*愛を聴かせて*


 琥太郎と付き合い始めて、三年。

 月子も二十歳になる。

 ようやく大人の仲間入りだ。

 これで琥太郎に子供扱いされなくなるだろうか。

 ようやく月子は、琥太郎と同じステージに立てるのだ。

 今日は琥太郎とバースデーデート。

 今までは未成年だったから、琥太郎とはキス以上の行為をしたことはない。

 けれども愛し合っているから、その先に進みたいとも思ってしまう。

 その先に進みたいのは、勿論、琥太郎を誰よりも愛しているからだが。

 今までは、月子を過保護なぐらいに大切にしてくれていたが、それはある意味、月子がまだまだ子供であることを意味していた。

 そしてようやく今日二十歳になる。

 もう大人の女性なのだ。

 これからは一人の大人の女性として、対等に付き合って欲しいと思わずにはいられなかった。

 

 大人として認められる初めてのデート。

 月子は大人びたスタイルのワンピースを着て、化粧を入念に行なった。とはいえ、濃くはしないように、あくまで美しく見えるようにした。

 琥太郎と一緒に歩いていても、お似合いだと思われるように。

 少しだけ背伸びをして、ハイヒールを履いてみる。

 アクセサリーは琥太郎がプレゼントしてくれた星のピアスを身に着けた。

 これで準備は完璧だ。

 月子は待ち合わせ場所へと向かった。

 待ち合わせ時間までの間、月子はまるでダンスでも踊り出したくなるような気分だ。

 それぐらいに二十歳のバースデーは特別な意味合いを持っていた。

 琥太郎が運転する車が、時間通りに月子を迎えにやってくる。

 嬉しくてつい笑顔になってしまう。

「月子、待たせた」

 琥太郎が車から降りると、颯爽と月子のところにやってきた。

 バースデーデートのために一生懸命お洒落をした月子を見るなり、熱いまなざしでじっと見つめて来た。

 琥太郎にこんなにも甘いまなざしを向けられると、月子はドキドキが止まらなくなるのではないかと、思わずにはいられなくなる。

「さてと、バースデーデートをしようか」

「はい」

 月子が返事をすると、琥太郎は手をしっかりと握り締めてくれた。

 琥太郎の手が温かくて、これだけで特別な幸せを感じる。

 つい笑顔になってしまう。

「どうしたんだ? そんなにニコニコして」

「琥太郎さんと一緒にいられて、こうして手を繋ぐだけで嬉しいなって」

 月子はごく自然に素直な気持ちを言うと、笑顔を琥太郎に向けた。

「お前なあ…。お前はどうしてそんなにも可愛いんだよ…」

 琥太郎は月子を更に引き寄せて、もっと近い位置へと近付ける。

 抱き締められたことももう何度もあるというのに、月子はドキドキが止まらなくてどうしようもなかった。

 本当にドキドキし過ぎて、堪らない。

「月子、お前の二十歳のお祝いだからな。今夜はふたりで楽しもうな」

「…はい!」

 ふたりきりでのロマンティックな誕生日会。

 今までで一番幸せな誕生日ではないかと思う。

 これほどまでに恋心が沸騰するとは思ってもみなかった。

 

