bodyguard

9


 アリオスにエスコートをされて、アンジェリークはダンスの輪に入っていく。
 大好きな男性と踊ることでの輝きと恥じらいが、アンジェリークを美しく見せている。
 理想のカップル。
 誰もがそう思わずにはいられない。
 アンジェリークは、頬を真っ赤に染め上げながら、アリオスとの刹那のダンスを精一杯楽しんでいた。
 甘い甘い緊張を、全身に漲らせて。
「きゃっ」
 ダンスの途中で足を取られてしまい、アンジェリークはバランスを崩した。
 だが、そこはアリオスが腰を掴み、アンジェリークを支えてくれる。
 その腕の力強さに、アンジェリークはときめかずにはいられない。
「…ありがとう・・・」
 かなり強い密着に、アンジェリークは鼓動を早くさせた。
 その音が聞こえたのか、アリオスは僅かに笑う。
「支えていてやろうか? 腰」
「・・・だったら、踊れない」
 拗ねるような甘いからかいの含んだ眼差しが可愛くて、アリオスは余計に力を込めた。
 支えながら踊るというのは、ふわふわとした気持ちになれてしまうのだろうか。
 曲が終わってしまっても、ふたりはダンスを止めようとはしなかった。
 次の曲に変わっても、飽くなくふたりは踊り続ける。次の曲に変わっても、飽くなくふたりは踊り続ける。
 ずっとそばにいたいという思いが酷く強かったから。
 踊るふたりは、はたから見るととてもお似合いで、誰もが羨望のまなざしで見ていた。
 もっともっと踊っていたい------
 一晩中でも踊りあかしたい。
 だが、待ってはくれない。
 満ちていた潮が引くように、最後の曲が終わった。
 至福の時間が終わってしまう。
「姫様、お時間のようです」
 アリオスの手が離れて、砂糖菓子の時間は音を立てて崩れ落ちた。

 舞踏会を兼ねた婚約披露パーティが終わり、ロザリアとルウ゛ァに挨拶をしてから、アンジェリークは宿舎に戻る。
 そばにはアリオスがいてくれるが、すでに先程の親密具合はほとんどなく、事務的な態度になっている。
 宿舎に戻ると、アンジェリークは手早くドレスを脱いでお風呂に入り、寝る準備を整えた。
 明日の夕方には国に帰り、アリオスはもうそばにいてくれないかもしれない。
 そんな切なさと絶望感がアンジェリークを支配し、動かす。
 守ってくれる為に、彼女が使う部屋の中にある小さな部屋にいてくれるのが、嬉しく、今日は好都合に感じた。
 アリオスは壁を隔ててすぐ近くにいることを、意識し過ぎてしまい、胸が切なく高まっていく。
「アリオス…、起きてる?」
 ノックをするとすぐに扉が開いた。
 シャワーを浴びた直後らしく、髪が艶やかに濡れていてセクシーだ。
 異色の瞳が、値ぶみをするかのように見つめてくる。
 妖しくも艶やかな視線は、アンジェリークの躰を潤ませた。
 アンジェリークもまた、アリオスをじっと見つめる。
 唇がからからに乾いて、思わず舌で周りを舐めた。
「・・・何をしに来た?」
 アリオスは視線を逸らさずに、アンジェリークの心を射ぬくように見つめてくる。
「・・・あなたを襲いに来たの・・・」
 アリオスの口角が僅かに上がる。
 次の瞬間、唇が深く下りてきた。
 唇を激しく包みこまれて、吸い込まれていく。舌が生きているように口腔内を蠢き、征服された。
「んふっ・・・」
 唇を離された後、大きく深呼吸をすると、意地悪に笑われる。
「俺を襲いに来たんだろ? そのお手並みを見せてもらわねえとな?」
 抱き上げられると、アンジェリークはアリオスの首に手を回す。
 そこには、主従の壁など存在しない。そこにあるのは愛情だけ。
 今は自分の感情に従えばいい。
 アンジェリークはアリオスの腕の中で温もりに包まれながら、愛情の波に溺れた。

「アリオス…」
「アンジェ…」
 手を握りしめあって、お互いに愛を伝えあう。
 天使のような王女に純潔を求める人もいるかもしれない。
 だが、アンジェリークは、全てを愛するアリオスに捧げたかった。
 後悔は絶対にしない。
 それどころか、アリオスと愛し合わなかったほうが後悔すると思ったから。
 愛する人と魂を近く寄せ合って、ひとつに溶け合うのはこれ以上ないほど嬉しい。
 今、アンジェリークは至福の時にいた。

