Close My Love


 いつも、いつも追いかけてた。
 けれども全然追いつかないの。
 やっぱり、私はあなたにとってはいつまでも妹なのかな・・・。

「おいチビ!」
 低い声で呼ばれて、アンジェリークは振り返った。
「アリオス!!!」
 予想通り呼んでいたのは、大好きなアリオス。
「学校の帰りか?」
「アリオスは?」
「俺は学会の帰り。今日の仕事はこれでおしまい」
 ”おしまい”と聞いた瞬間に、アンジェリークはにんまりと笑う。
 判りやすいとは全くこのことである。
「おまえも時間あるんだったら、お茶でも飲んでくか?」
「ホント! 夕ごはんもつけてよ」
「はいはい」
 アリオスの腕に自分の腕を絡めながら、アンジェリークは飛ぶようにして歩いていく。
 アリオスは苦笑しながら、この優しい温もりに心を癒されていた。
「買い物してうちに行くぞ。制服のままだったら拙いだろ?」
「うん。そうよね。アリオス的には?」
「俺は大丈夫だぜ」
 らしい言葉にアンジェリークは笑う。
「今日、焼き肉がいいなあ〜」
「焼き肉ね。食い過ぎるなよ。これ以上デブになったら困るぜ?」
 意地悪な言葉に、アンジェリークはふくれっつらをして少し睨んだ。
 もちろん本気で怒っていないことぐらいは、アリオスだって重々に判っている。
「野菜たっぷり。あ、タン塩も葱たっぷりでね〜」
「はいはい、お姫様」
 スーパーでたっぷりと食材を買い物した後、仲良く荷物を持ってアリオスのマンションに向かう。
「おい、重そうだな。平気か?」
「ごはんを食べさせてもらうんだもん、これぐらいは平気よ」
「メシはお駄賃か」
 へへと笑うアンジェリークに、アリオスも微笑み返してやる。
「あ、雨・・・」
「走るぞ」
 不意に夕立が降り出してしまい、ふたりは慌てて走っていく。
 自然とアリオスが手を引いてくれて、雨の中を走る。

 雨だけれども、全然嫌じゃない。
 だって、アリオスと一緒だから・・・。

「ああ、参ったな〜」
「ホント!」
 ふたりは濡れ鼠になってアリオスのマンションに到着し、一息つく。
 だがお互いに、雨に濡れたことが楽しくて、くすくすと笑ってるぐらいだ。
「早くタオルで拭いて乾かしちまおうぜ?」
 アリオスにタオルを投げられて、アンジェリークは髪を拭きながら少し恥ずかしく感じた。
「風邪引いちまうからな。俺の無地のTシャツとスウェットの下を出してやるから、着ておけ」
「うん・・・」
 やはりアンジェリークも恋する乙女だ。嬉しくもあり、恥ずかしくもある。
 冷蔵庫に買ってきた食材を入れていると、アリオスが服を持ってきてくれた。
「書斎で着替えてこい。制服はハンガーにつるしてセットしておけよ」
「うん」
 そそくさと小さくなりながら、アンジェリークは書斎に入って着替え始めた。
 大好きなひとの服を着るのは、ひどく緊張する。震える指でTシャツを着て、ぶかぶかのスウェットを下に着て裾を折る。
「アリオス、着替えたよ」
「ああ。俺も着替えてくるから、食材一端冷蔵庫に入れておいてくれ」
「はい〜」
 元気良くアンジェリークは返事をすると、材料を冷蔵庫に詰めていく。

 なんだかアリオスのお嫁さんになったみたい・・・。

「アンジェ、冷蔵庫に入れ終わったか?」
「うん」
 アリオスがそばに来るとドキリとする。
「肉タレに漬けてくれるか? タンは漬けるなよ。後で俺特製の塩だれに軽く漬けるからな」
「うん」
 言われた通りに、肉を大きなボールの中にタレと一緒に漬け込んだ後、横目でちらりとアリオスを見る。
 すると見事な包丁裁きで葱をみじん切りにしている。
「凄い上手〜。流石外科医だよね〜」
「おまえなあ。これぐらい出来ねえと女じゃねえぞ。行かず後家決定だな」
「ぶ〜! いいもん。出来るだんなさん貰うもん〜!」
 拗ねるアンジェリークが愛らしくて、アリオスは苦笑する。
「将来、結婚する相手に美味いもん作れるように、教えてやるよ」
「うん、有り難う」
 アンジェリークが一瞬寂しそうな表情を隠すように俯いたのをアリオスは見逃さなかった。
 アンジェリークも野菜を洗うのを手伝って、焼き肉の準備は滞りなく済む。
「さぁ〜! 食べるよ〜!!」
「ったく、おまえは食い気しかねえのかよ」
 美味しい物には拘りをみせるアリオスは、ホットプレートではなく本格的な焼き肉焼きセットを使って肉を焼いてくれた。
「美味しそう〜」
「どんどん食えよ」
 やはりアリオスは鍋奉行ならぬ焼き肉奉行で、どんどん肉を焼いてくれる。
 特に特製塩ダレが利いた葱をたっぷり絡めたタンは最高だった。
「凄い美味しい〜!」
 驚くほど食が進んで、アンジェリークは肉も野菜もよく食べた。
「凄い美味しかったね〜。もう入らないくらい!」
「美味かったな」
 アリオスは斜めに煙草を銜えて、とても満足そうにしている。
「少し休憩したら、家に送っていってやるから」
「うん!」
 ふたりでソファに横になりながら、ゆったりとした時間を過ごすのが、とても幸せだった。

 ゆったりと楽しい時間を過ごした後は、車で家まで送ってくれる。
「じゃあな」
「うん、またね!!!」
 アリオスの車が見えなくなるまで、アンジェリークは手を振り続け見送ってくれた。


 一週間後。アリオスが家に帰ろうとした時、凶報が飛び込んできた。
「少女の急患です。名前はアンジェリーク・コレットさん。虫垂炎をこじらせて、腹膜炎の疑いがあります」
 報を聴いて同僚が立ち上がった瞬間、アリオスは鞄を置く。
「俺が行く」
「おい、おまえは非番じゃ・・・」
 白衣をすぐ羽織ると、アリオスは緊急治療室に向かった。

 アンジェ…!!
 俺がおまえを絶対に助けてやる…

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次回に続きます〜。
うおうおうお〜



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