*幸せな日々*

後編


「こ、子供ですか」

 花は頬をうっすら紅に染め上げながら、はにかむ。

 父親が玄徳ならば、子供たちは最高に幸せになれるだろう。

 玄徳ほど、良い父親になれるひとはいない。

 花は驚いたが、ある意味とても自然なことなのではないかと思う。

 愛し合ったふたりに、子供が生まれる。

 それはとても素晴らしいことなのだ。

 花は、幸せな気分で玄徳を見た。

 流石に驚いているのか、最初は惚けた表情をしていたが、直ぐに満面の笑顔になった。

「有り難う。すまないが…、少し二人きりにさせて貰って良いかな?」

 玄徳は、照れくささと真面目腐った表情を入り交じらせながら、薬師に言う。

「分りました。花様、お大事に。玄徳様、おめでとうございます」

「…有り難う」

 玄徳が静かな笑顔で頷くと、薬師は幸せそうに微笑みながらゆっくりと部屋から出ていった。

 二人きりになると何だか妙に照れ臭い。

 だが、とても幸せだ。

 最近はとても忙しく、明らかに妊娠の兆候があったというのに、それに全く気付いてはいなかった。

 子供が出来る。

 それは花にとっては奇蹟のように思えて、ならなかった。

「…花…」

 玄徳が蕩けるように甘い笑みを向けてくれるものだから、花もつい蜂蜜のような笑みを浮かべてしまう。

「…とても嬉しい。お前に子供が出来て」

 玄徳は嬉しさを滲ませながらも、どう伝えて良いのかが分からないようだった。

「…有り難う…」

 玄徳は甘く囁くと、そのまま花をその胸に抱き締めた。

 いつもよりもうんと優しく抱き締めてくれるのは、恐らくは、子供のことを気遣ってくれているからだろう。

 玄徳は、優しい愛が満ち溢れた抱擁をすると、飛び切りに素敵なキスをしてきた。

 蕩けるようなキスは、お菓子よりも素敵に甘い。

 優しいキスの後、玄徳は軽く額をつけてきた。

「…花…、気付かなかったのか?」

「…最近、バタバタとしていたから…。忙しかったこともあるから、気か回らなかったのかも…わ思い返せば…、赤ちゃんが出来ている兆候はいくらでもあったのに…」

「そうかもしれないな。俺も上手く気付いてやれなかった。そういえば、お前がやたらサッパリしたものを食べたいと言ったりしていたからな」

「…確かにそうですね」

「後は…、まあ、妊娠していない印がなかったというか…」

 玄徳は照れくさそうに言う。

 確かに既に夫婦として暮らしているのだから、玄徳が気付いてもおかしくはない。

「そうですね…」

「それと、お前の表情がとても優しくなっていたのも兆候だったのかもしれない。お前が子供たちを見る表情は、この上なく優しいものだったからな…」

 玄徳はフッと甘い表情を浮かべると、花を更にしっかりと抱き寄せた。

「そうですね…。子供たちを見ていると、とても穏やかで幸せな気分が味わえましたから…」

「…そうか…」

 花に笑いかけると、玄徳は髪を優しく撫で付けてくれる。

 本当に優しいリズムで、花はホッとする。

「…花、これからはお前も勿論だが、しっかりと子供たちを守っていく。俺が一生守るのはお前だけだが、子供たちが旅立つ日まで、一緒に守って行こう」

「はい」

 花は玄徳の瞳を真直ぐ見つめると、笑顔で頷く。

 玄徳ならば最高に素晴らしい父親になるだろう。

 そして花も子供たちもしっかりと守ってくれるはずだ。

 花にはこれがとても嬉しい。

「花…、本当に有り難うな」

「私こそ、有り難うございます…。玄徳さんの赤ちゃん、とても嬉しいです」

「早くはなかったか?」

「いいえ」

 花がキッパリと言うと、玄徳はホッとしたように笑顔になった。

「有り難う。花、この子は始まりだからな」

「そうですね。玄徳さんが“子供たち”と言っていたから、私も頑張らなくちゃなあって。子供はひとりだけだと可愛いそうですから」

