ALL I WANNA DO


 その日、相馬は一端病院を出た。未来の退院の日はいよいよ明日に迫っている。
 幸せになる新たな一章が、ふたりの人生に刻み込まれようとしている。明日はその記念すべき日だ。だからこそ、完璧にしたいという想いが、相馬の中で高まっていた。
 それには色々準備が必要だ。
 相馬はその準備のために繁華街のデパートに来ていた。目的は、先週頼んでおいた物を宝石店に取りに行くことと、未来のワンピースを買う為。
 明日のプランでは、ふたりでチェリーランドに行き、桜の丘でお喋りをしてから、アルーラで食事をして、ホテルで一泊することを決めている。未来が言っていた、夢のデートをするのだ。
 未来のワンピースは、ソウ・モチヅキの物に決めていた。最も未来が似合って、美しく見える物だと思っていたから。
 ソウ・モチヅキ-----桜塚が産んだ、新進気鋭のファッションデザイナーで、今、そのフィールドを全世界に向けようとしている注目すべき人物だ。
 快適でフェミニンでしかもエレガントな脚線美を強調するスタイルで、女性にも人気が高まってきている。
 相馬は未来のスタイルの良さを、もう少し上品に表現したほうがいいと思っていたので、このソウ・モチヅキのラインは最適なように思えた。
 未来のことは一番自分が良く判っている。それは今や自負がある。
 ずっと幼い頃から彼女を見つめ、その面影を探し続けていたのだから。
 相馬は真っ直ぐワンピースのコーナーに行くと、未来が似合うであろう、品の良い桜色のワンピースを選んだ。ふわりとしたスカートは、ほっそりとすんなりとした未来の脚を強調することが出来る。
 それに合うヒールとネックレス、そして小さなバッグも一緒に買い求める。服をより映えさせるであろう、ルージュとシャドウも選んで、相馬は店を後にした。
 きっと、一緒に夕食を食べようと待っている、未来の笑顔を思い出しながら。
 
 夕食の後、未来の退院の荷物をまとめて、ふたりはようやく一息を吐いていた。
「明日は凄く楽しみなの。だって、先生とデート出来るもの!」
「…”隼人”だろ、未来」
「あ…、隼人さん…」
 まだまだ名前で呼ぶのが馴れないのか、時折”先生”と未来は呼ぶ。そのたびに、相馬は甘く微笑みながら訂正している。
「明日のデート、これを着てくれないか?」
 相馬は隠し持っていた、”ソウ・モチヅキ”の大きな紙袋をうやうやしく未来に差し出した。
「隼人さん…」
 未来は驚いたように息を呑み、そのまま大きな瞳に涙を浮かべる。嬉しい想いが瞳に潤いをもたらしているようだった。
「開けてみて。君が一番似合うと思う物を選んだつもりだよ」
「有り難う…」
 泣き笑いの表情を浮かべながら、未来はごそごそと紙袋の中をあさる。昔、子供の頃、相馬がこっそりと与えたお菓子を袋の中であさって、笑顔を浮かべていた未来と姿が重なり、懐かしさと愛しさが込み上げてきた。
「凄く綺麗…。こんなの、私に似合うかな…」
「似合う」
 相馬はきっぱりと言った。このワンピースを見た時から、未来以外に着こなせないと思っていたから。見た時から、このワンピースは彼女のためにあると言っても、過言ではないと思ったのだ。
「有り難う…。わあ、バック、ヒール、このネックレスも!」
 未来は続々と出てくるアイテムに目を丸くしながら、本当に心から喜んでくれていた。
 未来の喜ぶ顔を見るだけで、相馬は至福を感じる。これ以上になく幸せだった。
「明日はこれを着て僕に見せてくれよ? 綺麗な未来が見たい。それに、このシャドウとルージュも是非使ってくれ」
「勿論!」
 きらきらと輝く宝石のような笑顔を見ていると、本当に贈って良かったと思える。本当は、プレゼントという物は、贈られる人のためではなく、贈る人のためにあるのではないかと、思わずにはいられない。
「明日、私もおしゃれをするのが楽しみ!」
「僕も楽しみにしているよ」
 お互いに微笑み合った後に、軽く唇を重ねる。羽根のようなしっとりと甘いキスと、愛が籠もった「愛してる」という囁き。それらを繰り返すたびに、相馬と未来は改めて、幸せが自分たちの直ぐ近くにあると、実感した。

