SWEET SWEET VALENTINE2

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 いよいよ明日は、アンジェリークにとってはメインイベント。アリオスとのバレンタインデートだ。
 興奮しすぎて中々寝付くことが出来ず、アンジェリークは何度もベッドの上で暴れては、起き上がる。
「…明日の準備は完璧かしら? お年玉は銀行から三万円も下ろしたし、念のためにぶたちょきんも準備したし、プレゼントも用意したし…」
 プレゼントの包みを見ながらーアンジェリークはひそかにほくそ笑む。
 アリオスに喜んでもらおうと、考えに考えたプレゼントは、栗饅頭。
 理由はアリオスがいつも”栗饅頭”と呼ぶから。
 これはアンジェリークの手づくりで、アリオスのことを思って一生懸命作ったのだ。
 しかも手づくりであるが故に、並の栗饅頭ではない。かなりの大きさを誇っているのだ。一辺が20センチ四方の箱いっぱいに納まりきるかきらないかぐらいの大きさなのだ。
 作った時はそれは一生懸命で、アリオスへの想いの丈を詰めこんだ、アンジェリークには珠玉の一作だ。
 出来た時の感動は本当に忘れられないだろう。
「栗饅頭は私の分身だもの! いやーん、アゲタイのは、わ・た・し! なんて! きゃー! アリオス食べてくれるかしら。だって、栗饅頭は私自身なんだもの〜。栗饅頭も食べて、私も食べてもらうんだ〜!」
 箱に詰めた栗饅頭をぎゅっと抱きしめながら、アンジェリークはくねくねとヘンな踊りを踊った。興奮の余り、いつもより声が大きくなるのも、またご愛嬌と言うものだ。
「えっと…、後は、服も準備したし、下着も…ちょっと可愛い食い倒れ太郎のとっておきのものを用意したし…」
 その下着がとっておきのものだったら、きっとやる気を無くすであろうという、ツッコミはアンジェリークには一切聞こえない。
「えと、鞄のなかも完璧! 後は…」
 色々準備したことを思い出し、アンジェリークははっとする。
「あ〜! ”すきま風”の歌練習と、”マツケンサンバ”の練習がまだだった!」
 もう既に真夜中。家族は寝静まっている。だがアンジェリークは諦められない。やはりアリオスとの大切なデートなのだ。ここは気合い一番頑張らないといけない。
 奮起すると、おもちゃのマイクを取り出して、アンジェリークは十八番の練習を始めた。
 時間が勿体ないので、ついでにサンバを踊るのも忘れてはいない。
 ばたばたと娘がするものだから、流石にアンジェリークの母親もキレた。母親が大きな足音を立ててやってくるのも、関係なく続ける。
「アンジェリーク!! 静かにしなさいっ!」
 母親はアンジェリークの部屋に乗り込んでくるなり、強く叱ると、そのまま寝室に戻って行った。
「うわーん! 折角、サンバを練習していたのに!」
 アンジェリークは母親に恨み言を零しながら、とりあえずベッドに入ることにした。
「アリオスに素敵な歌声を聴かせてあげたかったのに…。明日はぶっつけ本番になるけれど、まあ、いいか」
 アンジェリークは上かけを頭まですっぽりと被ると、明日のアリオスの笑顔を思い浮かべた。

 …明日は最高のデートにするからね…。
 アリオス、楽しみにしていてね…。


 翌日、アンジェリークは我ながら最高にお洒落をしたと事自己足できるスタイルで、アリオスとのデートに望んだ。
 待ち合わせの場所で待っているだけで、とても幸せな気分になれる。
「アンジェ!」
「アリオス!」
 走ってくるアリオスを見るなり、アンジェリークは惚れ直した。隙のないかっこよさと言うのはここにあるのではないだろうか。
 本当にアリオスは素敵だと思う。
 いつもの作業着姿も好きだが、やはり、ラフで洒落たスタイルも大好きだった。よく見れば趣味の良い物を着ているのは、一目瞭然だ。
「待ったか?」
「大丈夫よ。さあ、デートしようね! 今日は私が主導権を握らせて頂きますからね」
「お手柔らかに頼むぜ」
「今日のデートはきっと楽しいわよ!」
 アンジェリークは本当に嬉しそうにニコニコと笑いながら、アリオスに腕を組んでくる。その可愛い姿に、アリオスもまた笑顔が零れ落ちた。
「どこに行くんだよ? お姫様?」
「とっても楽しいアミューズメントな場所よ!」
「楽しいところ…。ね」
 アリオスは何かあると思いながら、アンジェリークに着いて行くことにした。

