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ひとりで生きていかなければならない。 花は腹を括ると、またすぐ背筋を伸ばした。 ひとりで生きて行くためには仕事をしなければならない。 花が選んだのは新興企業の掃除だった。 今日はその面接があるのだ。 新築されたばかりのビルはただただ広くて迷いそうだ。 面接に受かると嬉しいのに。 これといって取り柄はないが、一生懸命だけが長所だ。 花は面接に最後に呼ばれて、背筋を伸ばして面接室に向かった。 面接室に入ると、そこにはまだ若い男が座っていた。 「次、山田花さん」 男らしさの中に甘い声が滲んで、花はついうっとりと聞いてしまう。 「は、はいっ」 「現役の女子高生…か…」 「あ、あのっ、お掃除は一生懸命しますっ! 得意なんですお掃除っ!」 花は一生懸命自己PRをする。 掃除のアルバイトはどうしてもやりたい。 このアルバイトがあれば、何とか生きていける。 サバイバルな人生を支える必要なものなのだ。 花が一生懸命訴えたからか、男は大きく頷く。 若いが器が大きそうな男だ。 採用してくれるかもしれない。 花はそんな期待を抱いていた。 「よし、お前は採用だ」 男は豪快にも即決をすると立ち上がる。 花もつられて立ち上がった。 「俺はこの会社の代表、劉玄徳だ。よろしくな」 「よ、よろしくお願いします」 差し出された玄徳の手はとても男らしくて、花はうっとりとその力強さを受け入れた。 花にとって玄徳の力強さは、信頼出来るものだった。 新しいものにかけることが出来る。 そう思った瞬間だった。 翌日から、花は玄徳の会社のアルバイトに入った。 掃除をしたり、雑用をしたりする。 玄徳の会社は誰もが若く、瑞々しい表情をしていた。 花にとっても、刺激的な職場であった。 ミーティングも濃密で、誰もが楽しそうにハードに仕事をしている。 花もその端で仕事をするだけで嬉しかった。 「花! すまないが、お茶を出してくれないか!」 いつもなら自分達のことは自分達でやる玄徳のスタッフだが、今日はかなり議論が白熱していた。 花はお茶を飲む暇がないほど議論に熱中している人々のために花は飲み物を用意する。 気分転換のために香りの良いジャスミンティーにした。 玄徳たちは、ちょうどコンビニに並べるスウィーツについて、熱心に議論していた。 花もスウィーツが大好きなので、楽しく話を聴く。 美味しくて機能性のあるスウィーツならば、女の子は大歓迎だからだ。 花がにこにこと笑いながらお茶を配っていると、玄徳と目が合ってしまった。 「おい、花。お前だったらコンビニでどんなスウィーツが食べたい?」 「そうですねえ…。これは私としての意見ですけれど…」 花は、疲れた時や、ランチの時に食べたいスウィーツを思い浮かべる。 すると簡単に色々と思い浮かんだ。 「コンビニってデパ地下のような本格的なスウィーツがないんですよねえ…。かといって、値段はデパ地下並みだと買いませんし…。価格はデパ地下スウィーツよりも抑えて、かつ本格的なんですけれど、機能性が追加されると嬉しいです。女の子って、甘い物は大好きなんですが、カロリーを気にすると二の足を踏んでしまうんですけれど、だけ肌に良いとか、私たち女子高生なら頭の栄養になるとか、躰に良いとか…。何か理由があると、気にせず食べられたりするんですよね…。それに加えて少しでも良いからカロリーダウンして、しかも美味しい。これだけそろっていたら、多少高くても買いますよ」 花の話をスタッフたちも聞いている。 余りに真剣な雰囲気だったので、拙いことを言ってしまったのではないだろうかと、花は一瞬思った。 本当に喋り過ぎてしまった。 だが、本当にこんなスウィーツがあれば買うのにと思う。 「確かにそうよね」 芙蓉が頷く。 「孟徳物産と孫コーポレーションとのコンペに勝つには、それぐらいのものを開発しなければならないか…」 雲長も頷く。 「後、パッケージもロマンティックで、だけど何処か高級感があるものが良いのかもしれません」 「パッケージも工夫…か…」 玄徳は頷くと、真直ぐ花を見た。 いきなり真剣に見つめられて、花は戸惑いを隠しきられなかった。 「あ、あのっ!?」 「花、お前は掃除雑用係はクビだ」 意見を訊かれて言っただけでクビになるなんて、花は思ってもみなかった。 変なことを言い過ぎたのだろうか。 「…あ、あの…クビになったら私…学校に行けないんですが…」 「アルバイトをクビにするとは言ってはいない」 「は…?」 花は、玄徳が何を言っているのかが分からなくて目をパチクリとさせた。 「…あの、玄徳さん、それはどういうことなのでしょうか?」 花は玄徳にストレートに訊いてみる。 「お前の配置転換をしたいと思っている」 玄徳は立ち上がると、ゆっくりと花に近付いてくる。 「…配置転換…ですか…?」 「ああ。お前を今日から俺の直属のアシスタントとして採用したい」 「アシスタントですか!?」 掃除を中心とした雑用係のアルバイトから、突飛なく出世している。 これには花も驚いた。 「本当に…、私をアシスタントにされたいのですか? 私はただの女子高生ですよ」 玄徳の抜擢ぶりに、花は驚きを通り過ぎて、妙に冷静になっていた。 「ああ。その女子高生のアイディアがうちには大切だ。うちのブレーンである孔明も、お前の力を認めている」 「はあ…」 花は力なく返事をする。 何の取り柄もない自分をアシスタントにして、玄徳は何をするのだというのだろうか。 花は不思議に思いながら、玄徳を見た。 「ということでお前は俺の隣りに座れ」 「はい」 またミーティングが再開される。 花が先ほど話してものを元にして、様々なアイディアが出てくる。 いつか学校を出たら、玄徳の会社のようなところに就職がしたいと思っていた。 それがこうして叶うなんて、花には思ってもみないことだった。 ミーティングは話を聞いているだけで、とても勉強になった。 今や大手の企画会社となった玄徳の会社ではあるが、今でも様々な企画は、設立当時の中心メンバーで行なっている。 手作り感がある雰囲気が、花は大好きだった。 「さてと、以上で今日のミーティングは終了だ。花、お前は残れ」 「はい」 玄徳に言われて花は会議室に残った。 何だか先生に残されて困っている子供のような気分になった。 「突然アシスタントなんぞにさせて悪かったな」 「いえ、会議は楽しかったですから」 花が笑顔で言うと、玄徳も笑顔になった。 「アルバイトの時給は雑用の時よりも弾ませて貰うから」 「はい、有り難うございます」 正直、時給を弾んで貰えるのはかなり有り難い。 勤労学生である花にとってはかなり大きいことなのだ。 「嬉しいです。助かります」 「それは良かった。花、お前、学校に行く為にバイトをしているらしいな」 「はい。学校だけはきちんと卒業したいんです」 「偉いな」 玄徳はそう言うと、花の頭を優しく撫でてくれた。 まるで子供にするかのようにだ。 それが妙に心地が好い。 「今夜はお前の話を色々と訊きたい。どうだ、一緒にメシでも」 「はい、有り難うございます」 玄徳とご飯に行く。 なんてラッキーなのだろうかと、花は思わずにはいられなかった。 |