日差しを浴びながら、アンジェリークは大きく深呼吸をした。 今日も一日頑張らなければならない。 太陽におはようを言ってから、元気良く駆け出していった。 世間は夏休み。 今日はアンジェリークが所属する報道部の一大イベントが待ち構えている。 ネットワークの前線に行って、現役のジャーナリストに話を聞くことが出来るのだ。 硬派なニュース系テレビ局として知られているSTVには、スモルニィ学院出身者が多く、毎年報道部の為に一日割いてくれている。 大人数だと迷惑になるので、いつも部の代表が選ばれて、スタジオに行くのだ。 今年はアンジェリークが選ばれたのだ。 イン茶ビューという名の質問大会と、後は仕事見学。 それは毎年の恒例行事になっているが、主に新人かベテランが登板している。 テレビ局に乗り込み、緊張した主持ちで待ち構える。 インタビューをとるためのMDを持つ指先がほのかに震えた。 「待たせたな」 勢い良くドアを開けて入ってきたのは、今までの担当者と違って、鋭い緊張感が漂う青年だった。 なんだか抜き身の刃みたいな人だ…。 緊張の余り背筋をぴんと延ばして、アンジェリークは立ち上がる。 「スモルニィ学院高等部、報道部です。宜しくお願いします!」 アンジェリークが挨拶すると同時に頭を下げた。 「俺は報道局第2報道チームチーフのアリオスだ。今回は、芸能デスクのオスカーが担当だったが、急なニュースが入ったために欠席だ。代わりに俺が今日一日担当させてもらう」 「宜しくお願いします」 襟を正して挨拶をした後、アリオスからレジュメが渡された。 「今の部員は何人だ?」 「5名です。みんな忙しくって、私が取材に行くことになりました」 「そうか・。報道部は随分少くねえんだな。俺がいた頃はこんな五人だけなんてことはなかったし、この学習も毎年争うほどだったのにな」 アリオスは僅かに目を細め、その事実が気に入らないようだ。 「放送部は人気がありますが、報道部は地道に取材やニュース素材を作るのがほとんどなので、人気がないんです」 「確かに、いくら華やかな業界でも、裏方は地味だからな」 アリオスは軽く頷いたが、そのまなざしは厳しかった。 「だが、真実を伝える為に、俺たち裏方は厳しい仕事をしている。自ら取材をするのはもちろんのこと、配信されるニュース素材の見極め、スクープを取るための地道な活動をせねばならねえ。その影があるからこそ、華やかな部分が生きる」 アンジェリークはアリオスの言葉にじっと聞き入っている。 「何か訊くことあったら遠慮なく言えよ」 「え!?」 いきなりふられて、アンジェリークは緊張しながら深呼吸した。 アリオスにじっと見つめられれば、緊張の余りに考えてきた質問を忘れそうだ。 「あ、あの…取材などであらゆるところに出かけられますか?」 アンジェリークはとりあえず思いついたことを単刀直入に訊いてみた。 「ああ。内戦の続くパロに半年いたな」 「”パロの光と影”っていうドキュメンタリーを見ましたが、それですか?」 「ああ、それだ」 遠慮なしに煙草を口に銜えながら、アリオスは何ごともないようにさらりと言った。 「あのピューリッツァー賞の・・・!!!」 誰もが最高のドキュメンタリーと賞するものに関わっていたジャーナリストが目の前にいる。 アンジェリークは敬意を込めて、アリオスを見た。 「素晴らしいドキュメンタリーでした。私たち平和ぼけした者たちにとっては衝撃的でしたから…。 私、あれを見て、報道部に入ろうと思ったんです」 そのプロデューサーがスモルニィ出身と知って、直ぐに入部したのだ。 だがプロデューサーが意外にもこんなに若いとは思わなかった。 「サンキュ。真実を見て考えるきっかけになることが、俺には一番嬉しい」 アリオスは素直に少女の言葉を受け入れる。 「真実を追えばおのずとから結果はついてくる」や はり実績のあるジャーナリストの言葉は納得いく。 アンジェリークは言葉を胸に刻んで、感銘を受けた。 実績のあるジャーナリストの話を聞き、仕事ぶりを見学できるのが凄く嬉しい。 「今から局内を案内するが、何か質問があれば言ってくれ」 「はい」 アリオスが立ち上がると、アンジェリークも立ち上がり、彼の後に着いていく。 大きな芸能ニュースが入ったことに感謝しながら。 だってオスカーさんが仕事でなければ、アリオスさんに会えなかったんだもん…。 アンジェリークはアリオスに尊敬の眼差しを送り、案内に着いていく。 メモを取る姿は、一端の記者のようだ。 「ここがニュースセンター。内外のニュースを一堂にここに集めて、配信すべきもの、すぐに特派員や記者が動くものか見極める」 ニュースセンターにある各局のテレビや、次々に配信されてくるニュースの山に息を呑んだ。 「ここはさしずめ戦場だ。あらゆる情報のな」 さらりとアリオスは言うと、ニュースセンターから出ていく。 「次はニューススタジオ。センターの隣にある」 丁度、お昼前のニュースをしており、報道の最前線にアンジェリークは興味を持った。 「キャスターはイヤホンを付けて、ニュースプロデューサーの声を聞いている」 アンジェリークはニュースプロデューサーとニュースキャスターを交互に見つめる。 お互いにとても息が合っているように思えた。 ニュースプロデューサーは、きめ細かい指示を出していて、とても素敵に思える。 アンジェリークにとっては、ニュースを読むアナウンサーよりも、ずっとずっとすてきに見えた。 「こうやって、指示を聞いた後、キャスターは話す。 ニュースを読むときに主観などを入れてはいけねえ。そのニュースを自らが取材したり、きちんとしたきちんとした裏付けを元にしてインタビューをした場合でも、自分の主観は入れてはならない。試聴者が本当に必要としているものは、そいつの主観じゃねえ。正確な情報だ。知りたいもの、知らせなければならないことだけをありのままに報道する。それが俺のやり方だ」 確かにアンジェリークもそうだと思った。 アリオスの考え方は、とても共感できる。 「シンプルと反骨精神、知能、体力。以上がジャーナリストに必要なもの」 アリオスがここまで言ったところで、スタッフが走ってきた。 「アリオスさん、銀行強盗発生です。人質を取っての立てこもりです!」 「判った、すぐにセンターに行く」 アリオスはアンジェリークに向き直ると、感情のない表情を向ける。 「すまねえ、俺の案内はここまでだ。報道の様子を見たければ見ても良いが邪魔しねえようにな。今日の体験学習はこれまでだ」 「私は現場を見たいです!」 力強くアンジェリークは返事をし、強い眼差しをアリオスに向ける。 勝ち気でいて澄んだ眼差し------- アリオスはふっと微笑むと、広い背中をアンジェリークに向ける。 「よし、付いてこい」 「はいっ」 アリオスは、元気よく付いてくる少女に、緊張の中で安らぎを感じていた------ |
| コメント 新しい、アリコレのカップルものを立ち上げたくて書きました。 ジャーナリストと女子高生。 今回は出逢い〜恋に落ちて編です。 頑張ります〜。 |