2
「大きくなったな?」 「アリオスお兄ちゃん・・・」 逢うのは7年ぶり。 記憶の中よりも更に素敵になったアリオスをアンジェリークはじっと見つめることしか出来ない。 今や法廷で活躍する弁護士として、その能力をいかんなく発揮していると聞く。 それに合わせて完璧に整ったこの容姿だ。 アンジェリークもぼんやりと見つめずにはいられない。 「今日もプール開放にいったのか?」 ニヤリと微笑まれて、アンジェリークはほんのりと頬を染めながら俯いた。 「もう子供じゃないもの・・・」 「そうだな」 余裕を持った微笑みで言われて、アンジェリークはほんの少し悔しかった。 「アリオスお兄ちゃんはどうしてこっちに?」 「ヒミツ」 薄く微笑みを浮かべながら、アンジェリークをからかうように見つめてくるアリオスが、少ししゃくに触った。 「うちに泊まるの?」 「いや、今回は一週間ほどだから、ちゃんとホテルを取ってある」 「そう・・・」 少し残念に思った。 またあの時のように、うちにいてくれたらとても幸せな時間を過ごせたかもしれない。 そう思うと、とても切なかった。 「じゃあ、俺はこのあたりで失礼します」 アリオスをじっと見つめただけで、ちゃんと話もしていない。 椅子から立ち上がるアリオスを、ただ見送ることしか出来ない。 「アリオスお兄ちゃん、また、来る?」 あの小学生の日々に帰ったかのように、アンジェリークは純粋に瞳を見つめた。 「アンジェ、また来るから、一週間もこっちにいるからな」 「うん・・・!」 17歳になったというのに、純粋な気持ちは子供のままだ。そんなアンジェリークがアリオスは愛らしく感じる。 17歳らしさもあるが、純粋さを失って欲しくない場所がそのままだったのでよかった。 「アンジェ、またな?」 「うん」 アリオスを玄関先まで見送ると、アンジェリークは切ない溜め息をひとつ吐いた。 翌日、アンジェリークがぶらぶらと帰宅していると、偶然アリオスを見た。 立派な不動産店から出てくる姿に、アンジェリークはときめきを感じずにはいられない。 ひょっとして、アリオスお兄ちゃんはこの街に住んでくれるのかな・・・。 少しの期待を込めて、アンジェリークはアリオスを視線で追っていた。 ふいに、アリオスの姿が消えてしまい、アンジェリークはあたふたとする。 「おい」 「きゃっ!」 不意に背後から声をかけられ、アンジェリークは驚いてしまった。 振り返ると、そこにはアリオスがいる。 「アリオスお兄ちゃん!!」 さっき目の前にいたはずなのに、今は後ろにいるので、アンジェリークは目を丸くする。 「おまえは水泳教室の帰りか?」 にやりとした意地悪な笑顔だ。 「違うもん! もう小学生の子供じゃないわよ! アリオスお兄ちゃんこそ」 「俺はそこに用事があったからな」 アリオスは不動産会社を指差す。 「この近くにお引っ越し?」 「事務所を借りようと思ってな」 「へぇ〜」 想像していなかったアリオスの答えに、アンジェリークは素直に嬉しくなった。 「この街で働くことになったの?」 「まあな。拠点をこちらに移そうかと思っている。良い街だからな」 「うん、この街は凄く素敵だわ。育った私が言うんだから間違いないわ」 アリオスがこの街に居を構えてくれたら、それだけ恋のチャンスも広がると言うものだ。 もっとこの街のことをアピールしたくて、アンジェリークは一生懸命アリオスに話す。 「食べ物も美味しくて便利だし、とっても良いところなのよ・・・」 言葉で良いところを伝えさえすれば、アリオスがこの街に住むことが現実になるような気がして、必死だった。 「そうだな。なあ、時間があるか?」 「うん、ある!」 アリオスに誘って貰えるのが嬉しくて、アンジェリークは即答した。 「だったら美味いコーヒーの飲めるカフェがあれば、教えてくれ」 「うんっ! こっちよ!」 アンジェリークはアリオスを誘導するように手を振る。 「ゆっくりな?」 「うん」 とびきりのコーヒーを飲ませてあげたくて、アンジェリークは自分では自慢だと思っている、安くて隠れ家的なカフェを案内した。 店に入り、アリオスが本当に気にいってくれるかドキドキとした。 注文をしたコーヒーをアリオスが飲む姿に、固唾を呑んで見つめる。 「美味いな、ここのコーヒー」 「でしょう! 凄く自慢なの!!」 アリオスの賛辞に、アンジェリークは嬉しくてしょうがなかった。 自分が気にいった場所を気にいってくれるのが何よりもの喜びとなる。 この街にいて欲しいから、もっと好きな場所を増やして欲しかった。 「アンジェ、サンキュ。また案内してくれ」 「うん!」 アンジェリークはニコニコと微笑みながら、何度もしっかりと頷いた。 次はどこに案内をしてあげようかと、様々な店の候補を頭に思い描いては、にこにこと微笑む。 「どう、いっぱいいいところあったでしょう?」 「いっぱいって、おまえ、今日一件だけじゃねえか」 苦笑いしながら、アリオスは言う。 「今日は一件だけかもしれないけど、これからいっぱい教えてあげるから。塵と積もれば山となるでしょう?」 「まあ、そうだけどな」 アリオスはまんざらでもなさそうな表情をしたので、アンジェリークはひと安心した。 それからと言うものの、アンジェリークはアリオスと逢えば色々な店にアリオスを誘う。 こうして、僅かの間でふたりは急速に仲良くなっていった。 もうすぐアリオスはまた帰ってしまう…。 それまでにこの街を気に入って欲しい…。 |
| コメント 夏休みの恋物語です。 今年は甘酸っぱい恋をお届けします〜。 ちなみにタイトルは久々にBeatlesの初期の曲からです。 |