。目的は、バースデーケーキの材料だ。甘いものが嫌いであることは知っていたが、そんな彼でも食べられるようなものを用意するつもりだ。だから少し奮発をして、良い材料を買い揃えるのだ。
 卸し価格でしかも種類が豊富な、嬉しい店なので、大量に買い込むことにした。やはり人気スーパーのせいか、主婦連が沢山いる。
「えっと…、先ずは小麦粉から…」
 ベテラン主婦気取りで、アンジェリークは食材を買い込んでいく。険しい顔をして、生クリームなどを選んでみるが、実際にその顔が役立っているかといえば、ただのパフォーマンスに近い。
「アリオスって、ウォッカ大好きだものね…。ケーキの隠し味に入れちゃおうかな!」
 喜んでくれる。そうに違いないと、アリオスの嬉しそうな顔を思い浮かべると、甘い恥ずかしさに、ひゃーと声を上げたくなった。
 アンジェリークがにやにやと笑いながら、リカーコーナーのウォッカに手を延ばす。
「おい、未成年が何をやっているんだよ!?」
 聞き慣れた艶やかな声に振り返ると、そこにはアリオスが笑いながら立っていた。
「アリオス…!」
 驚いて、大きな瞳をまるくすることしか出来ない。
「ウォッカを何に使うんだよ?」
 ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべるアリオスに、アンジェリークは少しすまして「秘密よ」と早口で話した。
「おまえ、飲んで酔っ払うなよ?」
「酔わないわよ!」
「そうか?」
「そうよ」
 アンジェリークはわざと拗ねる仕種をして背を向けると、それが愛らしいのか、アリオスがくすりと微笑んだ。
「アリオスも今、買い物? 夕飯の準備とか?」
「あ? うちの事務所で、金曜日にパーティーをするんだよ。その食材とかの準備できてるんだよ。まあ、おまえらのらんちきケーキパーティーと似たようなもんか」
 金曜日。それはアリオスの誕生日の前日だ。12時ちょうど、日付が変わった所で、アリオスにお祝いを言いたいアンジェリークには少し複雑な時間ではある。
「…アリオス、その日の帰りは遅いの?」
 お伺いを立てるように、真剣に尋ねてみる。
「まあ、ギリギリ午前様にならねえようには帰ろうと思っているがな」
「そう!」
 断然アンジェリークの表情は明るくなり、飛び上がりたくなった。予定通り計画の実行が出来ることが嬉しくてしょうがない。
「ねぇ、アリオス…、今度の土曜日、一日空けて貰える?」
 勢いで、思いきって誘ってみた。
 アリオスの視線がゆっくりと自分に下りてくるのが解り、アンジェリークは思わず下を向く。
「アンジェ、かまわねえぜ。おまえの好きなところ連れていってやる」
 喜びが込み上げて来て、アンジェリークは明るい表情で顔を上げた。
「嬉しい!!」
「ただし、条件がひとつある」
「条件?」
 何だろうと思い、アンジェリークは小首を傾げる。
「金曜日の深夜は危ないから、俺をマンションの前でまったりは絶対にしないこと。日曜日はおまえが俺の為ににスケジュールを空けること。いいな?」
 金曜日の深夜にアリオスを待てないのは致し方ない。アンジェリークは、アリオスの案に素直に頷いた。
「アリオス、何しているの?」
 艶やかな声がアリオスを呼び、アンジェリークははっと胸を突かれた。正直、気が気ではない。
アリオスが振り向いた方向にアンジェリークも視線を向けると、こつこつとヒールの音と共に、モデル並のスタイルを持つ女性がやってくるのが見える。
 美しさ故か、大人っぽさ故か、アンジェリークは動揺と胸騒ぎを覚えた。
「何油を売っているの?」
 女は真っ赤なルージュを塗った唇に僅かな笑みを湛えて、アンジェリークを見る。それがどこか小ばかにされたように感じて、アンジェリークは嫌だった。
「ああ、直ぐ行く」
 アリオスは感情のない視線を女に送った後、アンジェリークに向き直ってくれる。
「じゃあ土曜日な。迎えに行く」
「私がいくから」
「いや、俺が迎えに行くから家で待っていろ。時間も携帯メールで連絡するからな」
「うん」
「じゃあな」
 アリオスはアンジェリークに軽く手を上げて挨拶をしてから、女に合流する。
「また、土曜日に!」
 アンジェリークは、アリオスと女の後ろ姿を見送りながら、小さな溜息をひとつつく。

 アリオス…。今の女性はただの同僚だよね…。恋人なんかじゃないよね…。

 少しばかり不安になりながら、いつまでも見送っていた。


 アリオスの誕生日の前々日にメールが届いた。
 22日は、12時ぐらいに迎えにいくから待っていてくれ”
 メールを見るなり、嬉しいような切ないようなそんな気分になる。
 朝から”遊び”と言う名のデートに出られると思っていたが、昼過ぎだというのが少し切ない。

 仕方ないよね。アリオスは社会人だし、そのうえ立派な建築家であるのだから。私みたいに、気楽な学生稼業ではないものね…。

 少し辛かったが、そこは社会人と学生で割り切らなければと思った。
 気を取り直して、アリオスの大切な誕生日の為に、アンジェリークは頑張ることにする。ケーキを作るのは決めていたが、それ以外のプレゼントも考えてみる。それはそれで楽しい。
「アリオスは、やっぱりお酒かなあ。手づくりオカリナキットでオカリナを作るのもいいし、ワインとバカラのグラスとか…、砂時計とか…。色々考えちゃうなあ」
 考えるだけでも楽しくて、幸せなきぶんだ。

 これも幼なじみの特権だな…。アリオスの好きなものが解るっていうのは。

 プレゼントの候補が沢山あり過ぎて、ひとつに絞りきれない。
 結局、店に行ったものの、予算範囲内ではなかなか良いものはない。
「ワイングラスもけっこうするんだ…。今年の数字が入っているのもいいなあ…」
 結局、考えに考えて、今年の暦が刻まれたワイングラスと、時期が時期なだけあり、ボジョレーヌーボーにすることにした。
 綺麗にラッピングをしてもらい、満足する。うきうきとスキップをしてしまいそうだ。
「あ…」
 ほくほく顔で歩いていると、先日アリオスと一緒にいた女を見掛けた。紳士服売場から出て来た彼女は、嬉しそうに高級ブランドのネクタイをプレゼント用に包んで貰って、ご機嫌なようだ。

 …アリオスにあげるのかな…。

 そう思うと、胸が苦しい。プレゼントは心がこもっていることは、声を大きくして宣言出来るが、より女のほうが高価なものをプレゼントを贈ると考えると、僅かな嫉妬に似た気分になる。

 神様…。どうかアリオスが、私のブレゼントの方を気に入って貰えますように…。

 そんなことを思わずにはいられなかった。


 アリオスの誕生日の前日、心を込めてケーキを焼く。ウォッカの入った、少しおとなびた味がするものだ。ケーキが完成したところで、バースデーに欠かせないプレートがないことに気付き、スーパーに買いに行く。
「えっと、あった、あった」
 見つけて手に取ってレジに行く。
 レジを待っている間、不意に外を見た。
 その光景にアンジェリークは唖然とする。

 …うそ!!

 外には、アリオスとあの女性が仲むつまじく二人きりで歩いているのが見え、女は楽しそうにアリオスと腕を組んでいる。
 二人の雰囲気は夫婦同然のように見え、アンジェリークは暫く愕然としていた------

 あの女性と今夜一緒に過ごすから、私は昼間からだったの?

コメント

アリコレ誕生日甘甘創作です。
誕生日に続く〜。




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