*甘い新婚生活*

前編


 孟徳と婚儀も終えて、花は幸せな時間を過ごしている。

 戦もなくなり、今は平和で安定しているといえる。

 孟徳も今までよりもずっと職務に責任があるから、忙しさはかなりのものになってきている。

 戦をしていた時よりも、ある意味忙しいのかもしれない。

 だが政治的にはかなり安定をした、良い状態であるということが言えた。

 そうなると浮上してくるのが、やはり跡継ぎのことだ。

 政治的に安定し、結婚もし、重職にも就いた。

 そうなると今度は、世継ぎということになるのだ。

 ふたりに子どもがまだなのかと、俄かに騒がしくなってきている。

 勿論、結婚したばかりではあるし、花もまだまだふたりきりの時間を楽しみたいとも思っているから、子どものことなどはなかなか考えられない。

 それに子宝は神様の思し召しなところもあるから、意識してはいなかった。

 それに新婚生活を楽しみたいということもあった。

 

 孟徳と結婚をしてから、花は表立った仕事をすることは少なくなった。

 孟徳の仕事を手伝ってはいるが、ハードというわけではない。

 花が忙しくなり過ぎないようにと、孟徳がセーブをかけてくれているのだ。

 だからといって、文官としてないがしろにされているわけではなく、重要な案件の時はきちんと意見を訊いてくれるから、むしろ大切にされていると言っても良かった。

 今日は孟徳の仕事を手伝う日だ。

 花は幸せな気分になりながらも真剣に、孟徳の仕事を手伝っていた。

 国の津津浦浦から様々な要望があり、それを的確に処理をしていかなければならない。

 要望の中には、必要としないだろうことも沢山あるので、そのあたりは精査をして取組んでいる。

 精査の時に、花に意見を訊かれることすらある。

 その度に、花なりの感覚で答えていた。

「…働く女性の為の託児所か…。そもそも働いている女性はそんなにいないから必要ないと思うんだけれど…、花はどう思う?」

「…私は必要だと思います」

「どうして?」

 孟徳は花の瞳に理由を問い掛ける。

 この世界では女性が働いて子どもを育てる状況は皆無に等しい。

 恐らくは女性の仕事が、子どもを産み育てて家を守ると考えられているからだろう。

 花の生まれた世界でもまだまだなところもある。

 だが、託児所を作ることによって、より女性が働き易くなるのは確かだった。

「宮廷やこの丞相府、そしてありとあらゆるお屋敷で、沢山の女性が働いています。だからこそ託児所は必要だと思います。そのお母さんたちが安心して働く為には必要だと思います」

