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アリオスにエスコートをされて、アンジェリークはダンスの輪に入っていく。 大好きな男性と踊ることでの輝きと恥じらいが、アンジェリークを美しく見せている。 理想のカップル。 誰もがそう思わずにはいられない。 アンジェリークは、頬を真っ赤に染め上げながら、アリオスとの刹那のダンスを精一杯楽しんでいた。 甘い甘い緊張を、全身に漲らせて。 「きゃっ」 ダンスの途中で足を取られてしまい、アンジェリークはバランスを崩した。 だが、そこはアリオスが腰を掴み、アンジェリークを支えてくれる。 その腕の力強さに、アンジェリークはときめかずにはいられない。 「…ありがとう・・・」 かなり強い密着に、アンジェリークは鼓動を早くさせた。 その音が聞こえたのか、アリオスは僅かに笑う。 「支えていてやろうか? 腰」 「・・・だったら、踊れない」 拗ねるような甘いからかいの含んだ眼差しが可愛くて、アリオスは余計に力を込めた。 支えながら踊るというのは、ふわふわとした気持ちになれてしまうのだろうか。 曲が終わってしまっても、ふたりはダンスを止めようとはしなかった。 次の曲に変わっても、飽くなくふたりは踊り続ける。次の曲に変わっても、飽くなくふたりは踊り続ける。 ずっとそばにいたいという思いが酷く強かったから。 踊るふたりは、はたから見るととてもお似合いで、誰もが羨望のまなざしで見ていた。 もっともっと踊っていたい------ 一晩中でも踊りあかしたい。 だが、待ってはくれない。 満ちていた潮が引くように、最後の曲が終わった。 至福の時間が終わってしまう。 「姫様、お時間のようです」 アリオスの手が離れて、砂糖菓子の時間は音を立てて崩れ落ちた。 舞踏会を兼ねた婚約披露パーティが終わり、ロザリアとルウ゛ァに挨拶をしてから、アンジェリークは宿舎に戻る。 そばにはアリオスがいてくれるが、すでに先程の親密具合はほとんどなく、事務的な態度になっている。 宿舎に戻ると、アンジェリークは手早くドレスを脱いでお風呂に入り、寝る準備を整えた。 明日の夕方には国に帰り、アリオスはもうそばにいてくれないかもしれない。 そんな切なさと絶望感がアンジェリークを支配し、動かす。 守ってくれる為に、彼女が使う部屋の中にある小さな部屋にいてくれるのが、嬉しく、今日は好都合に感じた。 アリオスは壁を隔ててすぐ近くにいることを、意識し過ぎてしまい、胸が切なく高まっていく。 「アリオス…、起きてる?」 ノックをするとすぐに扉が開いた。 シャワーを浴びた直後らしく、髪が艶やかに濡れていてセクシーだ。 異色の瞳が、値ぶみをするかのように見つめてくる。 妖しくも艶やかな視線は、アンジェリークの躰を潤ませた。 アンジェリークもまた、アリオスをじっと見つめる。 唇がからからに乾いて、思わず舌で周りを舐めた。 「・・・何をしに来た?」 アリオスは視線を逸らさずに、アンジェリークの心を射ぬくように見つめてくる。 「・・・あなたを襲いに来たの・・・」 アリオスの口角が僅かに上がる。 次の瞬間、唇が深く下りてきた。 唇を激しく包みこまれて、吸い込まれていく。舌が生きているように口腔内を蠢き、征服された。 「んふっ・・・」 唇を離された後、大きく深呼吸をすると、意地悪に笑われる。 「俺を襲いに来たんだろ? そのお手並みを見せてもらわねえとな?」 抱き上げられると、アンジェリークはアリオスの首に手を回す。 そこには、主従の壁など存在しない。そこにあるのは愛情だけ。 今は自分の感情に従えばいい。 アンジェリークはアリオスの腕の中で温もりに包まれながら、愛情の波に溺れた。 「アリオス…」 「アンジェ…」 手を握りしめあって、お互いに愛を伝えあう。 天使のような王女に純潔を求める人もいるかもしれない。 だが、アンジェリークは、全てを愛するアリオスに捧げたかった。 後悔は絶対にしない。 それどころか、アリオスと愛し合わなかったほうが後悔すると思ったから。 愛する人と魂を近く寄せ合って、ひとつに溶け合うのはこれ以上ないほど嬉しい。 今、アンジェリークは至福の時にいた。 いつ寝てしまったのだろうか。 いつベッドに運ばれたのだろうか。 気怠い心地好さに目覚めると、いつの間にか自分のベッドに寝かされていた。 ふと胸元に何かが当たる感触がして、はっとする。 