Thank You Mr.Right

1


 日差しを浴びながら、アンジェリークは大きく深呼吸をした。
 今日も一日頑張らなければならない。
 太陽におはようを言ってから、元気良く駆け出していった。
 世間は夏休み。
 今日はアンジェリークが所属する報道部の一大イベントが待ち構えている。
 ネットワークの前線に行って、現役のジャーナリストに話を聞くことが出来るのだ。
 硬派なニュース系テレビ局として知られているSTVには、スモルニィ学院出身者が多く、毎年報道部の為に一日割いてくれている。
 大人数だと迷惑になるので、いつも部の代表が選ばれて、スタジオに行くのだ。
 今年はアンジェリークが選ばれたのだ。
 イン茶ビューという名の質問大会と、後は仕事見学。
 それは毎年の恒例行事になっているが、主に新人かベテランが登板している。
 テレビ局に乗り込み、緊張した主持ちで待ち構える。
 インタビューをとるためのMDを持つ指先がほのかに震えた。
「待たせたな」
 勢い良くドアを開けて入ってきたのは、今までの担当者と違って、鋭い緊張感が漂う青年だった。

 なんだか抜き身の刃みたいな人だ…。

 緊張の余り背筋をぴんと延ばして、アンジェリークは立ち上がる。
「スモルニィ学院高等部、報道部です。宜しくお願いします!」
 アンジェリークが挨拶すると同時に頭を下げた。
「俺は報道局第2報道チームチーフのアリオスだ。今回は、芸能デスクのオスカーが担当だったが、急なニュースが入ったために欠席だ。代わりに俺が今日一日担当させてもらう」
「宜しくお願いします」
 襟を正して挨拶をした後、アリオスからレジュメが渡された。
「今の部員は何人だ?」
「5名です。みんな忙しくって、私が取材に行くことになりました」
「そうか・。報道部は随分少くねえんだな。俺がいた頃はこんな五人だけなんてことはなかったし、この学習も毎年争うほどだったのにな」
 アリオスは僅かに目を細め、その事実が気に入らないようだ。
「放送部は人気がありますが、報道部は地道に取材やニュース素材を作るのがほとんどなので、人気がないんです」
「確かに、いくら華やかな業界でも、裏方は地味だからな」
 アリオスは軽く頷いたが、そのまなざしは厳しかった。
「だが、真実を伝える為に、俺たち裏方は厳しい仕事をしている。自ら取材をするのはもちろんのこと、配信されるニュース素材の見極め、スクープを取るための地道な活動をせねばならねえ。その影があるからこそ、華やかな部分が生きる」
 アンジェリークはアリオスの言葉にじっと聞き入っている。
「何か訊くことあったら遠慮なく言えよ」
「え!?」
 いきなりふられて、アンジェリークは緊張しながら深呼吸した。
 アリオスにじっと見つめられれば、緊張の余りに考えてきた質問を忘れそうだ。
「あ、あの…取材などであらゆるところに出かけられますか?」
 アンジェリークはとりあえず思いついたことを単刀直入に訊いてみた。
「ああ。内戦の続くパロに半年いたな」
「”パロの光と影”っていうドキュメンタリーを見ましたが、それですか?」
「ああ、それだ」
 遠慮なしに煙草を口に銜えながら、アリオスは何ごともないようにさらりと言った。
「あのピューリッツァー賞の・・・!!!」
 誰もが最高のドキュメンタリーと賞するものに関わっていたジャーナリストが目の前にいる。
 アンジェリークは敬意を込めて、アリオスを見た。
「素晴らしいドキュメンタリーでした。私たち平和ぼけした者たちにとっては衝撃的でしたから…。
 私、あれを見て、報道部に入ろうと思ったんです」
 そのプロデューサーがスモルニィ出身と知って、直ぐに入部したのだ。
 だがプロデューサーが意外にもこんなに若いとは思わなかった。
「サンキュ。真実を見て考えるきっかけになることが、俺には一番嬉しい」
 アリオスは素直に少女の言葉を受け入れる。
「真実を追えばおのずとから結果はついてくる」や
 はり実績のあるジャーナリストの言葉は納得いく。
 アンジェリークは言葉を胸に刻んで、感銘を受けた。
 実績のあるジャーナリストの話を聞き、仕事ぶりを見学できるのが凄く嬉しい。
「今から局内を案内するが、何か質問があれば言ってくれ」
「はい」
 アリオスが立ち上がると、アンジェリークも立ち上がり、彼の後に着いていく。
 大きな芸能ニュースが入ったことに感謝しながら。

 だってオスカーさんが仕事でなければ、アリオスさんに会えなかったんだもん…。

 アンジェリークはアリオスに尊敬の眼差しを送り、案内に着いていく。
 メモを取る姿は、一端の記者のようだ。
「ここがニュースセンター。内外のニュースを一堂にここに集めて、配信すべきもの、すぐに特派員や記者が動くものか見極める」
 ニュースセンターにある各局のテレビや、次々に配信されてくるニュースの山に息を呑んだ。
「ここはさしずめ戦場だ。あらゆる情報のな」
 さらりとアリオスは言うと、ニュースセンターから出ていく。
「次はニューススタジオ。センターの隣にある」
 丁度、お昼前のニュースをしており、報道の最前線にアンジェリークは興味を持った。
「キャスターはイヤホンを付けて、ニュースプロデューサーの声を聞いている」
 アンジェリークはニュースプロデューサーとニュースキャスターを交互に見つめる。
 お互いにとても息が合っているように思えた。
 ニュースプロデューサーは、きめ細かい指示を出していて、とても素敵に思える。
 アンジェリークにとっては、ニュースを読むアナウンサーよりも、ずっとずっとすてきに見えた。
「こうやって、指示を聞いた後、キャスターは話す。
 ニュースを読むときに主観などを入れてはいけねえ。そのニュースを自らが取材したり、きちんとしたきちんとした裏付けを元にしてインタビューをした場合でも、自分の主観は入れてはならない。試聴者が本当に必要としているものは、そいつの主観じゃねえ。正確な情報だ。知りたいもの、知らせなければならないことだけをありのままに報道する。それが俺のやり方だ」
 確かにアンジェリークもそうだと思った。
 アリオスの考え方は、とても共感できる。
「シンプルと反骨精神、知能、体力。以上がジャーナリストに必要なもの」
 アリオスがここまで言ったところで、スタッフが走ってきた。
「アリオスさん、銀行強盗発生です。人質を取っての立てこもりです!」
「判った、すぐにセンターに行く」
 アリオスはアンジェリークに向き直ると、感情のない表情を向ける。
「すまねえ、俺の案内はここまでだ。報道の様子を見たければ見ても良いが邪魔しねえようにな。今日の体験学習はこれまでだ」
「私は現場を見たいです!」
 力強くアンジェリークは返事をし、強い眼差しをアリオスに向ける。
 勝ち気でいて澄んだ眼差し-------
 アリオスはふっと微笑むと、広い背中をアンジェリークに向ける。
「よし、付いてこい」
「はいっ」
 アリオスは、元気よく付いてくる少女に、緊張の中で安らぎを感じていた------
コメント

新しい、アリコレのカップルものを立ち上げたくて書きました。
ジャーナリストと女子高生。
今回は出逢い〜恋に落ちて編です。
頑張ります〜。




top next