SWEET SWEET VALENTINE2

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 アリオスとバレンタインはどんなデートを企画しようかしら?
 やっぱり、ドカタの殿堂新世界で、ドカタファッション見たり、歌謡劇場に行ったり、将棋を指したりしたいな…。
 夜はやっぱり、河豚食べて、通天閣で夜景を見るの…。

 アンジェリークはうっとりとしながらデートのプランを立てている。
 アリオスはあくまで建築士で現場で鶴嘴を奮うわけではないのだが、アンジェリークの中では、ステロタイプの”ドカタな人”になっている。そんなとぼけたアンジェリークが、アリオスは大好きなので、あえて否定はしないところが、アリオスの痛いところである。
「やっぱり、バレンタインデートは、私が持たなくっちゃいけないわよね…」
 アンジェリークはまだまだ学生なので、中々自由になるお金は少ない。しかも、アルバイト禁止のお嬢様学校に通っているのだから当然である。
「やっぱり最初は公園でのカラオケよね〜! アリオスは”夏の嵐”だとか、”腰はブーメラン”な歌を歌ってくれるかしら? きっと笠を持ったおじちゃんが、楽しい踊りをしてくれるわ…! 私ヘンナ踊り大好きなの! そして、私は”すきま風”を歌うの! アリオスが歌うときは、”マツケンサンバ”を踊るわ」
 想像するだけでアンジェリークはうっとり。アンジェリークの中では、そこは、ミラーボールが眩しい梅●コマ劇場か、はたまた新歌舞●座になってしまっている。
 書くほうはげんなりのデートプランは、ボケていると評判を取っている少女の中では、きらきらと輝いていた。
「えっと、ぶたちょきんばこさんごめんね…」
 アンジェリークはお尻から、貯めたお金を一生懸命数える。万が一の為にと、お年玉も残しておいたので、アリオスとの豪華てっちりの夕べには、なんとか対応出来そうだが。
「…お昼は、一膳飯屋か立ち食いのうろんが良いわよね。けつねの立ち食い…。お洒落だわ」
 想像するだけでお腹が鳴って、よだれが出てしまった。
「いけないっ! こんなことをしている間にも、予約は取れるわよね! えっと、ここはふんぱつして、てっちりのロイヤルコースがいいわ!」
 我ながら大奮発とばかりに、アンジェリークは鼻息を荒くして、てっちりの専門店に予約を取る。
 電話を置いても、まだ夢見る夢子。
「あの大きな河豚のちょうちんを見ながらディナーだなんて、なんてロマンティックなのかしら…」
 本当に想像するだけで幸せで、アンジェリークはうっとりせずにはいられない。今週末に迫ったバレンタインが楽しみでしょうがなかった。