   □□□

 今日はいよいよ、未来が相馬医院を退院する日がやってきた。退院準備を整えて、彼女は病室で待っていてくれている。
 今日はふたりにとっては大切な、退院記念にデートだ。
 未来は今朝早く起きて、ごそごそとしていたので、きっと最高におしゃれで綺麗な姿を見せてくれるだろう。
 相馬が買ったソウ・モチヅキの最新ワンピースに身を包み、ほんの少しだけ化粧をしていることだろう。美しい未来を見るのは、本当に楽しみだ。
 倒れる前、未来は相馬に、友人達にはいつもファッションには無頓着と言われていると、苦笑していたことがあった。『ちゃんとすれば未来は綺麗になる』-----そう友達にも、ゼミの担当教授里見にも言われたと、言っていた。
 だが、相馬は決してそうは思わなかった、いつでも未来は綺麗だと思っていた。その心根が、太陽のような笑顔が、本当に可愛くて美しいと思っていたのだ。
 周りにいた人間の中でそう言わなかった貴重な男性であると、未来は相馬に言ってくれた。
 未来は他の女とは別だった。外見よりも、その魂に、心根に惹かれた。だからこそ外見よりも先に心を見た。
 人を外見だとか、知能でとかは判断しては行けないことを、桜塚希望園で習ったことが、ようやく役立っている。今までの彼には、役立たなかった教えかも知れないが。
 かつては整形美人を世に送り出し、人工的な彼女たちと付き合っていたが、それは心の葛藤が産んだ副産物に過ぎない。そんな過去はもう、相馬にとって遠い遺物でしかなかった。
 未来の病室までやってきた。愛する女性を前にすると、やはり緊張してしまう。自分たちの初めての本格的なデートの上、今日の未来が非常に綺麗なのは、判っているから。
 深呼吸を今更ながらにした後、相馬はノックをした。
「未来、いいかな?」
「はい。先生、どうぞ」
 未来が返事をするのと同時に、相馬が穏やかな微笑みを浮かべて中に入る。温かく明るい微笑みを向けて出迎えてくれた未来に、相馬の胸は甘く締め付けられた。
 その横顔の美しさは、本当に言葉では表現出来ない。透明感と艶が見事に同居していた。
 切れるような艶のある眼差しで未来をじっと見ると、彼女は初々しく頬を赤らめる。
「似合ってるね…。選んだかいがあった」
 満足な笑みと共に賞賛の溜息を吐くと、未来ははにかむ仕草で喜びを現してくれる。素直な反応に、相馬も賞賛するかいがあるというものだ。
「よかった…」
 未来ははにかんだ笑みを相馬に向けてきた。相馬は余りにも綺麗な未来に、艶やかに光る深い眼差しを真摯に向る。
「…本当に美しいね…君は…」
「隼人さん…」
 相馬の賞賛に、未来は少しくすぐったいのか、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「愛している男性に”美しい”と言われるのは素直に嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいね」
 艶やかな瞳で真剣に囁かれるのにまだ馴れてはいないところが、初々しくてまたそそる。
「さてと、患者さんの最終検査をしないとね。まあ、今日はデートをした後も、”検査”だけれどね」
 ニヤリと意味深に微笑む相馬の甘い一言に、未来はほんのり顔を赤らめてそっぽを向く。
「…もう…隼人さんのバカ…」
「可愛い患者さんだね、全く…」
 未来が腰掛けていたベッドの横に腰掛けると、相馬は優しく包みこんできた。
「…具合はどうかな? 僕の患者さん?」
 甘く耳を噛みながら囁くと、未来の心臓が烈しく鼓動を刻むのが聞こえる。未来の吐息が聞こえ、それがとてもセクシーだ。吐息という名の甘い官能の刺激に、相馬の躰がひどく震えた。
「…先生が一番知っている筈です…」
 拗ねるように言うのが可愛らしくて、更に強く抱きしめる。
「顔が赤いよ。熱を計らないとね…」
 からかうように言うと、相馬は指先で未来の顎を軽く持ち上げた。
「唇の…」
 唇を重ねる。優しく啄むようなキスは、恋する者達の特権のようなものだ。
 触れ合うキスを何度も重ねて、ふたりは愛情をしっかりと確かめあった。
「…熱はないようだね、良かった。もっと熱い場所の熱は、今夜、たっぷりと計らせて貰うよ…」
「隼人さん…」
 恥ずかしくて、未来はおろおろとすることしか出来ないでいるのが、とても可愛らしかった。

