中編
侍女たちはとっておきの衣装を用意してくれていた。 孟徳にはもう何度も綺麗にして貰ってはいたが、今日はいつもにも増して綺麗にして貰えるのが嬉しかった。 「花様、美しくさせて頂きますね、丞相がうっとりとされるように」 女性に関しては百戦錬磨の孟徳だから、なかなか美しいとは思っては貰えないかもしれない。 だが、花は綺麗にして貰い、孟徳にうっとりとして貰いたかった。 花は、孟徳の為だけに綺麗になりたいと言っても過言ではなかった。 孟徳にはいつでも恋をしていて欲しい。 いつでも花は孟徳に恋をしているのだから。 花は深呼吸をしながら、出来上がりを楽しみにする。 まるでお人形のように着飾られるのも悪くはなかった。 「…まあ、花様、美しいですわ!」 侍女が感嘆の声を上げてくれる。 その声に、花は期待のドキドキで胸が高まる。 孟徳に綺麗だと心から言われたい。 可愛いと心から言われたい。 誰からでもなく、孟徳に言って貰いたいと花は思っていた。 「ご覧になられますか?」 「はい。有り難うございます」 花が呟くと鏡を出してきてくれた。 緊張しながら花は鏡を覗き込む。 すると本当に見事なまでに美しくして貰えた。 「有り難うございます。嬉しいです」 花が笑顔で礼を言うと、侍女たちも嬉しそうに笑ってくれた。 それが花には何よりも嬉しい。 こんなに嬉しいことは他にない。 「では、孟徳様を驚かせに参りましょう。花様を抱き締めたまま離さないかもしれませんね」 花は本当にそうなれば嬉しいのにとこっそりと思いながら、孟徳が待つ部屋に向かった。 今日は二人だけのお祝いだ。 これからはふたりでずっと一緒にいられるのだ。 花がずっと望んでいた理想的な結婚なのだ。 「では参りましょうか」 「はい」 花は侍女たちに、孟徳がいる場所まで連れていって貰う。 「孟徳様、花様をお連れ致しました」 「有り難う」 孟徳の声が響くのと同時に、部屋の扉が開けられる。 すると正式な装束をした孟徳が待っていてくれた。 大好きなひとの正式な装束はやはりうっとりと見つめてしまう。 「花…やっぱりその格好が最も似合っているね」 「…有り難うございます。孟徳さんも素敵です」 「有り難う。このままギュッと抱き締めたくなるね」 孟徳の微笑みに、花も思わず頬を赤らめた。 「ではふたりでお祝いをしようか」 「はい」ふたりだけで食卓を囲むように準備がされている。 「お祝いしよう。ふたりでこれからの人生を楽しく過ごすために」 「はい」 ふたりで微笑みあった後杯を傾ける。 花はお酒が飲めないため、甘い果樹を搾ったものが出された。 「花、酒でなくて構わない?」 「はい」 ふたりで食事をしながら、飲み交わしながら、とても幸せな気分に浸ることが出来た。 花の快気祝いも含まれていたから、その意味でも更にはおめでたい席となった。 食事を楽しんだ後、孟徳は花の手をギュッと握り締める。 「行こうか」 「はいっ!」 食事は緊張しなかったのに、急に緊張が全身を巡ってくる。 花はドキドキする余りに喉がからからになる。 急にぎこちない動きになった花を孟徳は苦笑いする。 「どうしたの? 緊張しているかな?」 うっとりとしてしまうような甘い声で、孟徳は囁いてくる。 その声を聞いているだけで、花は全身が蕩けてしまうのではないかと思った。 「大丈夫。花…」 孟徳は優しく言うと、花を寝室へと連れていってくれた。 寝室に入ると、ほんとうにふたりだけだ。 花を柔らかく抱き締めると、孟徳は額を額に宛ててきた。 「…緊張してる?」 「少しだけ…」 「…うん…、実は俺も…」 「孟徳さんが…?」 「何、俺が女には百戦錬磨の男だと思っていた?」 