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「アリオス先生…、どうして…」 最近のアリオスが取る態度が、アンジェリークには解らない。どうしてこんなに素っ気ない態度を取るのかと思えば、有り得ないほどの情熱を示してきたりする。アンジェリークは混乱するばかりだ。 そして今日も、あんなに素っ気なかったくせに、今日はもうあんなに情熱的になる。 「解れよ、俺の苦しい気持ち…」 アリオスが苦しげに呟くのは、全く初めてだった。アンジェリークは驚いて息を飲む。 「…どうして、先生…」 アンジェリークは混乱の余りに、アリオスを茫然と見つめることしか出来ない。 複雑に切ない表情を顔に出すと、アリオスが唇を奪ってきた。 今までキスしか経験はない。だが、今回のキスはその先を彷彿させる熱いものだった。 ぎこちなさをその情熱で溶かしあうように、ふたりは唇を重ねていく。舌を絡ませ、もっともっとお互いを愛し、認められるように酸素を分け合い、お互いの胸の奥に秘めている欲望を、キスに託していく。 唇を離されて、キスが終わったのかと思うと、またアリオスの唇が追い掛けてくる。 啄むようなキスをしたり、或いはお互いの熱を与え合うような深いキスを交わしたりして、熱の存在を確認しあった。 ようやく唇を完全に離した時、アンジェリークは肩で息をしていた。 「おまえ…、俺がどれぐらい苦しいか、全然、解ってねえだろ…」 「先生こそ解ってないよ…。だってどれほど私が切なくて、苦しいか…解ってない…! ホントはどんな女の子の質問にも受けて貰いたくない。メガネの奥にいるすてきな先生を知るのは、私だけの特権なのに、先生はそんな乙女心も解ってないっ…!」 今まで我慢していた感情が、一気に溢れ出して、それをアリオスにぶつける。力無く抱きしめてくれた胸を叩くと、アリオスはそれを受け止めてくれた。 「…だって、これは先生から始めたことでしょ!? 私はそれに左右されて、いつの間にか誰よりも先生のことを好きになっちゃって…。こんなに…好きになっちゃって…」 ぽろぽろと涙が零れる。 それをアリオスの綺麗な指が拭ってくれた。 「確かにな、このゲームに引き込んだのは俺だが、いつの間にか、ゲームだって考えられなくなるぐれえに、夢中になってた」 アリオスは今までに見せなかった優しい微笑みをアンジェリークに向けてくる。眩しいぐらいに素敵な笑顔だと、アンジェリークは思った。本当にアリオスが好きだと思える笑顔だ。 「ゲームだったの?」 「だいたいおまえが悪いんだぜ? 俺の授業でバカな嘘をつきやがって。おまえに恋人がいねえのは知っていたから、助けてやろうって思っただけだぜ、最初はな…」 アンジェリークは素直にアリオスの言葉に耳を傾ける。 こんな素直な告白を、アリオスから聞けるのは、またとない機会だろうから。 「あん時のおまえがホントに困っている姿を見てたら、可愛い過ぎてどうしようもなくなっちまって、理性がぶっこわれちまった。あんなにしなを使って待つなよ。そのままおまえを欲しくなっちまうだろ?」 アリオスに頬を撫でられて、アンジェリークは胸の奥がきゅんと音を立てて締まるのを感じた。 「それからちょっかい出すと、おまえは可愛いらしく俺に乗ってくるものだから、今まで理性を保つのが大変だったぜ? だから”教師”という枷で、俺はロックをかけるようにしたんだよ。じゃねえと、襲ってしまいそうだったからな」 いつになくアリオスがロマンス小説の主人公のように饒舌で、アンジェリークは気持ち良く感じていた 「こんなに俺がべらべら話すのも、最初で最後だ。ちゃんと説明しておかねえと、おまえは勘違い大魔王だからな」 アリオスに額をつんと叩かれて、アンジェリークは口を尖らせた。 「勘違い大魔王じゃないわよ。アリオスの態度が、そうさせるのよ」 「そうかもな…。もうこれで、俺は気遣わずに済む。もう決めたからな。おまえとは堂々と付き合うってな。教師と生徒のタブーなんて、くそくらえだ」 アリオスが再び抱きしめてくる。 今度は切迫した情熱ではなく、心地良い情熱だ。 「うん、くそくらえ。私はずっとそう思っていたよ、アリオス先生!」 「先生は余計だ。ふたりでその壁をぶっこわしちまおうぜ」 「うん!」 アンジェリークはアリオスにしっかりと抱き着くと、ニンマリと笑ってみる。幸福が溢れて、素敵な気分になる。 「おまえを引きずり込んだくせに、俺が一番こだわっていたのかもしれねえな。教師と生徒だってことをな」 「でも、もうこだわらないでしょ?」 「ああ。とりあえず、今からデートしようぜ」 「うん!」 アリオスが腕を離すと、アンジェリークはアリオスの眼鏡を外しにかかる。 「メガネの奥の先生を教えて?」 「しょうがねえな、おまえは」 アリオスは笑うと、アンジェリークの頬にキスをした。 「じゃあ、手始めのプライベートレッスンはおまえとのデートだな」 「うん! 恋も勉強も、しっかりとアリオスに教わるんだから!」 アンジェリークはアリオスに小悪魔のように笑い、頬にキスを送る。アリオスもアンジェリークを包むように受け入れてくれた。 「じゃあ、今から直ぐにお互いに学校を出て、エンジェルパーク前のウサギ像の前で待ち合わせだ」 「はあい」 アンジェリークは一足先に数学準備室を出ると、小さく手を振る。 「またね」 「ああ、後でな」 アンジェリークは制服のまま、エンジェルパークの有名な待ち合わせ場所である”ウサギの像”の前に向かい、アリオスを待った。 まるで初めてデートをするような気分になり、ときめかずにはいられなくなる。 何度も背伸びをして辺りをキョロキョロ見渡す。 するとアリオスが少し遅れでやってくるのが見えた。 メガネを外し、ネクタイを乱す姿は、とても素敵だ。 「待ったか?」 「全然!」 アンジェリークが笑顔で応えると、アリオスは目を細めるように笑ってくれた。 「ほら、名札とリボン外せよ。おまえは何にも縛られねえ、アンジェリーク・コレットだろ?」 「うん、そうね。そうだわ」 アンジェリークは、アリオスに微笑みかえすと、名札と制服のリボンを外す。一つだけ外されたシャツのボタンが、大人になったことを証明しているように見えた。 「ほら、散歩に行こうぜ。俺達の本当の意味での最初のデートは、夕暮れの散歩だ。最高だろ?」 「うん!」 初夏の夕暮れに吹き渡る心地の良い風に、アンジェリークは心の奥まで風通しが良くなったことを感じた。 アリオスと本当の意味で、しっかりと指を絡めあわせて、幸福を探していく。 「大好きよ。アリオス」 「ああ。俺もだぜ、アンジェリーク」 手を繋いで、散歩をしながら、自分たちがまた成長しているのを感じる。より絆が強固になった。 春風の中、新たなスタートラインに立ったふたりは、これからも恋のプライベートレッスンを続けていく。 THE END |
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