 花はキッパリと言った。

 花の考えが、きちんと孟徳に伝わるのかは、正直言うと未知数ではあるが、自分の思うことはストレートに伝えたかった。

「そうだね。確かに君の言うことは一理あるよ。君だってペースを守りながら仕事をして貰っているけれど、いつ、託児所が必要になるかが解らないからね」

「…そうですね」

 花は孟徳に当たり前のことを指摘されてしまい真っ赤になってしまう。

 考えてみれば、花が使う可能性はかなり高いのだ。

「君はいつ子どもが出来てもおかしくはない環境にいるでしょ?」

 孟徳に柔らかく微笑みながら言われて、花は真っ赤になりながら頷いた。

「そうだな。この案件は要検討ということにしておこう」

「はい」

 孟徳の様子を見ながら、以前の彼ならばきっと切り捨てていた案件なのかもしれないと、ぼんやりと思っていた。

 花と正式に婚儀を挙げるまでは、正妻はいなくとも妾の存在はあった。

 今は花一筋でいてくれているが、やはり世継ぎの問題というのは、確実に出て来るだろう。

 それは花にも何となく解った。

「孟徳! この処理を頼むー」

 元譲が悲鳴に近い声を上げて、沢山の書類を持ってきた。

 ある意味孟徳以上に首の回らない忙しさだと、花は思っている。

「…またか…。元譲、もう少し精査してから、案件を持ってこられないのか?」

 孟徳はうんざり気味に溜め息を吐くと、元譲が持ってきた書類を眺める。

 うんざりを通り過ぎているようだった。

「これでも精査をしているんだっ。この何十倍も案件が毎日のようにやってくるっ!」

 元譲は疲れ果てて困り果てているようだった。

 見た目とは違い、元譲はかなり気配りが出来る心優しい人物なのだ。

「はい、はい。解ったよ」

 孟徳もそのあたりを解っているからか、結局は仕事を受け入れるのだ。

 良いコンビネーションだと、花は感心する。

「元譲さん、お茶を淹れますよ。少し休憩されたらいかがですか?」

 花がにっこりと笑うと、元譲はすまなさそうに笑顔になった。

「全く…。仕事を持って来たのに、花にお茶を淹れて貰うなんて、お前には勿体ないよ」

 孟徳はまるで苛めっ子のように言うと、元譲をわざと睨んだ。

「すまないな…。新婚なのにこうして邪魔ばかりをして」

「本当に迷惑だ」

「大丈夫ですよ。お茶を飲んで気分転換をして下さいね?」

 花が笑顔で言うと、元譲は益々すまなさそうに頷いた。

「本当にすまないな…」

「大丈夫ですから、余り気にされないで下さいね。お茶を淹れてきますね」

「有り難う」

 花がお茶を淹れて差し出すと、元譲は少しだけホッとしたようだった。

「すまないな、本当に」

「いいえ、元譲さんもとっても忙しいでしょうから」

 花が頷くと、元譲は本当に今にも泣きそうな顔をした。

「…こんなに忙しいと、世継ぎはまだまだだな」

 元譲はしみじみと呟く。

「世継ぎ?」

 花が訊き返すと、元譲は溜め息を吐いた。

「ああ…。軍の中枢にいる者は誰もが期待しているからな。孟徳と花の子どもを…」

 いきなり世継ぎだと言われても、花はつい戸惑ってしまう。

 世継ぎだと言っても、今はまだ早いと花は思っていた。

 だが、そうではないのだということを、何となく気付いてしまう。

 世継ぎを早くと誰もが期待しているのだ。

 花にとって、これはほんのりと重いような気分になった。

「元譲、これだけ忙しいんだから、まだまだ世継ぎは早いことが分かるだろう? 今後、俺は花との間以外の子どもはいらないからね。それだけは言っておく」

 孟徳は凄い台詞をあっさりと言ってしまう。

 花にはそれがまた嬉しくもあった。

「…そうか。まあ、皆、何となくそれは解っていることだろうからな」

「まあね。そうじゃないと俺の部下は務まらないだろうからね」

「うむ」

 元譲は、確かにとばかりに頷いた。

「ご馳走になった。仕事に戻る。これ以上ここにいても、孟徳に蹴飛ばされるのがオチだからな」

「そうだよ。邪魔者はシッシッ」

「孟徳さん」

 花が苦笑いをして諭しても、孟徳は平然としている。

「では、御免!」

 元譲はそれだけを言うと、執務室から出ていってしまった。

「やれやれ…」

「元譲さんも大変なんですよ」

「解っているよ、それはね」

 孟徳は甘く笑うと、花の手をそっと握り締めた。

「…花…、子供は欲しい?」

 孟徳に手の甲を撫でながら呟かれると、花は甘いときめきが沸騰してくれるのが解った。

「…いつかは孟徳さんの赤ちゃんが欲しいです…」

 花ははにかみながら、孟徳に呟いた。

「うん。俺もだよ。花の子どもが欲しい。子どもが世継ぎだったら嬉しいけれどね」

「はい」

「花、子どもを作ろうか。俺も君の子どもが欲しい」

 ストレートに言われて、花はただ頷くことしか出来ない。

 愛するひととの子どもが欲しいのは事実だった。



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