*愛しているからしょうがない*

前編


 花を置いて、三日間の視察にいかなければならず、玄徳は切ない想いを抱いていた。

 僅かな期間ではあるが、愛する花と離れ離れになるのは辛い。

 ほんの僅かな時間も離れたくないぐらいに愛しているのだ。

 花は、視察や外の仕事が多い玄徳に、文句ひとつも言わずに着いてきてくれる。

 仕事をきちんと理解してくれているのも嬉しかった。

 玄徳の仕事を理解してくれる女性は、他にはいないだろう。

 玄徳は、もう離したくない相手だと、つくづく思っていた。

 昨晩、花を寝かせずに激しく愛したのにも拘らず、花は妻として玄徳をしっかりと見送ってくれた。

 漢服を身に着けて佇む花はなんて綺麗なのかと思う。

 一緒になってから時間が経つが、花は日に日に美しくなっていく。

 出会った頃は、まだまだ子供のようだったのに、今や美しい貴婦人といっても良い。

 優しく、そして強く、美しい。

 花はまさに理想的な女だと玄徳は思っていた。

「いってらっしゃいませ、玄徳さん」

 花に笑顔で見送られると、しっかりと仕事をしてこなければならないと気がひき締まるのと同時に、花を強く抱き締めたくもなる。

 玄徳はじっと花を見つめた後、後ろ髪を引かれる気分で、旅立った。

 

 視察は上手くいき、玄徳もホッとした。

 ありとあらゆるところで、花との結婚を祝福されて、とても嬉しかった。

 明日にはようやく花に逢える。

 ほんの僅か離れただけなのに、逢いたくて堪らなくなる。

 夜は隣りに花がいないというだけで、直ぐに目覚めてしまった。

 冷たい寝具。

 それが玄徳には物哀しくてしょうがなかった。

 明日には逢える。

 それが待ち遠しくて堪らない。

 花をこの手で思い切り抱き締めたくて、堪らない。

 離れていると気付くのだ。

 花をどれほど深く愛しているのかということを。

 そばにいないだけで、本当に息苦しくなる。

 日に日に愛しくなる。

 日に日に慕ってしまう。

 これ程までに愛することが出来る女性に巡り逢えるとは思ってもみなかった。

 早く逢いたい。

 逢って抱き締めたい。

 明日は夜通し愛するつもりだ。

 ならば体力が必要だと、玄徳は自分に言い聞かせて、眠ることにした。

 夢で花に逢えたら良いのにと思いながら。

 

 花もまた、玄徳の無事を祈りながら、一日千秋の思いで待つ。

 妻として預かった軍を守らなければならないと、気丈に振る舞ってはいるが、やはり一人寝の寂しさに切なくなる。

 玄徳がそばにいて一緒に眠ってくれることは、当たり前のことだと思っていた。

 だが現実ではそうではないことを思い知らされた。

 玄徳に抱き締められて眠れないだけで、こんなに切なくなるのだろうかと、花は驚いてすらいた。

 それだけ玄徳と肌を合わせるという行為は、親密であったと言っても過言ではなかった。

 たかが三日間なのに、夫がいないだけで、こんなにも寂しいのかと思った。

 それは何処かロマンティックな寂しさではある。

 これ程までに愛する男性と巡り逢って、愛し合うことが出来るなんて、奇跡以上のものはないから。

 いよいよ明日は玄徳が帰って来るのだ。

 笑顔で「ご苦労様」と言って労ってあげたい。

 自分が出来ることは、何でもしてあげたいと花は思った。

 こうして起きていると、寝不足なのがバレて玄徳に怒られてしまうだろうから、早く眠らなければならない。

 それに綺麗な状態で、玄徳と逢いたかった。

 やはり愛するひとには、一番美しい自分を見せたい。

 花の華やかな女心だった。

 

 いよいよ玄徳が戻ってくる。

 伸びた髪をふわりとひとつに纏めて、花は深い朱が美しい漢服に身を包んだ。

 少しだけだが化粧もした。

 玄徳に綺麗だと言って欲しかった。

「玄徳様がお帰りになられましたぞー!」

 高らかに言われて、花は早速、出迎えにいった。

 早く逢いたくてしょうがない。

 玄徳を出迎えて、抱き締めたい。

 早く労ってあげたかった。

 花は逸る気持ちを抑えながら、愛する玄徳を待ち構えていた。

 

