Say Me Words Of Love

前編


 いつも私が一方的に”好き”なような気がする。
 肌を合わせて、もっともっと近い場所にいる筈なのに、いつも独りよがりな気がするの。

 今日もアンジェリークはアリオスの後ろをひょこひょこと歩く。脚が長い分歩幅の大きなアリオスと並んで歩くのは大変だから。
「ちょっと、あれアリオスじゃない?」
「ホントだ〜! 後ろにいる娘なんだろ?」
「付き人かマネージャーのたぐいじゃないの?」
「そうだよね〜!」
 アリオスのファンたちの冷ややかな視線をアンジェリークは一身に浴びる。それが少し痛かった。
 アリオスは別に芸能関係の仕事をしているわけではない。ただ、テレビで一級建築士でありながらお洒落カフェレストランを経営していることを紹介されてからというもの、俳優並の人気を誇っているのである。
 しかも、建築士としては、人気のリフォーム番組で数々の斬新なリフォームを手掛けて話題になっている。ファンの数も相当だ。
 そんな”セレブ”なアリオスと自分が付き合っているなんて、時々想像出来なくなる。
 ”付き合う”とはいうものの、アルバイト先のオーナーだったアリオスに憧れて、告白出来ずにいると、彼から告白してきてくれたのだ。「俺の女になれ」とストレートに。手が出るのも速くて、すぐにベッドに連れ込まれて今に至る。
 だが、デートも余り出来ず、アリオスが忙しさの合間を縫ってなんとか一緒にいる有様だ。
 そのうえ公道でいちゃいちゃと甘えるのは、クールに遇われるので気を遣って出来ない。だからいつも後ろ。

 肌を合わせる瞬間だけ、あなたに愛されているのを実感することが出来る…。
 確かにあなたからの告白だったかもしれないけれど、いつも私が一方的に好きなような気がするの…。

「ほら、こっちだ」
「うんっ!」
 アリオスに言われた通りに後についていく。
 今日はアリオスが建築士として手掛けた、大型商業施設のプレス向けの発表パーティなのだ。
「表口からじゃないんだ」
「俺は見られることを生業にしているわけではねえからな。俺は裏方スタッフだからな」
「そうね」
 裏口から入るのは嫌じゃなかった。
 それどころか少し感謝している。好奇の視線に身を晒さなくていいから。
 アリオスとパーティ会場に乗り込むと、アンジェリークは息を呑んだ。
 想像以上にセレブリティの数が多い上に、誰もが艶やかできらびやかだ。
 急にアンジェリークは沈んだ気分になる。