孟徳がおどけたように言うと、花は正直に頷いた。 「はい…。女の子の扱いには慣れていらっしゃるから…」 「俺も随分と女たらしに見られたものだね。だけど女はちゃんと選んできたつもりだよ」 孟徳は空笑いをすると花の手を自分の心臓に持って来た。 「俺も緊張しているよ…。解るだろ? 最高の相手となると…、流石の俺も緊張してしまう…」 「孟徳さん…」 孟徳の鼓動も、確かに花と同じようにかなり早い。 同じように緊張しているのだと、花は改めて感じた。 「…私もそれ以上に緊張しています。相手が大好きなひとだからかな?」 花は緊張する余りに言葉を揺らせながら、一生懸命笑おうとする。だが、上手くいかなかった。 「…じゃあ緊張をほぐすおまじないでもしようか?」 「おまじない?」 「ああ」 孟徳は花の頬を優しく包み込むと、ゆっくりと唇を近付けてきた。 もう何度も孟徳とは唇を重ねてきた。 甘い媚薬のようなキスは、確かに花の緊張をほぐしてくれた。 何度も唇を重ねあい、やがてキスはかなり激しくなって行く。 お互いに舌を絡ませあって、感覚を刺激していく。 熱い想いをキスによって交換をしていると言っても良かった。 お互いに抱き合いながら、キスを深めてゆく。 愛しているからこそ、深いキスがしたくなる。 そしてそれ以上のことも。 お互いに息が出来ないと思ってしまうぐらいにキスを交わした後、ふたりは唇を離した。 「…花…君を俺ののものにする…。いいね」 孟徳に瞳を見つめながら呟かれて、花はもう頷くしかない。 うっとりと愛の世界に引きずり込まれて行く。 孟徳は官能的なまなざしを花に向けたままで、髪を柔らかく下ろした。 それだけで全身がきゅんと鳴る程に高まってゆく。 花は頷いた後、孟徳を思い切り抱き締める。 そのまま寝台に運ばれた。 寝台に静かに寝かされると、孟徳は手慣れた手つきで着物を脱がしにかかる。 孟徳に肌をさらすのは恥ずかしくてしょうがなくて、花は真っ赤になりながら、目を閉じた。 「目を開けて花…。俺だけを見つめてくれ…」 孟徳に甘く語りかけられて、花はゆっくりと目を開けた。 「恥ずかしがらなくて良い…。君は本当に綺麗だから…」 「孟徳さん…」 孟徳に絶賛されるように見つめられると、女としてとても誇らしくなる。 甘い緊張にどうにかなりそうだ。 「…花、愛しているよ…。力を抜いて…」 少しずつではあるが、花の力が抜けてゆく。 「…花…」 孟徳に名前を呼ばれるにつれて、不思議なぐらいに力が抜けていった。 生まれたままの姿にされて、花はどうして良いのかが分からなくなる。 花が戸惑うようなまなざしを向けると、孟徳は苦笑いを浮かべた。 「…大丈夫…。緊張しなくてもね」 「…はい…」 孟徳は花に微笑むと、自分の衣服を綺麗に脱ぎ捨てた。 孟徳の躰のラインが見える。 丞相でありながら名うての武人であるから、とても引き締まった綺麗な躰をしている。 思わずうっとりと見つめてしまっていた。 「…花…」 名前を呼ばれた後、孟徳は花を強く抱きすくめてきた。 息が苦しくなるぐらいに抱きすくめられる。 肌と肌をぴったりと合わせることが、こんなにも気持ちが良いとは思わなかった。 こうしているだけで本当に幸せだった。 「…孟徳さん…あっ…!」 首筋に唇を押し当てられたかと思うと、そのままデコルテへとキスが移動してくる。 胸までしっかりとキスをされると全身が震え出す。 「…花…。君だけだよ…。君以外の妻は娶らないから…」 「孟徳さん…っ!」 孟徳に乳房を強く揉みしだかれて、花は熱い刺激の余りに何度も華奢な躰を反らせた。
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