*Sweet Love*


 玄徳と食事に行くのは、ウキウキするのと同時に、少しだけ緊張する。

「花、上手い小籠包を食わせてくれる店があるから、一緒に行こう」

「はい!」

 花は小籠包が大好きなので、つい笑顔になってしまう。

 ウキウキすらしてしまう。

 玄徳はエコで燃費の良い車に乗っており、らしいと花は思った。

 見た目よりも実を取るタイプなのだろう。

 本質をきちんと見分けることが出来るタイプなのかもしれない。

 花は助手席に乗せられて、ほんの少しだけ喉がからからになる。

 整った玄徳の横顔を見つめるだけで、甘い気分がときめいてくるのだ。

 玄徳は運動が上手く、安心して車に乗っていられた。

「花、しっかり食べて、明日から頑張ってくれ。俺のアシスタントといってもそんなにも構えなくて大丈夫だ」

「はい」

 玄徳と一緒に仕事をすればとてもやりやすいだろうし、勉強にもなるだろう。

 花はとても楽しみにしていた。

 玄徳が連れていってくれたのはカジュアルな中華料理店で、花もかしかまることなく食事が出来た。

「大根モチと小籠包、水餃子も!」

「豚マンだとか好きなものをどんどん食べて良いんだ」

「有り難うございます」

 玄徳はまるで幼い妹を見るかのように、花を見ている。

 頼りになる兄を得られたような気分になった。

「お前の斬新なアイディアと感覚は、今までのうちの会社にはなかった感覚だ。そこをしっかりと伸ばしていって欲しい」

「私に出来ることはあるでしょうか?」

 どのようなことでも頑張ってするつもりではあるが、自分できちんと勤まるのか不安なところもある。

「大丈夫だ。お前ならきっと良い仕事をしてくれるだろう。それは間違いない。俺が保証してやるよ」

 玄徳は本当に信頼してくれている。

 花はそれが嬉しくて、しょうがない。

 誰かにここまで信頼をして貰ったことは今までなかったことだから、それが花には嬉しかった。

「出来る限り頑張りますね」

「ああ」

 玄徳はおおらかな笑顔で頷くと、花の頭を優しく撫で付けてくれた。

 なんて心地が好いのだろうか。

 花はつい笑顔になった。「しっかり頑張ります」

「ああ」

 玄徳とこうして一緒に食事をしているだけで、花は楽しいのと同時に気持ちが引き締まるのを感じた。

 しっかりと仕事をしなければならないと、やる気のボルテージを上げた。

「どんどん食えよ。デザートもあるからな」

「はいっ!」

 食べながら玄徳と色々な話をするのは、為になるのと同時に楽しくもあった。

 仕事の話というよりも、本当に世間話をしたと言った方が良かった。

 玄徳と一緒にいると本当に楽しかった。

 花には兄がいないから、頼り甲斐のある兄が出来たようなそんな気持ちになった。

 玄徳と話しているだけで楽しい。

 こうして色々と気遣ってくれる玄徳を、好ましく思った。

 

 楽しい食事の後、玄徳は家まで送ってくれる。

 家といっても小さなアパートだ。

「有り難うございました」

「花、明日から頑張ろうな」

 玄徳が、ドキリとするような眩しいほどの笑みを向けてくれ、花はつい笑顔になる。

「有り難うございます。明日からはしっかりと頑張りますね」

「ああ。一緒に頑張って行こう」

 花は車を降りた後、玄徳が見えなくなるまで見送る。

 幸せでほんわかとした気分になれた。

 

