Say Me Words Of Love

中編


 アリオスの冷徹な視線が怖い。声はいつものように淡々としているが、怒っているのは明白だった。
 挨拶が終わると、アリオスがそのまま近づいてくる。真っ直ぐアンジェリークだけを見ている。
「アンジェ」
「…アリオス…」
 横にいる青年に鋭い睨みをきかせる恋人に、アンジェリークは背筋が寒くなる。
「お嬢ちゃんの知り合いか…」
 青年もまたアリオスに挑戦的な表情を浮かべた。
「俺はこういう者だ」
 さっと名刺をアンジェリークに差し出したが、アリオスが横取りをした。
「…モデリスト、カメラマンか…。コイツに何の用だ」
 明らかに嫉妬を丸だしにし、好戦的な態度を取るアリオスに、青年もまた負けじとばかりに微笑む。
「お嬢ちゃんがこの商業施設のイメージモデルにぴったりだと思ってね。”秋から冬の協奏曲””冬のファンタジア””冬から春の間奏曲”これが一連のキャッチコピーだが、ぴったりだろ?」
 聴いている間のアリオスの表情は益々険しいものになる。
「どうだお嬢ちゃん?」
「わ、私が…」
 アンジェリークが言葉を続けようとしたのを、アリオスが取ってしまった。
「悪いがコイツにそんなことをかせるわけにはいかないんでな」
「あんたに訊いてない」
 ふたりの視線が絡み合い熱を生む。恐ろしい火花が舞い散る。
「アンジェを助けてくれたことには礼を言う。だがモデルなぞは俺が許さねえ」
「あんたが決めることではないだろう」
「悪いがコイツのことは俺が決める。俺が保護者だからな」
 アリオスはぴしりと言い放つと、アンジェリークの手を取る。
「アンジェ、行くぞ」
「あ…アリオス」
 アンジェリークは困惑するような瞳を目の前の二人の男性に向けた。
「適当に挨拶に行くぜ。それが終わったら速攻帰る」

 アリオス…怒ったんだ…。

 アンジェリークはまさかアリオスが嫉妬の余りこうしていることに気付かない。ただアリオスを怒らせてしまったかと戦々恐々としていた。
「あ、あの…、すみません、有り難うございましたっ!」
 アンジェリークは何とか目の前の青年に礼を言った。だが、アリオスはその間てを握ったまま離そうとしない。
「お嬢ちゃん、その気になったら、いつでも俺に連絡してくれ。よろしくな」
「有り難うございます」
「ほら、行くぜ」
 挨拶もそこそこにアンジェリークはアリオスに連れられて行く。その姿を見つめながら、オスカーは甘い微笑を浮かべていた。

 お嬢ちゃん…、恋人に凄く愛されているな…。気付いていないのが、また凄く可愛いけれどな?

 アリオスは挨拶の間もずっとアンジェリークの手を握りしめたままだった。それがアンジェリークにはとても心地が良い。
 ふわふわとした甘い時間もつかの間で、直ぐに品のある美しい女性が目の前に現れ、アンジェリークの素敵なひとときを壊してしまった。
「アリオス、お久しぶり」
「ああ」
 ふたりの間に大人の男女の感情を感じ、アンジェリークは気が気ではなかった。

 アリオスとどのような関係なの?

 先ほどまでの甘い雰囲気は見事に音を立てて崩れてしまった。
「可愛い方ね?」
「まあな」
 アリオスは少しいらだたしげに言いながら、アンジェリークから手を離した。

アリオス…!?

 女の蔑むような視線を感じ、過呼吸のような症状を起こしてしまう。顔色が急激に悪くなり、くらくらしたところをアリオスに支えられた。
「すまねえ、ちょっと失礼させてもらう…」
 アリオスは女にさらりと言うと、アンジェリークを連れその場を離れた。
「少し休んだらどうだ?」
「…いい。一人で帰れるし、ここからなら家まで近いもん」
 女のさげすんだ眼差しとアリオスの冷たい態度に少し抵抗してみる。対するアリオスは相当怒っているようだ。
「送っていく」
「ひとりで帰れるもん。アリオスはここにいた方がいいから、いて?」
 アンジェリークは少し拗ねるような声で言うと、さっさと行こうとした。
「待て。送るって言っているだろ!?」
「きゃっ!」
 ぐっと力付くで引き寄せられて、アンジェリークは息を呑んだ。
「一通り最低限の挨拶は済んだからかまわねえ」
 アリオスは冷たい声で言われ、そのまま駐車場に連れていかれた。
「乗れ」
 車の鍵を開けた後、助手席を開けてくれる。
「今日は後ろで…」
「いいから乗れ」
 有無言わせぬ雰囲気に、アンジェリークは仕方なく助手席に乗った。
 「家まで送って」
 アンジェリークはゆっくりと瞳を閉じる。今日はとても疲れてしまった。
「今日のおまえマジでヘンだぜ?」
 苦々しく呟きながら、アリオスはエンジンをかける。車内はいつもと違い険悪な雰囲気が漂っていた。
「…気分が悪い後は、ご機嫌も悪いみたいだな…」
「いつもこうなの」
 今日はいつものように素直に甘えることが出来なかった。暫く目を閉じてシートに躰を沈める。こうしていると海の底に沈んでいくみたいで、楽だ。
 いつもならアリオスにあれこれと話すのだが、今日はその気にはなれなかった。

 どうしてだろう…。
 最近、特に何もないのに、時々情緒不安定になっちゃう…。
 本当にどうしてか判らないもの…。

 しばらくして、肩をポンと叩かれた。
「着いたぜ。降りろ」
「うん」
 目を開けて車の停めてある駐車場を見つめる。そこはアリオスのマンションのところだ。
「…家に送ってくれるんじゃないの!?」
「今夜は帰さない…。おまえの躰にしっかりとおしおきを刻み付けねえといけねえからな」
 甘い声で危険に囁かれると、甘い吐息を吐かずにはいられなかった
 アリオスはアンジェリークを車から出し、そのまま自室に連れていく。
 エレベーターに乗るのにもアリオスにしっかりと手を握り締められていた。
 自室に入るなり、アリオスにリビングのソファーに座らせられる。
「今日はどうしてこんな顔色なのに、どうしてそんなに意地を張るんだよ?」
「…だって、アリオスは私がひとりにしたじゃない…。凄く寂しかったし、苦しかったんだから」
 まるで子供のようなアンジェリークに、アリオスは抱きしめずにはいられない。
「今夜はその埋め合わせは充分やっていよる」
「…アリオス…」
「どうして今夜に限ってこんなに我が儘なんだよ…。理由があるなら言ってくれ」
 華奢な背中をさすりなかわらアリオスはアンジェリークを宥めた。
「…アリオス、いつも私だけを見てくれないもん…。綺麗な女性にあれだけ囲まれていたら、あんなにモテたら、きっと私なんかただの普通の子だと思っちゃうでしょ!?」
「------おれの気持ちはベッドでたっぷり聴かせてやる。来い」
 アリオスはアンジェリークを抱き上げると寝室に運ぶ。
 甘い時間が始まる------
コメント

前後編。或いは間に中編を挟むかもしれませんが、アリコレの新しい創作スタートです。
お楽しみに〜。
甘い、甘い、お話を目指します。
最初のテーマは嫉妬です。





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