 アンジェリークが最初に連れていってくれたのは、なんと屋台の”青空カラオケ”。らしいと思いながらも、アリオスは苦笑せずにはいられない。
「アリオス! ここで”夏の嵐”を歌ってよ!」
「へ!?」
 アリオスは一瞬自分の耳を疑う。そんなことは嫌だ。
「アンジェ…、ボックスなら歌ってやってもいいけれどな。おまえだけに、情熱的なラブソングは聴かせてやりてえんだよ」
「え〜! アリオス、お願い! 私も”マツケンサンバ”で合わせるから!」
 マツケンサンバ。なんだそれはと、アリオスは苦笑いしながらも、愛しいアンジェリークの願には逆らえない気分になる。
 実際、アンジェリークが踊る”マツケンサンバ”とやらも見てみたいような気がする。
「解ったよ。解りましたよ。やればいいんだろ? お姫様!」
「わーい! 流石はアリオス!」
 アンジェリークの愛らしい笑顔には、流石のアリオスも勝てやしない。
「おばさーん、”夏の嵐”! その後に”すきま風”ね!」
「あいよ!」
 ”すきま風”その曲名を聴くなり、アリオスは渋過ぎると思わずにはいられなかった。
 夏の嵐の烈しいイントロが奏で始めると、どこからともなく花笠を片手に、踊ろうとする男たちがやってくる。
 アリオスも”ネオロマンス界一のジャンパー”の異名を取る以上は負けてはいられなかった。
 烈しい音楽はアリオスを乗らせる。しかもバックダンサー付きだ。燃えなければ男ではない。
 バックダンサーと言っても、大衆演劇ばりに踊る中年男たちと、恋人のマツケンサンバという、曲は全くあっていない踊り。
 それでもアリオスは良かった。
 完全燃焼出来る。
 歌い終わった瞬間、沢山のギャラリーに囲まれて、恥ずかしかったが妙に気持ち良い。日頃、ストレスが溜まっているかもしれないと、アリオスは一瞬思った。
「次は私のすきま風!」
 アンジェリークは大声で宣言すると、イントロが始まるなり眉間にシワを寄せた。
「おみつ…、許せよ」
 この渋い台詞に、アリオスは唖然とせずにはいられない。
 やんやと喝采の中、アンジェリークは自分の世界に入って陶酔している。まわりの中年の男たちは、花笠で踊っている。
 それが妙に様になっているから可笑しい。
 アンジェリークが最後まで流し目で歌い終えると、色んなところから喝采が起こった。
「有り難う、おっちゃんたち!」
 手を振ってアンジェリークは笑顔て声援に応える。その表情が余りにもきらきらと輝いていたのが気に入らないのか、アリオスの表情は険しいものになった。
 急にアリオスは不機嫌になると、アリオスにアンジェリークは引っ張られる。
「ほら、行くぜ」
「じゃあおじさんたち、またね〜!」
 アリオスに、人気の少ない木陰に連れていかれた。
「おまえ、俺以外のやつにあんな笑顔を見せるなよ!?」
 明らかに嫉妬を含んだ声で囁かれると、アリオスはそのままアンジェリークの唇を奪う。
 人通りが多い通りなのにも関わらず、アリオスのキスは甘さと烈しさの中間のところだった。
 呼吸を奪われ、意識も全て支配される。
 ようやく唇を離されたものの、そのまま抱きしめられた。
「俺以外の男にそんな甘い顔をするな」
「アリオス…」
 余りやきもちを表立っては妬かないアリオスにしては珍しいことだったので、アンジェリークは嬉しさの余り微笑む。
「うん。あれはアリオスに見せたのよ? アリオスに私がこんなに楽しいんだってことを、教えたかったの…」
 飛び切りの甘い笑顔を見せる恋人に、アリオスも思わずふっと笑った。
「まあ俺もストレス解消できたしな。おまえのヘンな踊りのお陰でな」
「あれはヘンな踊りじゃあないの! ”マツケンサンバ”っていう、立派なサンバなの!」
「そうかよ。てっきり俺はおまえがヘンテコな踊りを踊りまくっているとばかり思っていたけれどな」
アリオスは苦笑しながら、アンジェリークの手をしっかりと繋ぐ。その温もりがとても嬉しい。
「後さ、”おみつ”って誰だよ」
「知らないのアリオス!! かの有名な”遠山の金さん”に出てきたおみっちゃんを!」
 信じられないとばかりに、アンジェリークは呟いたが、アリオスは知らないのは当然とばかりにしらっとした表情をしていた。
「おみっちゃんが誰か知らないんだったら、私がビデオ貸してあげるから」
 アリオスは少し顔を歪めて笑いながら、「頼んだ」と言う。
「さてと、お姫様。次はどこに連れていってくれるんだよ?」
「次はね、定食が評判の一膳飯屋!」
「解った、行こう」
 アンジェリークは更にアリオスの手を握りしめて、一膳飯屋に向かった。

「今日は鯵の塩焼き定食だって! 美味しそうね!」
「だな。これを頼もうぜ」
「うん!!」
 ふたりはいかにも古びた店屋の隅に陣取り、鯵の塩焼き定食を注文する。
 ちょうど昼時だが、土曜日ということもあり、客はいつもよりも少なめだ。それもまた良かった。
 ほかほかのご飯に、焼きたての鯵の塩焼き、味噌汁、漬け物、野菜の煮付けがついて600Gは安いというものだ。
「いただきまーす!」
「いただきます」
 普通のお嬢様学校に通う生徒ならば、こんなことは嫌がるはずだし、ホワイトデイだってお洒落な場所での食事と、ブランドものを要求するだろう。
 だがアリオスの愛して止まない少女は、少し変わっていて、このような泥臭い物を好む。それがまた可愛い。
「美味しいね」
「ああ。美味いな。アンジェ」
 名前を呼ばれて顔を上げると、アリオスの指が優しく唇に触れる。先程のキスよりももっとドキリとした。
「アンジェ、お弁当が付いているぜ?」
 アリオスは優しくご飯粒を取ってくれ、それをぱくりと食べる。その仕種が、アンジェリークには酷く恥ずかしく、また嬉しくもあるものだった。

 定食屋を出るとき、アンジェリークはどうしてもと言って、支払わせてもらう。いつもアリオスに払ってもらっているため、今日ぐらいは払わないと申し訳ないと思っていたのだ。
 1200Gのところを1500Gで払う。
「はい、オツリ300万G」
 と店主が返してくれたのが嬉しくて、アンジェリークは満面の笑顔を浮かべるのであった。
コメント

およそ1年ぶりに登場のドカタシリーズです。
 後半はローマの休日ならぬ、新世界の休日です。
取材なしで書けるのは地元者の強みか(笑)

次回はいよいよメインイベント。
このアホな創作はいつまで続くんや…(苦笑)





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