 琥太郎が連れていってくれたのは、郊外の、星と海がとても美しく見える、穴場的なレストランだった。

 景色を見つめているだけで、ロマンティックテンションが上がってゆく。

 琥太郎は、いつも以上に月子を女性としてきちんと扱ってくれる。

 いつものように、お子様だとからかうのではなく、今日は大人の女性としてきちんと扱ってくれる。

 それが嬉しかった。

 手をしっかりとつなぎながらも、躰もしっかりと密着してくる。

 ドキドキと嬉しさが交互にやってきて、うっとりとするぐらいにロマンティックを感じた。

 レストランは星を見ながら海も見られるだけではなく、シーフードもかなり美味しいお店だった。

「お前はこういう場所が好きだからな」

「有り難うございます。琥太郎さんが、私の為にここを一生懸命に選んでくれたのが、私には嬉しくてしょうがないです」

 愛するひとが準備をしてくれた、スペシャルなバースデー。

 その気持ちだけでも嬉しくて、月子はしょうがなかった。

 嬉しくて、今直ぐに泣きそうになる。

 だが、泣いてしまうと、また琥太郎にからかわれてしまうから。

 今は我慢をしようかと思う。

 大好きなひとには花のような笑顔を向けると、月子は食事を始めた。

 食事をしながら、時折、美しくも静かな夜景を見つめていたが、それよりも琥太郎を見つめるほうが多かった。

 夜景よりも、何よりも、月子が見つめていたいのは琥太郎だから。

 月子は琥太郎を見つめるだけで幸せで、同時に夢見るような気持ちになった。

 月子の誕生日だからということで、レストランからは、とっておきのバースデープレゼントとばかりに、ケーキが贈られた。

 ちゃんと月子の名前が書かれたプレートがケーキの上に置かれていて、嬉しくてしょうがない。

 月子はプレートを見ながら、この上なく幸せになった。

「有り難うございます、琥太郎さん…。私…とても嬉しくて…」

 月子は今にも泣きそうになりながら言うと、琥太郎を見た。

 もうここなら嬉しい涙を見せても構わないから。

 月子は涙を我慢するのを止める。

「おいおい、まだ泣くのは早いぞ。ほら。二十歳の誕生日おめでとう、月子」

 琥太郎は、そっとヴェルヴェットで出来た、可愛らしいジュエリーボックスを差し出してくれる。

「開けて良い…?」

「ああ、どうぞ」

「有り難う…」

 月子はつい笑顔になりながら、ジュエリーボックスを開けた。

 するとそこには惑星をイメージしたピアスが入っていた。

 かつて高校生の頃、琥太郎に、ピアスは大人の象徴だと話したことがある。

 だから、こうしてピアスをプレゼントしてくれたのだろう。

 月子は覚えてくれていたことは勿論だが、琥太郎のその心遣いが嬉しくてしかたがなかった。

「…有り難うございます…。覚えてくれていたんだ…」

「バカ、お前のことを俺が忘れるわけがないだろう…?」

 琥太郎の言葉に、月子は大泣きしそうになる。

 月子は、今、着けているピアスを外して、プレゼントして貰ったピアスを着ける。

 また、大人になったような気分になった。

「似合いますか…?」

 月子は恥ずかしさと誇らしさ、更には嬉しさを混ぜ合わせたような笑顔を向ける。

 すると琥太郎は眩しそうに月子を真直ぐ見つめた。

「似合っている…。とても綺麗だ…」

 微笑みながら、甘いまなざしで嬉しそうに見つめてくれる琥太郎を見つめていると、うっとりとしてしまうぐらいに素敵で、キスして欲しくなる。

 バースデーケーキよりも甘いキスをして欲しいと思ってしまう。

「…有り難うございます…」

 恥ずかしくて、けれども嬉しくてしょうがなくて、月子はつい上目遣いで琥太郎を見つめる。

 琥太郎は一瞬、呻くような甘さで喉を鳴らした。

「ケーキを食べたら、星を見に行こうか…」

「はい」

 早くケーキを食べてしまってふたりきりになりたい。

 星を見ながらのキスは、本当にロマンティックだから。

 大学生になった頃、海岸で星を見た。

 その時に蕩けるようなキスをしたことが、今でも月子の宝物になっている。

 あんなにもときめくキスは他にないと思った。

 ケーキを食べ終わった後、手を繋いで車に乗り込む。

 甘い甘いキスがしたい。

 タンデムシートに腰掛けると、琥太郎はいきなり抱き締めてキスをしてきた。

 触れるだけの甘いキス。

「…甘い…」

 琥太郎がケーキよりも甘く笑ったから、月子も思わず笑った。





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