Say Me Words Of Love

後編


 アリオスの温もりを肌に刻み付けた後は、ようやく心地良い気分になれた。抱きしめてくれる腕が好きだ。
「ようやく落ち着いたか?」
「うん…。アリオスの温かさは安心するの」
 甘えるように腕の中ですっぽりと収まるのが心地良い。
「…アリオス、モデルの件だけれど、どうしたら…」
「モデルの件だが、俺が断っておく。おまえにモデルは務まらねえ」
 きっぱりと言われて、アンジェリークの気分は少し切なさを帯びた。
 アリオスの腕の中にいるのが急に哀しくなり、そこから出ようとした。

 アリオスはきっと私のことなんか、みっともないとぐらいしか、思ってないもの…。

「何をしている?」
「帰るの」
「ダメだ」
 ぎゅっと力を入れられて抱きすくめられて、アンジェリークは喘いだ。
「私なんかどうせみっともないぐらいしか思ってないから?」
「違う! みっともないなんて俺が言ったことねえだろ!?」
「…アリオスはいつも自分ばかり納得して、私に何も教えてくれないじゃない」
 いくらもがいても、アリオスはアンジェリークを抱きしめたまま、離そうとはしない。
「落ち着け…。最近おまえおかしいぞっ!?」
「…だってアリオスが変なことを言うからじゃないっ!」
「じゃあモデルになりたいのかよ?」
 そう言われると、特にそんな気持ちではない。
 アンジェリークは首を横に振った。
「ったく、わけ解らねえやつだな」
 アリオスは大きな溜め息を吐くと、ベッドから出てしまった。ベッドの周りにある衣服を拾い上げて、それを着ようとする。
「送るから支度しろ」
 少し怒っているようなアリオスが怖い。帰らなければとベッドから出ようとすると泣けて来た。

 …アリオス…。
 きっと、

「おいっ、今度は一体何なんだ!?」
 アンジェリークに歩み寄ると、アリオスは呆れ顔をする。
「ったく…」
アリオスと視線を合わせるのが怖い。
「おまえ何がそんなに嫌なんだよ?」
「…アリオス…、うっ!」
「どうした!?」
 急に気分が悪そうに口元を押さえたアンジェリークに、アリオスはすぐに駆け寄る。
「大丈夫かよ!?」
 アリオスはすぐにアンジェリークを洗面所に連れていくと、そこでぜんぶ吐かせた。とは言っても、ほとんど食べていなかったアンジェリークは、吐くものも余りない。
「今夜はやっぱりうちに泊まれ。明日は着いていってやるから一緒に病院に行こう」
「病院なんて大袈裟よ…」
「おまえがこんな状態だからな…」
 アリオスは再びベッドに入り、アンジェリークを宥めすかすように抱きしめた。
 「少し眠れ」素直に頷くと、深く目を閉じる。アリオスはアンジェリークがきちんと眠るまで、ずっと優しく抱きしめていた。
「アンジェ、おまえ、最近、すげえ綺麗になったな…。躰もふっくらしていて、凄く神聖にセクシーになったな…」
 ここの所、アンジェリークが余りにも美しくなり始めたので、アリオスも嬉しさと嫉妬心が交錯した複雑な気分だったのだ。

 あんまり綺麗なおまえを誰にも晒したくねえんだ…。こんな気持ちおまえには解らねえだろうがな…。
 このままおまえと一緒になりてえが、おまえの可能性を潰してしまうんじゃねえかって、少し不安になるのも確かだ…。