   □□□

 退院記念だと言って、この日を相馬は休診とした。
 ふたりはまずは車でチェリーランドに行く。
 ”さくら”と三人で行った、あの幻の日を再現するのだ。
 車に乗っている間、相馬は空いている手を、常に未来の膝に置く。温かな温もりに、心まで潤んで来そうだ。それがとても心地良い。未来もまんざらではないように、置かれた相馬の手を握りしめてくれた。
 幸せだと感じる。
 未来の肌の温もりを感じ、ただ横顔を見つめる。たったそれだけのことなのに、相馬の心は激しく波打った。

「やっぱりチェリーランドは物凄く楽しいわね!」
 遊園地に着くと、ふたりは仲良く手を繋いで、色々な乗り物を見てまわる。だがやはりスタンダードな乗り物を選んでしまった。
「あの、大人形館にしましょう!」
「分かった。あの中には、君にそっくりな人形がいるからねえ。入ってみよう」
「隼人さん…、もう!」
「はは、行こう」
 手を繋いで、密着が出来る小さなボートに乗り込み、ふたりで短い世界の旅をする。
 その間も、相馬は離したくないとばかりに、未来の手をにぎりしめ、抱き寄せていた。
「この間、さくらちゃんとも乗りましたね…」
「そうだね…」
「だけど、今はふたりだけ…」
 寂しそうに未来が呟くので、相馬が優しく抱きしめやる。彼女の心も躰も総てを自分の温もりで癒したいから。
「きっとすぐにふたりきりじゃなくなるよ。小さな君そっくりの子供が、僕たちの間に入って、これを楽しそうに見るさ」
「そうだよね…。うん、きっとそう! 先生、待っててね! 先生の可愛い赤ちゃんを私が…」
 未来はそこまで言いかけると、途端に真っ赤になる。随分と大胆に無意識に相馬を誘っているが、それがまた可愛い。
「未来ちゃん、じゃあ今夜から早速、子作りを始めないとね?」
 相馬の囁きに、未来は恥ずかしいのか、益々顔を赤くして、少しだけ恨めしそうに彼を見た。
 結局、チェリーランドでは、サファリ射的やらローラーコースターやらスタンダードな乗り物が中心になってしまった。
 最後はお約束にも観覧車だ。ここからの見晴らしは最高にご機嫌で、桜塚を全部見渡すことが出来る。
「先生、あれは大学…。そうそう、あっちが先生の診療所」
「あれが桜の丘だな」
 相馬と未来は見える馴染み深い建物や場所を指しては、喜んでいる。こうやって改めて空の上から馴染みの場所を見るのはよいものだ。
「…お兄ちゃんも、高いところから、指を指しながら見ているのかな…。私たちみたいに…」
 未来はポツリと寂しそうに呟く。その愁いを帯びた表情が堪らなくて、相馬はぎゅっと抱きしめていた。
「そうだね…。きっと、和希君は君を高いところから見守ってくれている…」
「うん…。隼人さん。でも私が一番見守られているのは、きっと隼人さんにだよ…。大好き…」
「未来…。僕も君を愛しているよ。誰よりも…」
「隼人さん。私も愛しています…」
 未来は相馬をしっかりと抱き返してくる。その温もりが嬉しくて、更に強く抱きすくめる。
 ふたりは、この空中散歩が終わるまでの間、ずっとお互いを抱きしめ合っていた。