 ようやく城にたどり着くことが出来た。

 本当に嬉しい。

 いち早くに愛する花を見つけ、抱き締めたいと玄徳は思った。

 玄徳が城の中に入ると、花が待ってくれていた。

 出迎えは多くの者が出てくれたが、直ぐに花を見つけることが出来た。

 嬉しそうに微笑みながらも、何処かホッとしたかのように大きな瞳に涙を滲ませている。

 潤んだ瞳が可愛くてひどく艶やかだ。

 しかも玄徳が贈った漢服を、綺麗に着こなしている。本当に綺麗過ぎて、玄徳は花をこのまま部屋に連れ帰りたかった。

「お帰りなさいませ、玄徳様!」

 誰もが声を掛けてくれる中、花は妻として殿を務めると、最後に深々と挨拶をした。

「お帰りなさいませ、玄徳さん」

 花が挨拶をしてくれるだけで、玄徳はこのまま部屋に連れ帰ってしまおうとすら思った。

「玄徳様、ご苦労様です。少しゆっくりとされると良いですよ」

 孔明は、玄徳と花の気持ちをさり気なく気付くと、上手く気遣ってくれた。

「そうだな…。孔明、お前に話をした後、花とゆっくりとさせて貰おう」

「はい、かしこまりました」

 孔明はうやうやしく言うと、玄徳の執務室へと入った。

 

 花はひとり部屋に戻り、玄徳を待ち侘びる。

 師匠は、花が玄徳がいないことで塞いでいたことを知っているからこそ、気遣ってくれたのだろう。

 その心遣いが嬉しかった。

 花はドキドキしながら玄徳を待つ。

 早く、玄徳に抱き締められたい、玄徳を抱き締めたかった。

 暫く待っていると、逸るような男らしい足音が堂々と聞こえた。

 玄徳だ。

 花は部屋の前の扉で、玄徳を待ち構えた。

 扉が開いた瞬間、花は自ら玄徳を抱き締めようと思った。

 だが扉が開いた瞬間、逆に花が思い切り抱き締められていた。

「…あっ…!」

 三日間の時間を埋めるかのように、玄徳は思い切り花を抱き締めて来る。

 息が出来ないぐらい抱き締められて、花はその力強さに甘える。

 ずっとこうして抱き締められていたかった。

 三日しか離れていないというのに、激しい抱擁だった。

 玄徳は、花を情熱的なまなざしで見つめた後、唇を深く奪ってきた。

 三日の時間を埋めるよいに、かなり熱烈なキスだった。

 舌を口腔内に侵入させて、花を確かめるように味わう。

 花もまた、玄徳の愛を感じるために、ぎこちなくはあるが、舌を絡ませた。

 息をする間もないまま、ふたりは何度もキスを交わす。

 それほど三日間という時間は長くても感じられた。

 もう呼吸をするのが限界だと思ったところで、ようやく唇が離れた。

 お互いに官能に潤んだまなざしを向けあった。

「…ただいま、花…」

 花だけのために、玄徳はとびきり甘い挨拶をしてくれる。

 花は幸せをひしひしと感じながら、玄徳を真直ぐ見つめた。

「おかえりなさい、玄徳さん」

 花が抱き締めて労を労うと、玄徳もまた優しく抱き寄せてくれた。

「…有り難う。よく留守を守ってくれたな」

「はい…」

 花は笑顔で返事をすると、もう一度抱き締めた。

 流石に、直ぐに花を抱くわけにはいかないから、玄徳はとにかく抱き締めることで、欲望を抑え込む。

「…玄徳さん、僅か三日間だったんですけれど寂しくて…。奥さんとしてはこんなことを言ってはダメだってことぐらいは解っているんですが…」

 花は潤んだ瞳で玄徳を見つめている。

 こんなにも愛らしい言葉と態度を取られると、堪らなくなる。

 玄徳は花を激情のまま抱き締めた。



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