*愛を聴かせて*


 車で想い出の海岸へと向かった。

 あの時よりももっともっと甘いキスが出来ると思うだけで、月子の心は昂揚する。

 息が出来ないぐらいに期待をしてしまう。

 車を駐車場に置いて、ふたりは海岸へと出た。

 月子が転ばないようにと、琥太郎がしっかりと支えてくれている。

「やっぱりここは星がとても綺麗ですね。海と宇宙が一つになったみたいで神秘的ですし…」

「そうだな…」

 月子と同じように、琥太郎も空を見上げる。

 こうしていつまでも琥太郎と一緒に星を見つめていたいと思う。

 こんなにもロマンティックなことは他にはないから。

「あれはペガススですね」

「ああ」

 琥太郎とふたりで、星座を探しながら眺めるのは本当に楽しい。

 月子は無邪気な笑顔を琥太郎に向ける。

「琥太郎さん、最高に素敵な誕生日を有り難うございます…。私、とても幸せです。今度は私が、琥太郎さんが最高だと思う誕生日を用意しますね!」

 今度は、最高の誕生日を自分が用意をする番だ。

 今から次の琥太郎の誕生日が楽しみになった。

 琥太郎は、とても優しくて甘い笑みをフッと浮かべると、月子を背後からしっかりと抱き締めた。

「…楽しみにしているよ…。だが俺は、こうしてお前と一緒にいるだけで嬉しいんだがな…」

「琥太郎さん…」

 琥太郎の言葉に、月子は鼓動を激しくせずにはいられなかった。

「月子…誕生日おめでとう…。お前を“お子様”だとは、言えなくなってしまったな…」

 琥太郎は低い何処か掠れたとても艶やかな声で呟いた。まるで、子供ではない月子が寂しいような。そんな想いを言葉に滲ませていた。

「もう大人の女ですよ」

 月子がほんのりと茶化したように言うと、琥太郎は更に抱き締めてきて、薄く笑った。

「ああ…。解っているよ…。俺も充分過ぎるぐらいにな…」

 琥太郎の温もりが月子の全身の細胞に伝わってくる。

 激しく沸騰してしまうほどの熱を感じて、月子は目を閉じた。

「…月子…」

 琥太郎は、星を見つめる月子を腕の中でくるりと回転させると、自分だけを見つめさせるかのようにする。

「星には妬けてしまうな…。お前の心を取り合う最大のライバルが星なんてな…」

 琥太郎は何処か自嘲気味に笑うと、月子に顔を近付けてくる。

 綺麗なまでに整った琥太郎の顔が近付いてきて、月子は心臓だけが月に向かってロケットのように飛び出してしまうのではないかと思った。

「…月子…。愛しているよ…」

 琥太郎の唇が近付いて、しっとりとドラマティックに月子の唇に重ねられる。

 琥太郎の唇が深く月子の唇を吸い上げて、更に躰を密着させてくる。

 舌を絡ませあい、お互いに唇を奪う。

 琥太郎は、主導権を完全に握って、月子の口腔内に入り込んで、舌先で荒々しく愛撫をしてきた。

 琥太郎の舌が上顎をくすぐるだけで、背筋に気持ち良い旋律が走り抜けた。

 舌を吸われて、唇を吸われて、頭がくらくらするぐらいに感じる。

 琥太郎とのキスは、頭がくらくらするぐらいに甘くて気持ちが良かった。

 お互いの唾液が流れるぐらいは気にならない。

 それどころか、お互いに交換しあった。

 キスが深まるにつれ、気持ち良さは上がってゆく。

 呼吸をすることすら忘れてしまえるぐらいに、琥太郎のキスは素晴らしかった。

 もう一人では立っていられない。

 しっとりとして、なのに激しいキスからは、もう離れることなんて考えられなかった。

 琥太郎は、月子が腰が支えられなくなっているのを察してか、しっかりと腰を支えてくれた。

 ようやく唇を離しても、月子は琥太郎だけしか見つめられなかった。星を見つめることなんて、出来るわけがなかった。

 頬を紅潮させている月子のフェイスラインを、琥太郎は意味ありげになる。

「…お前は本当に可愛いな…」