   □□□

 遊園地を出て、アルーラでの予約までの間、ふたりは桜の丘で、いつものように座り込んで、桜塚の街を見下ろしていた。
「ここは、私の人生で、なくてはならない場所になりそう…。私はここに捨てられていて、桜塚希望園にいる頃は、隼人さんがいつもここに遊びに連れていってくれた…。そして…。お兄ちゃんを看取ったのも、ここだった…。隼人さんと何度目かの再会をしたのも、さくらちゃんと出会ったのも、あなたの本音を聞いたのも、みんなここだった」
 どこかノスタルジアを含ませて、未来は夕焼けの空を見上げる。その横顔は本当に美しい。
「僕もここで育まれた。小さな頃は、桜の丘ばかり眺めてたな。きっとここに、自分が会いたいひとがいつかやって来るって…、そう思ってた…。それは叶ったよ。君に会えたから…」
 じっと見つめると、未来は頬を紅に染める。それは、夕日で染まった紅か、照れが入ったものか判らなかったが、美しいには違いなかった。
「君にこの場所で何度も出会って、離れ離れになって…。だけれど、いつもこの桜の樹が僕らをここに導いてくれていたのは違いない。この場所は、僕にとって君そのものだ。いつも優しく僕を迎えてくれる。素直になれる温かな場所だよ…」
 ここまで言って、相馬は照れ臭くて苦笑する。
「どうもここでは、僕は饒舌になってしまうようだね…」
「私は隼人さんの色々なところが見られて…、好き…。どんな隼人さんでも、大好きなんだけれどね」」
 そこまで言って、未来は真っ赤になる。可愛い愛の告白に、相馬は未来を抱き寄せた。
「未来…。この桜の樹は僕らをずっと見守ってくれている。今までも、そしてこれからも…。だから今日はここで証人になってもらおうと思うんだ…」
 相馬は未来の肩に手を置いて向き直らせると、ポケットから四角いヴェルヴェットのジュエリーケースを取り出した。
 未来が息を呑んだのは直ぐに解る。
 恋人の甘い驚きに、相馬も釣られるように微笑んだ。
「君が大学を卒業したら、僕と結婚して欲しい…。ふたりで沢山の夢を叶えよう。君が通訳になる夢も、さくらちゃんみたいな子供を持つ夢も…。皆…」
 未来はただ瞳を潤ませて、僅かに唇を震わせている。いきなりのプロポーズに言葉が上手く出ないようだ。
「返事は今じゃなくても良い。だが、僕は人生のパートナーとして君に傍にいて欲しい」
「…隼人さん…っ!」
 未来は感極まった声で名前を呼ぶと、しっかりと抱き着いて来てくれた。ぎゅっと抱きしめてくる温もりに応える為に、相馬は未来を抱き返す。
「…私を人生のパートナーにして下さい…。ずっと隼人さんと一緒に歩んで行きたいです…。ふたりで沢山の夢を一緒に叶えましょう…」
「ああ」
 相馬は未来の顎を持ち上げ、自分と同じ目線にさせる。じっと真摯に見つめて、未来の瞳に愛を注ぎ込んだ。
「愛している…」
 ただ一言を万感の想いで囁くと、唇を重ねる。
 唇からはお互いの熱が伝わり合い、どれほど愛しているかが解る。
 唇を吸い合い、お互いの舌を絡め合う。唾液の交換も大切に想う相手だから出来るのだ。
 呼吸を奪い合った誓いのキスの後、二人は再び抱き合った。
 もう独りじゃない。孤独の代わりに幸せが現れて来た。
 抱擁を解いた後、相馬は未来の左手を取る。左の薬指に誓いの指輪をゆっくりとはめる。
 誓いの指輪は、二人の想い出の花であり愛する花”桜”がモチーフされた、ダイヤモンドだった。
「隼人さん有り難う…」
 未来は夕日に指輪を翳して、何度も幸せそうに見つめる。幸せな未来は文句なく綺麗だった。
「桜の丘の桜の樹は、ずっと僕らを一生見守ってくれるよ…。この桜の樹に見守られて、ずっと暮らしたいな」
「うん、私もそう思う。私達の愛の軌跡を見つめていてほしい…」
 二人はじっと桜の樹を眺める。いつも見守ってくれていた桜の樹に、”これからもどうぞよろしく”を忍ばせて、見つめた。
「この樹に直ぐ傍で見守られて、暮らしたいな」
「うん。ここでお家を建ててもステキだわ…」
「建てようか、ここに家。僕たちの叶えたい夢のひとつとして…」
 互いに見つめ合いくすりと笑う。共通の夢がまたひとつ増えた。
 ふたりはまた見つめ合うとシルエットを重ね合う。この初夏の日を、絶対に忘れないと思いながら…。

