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アリオスがこんなところにどうして連れて来たのか。アンジェリークは全く理解出来ない。 「…綺麗になる為の練習ですか?」 「いいや。おまえもこのオーディションに参加してもらう」 「…!!!」 アリオスは当然だろうとばかりにさらりと言ってのけたが、それこそアンジェリークには寝耳に水の状態だった。 「あ、あの…、私なんかをこんなオーディションに出しても、惨めになるだけだと…」 卑屈で情けないことを言うと、アリオスは綺麗な顔を険しくさせる。その凄みに、アンジェリークはビクリとせずにはいられなかった。 「ちょっと来い」 「あ、あのっ!?」 アリオスはアンジェリークの腕を掴むなり、強引にバックヤードに引っ張っていく。 相当怒っていることがありありと解り、アンジェリークは緊張に顔を強張らせた。 「アンジェリーク、おまえ、”私なんか”って言ったよな?」 「…言いました」 「金輪際、”私なんか”と言うのは禁止だ。破ったら…」 「破ったら?」 「お仕置きだ」 アリオスがいきなり顔を近づけてきたので、アンジェリークは避けられない。そのまま唇が、甘く塞がれた。 ほんの一瞬だったので何も考える余裕なんてあろう筈もない。 「…アリオスさん?」 「おまえは大丈夫だ。落ち着かせる呪いをしてやっただけだ」 頭の中が混乱していて、アンジェリークはイマイチはっきりすっきりしないのを感じる。 「おら、このまま審査員の前に出て、いつものおまえと同じようにやってみろよ」 「…はい」 アリオスの強引な眼差しを見ていると、頷かずにはいられなくなってしまうのが、不思議でならない。 「アンジェリーク、行け」 「はい!」 アリオスに背中を押されて、アンジェリークは何故かオーディション会場に向かう。 どういう主旨でアンジェリークがここにいなければならないのかがイマイチ解らないままだ。 アリオスに連れられて、審査室に入る。何だか入試の面接会場を思い出さずにはおられない。 目の前には、まさに面接官のような面々が座っている。誰もが業界人のような雰囲気を持っている。だが時折重厚な雰囲気の男も座っていた。アリオスも端にどかりと腰をかけて長い脚を投げ出していた。 アンジェリークは腰を下ろしたものの、ついアリオスにヘルプな眼差しを向けてしまう。 「名前と年齢、身長を教えて下さい。後は今の身分も」 「アンジェリーク・コレットです。17歳です。身長は162センチです。スモルニィ女学院高校二年です」 淡々とほぼ棒読み状態で、アンジェリークは答える。 「趣味とかは?」 「趣味は食べることです。この間は、バケツパフェを完食して表彰されました」 この一言に、会場内は沸き上がり、特にアリオスは喉を鳴らして笑っている。 アンジェリークは真っ赤になりながら、少し恥ずかしい想いをした。 後はとりとめない、入試のようなやりとりが続く。このような会場に来るのは初めてのアンジェリークは、頭を何度も傾げながら、質問に答えていった。 まるで面接のようなことが済むと、アンジェリークは待っているように言われてーちんまりと控室の隅で待つ。 その間も綺麗な女の子たちが表情の練習などをしていた。いったい、どうしたらこのように愛らしい表情でいられるのだろうか。どこからその自信が産まれるのか、不思議でならなかった。 誰も、アンジェリークがライバルになるなんて全く想うこともなく、続々とオーディション会場に向かう。 アンジェリークもどうしてこんなところに自分がいるのか首を傾げながら、鞄の中に詰め込んでいたお菓子をぱくぱくと食べた。 アンジェリークがお菓子をぱくぱくと食べているのを、信じられないといった眼差しで見られる。そんな視線は完全に無視をして、アンジェリークはお菓子を食べ続けた。 全員のオーディションが終わり、アリオスが審査室から出て来た。アンジェリークはお腹がすっかり空いてしまったので、早く家に帰って食事がしたい心境だ。 アリオスは他の審査員達と一緒に別室へと入ろうとしている。ここでアリオスに近付く訳にも行かず、アンジェリークはひとりお腹を鳴らす。 「お腹空いたなあ」 アリオスがひと足早く戻って来たので、アンジェリークは早速駆け寄った。 「…アリオスさん、お腹が空いたから帰っていい?」 「飯ぐれえは俺が奢ってやるから心配すんな。後、10分待て」 「もうお腹が空いてたまりません…」 「ったく」 アリオスは苦笑すると、「それでも少し待て」と言って、向こうに行ってしまった。 「こんなにお腹を空かされたんだから、いいもん驕って貰わないと気が晴れないなあ」 アンジェリークは、周りが緊張感につつまれているというのに、ちっともそんな気分にはならない。多田、手持ちのおやつがなくなってしまったので、切ないだけだ。 不意に、待合いがざわめき始めた。 別室からアリオスを始めとする、審査員達が出てくる。一瞬アンジェリークはアリオスと目が合い、思わずにやりと笑ってしまった。勿論、アリオスもフッと悩ましいほど素敵な笑顔を浮かべてくれる。 「オーディション結果を発表します」 誰もが固唾を呑んで次の一言を待つ。勿論、アンジェリーク以外の話だ。あんじぇりーくはと言えば、全く蚊帳の外の話だと思っていたので、ぶらぶらと足をさせて、アリオスがどこに連れて行ってくれるのかなどを、じっと考えていた。 「-----CM雑誌のイメージガールは、アンジェリーク・コレットさんに決定しました」 誰もがざわつきアンジェリークを見つめる。 何を言われたのか、アンジェリークは判らずにきょとんとしている。 「おい、おまえだ! アンジェリーク・コレット! 返事は!?」 アリオスが呆れたような視線を向け、苛立つように名前を呼ぶ。 アンジェリークは眩しさを感じながら目を細めると、素直に返事をした。 「-----はい」 アリオスに待望の焼き肉屋に連れて行って貰ったものの、アンジェリークは口を尖らせながら、肉を突いていた。 「アリオスさん、私には無理です」 「無理じゃねえよ」 先ほどからこの押し問答ばかりが続いている。 アンジェリークは一度言う事に肉をぱくんと口に入れた。とても美味しくて上等な肉なのに、こんな押し問答が続いていれば、なかなか美味しいとは感じられないでいる。 「-----おまえはもっと自信を持って良い」 「でも…」 「でももへったくれもねえ。おまえが本当に魅力的だって事を、俺がしっかり証明してやるよ」 アリオスが自信に満ちた眼差しを向けてきてくれる。アンジェリークはその人箕面國吸い込まれそうになりながら、信じてみようという気になっていた----- 私でも、綺麗になれるの…? |
| コメント 新しいアリコレ。 シンデレラものです。 現役コンパニオンの頃、ウォーキングやら姿勢やらのことについてよく言われたので、 思い出しながら書きました(笑) |