bodyguard

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 恋をしている。
 相手は、後ろで私をしっかりと守ってくれる男性。
 仕事をする時は、たまらなくクールなのに、プライベートではとても素敵な男性。

 アンジェリークは後ろを振り向くことはなかったが、アリオスに甘い思いを送っていた。
 フェリシア城では、盛大に、ロザリアとフェリシア一の学者と称賛されているルウ゛ァ公爵との婚約式がもようされる。
 アンジェリークはパリロー夫人と、影のようにアンジェリークを守ってくれているアリオスと共に”参列”していた。
 婚約式のロザリアは本当に輝いていて美しい。

 本当に綺麗、ロザリア姉様。
 愛する人との恋が成就するって、なんて恋人たちを輝かせるんだろうか・・・。
 私とアリオスはああはなれない、きっと・・・。
 彼は私の今だけの警護官で、愛する人も別にいるのだろうから・・・。

 自分とロザリアを比べてはいけないのは判っている。
 だが、どうしてもそうしてしまう。

 豪華な式の後は、親近者だけの昼食会があり、夜は盛大な舞踏会がある。
 アンジェリークは、もちろん両方とも参加する。
 一端、休憩を挟み、アンジェリークはバンケットルームに着いていく。
「中佐、エリーズさんからお電話です」
「ああ」
 アリオスは部下からすぐに電話を受けとると、廊下の隅で電話で話しにいく。
 エリーズ。
 何度もその名が聞かれて、アンジェリークはやきもきとしていた。
 アリオスの恋人かもしれないと、ずっと思っている。
 手早く電話が終わったからか、アリオスはすぐに戻ってきた。
「殿下、失礼致しました」
「エリーズさんって、どなたですか?」
 なるべく平静を装うようにして、アンジェリークはアリオスにおもいきって訊いてみた。
「プライベートですから、殿下には関係はございません」
「…ごめんなさい…」
 アンジェリークは急にしゅんとして肩を落とし、それからしばらくはずっと落ち込んでいた。
 アリオスのことばかり重く考えて、食事があまり喉を通らない。
 だが、みんなが心配しないようにと、努めて明るく振る舞った。

 舞踏会のドレスに袖を通すのも、急におっくうな気分になる。
 ミセスパリローが一生懸命準備をしてくれ、アンジェリークは美しく着飾ってもらう。
 それは人形のように完璧な美しさで、誰もが感嘆な声を上げる。
「殿下、お迎えに参りました」
 アリオスは、アンジェリークを見るなり、その美しさに魂を奪われる。
 アリオスもまた、普段のスーツ姿ではなく、彼にとっては正装である軍服に身を包んでいる。
 初めて見る彼の軍服姿に、アンジェリークはしばし言葉を失った。
 素敵すぎてめまいがしそうだ。
 他の女性のものだと判っているにも関わらず、やはり恋をせずにはいられない。
「王女殿下」
 アリオスに手を差し延べられると、アンジェリークは彼の手に手を重ねて、ゆっくりと歩いていく。
 手を繋いだときとはまた違った親密度を感じてときめいた。
 すごくどきどきする。
 アリオスに胸の鼓動が聞こえないか、少し心配になる。
 アンジェリークはうっとりと夢見ごちになりながら、会場に乗り込んだ。

 用意された来賓席に座り、その奥に座ったアリオスとの距離を感じて嫌だった。
 ロザリアとルウ゛ァの幸せそうなカップルを見せつけられると、とても嬉しく思うが、心の奥底ではアリオスと自分を比べて暗い気分になってしまう。
 誰とも踊る気にはなれずに、ただ席にぼんやりと座った。
 とても楽しそうに踊る従姉とその恋人に、自分たちをつい重ねてしまう。
 アリオスと一度でいいからああやって踊りたい。
「アンジェリーク姫。フェリシア国公爵オスカーです。一曲お相手願いますか?」
 最初のダンスを申し入れてくれたのは、燃えるような赤毛のオスカーだ。
「はい、オスカー公爵、喜んで」
 アンジェリークは心からの笑顔を向けることが出来なかったが、立ち上がってオスカーの申し入れを受け入れる。
 アンジェリークとオスカーがダンスの輪に入っていくと、アリオスも立ち上がり、護るように壁側に陣取る。
 その瞳は究極に冷酷さを帯びていた。
「あの、彼・・・」
「え?」
「殿下の警護官ですよ。凄く機嫌が悪そうだ」
 オスカーに指摘され、アンジェリークは後ろめたさを感じながら、アリオスを見る。
 アンジェリークにはいつもの職務に忠実な姿に見える。
 誰から見ても、アリオスがジェラシーのせいで不機嫌オーラを出しているのは明白だが、アンジェリークは気づかない。
「いつも、ああですから・・・」
 アンジェリークの力ない答えに、オスカーは僅かに微笑む。
「お気付きになられていないのですね。炎のような冷たい瞳で、俺を射るように見てますよ。あまり怒りが集中しない程度にしないと」
 オスカーが笑ったところで、音楽が止まった。
「私のお相手はここまで」
 オスカーがウィンクをすると、アンジェリークは笑わずにはいられなかった。
 オスカーが辞した後、アンジェリークは風にあたりたくなって、バルコニーに出る。
「アンジェリーク」
 優しい声に振り向くと、そこにはロザリアが艶やかに微笑みながら立っていた。
「ロザリア姉様・・・」
「元気ないわよ? 大好きな男性といるのに踊れないからかしら?」
 全くの図星に、アンジェリークは顔を赤くさせて僅かに俯く。
「あの警護官ね?」
 相手まで言い当てられて、アンジェリークは言葉を繋げることが出来ない。
「アンジェ、チャンスはね、手をこまねいていてはやってこないの。チャンスを掴みたい人だけにやってくるから、そこでチャンスの精の前髪をつかまなくっちゃね? 壁なんて関係ないのよ」
 ここまで言うと、ロザリアは嬉しそうに笑う。
「だけど、あなたの場合は、動かなくてもチャンスが飛び込んできてくれたみたいね?」
 ふとふりかえると、後ろにはアリオスがやってきていた。
「じゃあね、アンジェリーク」
 ロザリアが肩をぽんと叩きながら去ると、アンジェリークはアリオスと向き合う。
「アリオス…」
「風邪を引く…」
 手を差し伸べて貰ったが、アンジェリークは首を振る。
「戻らない…。ダンスをしてくれなくっちゃ、戻らない…」
「殿下…」
 アンジェリークの潤んだ瞳が真摯に、アリオスの瞳を真っ直ぐと射った。

 拒むことなんて、出来ねえじゃねえか…。

 アリオスは苦笑すると、アンジェリークに改めて手を差し出す。
「踊って頂けますか? 王女殿下」
「よろこんで」
 アンジェリークは深く頷くとアリオスの手を取った-------
 恋のダンスが今始まる。

 To Be CONTINUED…
コメント

「王家の恋」。今回はアンジェリークがお姫様です。
甘く切なく美しい恋物語をお届けする予定ですので、お楽しみ下さいませ。
今回のアリオスもステキに格好良い予定です。
正統派のお話です〜。
ご期待下さい(笑)
アリオスさんのかっこよさをかきつつ、
ロマンティックにしたいな〜。



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