Seven Days


 サマードレスに袖を通すと、自分がお姫様になったような気分になる。
 白い肌にとても映えている。髪は肩まで下ろしたまま、シンプルにヒールを履いて、最低限のおしゃれをして待つ。
 アルバイトだからとおしゃれ道具を一切持ってこなかったのが、少し悔やまれる。
「アンジェリーク、支度は出来たか?」
「はい、ただいまっ」
 部屋のドアを空けると、そこにはレウ゛ィアスが待っていてくれた。
 スーツを一分の隙なく着こなしており、とても素敵だ。
 思わずアンジェリークは見つめずにはいられない。

 本当にレウ゛ィアス様は素敵・・・。
 ずっと見ていたい・・・。

「行くぞ」
「はいっ」
 自然にエスコートされて、アンジェリークは甘いときめきを感じた。
 車に乗っても、シンデレラ気分は続く。
 車がまるでガラスの馬車のような気分になっていた。
 最初は少しこじゃれたレストランに行くとばかり思っていたが、少しそれは違っていたようだ。
 車はホテルに到着し、アンジェリークは正直驚いた。
 レウ゛ィアスが車を駐車場に入れて、すぐにドアを開けてくれる。
 スマートにエスコートされるのが非常に嬉しかった。
 腕を組んでホテルに入り驚く。
 レストランに行くものだと思っていたのに、財界のパーティだったから。
 誰もが財界の風雲児であるレウ゛ィアスに熱い視線を送っている。
 それがとても恥ずかしい。
 今までに知らなかった雰囲気に、アンジェリークはドキドキとせずにはいられない。
 レウ゛ィアスが誰かと話している時は、ずっと隠れるようにしていた。
 「可愛いお嬢さん」そんな称賛にも、スマートに受け止めることが出来なくて、はにかんでしまうばかりだ。
 そんな自然な姿に、誰もが微笑ましく感じた。レウ゛ィアスはあくまで守るように接してくれる。
 立食形式の夕食を取って食べるときも、ちゃんと一緒にいてくれる。
「これ、美味しそう〜!!!」
「どんどん食べろ」
「はい」
 レウ゛ィアスに言われて、安心して食事を取る。
 最初は緊張して、アンジェリークは余り味を感じることが出来なかったが、今は平気だ。
 レウ゛ィアスがそばにいるから、いつも腰を支えるようにして見守ってくれるから平気だ。
 財界のパーティなど、なかなか経験出来ないことを経験できて、とても良かったと思った。
 緊張のパーティが終わり、車に揺られて家に戻る。
 アンジェリークはシンデレラの魔法が解けていくのを切なくも感じていた。

 屋敷に戻るとそのままダイニングに連れていかれる。
 少しほっとしたのか、おなかも空いてきたように気がする。
「お茶漬けを食べるように用意させた。鯛茶漬けだ」
「はい。いただきます!」
 このタイミングの良さにアンジェリークは嬉しくてしょうがなかった。
 用意してもらったお茶漬けをふたりで肩を並べて食べる。
「美味しい」
「さっきの料理よりもな」
「はい」
 さらさらとふたり並んでお茶づけを食べるのが嬉しい。
 ちんちろりんのぱりぱりと音を立てながら、食べるのと幸せな気分になっていた。
「今夜はゆっくりと休め」
「はい」
 部屋の前まで送ってもらい、アンジェリークは部屋に戻っていくレウ゛ィアスを見つめながら、ほわほわとした幸せな気分になった。

 残りのアルバイト期間はあと僅か。
 それを考えるとアンジェリークはひどく切ない気分になった。
 レウ゛ィアスの下で就職したいとすら思う。
 彼と一緒に働ければ、さぞかし楽しいだろうと思わずにはいられない。
 勤務最後の夜も、一緒に食卓を囲むことが出来た。
 それはすごく嬉しいのだが、やはり胸が詰まって余り良く食べられない。
 結局いつもの半分ぐらいの量で終わってしまった。
 夕食後、荷物の整理の後、レウ゛ィアスにどうしても言いたいことがあって、彼の部屋に尋ねる。
「ご主人様、少しよろしいですか?」
「ああ。構わん」
「失礼致します」
 アンジェリークが部屋に入ると、レウ゛ィアスは読書の最中だった。
 本を読む姿ひとつ取っても非常に絵になる。
 見惚れるとはまさにこのことを言うのだと思った。
「用は何だ? アンジェリーク」
 本を閉じて艶やかに見つめてくるレウ゛ィアスにくらくらしながら、アンジェリークはじっと視線を捕らえた。
「ご主人様、高校を出たら、私を雇っていただけませんか!? 一生懸命がんばりますから!!!」
 思い詰めたようにアンジェリークは見つめてくる。
 それが切なくて苦しい。
「メイドとして、中途半端かもしれませんが、一生懸命努力しますから!」
 レウ゛ィアスは顔色ひとつ変えずにただ聴いているだけだ。
「------おまえをメイドとして雇うわけにはいかない」
 たった一言の台詞はショックだった。
 アンジェリークは泣きたくなってしまう。
「判りました」
 力を落として部屋に戻ると、その日はベッドの上で忍び泣いた。

 翌日、少し気まずい気分の朝食の後、いよいよ出発の時間が近付いてくる。
 レウ゛ィアスに最後の挨拶をする為に、彼の部屋に立ち寄った。
「おじいちゃん!」
 そこには祖父がいたので、本当に驚く。
「よく頑張ったなアンジェリーク」
「おじいちゃん・・・」
 レウ゛ィアスが静かに近付いてきた。その姿は優雅な王子様に見える。

 どこかで、どこかで見たことがあるわ・・・。

 記憶をたぐり寄せていると、ゆっくりレヴィアスが近付いてきた。
「アンジェリーク、おまえを一生雇ってやる」
「・・・!!」
 いきなり左手を取られたかと思うと、その薬指に指輪を填められた。
 一瞬、何が起こったかが全く判らない。
「約束をとうとう果たす時が来たようだぜ」
 その言葉にはっとして息を飲む。
 幼い頃のイメージが緩やかに重なっていく。

「ねぇお兄ちゃんが皇子様でしょう? 迎えに来てくれたの?」
「おまえはまだ小さくて早いからな。ちゃんと大きくなったらお嫁さんにしてやるよ」

 幼い頃を思い出し、アンジェリークの瞳はうるうると感激と切なさで潤み出した。
「アンジェ、実はの、この七日間は、おまえの総帥夫人としての修行の一環だったんじゃよ」
「お祖父ちゃん…」
 アンジェリークは宝石のような涙を流し、じっとレヴィアスを見つめている。
「意地悪…」
「ああ。俺は意地悪だ。俺の嫁に就職しろ」
 ふたりの視線が絡み合い、お互いに微笑み合った。
 もう何もいらない。
 ふたりはどちらからともなく歩み寄るとしっかりと抱き合う。
「愛してる、アンジェ。ずっとおまえの成長を見守ってきた…。もう、待てない」
「待たないでレヴィアス…」
 深く唇を重ね合った若いふたりに、アンジェリークの祖父はぎょっとする。
「こら! ふたりともはしたない。二人っきりになった時を待てないのか!」
 祖父の叱責にもふたりは耳を貸さない。
 いいではないか。
 甘い甘い生活をやっと始めることが出来るのだから。

 その後、ふたりはすぐに結婚し、アンジェリークは一生レヴィアスの側で暮らすこととなった。

コメント

きっと3回で終わる〜(笑)

終わった(笑)




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