*甘い新婚生活*

中編


 愛する孟徳の子どもは勿論欲しい。

 出来ることならば、ひとりではなく沢山の子どもが欲しいと、花は願わずにはいられない。

 花はほんのりと頬を赤らめながら、孟徳を潤んだ瞳で見つめた。

「…こら。そんな瞳で俺を見つめたら、今夜はどうなるか解らないだろう?」

 孟徳に艶のある声と笑顔で言われると、花は胸が高鳴るのを感じた。

 はしたないのは解っている。

 だが、孟徳を求めずにはいられない。

 孟徳に抱かれたくなるのは、やはりそれだけ愛しているからだろう。

「…花…、今は…何とか仕事をしなければならないよ。ふたりきりの時間を作るためにね」

「…はい」

 ふたりきりのとっておきの時間。

 孟徳と花にとっては、本当に貴重な時間なのだ。

 かなり厳しい仕事をしている孟徳は、本当に文字通りに首が回らない忙しさだった。

 だからこそ、時間は生み出さなければならないものでもある。

 そのためにも仕事はきちんとするしかなかった。

「丞相、竹簡をお持ちしたと州牧が見えられました。お目通りを願います」

「しょうがないなあ…。ああ、入って貰ってくれ」

 孟徳は片付けていた書類の処理を邪魔されるのが嫌らしい。

 それもその筈で、孟徳は夜の時間を作り出すために、必死になって仕事をしているのだから。

 仕事をしながら、孟徳は立ち上がり、州牧を迎えた。

「これは丞相」

「用件は」

 孟徳は厳しく冷徹な丞相の顔になる。これには花も震えてしまうぐらいのシビアさがある。

「解った。検討しておく。直ぐに案件は精査することが出来るだろうから」

「有り難うございます」

 州牧はうやうやしく挨拶をした後で、花を見た、

 じっと見つめられて、何だかバツの悪い気分になる。

「お美しい奥方様ですね」

 州牧は感嘆の声を上げるように呟く、だが、その途端に、孟徳の機嫌がそこはかとなく悪くなった。

「ああ。お前の案件は処理しておく。用件はそれだけだな。では」

 孟徳が急に機嫌が悪くなったものだから、州牧はすっかり驚いてしまっているようだった。

 直ぐに返すと、孟徳はうんざりするとばかりに溜め息を吐いた。

「…これだから困るんだよ…」

「孟徳さん、あんなにも早くお返しをして良かったのですか?」

「良いの良いの。案件は直ぐに処理をしておくから構わないよ」

 孟徳はそれだけをあっさり言うと、厳しい顔で仕事を始める。

 何だか訊きづらい雰囲気だ。

「…花…。やっぱり君は、表立った仕事はしないほうが良いのかもしれないね…」

「…え…?」

 表立った仕事が出来ないというのは、花にとっては辛いことだ。

 孟徳の手助けが出来ないなんて。

 愛するひとの手助けをすることが、花にとっては何よりもの大切なことだというのに。

「さっきの州牧…、花のことばかりを見ていただろう? 最近、君は益々綺麗になっているから、ああいう輩が増えないとは限らないからね。だから…、アイツらに君を見せたくはない。君をああいう風に見るやつは…」

 孟徳は明らかに可愛い嫉妬をしてくれている。

 それが何よりも可愛くて、花は思わずくすりと笑った。

 そういう理由であるならば、奥の部屋で引っ込んで仕事をすれば良いのだ。

 それならば一向に構わない。

「奥に引っ込んで仕事をしますよ」

「うん。花とお茶をしたり、休憩を一緒に取ったりしたいからね」

「はい」

 孟徳に子犬のように甘えた瞳で見られると、花は弱い。

「じゃあお茶を淹れますからもう少しだけ、お仕事頑張りましょうね」

「うん!」

 孟徳の笑顔に、花は思わず微笑んだ。

 