 今アリオスは、とてもお洒落で高級なデザイナーズマンションの設計をしている。自分の名前が前面にありかなりのこだわりがあるせいか、その現場につきっきりだ。
 勿論、即日完売で、既に全てが誰が住むか決まっているのだ。
 アリオスがいる現場にはアンジェリークがあり。そんなわけで、大好きな現場に通い詰めている。
「あ、レオナードさんこんちは!」
「よぉ、アンジェ。アリオスなら事務所だぜ」
「有り難う!」
 アリオスの仲間である、現場監督のプロ、レオナードに挨拶をした後、アンジェリークはプレハブ小屋に向かった。
「アリオス、きたよ!」
「ああ。三時のおやつに栗饅頭があるぜ?」
「わーい」
 アリオスが日本茶を、ワイルドなアルミのやかんで注いでくれるので、アンジェリークは嬉しい。
「ちょうどお三時の時間だしな」
「うん!」
 アンジェリークは温かな石油ストーブの前に座り、暖を取った。
 アリオスがてきぱきと準備をしてくれるのがこれまた嬉しい。
 お茶の準備が済むと、アリオスは向かいに座ってくれる。アンジェリークはアリオスの顔をじっと見るのが幸せであった。
「お弁当、有り難うな。すげえ美味かった」
 ジャー付きの黒いお弁当箱を渡されて、中を見ると、ちゃんと綺麗に食べ終わっている。アンジェリークはそれが嬉しくてしょうがなかった。
「綺麗に食べてくれたんだ、有り難う。明日も頑張るからね。何か食べたいものがあったら言ってね」
「ああ」
 アンジェリークは幸せな気分で弁当箱を直した後、アリオスが出してくれた栗饅頭を頬張る。
「アリオス、バレンタインデーはちゃんと空けておいてね」
「ああ。俺達にとっては記念すべき日だからな」
「うん!」
「お泊まり付きだぜ、忘れるなよ!?」
 アリオスが意味深な笑みを浮かべたので、アンジェリークは恥ずかしくなって俯いた。
「…お泊り楽しみね…」
 照れ隠しなのか、甘いものが大好きだからなのか、アンジェリークはぱくぱくと栗饅頭を何個も食べる。
「おまえ太るぞ…?」
「だって美味しいんだもん」
 少し口の先を尖らせて言うアンジェリークが、アリオスには底無しに可愛い。
「そんな顔をしてると、マジで頬っぺたにジャムをつけてくっちまうぞ」
「アリオスなら食べられても構わないもん」
 頬を赤らめて嬉しそうにすねるアンジェリークに、アリオスは目を細めた。
「ったく、おまえは可愛い過ぎるんだよ。栗饅頭ばっか共食いしていると、このまま、くっちまうぜ」
「やん、アリオス…」
 いつの間にかアリオスが背後に回り、しっかりと抱きしめてくる。その甘い抱擁に、アンジェリークは喘いだ。
「レオナードさんが来るよ」
「大丈夫だ。あいつは来ない…」
「どうして…」
「何でこんな良い雰囲気なのに、あいつの話をしなくちゃいけねえんだよ」
 アリオスはそのままアンジェリークの呼吸を奪い、どんなデザートよりも甘いキスをしてくる。
 酔いしれるほどの切ない甘さに、アンジェリークは溺れた。
 アリオスのキスは何時だって上手で、アンジェリークの思考を全て奪い取ってしまう。
 アンジェリークは小さな躰を震わせながら、アリオスの首に両手を回した。
 呼吸を奪われるのが限界になったところで、ようやく唇を離して貰える。しっかりと吸われた後は、色っぽくぷっくりと膨れていた。
「…明日、学校休みだろ? うちに泊まっていけよ」
 アリオスに艶やかな声で囁かれれば、アンジェリークが逆らえるはずはない。
「うん…」
「今夜も美味い飯を作ってくれよ。なるべく早く帰ってくるからさ」
「アリオス…」
 幸せな甘い雰囲気が漂い、ふたりはそこに暫く浸った。
 アンジェリークは夕食作りと泊まる準備をするために、いつもより早く帰ることにする。
「本当にレオナードさん来なかったわね。いつもならおやつは必ずスルメを食べに来るのに。らぶらぶ出来て良かったけれど」
「最近なこの時間には、逢いに来るおまえぐらいの年の子がいるんだよ」
 アンジェリークの表情は、俄かに明るいものとなる。何やらワイドショーの熱愛発覚を見て喜んでいる主婦のようである。
「ホント!」
 アンジェリークはそっとプレハブ小屋の窓から覗いてみた。すると金髪でおさげをした少女とレオナードが、仲良さそうにお茶とスルメを飲み食いしているのが見えた。
「寒いのに、ふたりとも温かそうね」
 アンジェリークの幸せそうな言葉に、アリオスも背後からゆっくりと覗きこんだ。
「そうだな。心は温かそうだもんな。俺達みてえに…」
 ふたりは甘く微笑み合うと、軽く唇を重ねる。
 温かな幸せ気分になったところで、アンジェリークは行くことにした。
「じゃあおうちで待っているからね?」
「ああ。楽しみにしているぜ」
 アンジェリークは手を何度も愛らしく振って、プレハブ小屋を出る。
 十八番の”すきま風”を鼻唄で歌いながら歩いていると、声をかけられた。
「あの…」
 振り返ると、先ほどレオナードといた少女が立っている。
「私、エンジュと申します。あの…、レオナードさんと仲が良さそうなのでお聞きしたいんです。レオナードさんの好きな物を教えてください! もうすぐバレンタインなんで…」
 アンジェリークはそういえばと思いながら頷く。
「そうねえ、私もお茶をたまに一緒に飲むくらいだけれど、ぬかの漬け物やスルメとかイカの一夜干しとか好きだと思うわ。よくおやつに食べているから。この仕事だったら、腹巻きとかもオススメかも」
 アンジェリークの言うことを、エンジュは一生懸命メモを取っていた。アンジェリークはすっかりドカタ恋愛のプロフェッショナルな気分である。巷で評判の大ボケ娘であるアンジェリークに訊いているとは、エンジュはつゆにも思わない。
「アリオスもそれで大丈夫だったから、きっと大丈夫よ!」
「有り難うございます!」
 エンジュは丁寧に礼を言うと、頭を下げてきた。アンジェリークはそれがまた嬉しい。
「じゃあがんばってね!」
「じゃあね」
 アンジェリークは手を振ってご機嫌麗しく、鼻唄も大きくなる。

