Seven Days


 アンジェね、皇子様のお嫁さんになるのがゆめなの。
 白いドレスをきらきらと着て、ぐるぐるまわって結婚するの〜!!!

 大きな溜め息がひとつ出た。
 車中私語をするなと言われ、小さくなってシートに寄り掛かる。
 ちらりと無表情な横顔を見て、また前を向いた。
 横にいるのはレウ゛ィアス。
 大コンツェルンの総裁で、今日から一週間だけアンジェリークの主人だ。
 気むずかしそうだが、かなりの美形だ。

 土足厳禁とかはきいたことあるけれど、私語厳禁の車は始めて。
 まさか、運転している時は、車と話しているからダメだ! なんてことなのかな。
 お祖父ちゃんは、是非、メイドのアルバイトに言って来いって言ってくれたけどな、早まったかな。
 お祖父ちゃんの紹介だし、その上お給料も良いから受けたけれど…。

 ひとりごちていると、車が停まった。
「アンジェリーク、着いたぞ」
「はい」
 荷物を持って、レウ゛ィアスの後を着いていく。一週間限定のメイドのバイトに、ご主人様自らが迎えにきてくれるなんて。
「アンジェリーク」
「はいっ!」
 躰に染み込んでくる声にどきどきしながら、アンジェリークは返事をした。
「今日からおまえは一週間俺付きのメイドだ。よろしく頼む」
「宜しくお願いします」
 クールなレウ゛ィアスの横顔を見てどきどきとしながら、アンジェリークは頭を下げた。
「おまえの部屋は俺の隣だ。生活用品は全て揃っている。あくまでおまえは俺のメイドだ。俺の世話だけをしてくれ」
「はいっ!」
 アンジェリークはしっかりと頷き、真剣なまなざしをアリオスに向けた。
「そんな堅苦しく考えなくたって構わない。力を落として仕事をすればいい」
「はいっ!」
 ちょっと気難しいと思っていたレウ゛ィアスが意外にそうではないのが、嬉しかった。
「制服はそこに置いている。着替えたら俺の部屋に来い」
「はいっ!」
 ドアを閉められて、アンジェリークは深呼吸をひとつした。

 こんなお姫様な部屋で、一週間過ごせるんだ〜!
  名門の一週間限定メイドバイトって聴いて、最初は腰引けちゃったけれど、やっぱり頑張れそう〜!

 現金なアンジェリークである。
 手早く可愛らしいメイド服に着替えると、すぐに隣のレウ゛ィアスのいる部屋に向かった。
 礼儀上、きちんとノックをしてから中に入る。
「アンジェリークです!」
「入れ」
 レウ゛ィアスの声に導かれて入ると、彼は丁度カフスを外しているところだった。
 余りに絵になるので、思わず見惚れてしまう。
「アンジェリーク」
 名前をきっぱりと呼ばれて、びくりとした。
「正式なノックは三回。二回はトイレだ」
「は、はい、気をつけます…」
 立派な黒檀の机に付くと、レウ゛ィアスは異色の瞳で見つめてくる。
「屋敷を案内する。着いてこい」
「は、はいっ」