 アリオスは眠ってしまったアンジェリークをゆっくりと撫でてやる。あどけなさと大人の女性とが交錯する蕾の恋人を、誰よりも愛しいと思いながら、暫く見つめていた。


 翌日、アンジェリークはけろっとしており、顔色もすっかりよくなっていた。
「アリオス、もう大丈夫よ」
「ホントかよ?」
 じっくりと顔を見ていると、確かにすっかり良くなっているように見える。いつものアンジェリークだ。
「だが、またあんなことを起こさないとは限らないからな。飯食ったら病院に行こう」
「イヤッ!」
 大きな声を出し、アンジェリークは嫌がる。その瞳は何かに怯えているかのようだ。
「おまえの身体のことだろ!?」
 厳しい視線をアリオスから送られ、俯くことしか出来ない。
「…病院に行ったらアリオスは怒るわ…」
「怒るわけねえだろ!? おまえが行かない方が俺は怒るぜ?」
 真摯な眼差しだった。
 アンジェリークは胸を疲れるような気分になる。
「…アリオス…」
 アリオスはまるで子供をあやすように抱きしめる。
「アンジェ…、おまえお腹に…俺のガキがいるんじゃねえか?」
 一瞬、表情が強張る。アリオスはそれをじっと見つめている。
「…どうして解ったの…」
 アンジェリークの表情が切ないものに変わる。
「おまえの態度をで薄々な…。身体も女っぽいものになっていたしな…」
「アリオス…」
 ぎゅっと抱きしめられて、アンジェリークはアリオスの大きな愛を感じた。
「どうして言わなかった? 俺が怒るとでも思ってたのか? そんなことは有り得ねえことが解らなかったのか?」
「だって…! 最初は凄く嬉しかったの…。だけど、赤ちゃん出来たらアリオスが嫌がるんじゃないかって…、私なんか母親としか見てもらえないんじゃないかって…! アリオスがほかの女性の所に行っちゃうんじゃないかって不安で…。そんなことを色々と考えてたら、自分が嫌になって…」
素直に言って泣くアンジェリークに、アリオスはほっとした。
「おまえが考えているようなことは、一切有り得ないぜ。ガキとおまえと三人でやっていきてえし、おまえを上回って愛する相手なんて存在しねえんだ。おまえ以上に誰かを愛 するなんて俺には有り得ねえ。たとえ、自分の子供であってもな…」
 アリオスの繊細な指先が、栗色の髪を優しく撫でてくれる。それがアンジェリークにはとても安心する。
「ホントに?」
「ああ」
 潤んだ瞳で見つめてくるアンジェリークには既に安堵の光が見え隠れしている。
「ママになっていいの?」
「ああ。ママになってくれ。ただし、俺のガキだけのな。俺にはいつも女としてのおまえを見せてくれ」
「うんっ…!」
 アンジェリークはアリオスにしっかりと抱き着くと、その温もりで愛を伝える。
「一緒に病院に行こう」
「うん」
 ふたりは朝食を済ませ、産科のある大学病院に出向いた。結果はやはり予想通りで、半年後にはふたりは親になることを告げられた。
「苛々したり最近してたんですけど…」
「それはマタニティブルーですよ。しっかりと男性が支えてあげないといけませんよ?」
 穏やかな担当医は笑顔でそれを告げ、ふたりはしっかりと頷く。

 診断後、ふたりの重荷はすっかり消えていた。
「これからはしっかりとおまえを支えるからな。もうマタニティブルーなんかさせねえから」
「うんっ!」
 アンジェリークはすっかり笑顔を取り戻し、いつものアリオスが愛してやまないアンジェリークに戻っていた。だが今は、不安がっていたアンジェリークを含めて愛しいと思う。
 ふたりは手を繋いで、幸せそうに車に向かう。
「これから家族になる準備を色々しねえといけねえから忙しくなるな。おまえの両親にもちゃんと挨拶に行かねえとな。午後にでもな。卒倒するかもしれねえけどな。いくら付き合うことを認めてもらっていてもな?」
「でも喜んでくれるわ」
「だといいけれどな」
 アリオスは苦笑しながら答える。
「避妊しなかった男に複雑な感情を抱くかもしれねえが、俺はおまえだからなまでしたんだけれどな」
「…もう」
恥ずかしいが凄く嬉しかった。自分だけが特別な存在になった気分でとても嬉しい。
「アンジェ、これからもよろしくな?」
「うん…!」
 しっかりと頷くと、輝く笑顔でアリオスを見つめる。
 甘く唇が重なった。
 アリオスが理解してくれるから、これからも頑張っていける。
 きっともうマタニティブルーになることはないだろう。
 アンジェリークはしっかりと前を見て、アリオスと歩いていけることを確信していた。
コメント

前後編。或いは間に中編を挟むかもしれませんが、アリコレの新しい創作スタートです。
お楽しみに〜。
甘い、甘い、お話を目指します。
最初のテーマは嫉妬です。





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