Daddy Long Legs

1


 私はたったひとりぼっちになりました。
 父が事故でなくなり、今やひとり・・・。
 小さなアパートでのひとり暮らしが始まりました。
 学校に行きながら、品の良い創作レストランのウェイトレスとして働いて、何とか生きている感じです。

 今日も学校が終わり、レストランに出勤する。
 飲食業のホール係だが店の雰囲気が良いので、安心して働いている。
「いらっしゃいませ」
「頑張っているようだな」
 いつものように挨拶をすると、聞き慣れた声に顔を上げた。
「先生・・・」
「久し振りだな。邪魔をするぜ」
 そこにいたのは弁護士のアリオス。
 父親亡き後、色々と心を砕いてくれ、アンジェリークに関する法的な処理をしてくれた。
 安全な職場として、このレストランを紹介してくれたのも彼だ。
「お久し振りです」
 アンジェリークは軽く会釈をすると、アリオスの横にいる美しい女性が気になった。
 紅いルージュが良く似合う大人の女性。
 その余裕の微笑みに、アンジェリークの胸が少しちくりと痛んだ。
 結局、軽いさらりとした挨拶で再会は終わり、アンジェリークはアリオスから接客担当も外れてしまった。
 生演奏が店内に響き渡り、甘い雰囲気が店内を覆っている。
 この雰囲気がいつもは好きなのだが、今は少し気にいらない。
 それは、アリオスと女の雰囲気を甘く盛り上げているように思えたから。
 接客の合間にふたりの様子を見ると、時折見える甘い様子に胸が痛んだ。
 アリオスが退店したと同時にアンジェリークの勤務時間が終了した。
「お嬢ちゃんは上がりの時間だったな。気を付けて帰るんだぜ」
「はい、ありがとうございます」
 手早く着替えて、黙々と裏口に向かう。
「アンジェリーク」
 聞き慣れた心地の良い声に辺りをきょろきょろとすると、そこにはアリオスが立っていた。
「・・・先生・・・」
「最近、また嫌がらせがあると聞いてな。------どうして連絡しなかった?」
「・・・まだ、そんなに酷いものじゃないから・・・」
 その話題になると、アンジェリークは心に痛みを感じ、俯く。。
 嫌がらせ。
 それはアンジェリークが父親の相続に絡んで起こっていることだった。
 アンジェリークの父親は小さな貿易会社を経営していたせいか、それなりの資産があった。
 だが、前妻の連れ子であるアンジェリークが相続を行うのは不当だと、義理の母が嫌がらせをしていたのである。
 先日はレストランに食事にきて、営業妨害まがいのことをしていったことを、オーナーシェフのオスカーから報告を受けていたのだ。
「・・・オスカーさん、怒ってましたか?」
「いいや。おまえの義理の母に怒りを持っているがな」
「…そうですか…」
 先日のことを思い出すと、息苦しくすらなる。
 義理の母親とその友人は散々悪態を吐いた上に、アンジェリークの奢りだと言って、無銭飲食までしていったのだ。
 オスカーが警察に通報を検討したのだが、アンジェリークが弁財すると言ってその場は治まったのだ。
「何があるかは判らねえ。アパートまで送ってやるから、車に乗れ」
「-----はい」
 自然と助手席を空けてくれたので、アンジェリークは俯きながらそこに乗り込んだ。
 アリオスが隣りに座ると、うっすらと煙草とオーデコロンの香りがする。
 それが混じり合って、とてもドキドキする。
「-----アンジェリーク。何でも独りで解決しようとするのはおまえの悪い癖だ。家を追い出された時もそうだった」
「あの時は先生が助けてくれたから」
「おまえに当座の住むアパートを紹介したまでだ。それぐらいはあの女も出してくれたからな。本当は、おまえこそあの家に住む正統な権利はあるのに、あの女の名義に家が書き換わっていたばっかりにな」
 アリオスは苦々しく呟きながら、ハンドルを切る。
 本当に感謝してもしきれないと、アンジェリークは思う。
 これ以上関わると、アリオスにまで危害が及ぶかもしれない。
 それを避けたくて、今まで数々の嫌がらせをアンジェリークは我慢していたのだ。
「-------おまえ、俺を巻き込みたくなかったから連絡しなかったって言うのは、考え違いだぜ」
 考えていたことを見透かされて、一瞬、息を呑む。
「------図星か…。おまえ、勘違いするなよ。俺は弁護士だ。トラブルを解決するのが仕事なんだからな。その俺を巻き込みたくないって思うのは、お門違いだ」
 アリオスは淡々と話ながら、ちらりとアンジェリークを鋭い視線で捕らえる。
 この視線にとらわれの身になり、アンジェリークは息が出来なかった。
「…アリオスさんは、お父さんの弁護士だったし…」
 最後は消え入るような声で考えを伝える。
「確かに俺はおまえの親父さんの弁護士だったが、その娘が幸せになるのを力添えするのは、ごく当然のことだ。心配するな」
 力強い言葉を言ってくれるのは嬉しい。
 だが、アリオスの身に何かあることだけは、最も耐えられないことだった。
 アンジェリークにとっては、それが一番嫌なことであった。
 少なからずも好意を持っている相手ならば-----
 不意に、今夜見た女のことを思い出した。
 アリオスと一緒にいた大人の女。
「…あの…」
「何だ?」
「先ほどの方はおくらなくって良かったんですか?」
 アンジェリークがおそるおそる訊いてみると、アリオスはふっと笑った。
「美しい女にはトゲがあるから深入りはしねえ。おまえの義理の母だってそうだろ?」
 これにはアンジェリークは返事をすることが出来ずにいた。
 だがそれが可笑しいのか、アリオスは笑っている。
 大人の余裕を感じて、少し悔しい気分だった。


 暫く車を走らせて、アンジェリークのアパートに着いた。
 アリオスはわざわざ部屋の前まで送ってくれる。
 最初は凄く気を使ったのだが、部屋の前に来た瞬間アリオスに感謝せずにはいられなくなった。
 アンジェリークの部屋の前には、ちんぴら風の男が立っていたのだ。
 義母の札付きの弟だった。
 恐怖で足がすくみ、アンジェリークは思わずアリオスの顔を見る。
「知っている顔か?」
「…義理の母の弟…」
 震える声でそう言うのが精一杯だった。
「了解」
 アリオスはゆっくりと男に近付いていく。
「-----何か用か?」
「親戚に会いに来るのが何が悪い」
 男は悪びれずにアリオスに答える。
「今まで親戚づきあいというものを、ちゃんとしていたならば、悪くはないかもしれねえが、そうじゃねえみてえだからな。
 ------あの女に頼まれたか?」
「んなこと勝手だろ!」
 男が声を荒げてくるも、アリオスはあくまで冷静だった。
「立ち去れ」
 アリオスは冷たい眼差しを男に向け、睨みを利かせる。
 それは本当に背筋が凍るほどの冷たさだった。
「この子に何か用があるなら、弁護士の俺を通して来いと言っておけ」
「…くっ!」
 男は悔しそうに舌打ちをすると、そのままおとなしく帰っていった。
 アンジェリークは正直ほっとする。
「有り難うございました!!!」
 深々と礼をし、本当にアリオスがいて良かったと感謝していた。
「アンジェリーク」
 アリオスは一瞬考えるように仕草をする。
「おまえは今日から俺のところで暮らせ。それが一番安全だ」
「え!?」
 いきなり言われた言葉に、アンジェリークはただ驚くばかりだった-------
 
コメント

星の王女の古賀さんと未来ちゃんのお話をモチーフにしたアリコレです。
短い間よろしくです〜




top next