 随分緊張感のある人だ・・・。

 気を引き締めて、アンジェリークは着いていくことにした。
 お茶を淹れることが出来るミニキッチン、厨房、ダイニングなどを案内される。
「おまえは、俺の世話だけをすればいい。他の仕事をしなくて構わん。会社にも着いて来て貰うこともあるからそのつもりでな」
「メ、メイドスタイルでですか!?」
「バカ、普通の格好だ」
 クールに叱咤されて、アンジェリークはしゅんとするしかなかった。
「案内は全部だ。早速だが、コーヒーを頼む」
「あっ、はいっ!」
 ぱたぱたとミニキッチンに向かい、コーヒーを準備する。
 コーヒー豆が曳いてあるのがあり、アンジェリークはそれをどうしていいか判らずに、とりあえずはいつも飲むインスタントの通りに、粉を淹れてお湯を注ぐ。
 色で判断をして、レウ゛ィアスに出すことにした。
「コーヒーです」
「ああ」レ
 ウ゛ィアスはカップに口を付けた瞬間、険しい表情になる。
「アンジェリーク、おまえはコーヒーをちゃんと淹れたことがあるのか?」
「イ、インスタントなら・・・」
「これは、コーヒーメーカーで落とすタイプのコーヒーだ。来い、作り方を教えてやる」
 ミニキッチンに連れて行かれて、そこでレクチャーを受ける。
「フィルターに曳いてあるコーヒーを入れて、ここにミネラルウォーターを注ぐ。時間が経つとコーヒーがデカンタに落ちてくる。俺の好みは、大さじ5杯のコーヒーにミネラルウォーターがピッチャーに三分の一」
「はい」
 本当に何も自分は出来ないのだと痛感すると同時に、ひとつ賢くなれて良かったとさえ思う。
「おまえはコーヒーはどんな具合が好きだ?」
「私はカフェオレが好きです」
 答えると、レウ゛ィアスが小さなミルクパンを出し、そこに特濃牛乳を注いでくれた。
「これをひと肌に温める」
 ガスコンロに乗せてレウ゛ィアスが温めてくれる。ひと肌に温めた後、丁度コーヒーもデカンタに落ちきったので、カップになみなみと注ぐ。
 レウ゛ィアスはマグカップにも少し注ぎ、そこに牛乳を入れてくれた。
「ほら、カフェオレだ。おまえも飲め」
「有り難うございます」
 たった7日のアルバイトメイドの分際でこんなことをしてもらっていいのだろうか。
 アンジェリークは真剣に考えてしまった。
「かたづけは食洗機で洗えるからいい。後でレクチャーするから」
「はい」
 とりあえずふたりはレウ゛ィアスの部屋に戻り、コーヒーブレイクを決め込む。
 ほとんど何もしていないのに休憩なんぞしてもいいのかと、アンジェリークは思ってしまった。
 ご主人様に淹れてもらったカフェオレは驚くほど美味しくて、アンジェリークは驚く。
「美味しい」
「マニュアル通りに淹れれば、誰が淹れても美味いぜ」
 あくまでレウ゛ィアスは冷静だ。
「私にも美味しいコーヒー淹れられるかな・・・」
「頑張ればな。この一週間で覚えればいい」
「はい」
 アンジェリークはしっかりと頷き、最終日にはとても美味しいコーヒーを淹れようと誓った。

 コーヒーブレイクの後、アンジェリークは何をしていいか判らずにきょろきょろとしてしまう。
「あの・・・」
「何をすればいいですか?」
「ああ。俺が呼ぶまで横で夏休みの宿題でもやっておけ」
「はあ」
 部屋から宿題を持ってくると、とりあえずはやることにする。
 レウ゛ィアスはその間黙々と仕事に励んでいた。

 いいのかなあ、こんなバイト。おじいちゃんは安心して勤めあげてこいってたけれど・・・。

 悪いと思いながら、ご主人の命令とばかりに、アンジェリークは宿題に励むことにした。
 集中して勉強していたせいか、いつしか時間が過ぎていたのに気付いたのは、アンジェリークのおなかだった。
 空腹の合図が部屋に響き渡る。
「腹が減ったのか」
 自分のおなかの音の大きさに、アンジェリークは真っ赤になって俯いている。
「そろそろ夕食の時間だな。一緒に喰いに行こう」
「はい」
 アンジェリークはレウ゛ィアスに連れられダイニングルームに向かう。
 使用人の立場であるはずなのにこんなことでいいのかと、思わずにはいられない。
 このアルバイトの裏には仕組まれたものがあることを、アンジェリークは気付かなかった。


コメント

きっと3回で終わる〜(笑)




top next