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アリオスの車に乗り込み、迎賓館へと向かう。 もう王女とその警護官という主従関係に戻ってしまった。 夢が砂糖菓子のように崩れ落ちる。車に乗り込み、アリオスは無線を取ってアンジェリーク発見を伝えていた。 そのひき締まった横顔を見つめながら、アンジェリークは切ない気分になる。 さきほどのアリオスの素顔の表情はどこにもなく、そこにあるのはひき締まった警護官としての厳しい表情だけだった。 何も話さなかった。 この堅苦しい雰囲気が辛くて、涙が出そうになる。 私たちにはどうしても相容れない壁があるのでしょうか・・・。 神様・・・!! 切なくて辛くて、アンジェリークは唇を深く噛み締めた。 華奢な肩が震える。 アリオスは何とか抱き締めたい衝動を堪えるため、まっすぐと先を見つめるしかなかった。 「王女様! 心配致しましたのですよ!」 「パリロー夫人・・・」 迎賓館に到着するなり、パリロー夫人が、駆け付けてきてくれる。 すぐにぱたぱたと駆け寄って優しい女官のパリロー夫人を見ていると、今まで我慢をしてきた感情が溢れ出てくる。 「王女様?」も う、言葉なんか数多くは必要なかった。 「パリロー夫人・・・、ごめんなさい」 涙が溢れ出てしょうがない。 感情を抑えることが出来なくて、アンジェリークはその胸で泣くしかなかった。 「あらあら、王女様・・・」 「パリロー夫人、殿下はお疲れになっておられる。少しお休みになられた方がいいだろう」 「そうですわね。お部屋にお連れ致しますわ。あ、アリオス殿、またエリーズさんから連絡が入りましたから、返事をして下さいね」 エリーズと言う名に、アンジェリークの躰が僅かに反応して震える。 「ああ。判った・・・」 部屋に入っていく王女を、アリオスは見守ってやることしか出来なかった。 すぐに熱いお風呂にさっと入り、アンジェリークはベッドに寝かされる。 「今日一日、フローラルの街を散策されていたそうですね? お疲れになったのですよ、王女様は・・・。今日はゆっくりとお休みになって下さいませ」 「有り難う」 「何かありましたら、私も中佐も控えておりますから、呼んで下さいね」 「はい・・・」 瞳を深く閉じて返事をする。 しばらくすると、パリロー夫人が部屋を辞した。 それに気がついて、アンジェリークは目を開ける。 もう少し時間があったら、きっと船上パーティに行けたのかもしれないな・・・。 そこでめいいっぱい楽しめたかもしれない・・・。 アリオスとダンスが出来たかもしれないと思うと、アンジェリークは泣きたくなった。 すぐ近くには、きっとアリオスが控えているだろう。 声を漏らさないように、アンジェリークは忍び泣くことしか出来ず、いつしか泣き疲れて、眠ってしまっていた。 そっとアリオスは、アンジェリークの部屋に入り、ベッドに近付く。 涙の跡がいっぱい付いたアンジェリークの頬を、アリオスはそっとなぞる。 先ほどの車での表情は全くなく、慈しみが溢れた表情がそこにあった。 「アンジェ・・・」 目許にそっとキスをすると、アリオスはずっと幼い王女を見守る。 月明かりが、アンジェリークの汚れのない白い肌を美しく照らしていた。 翌日は休息日に当てられ、アンジェリークは静かに読書などを楽しむことにする。 ロザリアの婚約式が明日に迫っている関係で、アリオスは警備会議に出席の為に不在だった。 空を見上げながら、何度も溜め息が出る。 昨日、あんなに楽しかったのにな・・・。 楽しい時間を思い出すと、切なさと嬉しさが交差する。 アリオスと過ごした短い時間が音を立てて終わるのを感じて苦しかった。 その日は、ゆっくりと時間が過ぎ、心が一日重かった。 翌日、婚約式に出席するために、朝早くから、準備が始まる。 アンジェリークは主賓のひとりとして、またアルカディア王家の名に恥じないように、しっかりと名代を務めることだけに集中する。 アリオスとは今朝もまだ逢ってはいない。 想いに潰されそうになるのを押さえながら、何とか耐え切った。 「まあお姫様、本当にお美しい・・・。ロザリア様もかすんでしまうかもしれませんわね?」 パリロー夫人はほれぼれとするように呟いた。 「有り難う、パリロー夫人。そんなことはありませんわ。ロザリア様の方が輝いていらっしゃいますわ。だって、愛する方とご婚約されたんですから・・・」 アンジェリークは羨望を言葉に滲ませながら、深く呟いた。 「ですが、殿下は本当にお綺麗ですわ・・・」 うっとりとしているクーム夫人の存在が、その全てを物語っていた。 「殿下、準備は出来ましたか」 アリオスがドアをノックして、静かに入ってくる。 一瞬、ふたりの瞳が重なった。 アンジェリークの白を基調としたドレス姿に、アリオスは息を呑む。 その透明感のある清らかな美しさに、しばし見惚れる。 アンジェリークもまた同じだった。くらくらするほど素敵で、見つめることしか出来ない。 ふたりはお互いに見つめ合う数秒間に、熱い思いを注いでいた。 だが、無情にもタイムリミットはやってくる。 アリオスは時計を見ると、一人の男から、警護官の顔に戻った。 「殿下。お車が用意出来ました」 「はい・・・」 きびきびと歩くアリオスの後を、アンジェリークは歩いていく。 目の前に広がる白い背中に、アンジェリークは守られているのがひしひしと感じ、頼もしくも嬉しくも感じた。 アンジェリークはアリオスとクーム夫人に守られるような形で車に乗り込む。 アリオスは無線機を付けながら、ずっと状況を聞いているようだった。 アンジェリークの乗る車を四台の車が囲んでおり、相手に隙を与えないと言わんばかりだった。 車が到着し、いよいよ城に乗り込むこととなる。 車の扉が開かれて、アンジェリークはフラッシュを浴びながら、降り立った。 その後をアリオスが守るように続く。 アリオスが側にいてくれるから大丈夫…。 アンジェリークは堂々と、王女の風格を漂わせて歩いていた。 フラッシュの砲火が終わった後は、いよいよ非公開の婚約式会場に入る。 「アンジェ! よく来てくれたわね!」 「ロザリア姉様!」 美しく着飾り、自ら出迎えてくれたロザリアに、アンジェリークは抱き付いた。 「ふふ、いつまでたっても小さなアンジェね?」 「ご婚約おめでとうございます!」 美しくなったロザリアにアンジェリークは羨望の眼差しを送る。 「有り難う、アンジェ。あなたも凄く綺麗になったわよ? ひょっとして恋をした?」 輝くばかりの笑顔を向けてくるロザリアの言葉に、アンジェリークはドキリとした。 …恋…。 はっとして、アンジェリークは僅かに頬を染める。 それを見たロザリアは総てを理解することが出来た。 「また、後でね?」 「はい、ロザリア姉様」 ロザリアの後ろ姿を見送りながら、アンジェリークは自分の問いかける。 恋…。 そう、アリオスを愛しているのは、紛れもない事実だから--------- To Be CONTINUED… |
| コメント 「王家の恋」。今回はアンジェリークがお姫様です。 甘く切なく美しい恋物語をお届けする予定ですので、お楽しみ下さいませ。 今回のアリオスもステキに格好良い予定です。 正統派のお話です〜。 ご期待下さい(笑) アリオスさんのかっこよさをかきつつ、 ロマンティックにしたいな〜。 |