From Me To You

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 真夏になると、甘酸っぱい香りでこころがいっぱいになる。
 初恋の男性(ひと)に逢ったのも、激しい日差しの季節だった。
 あの頃は、まだゴムの付いた帽子をかぶっていた----

 真夏の日差しの中、麦藁帽子を被って元気にひとりの少女が駈けていく。
「アンジェちゃん、何急いでるの? いっつも走ってばかりねえ」
「カブト虫が取れたから、早くおうちに帰って虫かごに入れるの。ソーダ水も飲むわ」
 ぱたぱたと走りながら、アンジェリークは家に戻って行った。
「ただいま〜」
「お客さん来てるから、手を洗って、ちゃーんと行儀よくしなさい」
 出迎えた母親に言われるなり、アンジェリークは腕で汗を拭いながら洗面所に向かう。
 リビングをひょいと見つめると、そこには見たことがない青年が椅子に座って、長い脚をだらんと延ばしている。

 随分と足長のお兄ちゃんだな・・・。

 そんなことを思いながら、洗面所に向かった。
 いつものように、虫かごの中にいる虫を、カブト虫用のプラスティック容器の中に入れ、汗で濡れた帽子を、洗濯機の横にあるハンガーにかけてから、洗面台に向かう。
 最初は顔をしっかり洗って、その後に手を洗っておやつにありつく。
「お母さん、ソーダ水」
 言いながらリビングに入ると、銀の髪の青年が振り向いた。

 わ〜綺麗・・・!!!

 青年の瞳は黄金と翡翠で本当に宝石のように見える。アンジェリークはすっかり魅せられてしまい、うっとりとしていた。

 足長お兄ちゃん、凄くかっこいい・・・。
 みんなに凄く人気のあるアイドルよりも素敵だわ・・・。

「アンジェ、お座りなさい」
 母親の声で我にかえると、アンジェリークは慌てて返事をした。
「はっ、はいっ!!」
 自分の椅子に座りながら、視線は銀の髪の青年に釘付けだ。
「アリオスくん、こちらがうちの娘のアンジェリークです。今10歳なんですよ。アンジェ、こちらのお兄さんはアリオスくんと言って、今日から二週間うちで下宿することになったの。十日ほど、アルカディア大学での法律学の短期ゼミに参加するからよ。ママの旧いお友達の息子さんなの」
 ぽかんとただアリオスを見ているアンジェリークが愛らしくて、アリオスは微笑まずにはいられない。
「よろしくな、アンジェリーク」
「よろしくアリオスお兄ちゃん」
 両親はアリオスと色々と話しているが、アンジェリークはソーダ水を飲んでアリオスを観察している。
「アンジェ、アリオスくんはおまえより11上のお兄さんだ。しっかり仲良く、勉強の邪魔をしないようにな」
「は〜い」
 父親に返事をしながら、今のアンジェリークには11も年の差が、とてつもない差のように思えた。
「あのね、いっぱいカブト虫を取ったから、アリオスお兄ちゃんに見てもらいたいの」
「ああ、持って来いよ」
「うんっ!!」
 ぱたぱたと虫かごを持っていき、自慢げにアリオスに見せる。
「元気なのはいいことだぜ?」
「うん!」
 くしゃりと栗色の髪を撫でられて、アンジェリークはドキリとしながら、アリオスを見た。
 父親に撫でられるのとは違って、何だか胸の奥が切なくなる。
 アリオスと初対面。子供の目線で付き合ってくれるアリオスに、アンジェリークはほのかな思いを抱き始めていた。

「アンジェ、遊びには行かないの?」
「だってみんなプールに行ってるから。アンジェ泳げないもん」
 友達が夏休みのサマースイミングに行っているのを、アンジェリークは指をくわえて見ていた。
 小さな頃から水が怖くて、なかなか上手に泳ぐことが出来ない。
「おい、アンジェ、おまえ泳げないのかよ?」
「・・・うん」
 アンジェリークにとっては屈辱で、やや間を置いてから呟いた。
「こんなに真っ黒でカブト虫をいっぱい取るおまえがな」
「山は平気だけれど、水は怖いんだもん」
 拗ねるようなアンジェリークに、アリオスは喉を鳴らして笑う。
「だったら俺が教えてやる。まあ、ゼミの合間だから、たまにしか教えてあげられねえけど」
「ホント!!!」
 アンジェリークの顔が一気に晴れ上がる。
 その表情はとても愛らしい。
「ああ、しっかりしごいてやるから覚悟しとけ」
「うん!」
 アリオスに泳ぎを教えて貰える。
 それだけで凄く嬉しく、泳げるようになるような気がした。

 早速、アンジェリークは母親に水着を強請った。
 学校の水着では妙に恥ずかしい。
 級友に見せるのは平気だが、やはりアリオスの前では素敵にいたい乙女心だ。
「アンジェ、学校のものがあるでしょう? 買っても着ないでしょう?」
「いや! 可愛いのがいいの!!」
 何度もだだをこねたあげく、結局、思ったものと少し違うが、十分に愛らしいものを買って貰えた。
 これである程度は満足する。
 いよいよアリオスによる水泳レッスンだ。満足した水着を着てプールサイドに出る。
 既にアリオスが待っており、そこに駆けていく。
「あ・・・」
 アンジェリークはアリオスを見て切なくなる。
 プールサイドにいる女性が溜息混じりにアリオスを見ている。誰もが大人でアリオスを視線で麗しく誘っていた。

 私なんか、全然釣り合わないかもしれない・・・。

「おい、チビ!!」
「アリオス」
 アリオスが寄ってきたので、アンジェリークも近付いていく。
 どの女性もアンジェリークの姿を見るなり、安心しているようだ。

 どうせ子供だもん・・・。

「ほら準備体操」
「うん」
 プールサイドで運動をしっかりとした後、プールに入る。
「じゃあまずは水に馴れるとこからだな」
 こうして、アリオスは少しずつ水に馴れさせていってくれた。
 すぐに顔が付けられるようになり、浮く基本が出来るようになる。
 厳しいアリオスの指導のおかげか、彼が帰る頃は立派に泳げるようになっていた。

「よく頑張ったな?」
「うん!!」
 別れの日、アンジェリークは切なくてしょうがなく潤んだ瞳でアリオスを見ることしかできない。

 ずっとずっと好きな男性…。

「じゃあな。また…」
「アリオスお兄ちゃん!!」
 アリオスが歩き始めたところで、アンジェリークは必死になって引き留めた。
「アンジェリーク」
「またね…」
 アンジェリークはアリオスをそっと引き寄せると、その頬に甘いキスをした------

 甘い、甘い、夏の日の想い出として今でも記憶に残ってる…。
 あれからお兄ちゃんに会っていないけれど、元気かな…。
 どうしてこんなことを思い出したんだろう…。

 17歳になったアンジェリーク・コレットは優しい微笑みを浮かべながら、ソーダ水を眺めている。
 不意に玄関のベルが鳴り、母親がぱたぱたと出ていくのが聞こえる。
「まあ、アリオスくん! お久しぶり! いらっしゃい!!」

 アリオスくん!!!

 その声に、アンジェリークは飲みかけのソーダ水もほったらかしにして、玄関には知ってく。
 そこには、記憶の中よりももっと素敵になったアリオスが立っていた。
「アンジェ、久しぶりだな?」
 
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夏休みの恋物語です。
今年は尼酸っぱい恋をお届けします〜。





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