   □□□

 予約時間になったので、”アルーラ”で夕食を取る。高級イタリアンレストランとして知られているが、家庭的でとても雰囲気が良い。
 コースと未来が所望していたラザニアを注文し、たっぷりと食べる。
 その食べっぷりの良さも、好ましい。最近デートしていた整形美人たちは、みんな体形を気にし余り食べ物を口にしなかった。だが未来は素直に食べてくれる。これからもデートで美味しい物を食べに連れて行ったり、色々な所に連れて行きたくなる。
「今日だけは太るのを気にせずに食べちゃう!」
「そんなことは気にしなくて良いよ。寝たきりだったから、君はかなり痩せてしまっているし、逆に太らないといけないからね…。まあ、どんな君でも、僕は好きだけれどね」
 さらりと相馬は言ってのけるが、未来は頬を蒸気させて、瞳を恥ずかしそうに煌めかせた。
「…有り難う…。私もどんな隼人さんでも好き…」
 相馬の前では気取らずに、素直な自分でいられる。それが未来には心地が良かった。

   □□□

 アルーラでは、お互いにアルコールは入らなかったが、楽しく充実したひと時を過ごすことが出来た。
 今夜は桜塚を一望できるホテルに宿泊する。相馬は車でホテルまで向かう。
「”世界一の朝食”が売りのホテルだからね」
「楽しみ! 一杯食べなくっちゃ!」
 先ほど食べたばかりだというのに、未来は明日の朝の食事に大喜びをしている。生命力が溢れている未来を見るのが、相馬は何よりも好きだった。
「明日はレイトチェックアウトにしているから、ゆっくり出来るけど、ブランチを食べることになるかもな」
「あ…」
 意味深な艶の含んだ笑みを浮かべると、途端に未来は真っ赤になる。
「君の願いを叶えてあげないといけないからね…」
「…隼人さん…」
「言ったことを忘れたなんて言わせない…」
 低い声で甘く囁くと、未来の愛情を籠もった華やいだ眼差しが相馬を捕らえる。
「叶えてください…」
 たった一言で相馬は胸が激しく高鳴り、緊張する。ずっと未来に触れたかったから、肌がざわめいていく。
 甘い欲望が頭を擡げて、相馬を追い立てる。早く、未来に触れたかった。
 彼女も同じ気持ちなのか、切羽詰まった艶のある眼差しで、視線を逸らさずに相馬を見つめて来た。
 ホテルまでの道程は、決して遠くはないはずなのに、もどかしいほどの距離を感じる。
 ようやく駐車場に車を停めてそこから出た時、未来の手を強引と言える程の強さで握り締めた。
 チェックインをした後、ホテルマンが部屋に案内してくれる。本当はエレベーターの中ですらもいちゃいちゃとしたかったが、ホテルマンの視線がある以上は致し方なかった。
 案内された部屋はとてもロマンティックで、最上階の星と夜景が美しく見える場所。扉を開けてもらうなり、未来は感嘆の声を上げた。
「有り難う」
 部屋の入口で相馬はホテルマンにチップを払うと、帰した。
 これでようやく二人っきりになれる。
「さてと、邪魔物は消えたところで、部屋でゆっくりしないとな」
「きゃっ!」
 相馬は未来を抱き上げ、静かに部屋入っていく。こうすれば幸せになれると、アメリカで聞いたことがあったから。
「今夜はどうしてもこうしたかった」
「うん…。凄く幸せ…」
 ベッドまでたどり着くと、未来をその上に座らせ、相馬は横に腰をかけた。
 ちょうど美しい夜景と夜空が見渡せ、夢中になる。相馬が抱き寄せると、未来は頭をその肩に凭れさせてきた。
「綺麗ね…」
「ああ。人工の光も綺麗だが、やはり星の光のほうが凄く綺麗だな」
 相馬の手が未来の頬を捕らえる。彼女の視線を自分に向けさせ、その瞳を見つめる。
「隼人さん…」
 そっと唇を重ねた。今までのものよりも熱い。何度キスしても足りないくらい、貪欲に求め合う。キスだけで脳の随が痺れる。もっと欲しくて、相馬は未来を貪った。
「んんっ…」
