サマードレスに袖を通すと、自分がお姫様になったような気分になる。 白い肌にとても映えている。髪は肩まで下ろしたまま、シンプルにヒールを履いて、最低限のおしゃれをして待つ。 アルバイトだからとおしゃれ道具を一切持ってこなかったのが、少し悔やまれる。 「アンジェリーク、支度は出来たか?」 「はい、ただいまっ」 部屋のドアを空けると、そこにはレウ゛ィアスが待っていてくれた。 スーツを一分の隙なく着こなしており、とても素敵だ。 思わずアンジェリークは見つめずにはいられない。 本当にレウ゛ィアス様は素敵・・・。 ずっと見ていたい・・・。 「行くぞ」 「はいっ」 自然にエスコートされて、アンジェリークは甘いときめきを感じた。 車に乗っても、シンデレラ気分は続く。 車がまるでガラスの馬車のような気分になっていた。 最初は少しこじゃれたレストランに行くとばかり思っていたが、少しそれは違っていたようだ。 車はホテルに到着し、アンジェリークは正直驚いた。 レウ゛ィアスが車を駐車場に入れて、すぐにドアを開けてくれる。 スマートにエスコートされるのが非常に嬉しかった。 腕を組んでホテルに入り驚く。 レストランに行くものだと思っていたのに、財界のパーティだったから。 誰もが財界の風雲児であるレウ゛ィアスに熱い視線を送っている。 それがとても恥ずかしい。 今までに知らなかった雰囲気に、アンジェリークはドキドキとせずにはいられない。 レウ゛ィアスが誰かと話している時は、ずっと隠れるようにしていた。 「可愛いお嬢さん」そんな称賛にも、スマートに受け止めることが出来なくて、はにかんでしまうばかりだ。 そんな自然な姿に、誰もが微笑ましく感じた。レウ゛ィアスはあくまで守るように接してくれる。 立食形式の夕食を取って食べるときも、ちゃんと一緒にいてくれる。 「これ、美味しそう〜!!!」 「どんどん食べろ」 「はい」 レウ゛ィアスに言われて、安心して食事を取る。 最初は緊張して、アンジェリークは余り味を感じることが出来なかったが、今は平気だ。 レウ゛ィアスがそばにいるから、いつも腰を支えるようにして見守ってくれるから平気だ。 財界のパーティなど、なかなか経験出来ないことを経験できて、とても良かったと思った。 緊張のパーティが終わり、車に揺られて家に戻る。 アンジェリークはシンデレラの魔法が解けていくのを切なくも感じていた。 屋敷に戻るとそのままダイニングに連れていかれる。 少しほっとしたのか、おなかも空いてきたように気がする。 「お茶漬けを食べるように用意させた。鯛茶漬けだ」 「はい。いただきます!」 このタイミングの良さにアンジェリークは嬉しくてしょうがなかった。 用意してもらったお茶漬けをふたりで肩を並べて食べる。 「美味しい」 「さっきの料理よりもな」 「はい」 さらさらとふたり並んでお茶づけを食べるのが嬉しい。 ちんちろりんのぱりぱりと音を立てながら、食べるのと幸せな気分になっていた。 「今夜はゆっくりと休め」 「はい」 部屋の前まで送ってもらい、アンジェリークは部屋に戻っていくレウ゛ィアスを見つめながら、ほわほわとした幸せな気分になった。 残りのアルバイト期間はあと僅か。 それを考えるとアンジェリークはひどく切ない気分になった。 レウ゛ィアスの下で就職したいとすら思う。 彼と一緒に働ければ、さぞかし楽しいだろうと思わずにはいられない。 勤務最後の夜も、一緒に食卓を囲むことが出来た。 それはすごく嬉しいのだが、やはり胸が詰まって余り良く食べられない。 結局いつもの半分ぐらいの量で終わってしまった。 夕食後、荷物の整理の後、レウ゛ィアスにどうしても言いたいことがあって、彼の部屋に尋ねる。 「ご主人様、少しよろしいですか?」 「ああ。構わん」 「失礼致します」 アンジェリークが部屋に入ると、レウ゛ィアスは読書の最中だった。 本を読む姿ひとつ取っても非常に絵になる。 見惚れるとはまさにこのことを言うのだと思った。 「用は何だ? アンジェリーク」 本を閉じて艶やかに見つめてくるレウ゛ィアスにくらくらしながら、アンジェリークはじっと視線を捕らえた。 「ご主人様、高校を出たら、私を雇っていただけませんか!? 一生懸命がんばりますから!!!」 思い詰めたようにアンジェリークは見つめてくる。 それが切なくて苦しい。 「メイドとして、中途半端かもしれませんが、一生懸命努力しますから!」 レウ゛ィアスは顔色ひとつ変えずにただ聴いているだけだ。 「------おまえをメイドとして雇うわけにはいかない」 たった一言の台詞はショックだった。 アンジェリークは泣きたくなってしまう。 「判りました」 力を落として部屋に戻ると、その日はベッドの上で忍び泣いた。 翌日、少し気まずい気分の朝食の後、いよいよ出発の時間が近付いてくる。 レウ゛ィアスに最後の挨拶をする為に、彼の部屋に立ち寄った。 「おじいちゃん!」 そこには祖父がいたので、本当に驚く。 「よく頑張ったなアンジェリーク」 「おじいちゃん・・・」 レウ゛ィアスが静かに近付いてきた。その姿は優雅な王子様に見える。 どこかで、どこかで見たことがあるわ・・・。 記憶をたぐり寄せていると、ゆっくりレヴィアスが近付いてきた。 「アンジェリーク、おまえを一生雇ってやる」 「・・・!!」 いきなり左手を取られたかと思うと、その薬指に指輪を填められた。 一瞬、何が起こったかが全く判らない。 「約束をとうとう果たす時が来たようだぜ」 その言葉にはっとして息を飲む。 幼い頃のイメージが緩やかに重なっていく。 「ねぇお兄ちゃんが皇子様でしょう? 迎えに来てくれたの?」 「おまえはまだ小さくて早いからな。ちゃんと大きくなったらお嫁さんにしてやるよ」 幼い頃を思い出し、アンジェリークの瞳はうるうると感激と切なさで潤み出した。 「アンジェ、実はの、この七日間は、おまえの総帥夫人としての修行の一環だったんじゃよ」 「お祖父ちゃん…」 アンジェリークは宝石のような涙を流し、じっとレヴィアスを見つめている。 「意地悪…」 「ああ。俺は意地悪だ。俺の嫁に就職しろ」 ふたりの視線が絡み合い、お互いに微笑み合った。 もう何もいらない。 ふたりはどちらからともなく歩み寄るとしっかりと抱き合う。 「愛してる、アンジェ。ずっとおまえの成長を見守ってきた…。もう、待てない」 「待たないでレヴィアス…」 深く唇を重ね合った若いふたりに、アンジェリークの祖父はぎょっとする。 「こら! ふたりともはしたない。二人っきりになった時を待てないのか!」 祖父の叱責にもふたりは耳を貸さない。 いいではないか。 甘い甘い生活をやっと始めることが出来るのだから。 その後、ふたりはすぐに結婚し、アンジェリークは一生レヴィアスの側で暮らすこととなった。 |
コメント きっと3回で終わる〜(笑) 終わった(笑) |