 琥太郎は甘やかすように言うと、月子の鼻の頭にキスをした。

 月子はただ琥太郎を見つめる。

 このままふたりきりでいない。

 帰りたくない。

 そんな我が儘な感情を、つい抱いてしまう。

 月子は上手く言葉にすることが出来なかった。

 ただ、琥太郎を見つめることしか出来なかった。

「…琥太郎さん…」

 琥太郎は何処か苦しげでありながらも、真摯なまなざしを月子に向ける。

 真直ぐただ月子だけを見つめる瞳は、月子にその切なさを伝えているかのように見えた。

「…月子…」

 琥太郎はくぐもった声で月子の名前を呼ぶと、更に強く抱きすくめてきた。

 再び息が出来なくなるぐらいに抱き締められた。

「…月子…。愛しているよ」

「私も愛していますよ…、琥太郎さん」

 ふたりはお互いに笑みをこぼしあった。

「…お前を帰したくない…」

 琥太郎は魂から振り絞るような声で言うと、月子を捕まえてしまうとばかりに抱き締めてきた。

「…月子…」

 琥太郎に心から抱き締められて、月子は感きわまって泣きそうになった。

「…私も…琥太郎さんのそばにいたい…です…」

「月子…」

 もう大人の女なのだ。

 決して子供ではない。

 それを琥太郎は認めて欲しい。

 大学生になっても、未成年だからと、琥太郎はとても大切に月子を扱ってくれた。

 それが本当に嬉しくてしょうがなかった。

 そして、今。

 月子はようやく二十歳になり、大人として法的な責任が出て来る年になった。

 もう自分の責任で、様々なことが出来る年齢なのだ。

 もう箱入り娘として、子供のように扱われる必要がない年齢なのだ。

 琥太郎のものになりたい。

 琥太郎を自分のものにしたい。

 そう思わずにはいられない。

 悩むように月子を見つめる琥太郎の瞳にも、明らかに月子への情熱が滲んでいる。

 それがとても嬉しかった。

「琥太郎さん、私はもう子供じゃないよ…。二十歳の女だよ? 子供としてはもう扱わないで…」

 月子は切ない恋心を琥太郎に見せつけると、背伸びをして、甘いキスを恋人に贈った。

「…大胆なヤツだな…」

「大胆ですから…」

 月子がくすりと笑うと、琥太郎は力強く抱きすくめてきた。

 そのまま激しい大人のキスを受ける。

 キスが甘いことも。

 キスが気持ちが良いことも。

 皆、皆、琥太郎が教えてくれたものなのだ。

 月子は琥太郎のキスをとことんまで感じながら、しっかりと恋人の躰を抱き締めた。

 唇を離した後、琥太郎は月子を見つめて来る。

「…月子…。一緒に俺の家に来るか…?」

 琥太郎が初めて一緒に来るかと言ってくれている。

 それが泣きそうになるぐらいに嬉しい。

「…はい…。一緒に行きたいです…」

「…解った…」

 琥太郎は月子の手をしっかりと握り締めると、駐車場へと向かう。

 緊張はしていたが、怖くはなかった。

「…両親に…、今日からは…外泊をしても構わないと…。ただ、大人として節度は持ちなさいと、言われました…」

「ああ」

 両親は恐らく、月子の恋をもう少し進めても良いと、言ってくれたのだろう。

 ふたりで駐車場に戻り、車に乗り込む。

 愛している。

 だから愛を確かめあいたい。

 ふたりの気持ちがようやく重なる。

 琥太郎は車を自宅へと走らせる。

 普段は星月学園の職員寮で暮らしているが、自宅が月子の実家近くにある。

 家族が海外にいるせいか、琥太郎の一人暮らしといっても良かった。

 近付くにつれ緊張する。

 愛している。

 ただそれだけで幸せだった。

 車は琥太郎の家のカーポートに停められる。

 車から出る際、琥太郎は月子に手を差し延べた。

 月子はその手を取る。

 もう後戻りは出来なかった。






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