bodyguard

6


 アンジェリークのバカンスも兼ねた、短い訪問の警備のために、アリオスたち警備担当者たちは、何度もフェリシアの首都フローラルを訪れ綿密な計画を立てていた。
 そのせいか、アリオスは一体どこに何があるかがすぐに判るレベルになっていた。

 こんなところで役にたつなんてな…。

 アリオスはアンジェリークの手をしっかりと握ったまま、今度は小さな遊園地へと連れて行く。
 今流行のテーマパークのような物ではなく、古びた昔ながらの”遊園地”という名が相応しい場所だ。
「凄い! こんなところ憧れていたの!!」
 アンジェリークの輝いた表情を見たのは、今日、何度目だろうか。
 見れば見るほど、アンジェリークの表情は輝き、美しくなる。
 アリオスはすっかり若き王女の表情豊かな姿に魅せられていた。
「だったら何に乗る? やっぱり。あこがれのローラーコースターか?」
「うん!! ずっと乗ってみたかったのよ!」
 まるで幼子のように、アンジェリークはアリオスの手を引っ張って、ローラーコースターまで走る。
 アリオスも心が久々に軽くなる気分になる。
 アンジェリークとふたり、何のしがらみを考えることなく、今のこの瞬間を楽しむことにした。
 昔ながらの切符の販売機でふたり分の乗り物券を買い求め、早速ローラーコースターに乗り込む。
「こ、こんなに高いところから乗り込むの!?」
「ああ。知らなかったのかよ?」
「…うん…」
 下を見て一瞬、アンジェリークは躰をぶるりとさせた。
 声がひっくり返っているのを見ると、彼女は見た目通りの、高所恐怖症のようだ。
 あまりにも想像通りのアンジェリークに、アリオスは思わず笑ってしまった。
「何よ〜」
「いや、あまりにもおまえさんらしくってな」
「いいもん!」
 頬を膨らませる姿がまた可愛らしくて、アリオスは更に笑う。
 ずっと握りしめている手が、震えているのをアリオスは感じた。
 それがまた可愛らしくて、落ち着かせるかのように、強く握りしめ返してやる。
「そら乗るぜ?」
「…う、うん」
 あれほど憧れていたローラーコースターも、いざ目の当たりにしてみると、かなり怖い。
 アリオスが隣りに乗ってくれるのが唯一の救いで、アンジェリークは生唾を飲み込んだ後、意を決して乗り込んだ。
「怖かったら言えよ? 俺に捕まってくれてもかまわねえから」
「うん…」
 一瞬、目の前にあるアリオスの広い胸を意識してしまい、胸がどきりとした。
 白いシャツの下の胸はどれほどの物なのだろうかと、思わずにはいられない。
 アリオスもその後に続いて横に乗ってくれる。
 コースターの中は想像以上に狭くてふたりはかなり密着した。
 それが恥ずかしいのか、それとも嬉しいのか、アンジェリークには良く判らない。
 ただ、アリオスがとても近くにいるのが、嬉しかった。
 息が上がるのも、怖いから緊張しているのか、アリオスが側にいるからなのか、あんじぇりーくには全く判らない。
「ひっ!」
 ゆっくりとコースターが動いていく。
 次の瞬間-------
「きゃあああっ!!!!」
 風を感じたかと思うと、アンジェリークは自由になったような気がした。
 恐怖は感じるが、アリオスが側にいてくれる。
 怖ければ捕まればいいのだから。
 広い胸があるから、そこに頼ればいいのだから。
 栗色の艶やかな髪を風に靡かせながら、アンジェリークはアリオスの逞しい胸に、頭を預ける。
 アリオスの手が頭を捕らえてくれて、くしゃりと髪を撫でてくれる。
 そうしてくれるだけで、心が随分と軽くなっていった。
 今は何も、しがらみなどを考えないようにしようと思う。
 アリオスに護られて感じる風は、何て最高なんだろうと思う。
「きゃあああっ!!」
 高低差への恐怖は、気持ちよい物へと変わった。
 大きな声を酒bぬのは、何て気持ちいいんだろうか。
 だが、流石に、ローラーコースターが返ってきた頃には、ぐったりとなってしまった。
「ほら、大丈夫かよ」