 私なんか…何だか全然みっともない…。

 アリオスは盛装しろとは一言も言わなかったので、アンジェリークはほんの少しのお洒落をしただけだった。いつものデート並の。だが、蓋を開けてみると、セレブだらけで誰もが美しく着飾っている。
 アリオスを恨めしく思いながら、アンジェリークは少しだけ惨めな気分になった。
「こんな凄いパーティだってどうして言ってくれなかったのよ…。解ったらもっとオシャレをしたのに…」
「おまえはいつものままでいいんだ」
 アリオスはさらっと言うと、髪をくしゃりと撫でてくれる。いつもは心地良く思えるそれも、今日に限っては子供扱いされているようで嫌だった。
 だが横にいるアリオスも、さりげなくいつも通りのスタイルだ。それはやはり嬉しい。
「おまえはおまえのままが一番だ」
 少し気分は良くなったが、綺麗な女性を見ると少し切ない。
 とにかくアリオスの背後に隠れるように会場では過ごすことにした。
 少し子供っぽい自分が嫌で、誰にも見られたくなかったから。
 テレビや雑誌でよく見る顔も多くて、余計に萎縮してしまった。
 そのうえアリオスに視線を這わせている女性が数多くいる。誰もが自分より大人で、艶を持っているのが悔しかった。
「おい、アリオス!」
 明るい雰囲気の紳士がやってくる。会場でアンジェリークがようやくホッと息をつくことが出来る初めての人物であった。
「良い設計だな! 流石はおまえだと感心したよ!」
「カティスか…」
 アリオスもまんざらではない相手のようで、表情が僅かに緩んだ。
「素晴らしい設計だ。おまえの最高傑作になるな」「まだまだ発展途中だ」
「そうだな…」
 不意にカティスの視線がアンジェリークに移る。
「このお嬢さんは?」
「ああ。アンジェリークだ」
 アリオスに出てこいと合図をされる。
 アンジェリークははにかみながらアリオスの後から出てくる。
「こんばんはお嬢さん」
「ここんばんは…」
 緊張しながらアンジェリークは挨拶をする。その初々しい姿にカティスは目を細めた。
「アリオス、良いお嬢さんを捕まえたな」
 穏やかに話すカティスに、アンジェリークは恥ずかしくて顔を合わすこと出来ない。
 アリオスはカティスの良さを解ってくれるのが嬉しくて優しい笑みを眼差しに浮かべた。
「…おまえの最高傑作はこのお嬢さんかもな…」カティスはそっとアリオスに耳打ちをし、彼はそれに僅かに頷いた。
「じゃあまたな」
「ああ」
 カティスの後ろ姿を見送りながら心地良い気分になる。
 緊張の中でどこかほっとした気分になった。
「アンジェ、俺は挨拶しなくちゃならねえから、少し待っててくれねえか」
 ひとりでこんな場所で待つ。それはアンジェリークにとってはある意味拷問に近いものがあった。
 縋るような眼差しをアリオスに向けると、本当に愛らしい。応える代わりに華奢な肩を何度か叩いた。
 アリオスが設計者として挨拶に行ってしまうと、くすくすと中傷にも取れる笑い声が響いてくる。アリオスをどうにかして自分のものにしたいと思っている女たちの声だ。
「あのこね、アリオスのお子様は」
「アリオスは本気なのかしらね? 本当に」
「まるっきりあの娘はお子様じゃないの? あんな娘が好みなのかしら」
 ひそひそと余りな中傷の声が響き、あまり良い感じがしなかった。

 私は子供なんかじゃないもの…。

 そう思いなからも、アンジェリークは切なくてしょうがない。胸が苦しくて、息が詰まりそうになっている。
 心臓がばくばくと音を立てて鳴り響き、くらくらする。
「おい、どうしたんだ? 顔色悪いぞ、お嬢ちゃん」
 ふらっとしたところを、力強い腕で支えられ、甘い声にアンジェリークは顔を上げた。
「あ、有り難うございます…」
 目の前にいたのは、赤毛の素敵な青年だった。心配そうにアイスブルーの瞳を向けてくる。
「少し座ったらいい。こっちへ」
「はい…」
 少しだけ気分が悪かったので、アンジェリークは素直に青年の好意に甘えることにした。
 たが青年が見つめてくるので、恥ずかしい。
「-------なあお嬢ちゃん、モデルになる気はないか?」
「え!?」
 青年が突然申し出たことに、アンジェリークは困惑せずにはいられなかった。
「あ、あの…」
「この商業施設の冬のキャンペーンに是非ともお嬢ちゃんを使いたいんだが…」
 そんなことは考えられない。アンジェリークは、首を振ろうとしたところで、アリオスの声が聞こえて来た。
 大好きな男性の声。
 よく響く甘いテノールにアンジェリークはほっとしたように壇上のアリオスを熱っぽく見つめた。
「…良い表情をするな。益々お嬢ちゃんをモデルとして使いたくなったぜ」
「っえ!?」
 アンジェリークは少し困ったような表情を赤毛の青年に向けた。

 アンジェ…!!

 その姿をアリオスは壇上から見つめている。
 愛しくてしょうがない少女がどこにいるかは、直ぐに判る。
 だが少女の姿を見るなり、アリオスの視線は鋭いものに変わる。

 アンジェ、横にいる男は誰だ…!?

 アンジェリークはアリオスを見つめるために、再び視線を壇上に向けた。
 する血尾、いつもに増して鋭く冷たいアリオスの視線にぶつかった。

 アリオス…!!
 怒っているの!?

コメント

前後編。或いは間に中編を挟むかもしれませんが、アリコレの新しい創作スタートです。
お楽しみに〜。
甘い、甘い、お話を目指します。
最初のテーマは嫉妬です。





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