「これは・・・」 胸元には、アンジェリークが2度もチェーンを切ったあのペンダントがかけられていた。 チェーンは完全に新しくなっている。 アリオスが変えてくれたのだろう。 それを思うと涙が出るほど嬉しかった。 視線が否が応でも胸元に行く。 ペンダントが揺れる、アリオスが激しく愛してくれた白い胸には、所有の痕がいたるところで付いている。 幾日かはきっと消えないだろう。 むしろ、痕は残っていて嬉しかった。 ずっと残っていて欲しい アリオスに愛された証しは絶対に消したくはないから。 「…アリオス。大好き…」 アンジェリークはぎゅっと膝小僧を抱くと咽び泣いた。 着替えた後、朝食の席についたものの、アリオスばかりを目で追ってしまう。 だが、彼は淡々としており、いつもと全く変わらなかった。 時折、目線が合うことがあったが、アリオスはあくまでクールだ。 朝食が終わるとすぐに支度を済ませると、いよいよ帰国のとにつく。 「殿下、お時間です」 「はい」 感情など全くないとばかりのアリオスに、アンジェリークは切なすぎて、何とか返事をすることしか出来なかった。 車に乗って空港に向かい、簡単な記者会見の後、いよいよ帰国だ。 特別機に乗りフェリシアから母国アルカディアへ向かう。 行きと同じようにアリオスはすぐそばにいてくれる。 だが、昨日の夜、あんなに深く愛し合ったのは嘘だと思えるほど、素っ気がなかった。 短い空の旅は、アリオスを思うだけで終わり、切なくも別れの時間がやってくる。 「殿下、今回の旅は御苦労様でした。ゆっくりお休みになって下さい」 アリオスはとても礼儀正しく言った後、軍人らしく敬礼をした。 「こちらこそ有り難うございました」 本当は思い切り抱き付きたい------ だがそれも叶わないことは判っている。 潤んだ瞳を向けると、アンジェリークはただ手をアリオスに差し伸べた。 アリオスもまたそれだけで総ての気持ちを察したかのように、アンジェリークの手をぎゅっと握りしめてくれる。 ほんの一瞬の握手------- それが、アンジェリークにとってはなによりもの贈り物になり、忘れられない想い出となった。 3日後------ アリオスに付けられた所有の痕がすでに消えかかっていた頃、アンジェリークは父王ジュリアスに再び呼び出された。 「おまえに逢わせたいものがいる」 「逢わせたい人-------」 「おまえの花婿候補だ…。我が国でも大公の地位を持った、名門貴族だ…」 誰にあってもこの心の空洞は埋まりやしない。 これを埋めることが出来るのは、たったひとり---- 「お父様…、私」 アンジェリークが、そんな気分ではないと、父親に言いそうになったその時------- 「入ってきなさい」 アンジェリークの心を無視するかのように、控えの間にいる”誰か”にジュリアスは声をかける。 「ちょっと、お父様、私にも…!!!」 焦って射止めようとしたとき、アンジェリークは呼吸が停まるのではないかと思った。 そこに現れたのは、アリオス、その人。 恋いこがれた相手である。 もう…。 何も迷わなくたって構わない…!!! 「おまえも、よく知っているだろう、アリオス中佐だ。おまえとの顔合わせに、今回は…アンジェ!」 ジュリアスが言い終わらないうちに、アンジェリークはアリオスにしっかりと抱き付いていた。 胸元のペンダントが揺れる。 アリオスもしっかりとアンジェリークを抱きしめる。 「嘘つき…!」 「言いたくても言えなかったが、おまえには躰に刻み込んで伝えたつもりだぜ?」 「バカ…」 涙を瞳に滲ませて、アンジェリークはアリオスを見つめる。 次の瞬間、ふたりはためらうことなく唇を重ね合った------- 「こら、アンジェ、人前で…!」 父親の言うことなんて耳に入らない。 いいではないか。 だって恋いこがれた相手なのだから。 今、判ること。 それは、あのペンダントの伝説が本当だと言うこと。 可愛いペンダントさんへ。 あなたのお陰で、素敵な男性に巡り会えました…。 有り難う…。 心の中で感謝を囁きながら、アンジェリークは夢中になってキスに溺れる。 幸せな姫を見守るように、胸に光るペンダントが美しく輝いた------ Happy End |
| コメント 「王家の恋」。今回はアンジェリークがお姫様です。 甘く切なく美しい恋物語をお届けする予定ですので、お楽しみ下さいませ。 今回のアリオスもステキに格好良い予定です。 正統派のお話です〜。 ようやくラストまでこぎ着けました。 ばんざ〜い!!! |