 学校が終わった後、花は玄徳のオフィスに行く。

 今日からは雑用係ではないのだが、何をして良いのかが分からなくて、花は取りあえずはお茶の準備からすることにした。

「こんにちは、よろしくお願いします」

 花が元気良く挨拶をした後、誰もが一応は好意的な表情を向けてくれた。

「花、お前の机は孔明の横だ。色々と教えて貰ってくれ」

「はい。孔明さん、よろしくお願いします」

 花が挨拶をすると、孔明は微笑んでくれた。笑うと可愛らしい。

「今日からは師匠と呼ぶように」

「へ?」

「君がきちんと玄徳様のアシスタントを務められるように色々と教えるよ。だから師匠。良いね」

「はあ…」

 確かに、孔明から色々と教えて貰うのだから、師匠というのは間違ってはいないと思うが。

「分りました。では師匠、宜しくお願いします」

「うん、うん。宜しく」

 孔明に挨拶をした後、花は席に着いた。

「僕は広告戦略を担当しているんだ。プレゼンテーションにおいて何を強調して相手のニーズに応えるのか…。なんていうところを担当している」

「戦略の要ですか…」

「まあ、そんなところかな。最近は、孟徳、玄徳、仲謀の三つの会社で争うところが多くてね。それぞれのところの強みを色々と解っているつもりだよ。だから、とても難しい戦いだね」

「戦い…」

 孔明の話を聞きながら、花は大変な仕事だと改めて思った。

「本当にかなり大変ななんですね…」

「まあね。だけどやりがいはあるよ。それに今回のコンペはうちに勝機の風が吹いてきたしね」

 本当に戦いなのだと花は思わずにはいられなかった。

「勝機ってどうしてですか?」

「うん。君が入ったからだよ」

「私が?」

 花は何が何だか分からなくて孔明を見た。

「うん。君は充分に戦力になるよ。これは本当。君のような斬新なアイディアに期待だね。僕は別のプロジェクトも抱えているから、スウィーツのことは君にお任せしたいと思っている。異論はないよね?」

「え!?」

 花はいきなり言われて、目をまるくした。

 まさかそんなことがあるなんて思ってもみなかったのだ。

「え…? 私が!?」

「簡単に仕事の流れは教えておくから、後は君で頑張ってみて? 君なら出来るからさ」

「え、あ、あの…」

 戸惑う花に、孔明はただ得体のしれない明るい笑顔を向けるだけだ。

「大丈夫だって! 君なら絶対に出来るからさ」

「はあ…」

 そう言われても、どうして良いのかが花には分からない。

 溜め息を吐くしかなかった。

「…ということだ。うちは、孟徳、仲謀のところよりも、かなり人手が少ない。その分、少数精鋭とも言えるから頑張ってくれ。ただし、お前の残業は禁止。遅くまで仕事はしないように」

 玄徳は、花に苦笑いと期待が入り交じったまなざしを向けてくる。

 一度引き受けた以上は、頑張るしかない。

「わ、分りました…」

「よし。頑張ってくれ」

「はい」

 花は返事をすると、やるしかないと腹を括った。

 ここのスタッフの雰囲気も悪くないし、何よりも働き易そうだ。

 そして玄徳がいる。

 玄徳がいれば、頑張れる。

 信じて着いていけば大丈夫な気がする。

 花は自分が出来る限りのことをやろうと思った。

「花、少し良いか?」

 玄徳に声を掛けられて、花は息を飲むぐらいに緊張してしまう。

 ついドキドキしてしまうのだ。

「パッケージのデザインだが、どんな感じが良いね?」

「スウィーツだったら中味を見せるので、殆どデザインがし難いんですよね?」

「ああ」

「高級感があって、さり気なく可愛い雰囲気のものが良いと思います。ナチュラルな可愛さが良いかと…。男性が手に取っても恥ずかしくない感じが良いんですよね」

「なるほどな…。俺は甘いものを余り食べないから、イメージがなかなか湧かないな…。絵に出来るか?」

「絵に?」

「ああ。俺たちがイメージ出来るように」

「分りました」

 花は笑顔で返事をする。

「頼んだ」

 玄徳はさらりと言うと、花の背中をしっかりと叩く。

 信頼してくれている。

 そう思うと、頑張れるような気がした。



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