 舌先で唇をゆっくりとなぞると、甘い未来の吐息がかかる。もっともっと欲しくて、舌先で更に未来の口腔内を犯した。顎の上を舌でくすぐってやると、未来はぎこちなく舌を絡ませてくる。
 相馬は更に興奮した。ずっと抑えてきた欲望に突き動かされて、激しさを増していくキスで、未来を驚喜へと運んでいく。
 欲望が激流のように全身に流れていく。もうキスだけじゃ足りない。直に未来を感じたい。
 相馬は唇を首筋に移すと、未来の肌を強く吸い上げた。自分の物であるという所有の証を強く付ける。
「あっ…」
 ワンピースの上から、未来のほっそりとした美しい躰のラインをなぞると、僅かに肌が震えるのが判った。
 そのままベッドの上に未来を押し倒す。もう我慢が出来ないほど欲しかった。
「あ、もう少し星を見たい…」
「見せてあげるよ。星ぐらい…。瞼の向こうにね」
「隼人さん…」
「君が僕を選んだことを、決して後悔させない…」
 ワンピースのファスナーをそっと下ろし、相馬は未来を下着姿にさせる。フロントフォックを外してブラジャーを取ると、未来の白く豊かな胸が露見した。
 白くて形がよい美しすぎる胸に、暫し見惚れる。
「…見ないで…」
 肌を桜色に染め上げて未来は折角の美しい物を隠そうとする。そんなことをさせたくなくて、彼は隠そうとした未来の手を掴んだ。
「隠すな…」
「やだ…」
 相馬はじっと美しい胸を鑑賞する。感嘆の息すら漏れるほど綺麗だ。人工に作った物よりも、やはり愛する未来の生まれながらの物は、一等美しかった。
「…ああっ! 隼人さん…っ!」
 相馬は大切な物を扱うかのように、未来の胸を優しくマッサージをする。緩やかな手の動きがそ性急になった時、未来の唇から大きな甘い吐息が漏れた。
 痛いほど胸が張りつめているのが判る。もっともっと愛する未来の淫らな表情が見たくて、相馬は追いつめる。
 こんなに滑らかで柔らかな胸に触れるだけで、喉の渇きを覚えた。未来の興奮が肌を通じて伝わってくるのが、とても嬉しかった。
「あああんっ!」
 何度でも聞きたい甘ったるい未来の声。もっと聞きたくて、相馬は、触れられたくてうずうずとしている未来の胸の頂を、指先で捻った。
「あああんっ!」
 華奢な未来の腰が一瞬ベッドから浮く。もっと、もっと、感じさせたくて、相馬は巧みに未来の乳首をこねくり回した。
「ああ、ダメ…っ!」
 ダメじゃないことは良く判っている。相馬の指先は更に未来を攻め立てた。
「はあ、あああんっ!」
 浅く甘い呼吸をしている未来の唇を、再び奪う。芳醇な未来の唇を奪うと、欲望が更に突き上げて焼き尽くしていく。良識など総て音を立てて崩れおちた。
「…未来…」
 息の上がる声で名前を囁きながら、胸に舌を這わせる。なんと素晴らしい舌触りなのかと、思わずにはいられなかった。手の中でたわむ胸の感触に恍惚すら感じながら、相馬は更に未来を貪欲に愛す。
「ああっ! あああんっ!」
 色味が変わりすっかり勃ちあがった乳首を、口に含んだ。舌先で転がすように愛撫をした後、根元を甘く咬む。
「ああああっ!」
 未来の声は更に高くなり、悦びにその白い躰を震わせる。
 もっと感じさせたい。相馬はもう一方の胸を同じように愛撫しながら、ほっそりとしたボディラインを指でなぞった。
「あああっ!」
 声を上げるたびに身を捩る。そのたびに水音が大きくなり始め、未来が感じていることが判った。
 男としての征服欲が、相馬の全身を駆け抜ける。
 もっと未来をぐちゃぐちゃになるまでに感じさせたい----征服するかのように相馬の唇が平らな腹部に下りていった。
「やっっ!」
 未来が相馬の肩にてをやる。引き締まった筋肉のラインをなぞるものだから、息が更に上がる。興奮もどうしようもないほど高まってきた。
 未来の平らな腹部が僅かに震えている。そこに唇を押し当てながら、一気に最後の砦を取り払われた。
「あっ…」
 隠すように身を捩ることは許さない。愛する未来の総てを見たかった。
「ああっ!」