「そうだな。賑やかにしていこう」

「はい」

 ふたりで賑やかな家庭を作っていく。

 最高に幸せな家族が作れると、花は思わずにはいられない。

「玄徳さんは本当に最高のお父さんになれますね」

「俺が? そうなるように努力するよ」

 玄徳は照れくささの中にも喜びを滲ませている。

 本当に最高の父親になるだろう。

 それは羨ましいぐらいに違いない。

 子供に少しだけ嫉妬してしまうかもしれないと、花は思う。

 花はお腹に手を宛ててみた。

 まだまだお腹は平らなままではあるけれど、ここには明らかに新しい命が宿っている。

 それを感じることが出来るのが、この上ない幸せだ。

「花、赤ん坊を感じるのか?」

「触れてもまだ分かりませんが、赤ちゃんの気配は分かるんです。お腹の中で一生懸命頑張っているなあって…。それはとても嬉しいことです…」

 ただ自分の子供を、親に見せたかったという思いはある。

 もう直接伝えることは出来ないが、想いだけでも飛ばすことが出来たらと思わずにはいられない。

 自分が親になる。

 だからこそ両親にも感謝を伝えたい。

 この世界で根を張って生きていくこと。

 幸せだということを。

「触れても構わないか?」

「はい、どうぞ。触れて下さい」

 花は玄徳の手を取ると、そのまま自分のお腹に持っていった。

 玄はじっと静かにしている。

 花のお腹の中に新しい命があるということは、感覚的には分かりにくいだろうとは思う。

 だが確実にふたりの愛の証がこの場所には宿っているのだ。

 花にはそれがとても誇らしいことであると思った。

 玄徳は手を宛てたままじっとしている。

 それは、まるで小さな命と会話をしているようにも、花には思えた。

「…何だかここに触れていると実感が涌いてくる。俺も本当の意味で父親になるんだと感じるよ…」

「私もです」

 花はお腹の上にある玄徳の手に自分の手を重ね合わせる。

 幸せなリズムが聞こえてくるような気がした。

 こうしていると、ふたりで協力をしあって親になっていくのだと思う。

「…ふたりで協力していこう」

「はい」

 暫くは、ふたりでじっとしながら、子供が出来た幸せを噛み締めていた。

 

 玄徳は名残惜しいとばかりに、仕事に戻っていった。

 花はのんびりと休むことにする。

 今は幸せに安心に眠れる。

 うとうとしていると、玄徳が帰って来る気配を感じた。

 ゆっくりと目を開けると、玄徳が心配そうに見つめている。

「具合はどうだ?」

「大丈夫ですよ。今日は一日、ゆっくりと休ませて頂いたので、明日からはいつも通りに頑張れます」

 花は躰を起こすと、笑顔で呟いた。

「余り無理はしないようにな」

 まるで子供にするように頭を撫でてくれる。

 心地好い優しさ。

「大丈夫ですよ。赤ちゃんがいるからといっても、病気ではないんですから」

「それはそうだが…、お前が苦しそうにするのは、やはり俺も辛い」

「有り難う。だけど、玄徳さんは過保護ですね?」

 花が穏やかに指摘をすると、玄徳はバツが悪そうにする。

「…赤ん坊よりも、お前が心配だからだ…」

 照れくさそうにする玄徳がとても可愛くて、花はつい笑顔を浮かべてしまう。

「有り難うございます」

 花は逆に玄徳を抱き締める。

「私も赤ちゃんも、玄徳さんに沢山守られて嬉しいです。有り難う」

「俺もお前たちに守られているんだろうな。それはよく分かる。守る者が出来ると、弱くなるのと同時に更に強くなれるからな」

「そうですね…」

 花は玄徳に甘えるようにそっと胸に顔を埋める。

 これからも幸せであることは間違ないだろうと思った。



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