 いつ寝てしまったのだろうか。
 いつベッドに運ばれたのだろうか。
 気怠い心地好さに目覚めると、いつの間にか自分のベッドに寝かされていた。
 ふと胸元に何かが当たる感触がして、はっとする。
「これは・・・」
 胸元には、アンジェリークが2度もチェーンを切ったあのペンダントがかけられていた。
 チェーンは完全に新しくなっている。
 アリオスが変えてくれたのだろう。
 それを思うと涙が出るほど嬉しかった。
 視線が否が応でも胸元に行く。
 ペンダントが揺れる、アリオスが激しく愛してくれた白い胸には、所有の痕がいたるところで付いている。
 幾日かはきっと消えないだろう。
 むしろ、痕は残っていて嬉しかった。
 ずっと残っていて欲しい
 アリオスに愛された証しは絶対に消したくはないから。
「…アリオス。大好き…」
 アンジェリークはぎゅっと膝小僧を抱くと咽び泣いた。

 着替えた後、朝食の席についたものの、アリオスばかりを目で追ってしまう。
 だが、彼は淡々としており、いつもと全く変わらなかった。
 時折、目線が合うことがあったが、アリオスはあくまでクールだ。
 朝食が終わるとすぐに支度を済ませると、いよいよ帰国のとにつく。
「殿下、お時間です」
「はい」
 感情など全くないとばかりのアリオスに、アンジェリークは切なすぎて、何とか返事をすることしか出来なかった。
 車に乗って空港に向かい、簡単な記者会見の後、いよいよ帰国だ。
 特別機に乗りフェリシアから母国アルカディアへ向かう。
 行きと同じようにアリオスはすぐそばにいてくれる。
 だが、昨日の夜、あんなに深く愛し合ったのは嘘だと思えるほど、素っ気がなかった。
 短い空の旅は、アリオスを思うだけで終わり、切なくも別れの時間がやってくる。
「殿下、今回の旅は御苦労様でした。ゆっくりお休みになって下さい」
 アリオスはとても礼儀正しく言った後、軍人らしく敬礼をした。
「こちらこそ有り難うございました」
 本当は思い切り抱き付きたい------
 だがそれも叶わないことは判っている。
 潤んだ瞳を向けると、アンジェリークはただ手をアリオスに差し伸べた。
 アリオスもまたそれだけで総ての気持ちを察したかのように、アンジェリークの手をぎゅっと握りしめてくれる。
 ほんの一瞬の握手-------
 それが、アンジェリークにとってはなによりもの贈り物になり、忘れられない想い出となった。


 3日後------
 アリオスに付けられた所有の痕がすでに消えかかっていた頃、アンジェリークは父王ジュリアスに再び呼び出された。
「おまえに逢わせたいものがいる」
「逢わせたい人-------」
「おまえの花婿候補だ…。我が国でも大公の地位を持った、名門貴族だ…」
 誰にあってもこの心の空洞は埋まりやしない。
 これを埋めることが出来るのは、たったひとり----
「お父様…、私」
 アンジェリークが、そんな気分ではないと、父親に言いそうになったその時-------
「入ってきなさい」
 アンジェリークの心を無視するかのように、控えの間にいる”誰か”にジュリアスは声をかける。
「ちょっと、お父様、私にも…!!!」
 焦って射止めようとしたとき、アンジェリークは呼吸が停まるのではないかと思った。
 そこに現れたのは、アリオス、その人。
 恋いこがれた相手である。

 もう…。
 何も迷わなくたって構わない…!!!

「おまえも、よく知っているだろう、アリオス中佐だ。おまえとの顔合わせに、今回は…アンジェ!」
 ジュリアスが言い終わらないうちに、アンジェリークはアリオスにしっかりと抱き付いていた。
 胸元のペンダントが揺れる。
 アリオスもしっかりとアンジェリークを抱きしめる。
「嘘つき…!」
「言いたくても言えなかったが、おまえには躰に刻み込んで伝えたつもりだぜ?」
「バカ…」
 涙を瞳に滲ませて、アンジェリークはアリオスを見つめる。
 次の瞬間、ふたりはためらうことなく唇を重ね合った-------
「こら、アンジェ、人前で…!」
 父親の言うことなんて耳に入らない。
 いいではないか。
 だって恋いこがれた相手なのだから。
 今、判ること。
 それは、あのペンダントの伝説が本当だと言うこと。

 可愛いペンダントさんへ。
 あなたのお陰で、素敵な男性に巡り会えました…。
 有り難う…。

 心の中で感謝を囁きながら、アンジェリークは夢中になってキスに溺れる。
 幸せな姫を見守るように、胸に光るペンダントが美しく輝いた------

 Happy End
コメント

「王家の恋」。今回はアンジェリークがお姫様です。
甘く切なく美しい恋物語をお届けする予定ですので、お楽しみ下さいませ。
今回のアリオスもステキに格好良い予定です。
正統派のお話です〜。

ようやくラストまでこぎ着けました。
ばんざ〜い!!!



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