 上手く行くといいな…。

 アンジェリークはふたりの仲がきっと自分とアリオスのようになると、信じて疑わなかった。

 泊まる準備をした後、アンジェリークはスーパーに行き、食材を吟味する。今日のメニューはもう決めてしまっている。”串カツ”だ。
「キャベツは四角に切らないとね、後はお肉は狂牛病があるから国産で、後は豚肉、子持ち昆布、アスパラに、鱚、イカ、海老でしょう」
 アンジェリークはひとつずつ職人の眼で吟味していく。
「イカはニハイ買って、あてにするために生姜醤油に付け込んで焼けばいいものねえ」
  ご機嫌に大量の食材を買った後、ソースも買い、なぜか豆絞りも買った。
「これがないとねえ、今日のメニューは始まらないもの」
 自分が買いたかったものが全て買えて、ほくほく顔のアンジェリークであった。
アリオスのマンションに行き、直ぐに夕飯の支度にかかる。
 やはりアリオスの為に食事を作るというのは、とても楽しいことだ。
「アリオス、今日は喜んでくれるかなあ」
 串かつは揚げたての熱々が美味しいので、下拵えだけをして冷蔵庫に直し、イカの生姜醤油焼きは、から過ぎないまで漬けて、後はしっかりとガス火を使った調理。
 ごはんもアリオスに頼んで小型のガス炊飯器を買ってもらったのだ。
 全ての支度を済ませて、アンジェリークはうきうきとアリオスの帰りを待った。

 暫くして、インターホンが鳴り、アンジェリークは直ぐにアリオスを迎えに行く。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
 お約束の甘いキスの後、アリオスが着替えに行く。その間にアンジェリークは、イカの焼いたのを出し、熱燗を作りながら、串かつを揚げ始める。串かつを揚げるのには、頑固料理人のようにならなければと、豆絞りで捩りはちまきをした。
 ダイニングでアリオスの姿を見るなり、アンジェリークは声を上げる。
「へいらっしゃい! 串かつだよ! ソースは二度漬け禁止だよ!」
一瞬にして自分の家が、がんこおやじの串かつ屋になり、アリオスは頭を抱えた。
「アンジェ…おまえはいつから頑固親父になったんだよ?」
「えへへ! 褒めてくれて有り難う! 良い感じでしょう?」
 いや、褒めてなんかいない。アリオスは心の奥でツッコミを入れながら、テーブルに着く。
「アリオス、いっぱいたべてね!」
「ああ、可愛い頑固親父さん」
 アリオスはアンジェリークを一瞬引き寄せると、頬にキスをする。
 結局、アリオスはどんなおおボケのアンジェリークでも可愛いと思うのであった------
コメント

およそ1年ぶりに登場のドカタシリーズです。
 後半はローマの休日ならぬ、新世界の休日です。
取材なしで書けるのは地元者の強みか(笑)





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