「終わったー! これでようやく、花と一緒に夜をのんびりと過ごすことが出来るよ」

「はいっ! ご苦労様です」

 孟徳は本当に嬉しそうに笑うと、花の手を取った。

「ゆったりとした時間を過ごそう。食事も用意が出来ているからね」

「有り難うございます」

 リラックスするために、先ずは湯浴みをする。

 仕事の後の湯浴みは、最高の贅沢ではないかと思う。

 花はのんびりと湯船に漬かって肌に磨きをかける。

 この時代では湯浴みをすることはまだまだ贅沢であることは解っている。

 だからこそ、この時間は貴重だと思わずにはいられない。

 花は孟徳に少しでも綺麗だと言われたくて、肌に磨きをかけていった。

 湯浴みの後、髪を緩やかに束ねて、孟徳から贈られた衣装に袖を通す。

 この服が自分を最も美しく魅せてくれるのではないかと、花は思った。

 食事が用意されている部屋に向かうと、孟徳が子どものように可愛らしい笑みを浮かべて待っていた。

「花、これからはふたりだけの時間だよ。のんびりとしようか」

「有り難うございます」

 孟徳と向かい合って座る。

「美味しそう! いただきます」

「いただきます」

 ふたりで食べる食事が何よりも嬉しい。

 美味しく感じるのだ。

 愛する孟徳と一緒に食事をするということが、何よりもの幸せなスパイスになった。

 

 食事が終わると、ふたりだけののんびりとした甘い時間になる。

 ついうっとりとしてしまう時間だ。

「…花…」

 孟徳が手を差し延べてくる。

 花はにこりと笑いながら、その手を取った。

「ようやくふたりだけの時間だ。今夜はのんびりとしたい、ふたりきりでね…。子どもが出来る環境を作らなければならないからね…。そうでしょ?」

 想像出来ないほどの甘い囁きに、花は蕩けてしまいそうだ。

「…花」

 孟徳はとっておきの官能的な声で囁くと、花をしっかりと抱き上げる。

 そのままふたりの寝室へと向かった。

 

 寝台に寝かされて、花は真直ぐ孟徳を見た。

 甘い雰囲気を醸し出すのが得意な孟徳だ。女性が溺れるのも解るような気がした。

 だが、今は自分だけにその甘さが向けられている。

 それは花にとっては嬉しい。

 孟徳がゆっくりと顔を近付けてくる。

 見つめるだけで鼓動が早まる。

 それほどまでにときめいてしまった。

 孟徳は優しいスピードで、ゆっくりと唇を近付けてきた。

 甘いキスに、花はこのまま溺れていけば良いと思った。

 最初は触れるように。

 徐々に深い角度になっていくキスに夢中になりながら、花は孟徳の背中に両腕を回した。

 やがてふたりのキスの角度は深くなり、お互いに貪るかのように激しくキスをする。

 唇を強く吸い合い、舌をしっかりと絡ませ合う。

 唾液で唇の周りがべたべたになっても、ふたりは気にしない。

 むしろそれでも構わないと思った。

 息なんてするのを忘れてしまうぐらいに、何度もキスを交わし合う。

 躰の奥が熱くなり、孟徳を激しく求めるまで、ふたりは何度も激しくキスをした。

 唇から唾液の糸が引くまで、何度も何度も唇を重ねる。

 孟徳の手が、遠慮なく花の胸元の袷に入り込んできた。

 そのまま肩が露になる。

 孟徳は唇をま白の首筋から、デコルテにかけて蜂蜜のように蕩けてしまいそうな甘い唇でキスの雨を降らせた。

「…」

 花の白い肌には、孟徳の付けた花びらが見事に咲き誇った。

 そのまま孟徳の掌は花のボディラインを味わうように触れた後、乳房を下から持ち上げるように揉みしだいてくる。

「…あっ…」

 花が高らかに甘い声を上げると、孟徳の愛撫は更にきついものになる。

「…孟徳さん…っ!」

 躰の奥深くが甘く痺れて行く。

 孟徳が欲しいと子どもが欲しいと疼いている。

「…花…。君は本当に綺麗だよ…。気味以上に綺麗にひとはいないよ…」

 孟徳は花に讃辞を贈ると、豊かな乳房に顔を埋めた。



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