「…うん、何とか…」
 アリオスに手を引っ張って貰って、コースターから出た後、少し休憩することにした。
 遊園地をゆっくりと見渡せる場所にあるベンチで腰をかける。
「------なんだか夢の国みたい…。子供の頃に思った夢の国に似てる」
「そうだな…。
 煙草いいか?」
「どうぞ」
 煙草を口に銜え、ライターで火を付ける姿は何て様になっているのだろうかと、アンジェリークは思った。
 煙草を吸うアリオスは、とても大人で、違う世界の住人に思える。
 アンジェリークの視線が、ふと、愉しそうに歩いている親子連れに注がれる。
 親子3人に羨望の眼差しを送る彼女を、アリオスは抱きしめたくなっていた。
「------叶わないのは判っているけど…、ああやって、子供が出来たら遊園地とかにも、楽しく遊びに行けたらいいのにって、時々思うわ…」
 そういった途端に、アンジェリークはフッと寂しげに笑う。
 日差しが柔らかくなってくる。
 それがアンジェリークを美しく照らし、アリオスはこの瞬間を心の中のシャッターで押した。
「…観覧車、のらねえか? キッと綺麗だぜ?」
「うん!!!」
 ふたりは再び手を取り合うと、今度は観覧車に乗り込む。
 丁度いい時間のようで、夕焼けが美しくふたりの横顔を照らしてくれる。
「ここは丘の上にあるから、眺めも最高だぜ?」
「うん」
 観覧車の向こうに広がる景色を見つめながら、アンジェリークはこころが感極まるのを感じた。
 涙がにじんでくる。
 観覧車の向こう側に広がる景色は、最高に美しく、フローラルの街が一望できた。
 夕焼け色に染まる街は、ノスタルジックな美しさをアンジェリークに魅せてくれる。
「凄く綺麗よね…」
「ああ」
 アンジェリークは心の奥底からそう感じずにはいられなかった。
 フェリシア塔が堂々と下姿を見せ、宮殿は優雅に構えている。
「あれよね? 迎賓館。今いる場所は…」
「ああ。あの建物だ」
 指で差して、建物の一つずつを確認しながら、ふたりは、フローラルの街を大いに楽しんだ。
 観覧車が頂点に達したときだった。
 どちらからともなくふたりは見つめ合う。
「アリオス…。今日のこと、絶対に忘れないから私…」
「アンジェ…」
 アンジェリークの眦から涙がこぼれ落ちてくる。
 アリオスはそれを親指でそっと拭ってやると、アンジェリークを情熱的に見つめた。
 街の喧噪が、総て止まった-------
 ふたりの唇が、深く甘く重なる。
 それは僅かな時間であったが、お互いの唇から、胸の奥に秘めたる愛を伝え合う。
 キスは少し煙草の味がした。
 どんな沢山の言葉よりも、僅かな時間のキスが総てを伝え合う。
 唇が離れたとき、心が離れていくかのようで、とても哀しかった。
 どうして、ずっと、ひとつでいられないんだろうか。
 しっかりと腕の中で抱きしめられたかと思うと、強い腕を感じた。
 ゆらゆらと揺れる観覧車。
 見えるのはアリオスの広い胸だけ。
 それ以外には何も見えない。
 周りを囲む景色がだんだん低くなり、アリオスの腕が離れ、ふたりはもう一度向かい合った。
「アンジェリーク殿下…、魔法が解ける時間です…」
「はい…」 
 最初からこの瞬間が来るのは判っていた。
 だけどどうしてこんなに辛いんだろうか。
 アンジェリークは涙を堪えながら、僅かに頷いた。
 観覧車から出ると、夕方の風がひんやりと頬をかすめる。
 魔法が解けたことが、感じられた瞬間でもあった-------

 To Be CONTINUED…
コメント

「王家の恋」。今回はアンジェリークがお姫様です。
甘く切なく美しい恋物語をお届けする予定ですので、お楽しみ下さいませ。
今回のアリオスもステキに格好良い予定です。
正統派のお話です〜。
ご期待下さい(笑)
アリオスさんのかっこよさをかきつつ、
ロマンティックにしたいな〜。



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