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私はたったひとりぼっちになりました。 父が事故でなくなり、今やひとり・・・。 小さなアパートでのひとり暮らしが始まりました。 学校に行きながら、品の良い創作レストランのウェイトレスとして働いて、何とか生きている感じです。 今日も学校が終わり、レストランに出勤する。 飲食業のホール係だが店の雰囲気が良いので、安心して働いている。 「いらっしゃいませ」 「頑張っているようだな」 いつものように挨拶をすると、聞き慣れた声に顔を上げた。 「先生・・・」 「久し振りだな。邪魔をするぜ」 そこにいたのは弁護士のアリオス。 父親亡き後、色々と心を砕いてくれ、アンジェリークに関する法的な処理をしてくれた。 安全な職場として、このレストランを紹介してくれたのも彼だ。 「お久し振りです」 アンジェリークは軽く会釈をすると、アリオスの横にいる美しい女性が気になった。 紅いルージュが良く似合う大人の女性。 その余裕の微笑みに、アンジェリークの胸が少しちくりと痛んだ。 結局、軽いさらりとした挨拶で再会は終わり、アンジェリークはアリオスから接客担当も外れてしまった。 生演奏が店内に響き渡り、甘い雰囲気が店内を覆っている。 この雰囲気がいつもは好きなのだが、今は少し気にいらない。 それは、アリオスと女の雰囲気を甘く盛り上げているように思えたから。 接客の合間にふたりの様子を見ると、時折見える甘い様子に胸が痛んだ。 アリオスが退店したと同時にアンジェリークの勤務時間が終了した。 「お嬢ちゃんは上がりの時間だったな。気を付けて帰るんだぜ」 「はい、ありがとうございます」 手早く着替えて、黙々と裏口に向かう。 「アンジェリーク」 聞き慣れた心地の良い声に辺りをきょろきょろとすると、そこにはアリオスが立っていた。 「・・・先生・・・」 「最近、また嫌がらせがあると聞いてな。------どうして連絡しなかった?」 「・・・まだ、そんなに酷いものじゃないから・・・」 その話題になると、アンジェリークは心に痛みを感じ、俯く。。 嫌がらせ。 それはアンジェリークが父親の相続に絡んで起こっていることだった。 アンジェリークの父親は小さな貿易会社を経営していたせいか、それなりの資産があった。 だが、前妻の連れ子であるアンジェリークが相続を行うのは不当だと、義理の母が嫌がらせをしていたのである。 先日はレストランに食事にきて、営業妨害まがいのことをしていったことを、オーナーシェフのオスカーから報告を受けていたのだ。 「・・・オスカーさん、怒ってましたか?」 「いいや。おまえの義理の母に怒りを持っているがな」 「…そうですか…」 先日のことを思い出すと、息苦しくすらなる。 義理の母親とその友人は散々悪態を吐いた上に、アンジェリークの奢りだと言って、無銭飲食までしていったのだ。 オスカーが警察に通報を検討したのだが、アンジェリークが弁財すると言ってその場は治まったのだ。 「何があるかは判らねえ。アパートまで送ってやるから、車に乗れ」 「-----はい」 自然と助手席を空けてくれたので、アンジェリークは俯きながらそこに乗り込んだ。 アリオスが隣りに座ると、うっすらと煙草とオーデコロンの香りがする。 それが混じり合って、とてもドキドキする。 「-----アンジェリーク。何でも独りで解決しようとするのはおまえの悪い癖だ。家を追い出された時もそうだった」 「あの時は先生が助けてくれたから」 「おまえに当座の住むアパートを紹介したまでだ。それぐらいはあの女も出してくれたからな。本当は、おまえこそあの家に住む正統な権利はあるのに、あの女の名義に家が書き換わっていたばっかりにな」 アリオスは苦々しく呟きながら、ハンドルを切る。 本当に感謝してもしきれないと、アンジェリークは思う。 これ以上関わると、アリオスにまで危害が及ぶかもしれない。 それを避けたくて、今まで数々の嫌がらせをアンジェリークは我慢していたのだ。 「-------おまえ、俺を巻き込みたくなかったから連絡しなかったって言うのは、考え違いだぜ」 考えていたことを見透かされて、一瞬、息を呑む。 「------図星か…。おまえ、勘違いするなよ。俺は弁護士だ。トラブルを解決するのが仕事なんだからな。その俺を巻き込みたくないって思うのは、お門違いだ」 アリオスは淡々と話ながら、ちらりとアンジェリークを鋭い視線で捕らえる。 この視線にとらわれの身になり、アンジェリークは息が出来なかった。 「…アリオスさんは、お父さんの弁護士だったし…」 最後は消え入るような声で考えを伝える。 「確かに俺はおまえの親父さんの弁護士だったが、その娘が幸せになるのを力添えするのは、ごく当然のことだ。心配するな」 力強い言葉を言ってくれるのは嬉しい。 だが、アリオスの身に何かあることだけは、最も耐えられないことだった。 アンジェリークにとっては、それが一番嫌なことであった。 少なからずも好意を持っている相手ならば----- 不意に、今夜見た女のことを思い出した。 アリオスと一緒にいた大人の女。 「…あの…」 「何だ?」 「先ほどの方はおくらなくって良かったんですか?」 アンジェリークがおそるおそる訊いてみると、アリオスはふっと笑った。 「美しい女にはトゲがあるから深入りはしねえ。おまえの義理の母だってそうだろ?」 これにはアンジェリークは返事をすることが出来ずにいた。 だがそれが可笑しいのか、アリオスは笑っている。 大人の余裕を感じて、少し悔しい気分だった。 暫く車を走らせて、アンジェリークのアパートに着いた。 アリオスはわざわざ部屋の前まで送ってくれる。 最初は凄く気を使ったのだが、部屋の前に来た瞬間アリオスに感謝せずにはいられなくなった。 アンジェリークの部屋の前には、ちんぴら風の男が立っていたのだ。 義母の札付きの弟だった。 恐怖で足がすくみ、アンジェリークは思わずアリオスの顔を見る。 「知っている顔か?」 「…義理の母の弟…」 震える声でそう言うのが精一杯だった。 「了解」 アリオスはゆっくりと男に近付いていく。 「-----何か用か?」 「親戚に会いに来るのが何が悪い」 男は悪びれずにアリオスに答える。 「今まで親戚づきあいというものを、ちゃんとしていたならば、悪くはないかもしれねえが、そうじゃねえみてえだからな。 ------あの女に頼まれたか?」 「んなこと勝手だろ!」 男が声を荒げてくるも、アリオスはあくまで冷静だった。 「立ち去れ」 アリオスは冷たい眼差しを男に向け、睨みを利かせる。 それは本当に背筋が凍るほどの冷たさだった。 「この子に何か用があるなら、弁護士の俺を通して来いと言っておけ」 「…くっ!」 男は悔しそうに舌打ちをすると、そのままおとなしく帰っていった。 アンジェリークは正直ほっとする。 「有り難うございました!!!」 深々と礼をし、本当にアリオスがいて良かったと感謝していた。 「アンジェリーク」 アリオスは一瞬考えるように仕草をする。 「おまえは今日から俺のところで暮らせ。それが一番安全だ」 「え!?」 いきなり言われた言葉に、アンジェリークはただ驚くばかりだった------- |
| コメント 星の王女の古賀さんと未来ちゃんのお話をモチーフにしたアリコレです。 短い間よろしくです〜 |