 茂みをマッサージするように手を這わせると、未来は下半身を震わせる。とろりと濃い液体が、太股を濡らしているのが見え、相馬は男として満足せずにはいられなかった。
 肌を重ねたい。服の上から彼女の滑らかな肌を感じるのはもどかしくてしょうがない。
 相馬は乱暴に服を脱ぐと、いつもの彼では考えられないように乱雑にベッドの下に捨てた。
 未来と同じように一糸纏わぬ姿となって、改めて彼女を抱きしめる。
「未来…、愛してる」
「隼人さん…、私も愛しています…」
 限界までに昴ぶったものを未来に押しつけると、彼女の細い腰が揺れる。それがとてもセクシーでしょうがない。
「未来…」
「あっ!」
 指を未来の熱い場所にそっと這わせると、たっぷりと粘質の液が指に絡みついてくる。その指を一旦そこから抜くと、相馬はわざと未来の前で濡れた指を舐めた。
「止めて…」
「随分濡れているね…。溢れてる」
「いやん…」
 本当に恥ずかしそうにして顔を背ける姿が本当に可愛い。相馬は小さく笑うと、未来の脚を大きく開けた。
「いやあああんっ!」
 未来が脚をじたばたさせるのも構わずに、相馬はそこに顔を埋める。
「喉が渇いたんだ…。丁度いい」
 欲望が突き上げすぎて、本当に喉が渇いていた。相馬は未来の溢れる蜜を、先ずは音を立てて吸い上げ始めた。
「やああっ! あああっ!」
 吸い上げながら、相馬は容赦なく襞を丹念に舐めていく。蜜を舐め取っても、舐め取っても、未来からは溢れていくばかりだ。
「ああああっ!」
 相馬の肩を持つ未来の指が、肌に強く食い込む。感じてくれているのが素直に嬉しかった。
 襞を丹念に舐めた後、熱くふくれた果肉の中心を輪を描くように舌で転がしていく。
「ああああっ!」
 指を未来の胎内に鎮める。相変わらず熱くてよく締まるそこを、相馬は緩やかにかき混ぜていく。
 未来はもうどうなっても構わないとばかりに、息を乱し、相馬に縋り付いていた。
 初めての時よりも更に感度は良くなったのか、めくるめく快楽に自分を完全に失っているようだ。
「ああっ! 隼人さん…!!」
 未来の反応に、勿論相馬も煽られる。指で更に彼女を責め苛む。
 胎内に鎮めた指を2本に増やし、更に蠢く胎内をかき混ぜながら、官能の淵に追い込んでいく。
「ああ、ああ、あああっ! もう、隼人さん…っ!」
 もっと声が聞きたい。もっと乱れて欲しい。相馬は指と舌で未来を追い立てる。
 ああ、もうだめ…。そんな声が聞こえそうになる頃、相馬は指を少し曲げて胎内の一番感じるところを攻め、同時に、熱い肉芽を唇で吸い上げる。
「やあああっ! あああああっ!!」
 未来は絶頂に達すると、華奢な躰を撓らせて叫び声を上げた。躰が震えて、熱いうねりに飲み込まれるように瞬きをし、未来は失神してしまった。
 ぐったりとした未来から指を抜くと、相馬は優しく抱きしめる。もっと欲しい。これだけじゃあ足りない。
 見つめていると、未来の瞼が僅かに動いた。相馬は未来の脚の間に入り込むと、限界まで硬く熱く、そして成長した自分自身で、未来の入り口をなぞった。
「あっ、隼人さん…ああっ!」
「僕が欲しいか? 未来…」
 欲望が高まりすぎてか、未来はただ何度も頷くだけだ。相馬は甘いキスを頬にしてやる。
「僕も君が欲しいよ、未来…」
 相馬の高まりがゆっくりと未来の中に入っていく。まだまだ狭い未来を捻るようにして押し広げる。
「いあああっ!」
「クッ!」
 まだ馴れていないせいか、未来は相馬に縋り付く。だが決して「止めて」とは言わなかった。
 ぐっと力を込めて奥まで貫くと、ふたりの息が同時に乱れる。緩やかな熱いうねりが全身を駆けめぐった。
「隼人さん…、隼人さんっ!」
「ちゃんと胎内に入ってる…」
「ん…っ!」
 ぎゅっと抱きしめてやると、未来も抱き返してくる。肌がこすれ合って気持ちがよい。
「…未来…君は…最高だよっ…!」
 相馬の声が乱れた。ここまで来るともう自制心なんかは効きやしない。
 未来の胎内は最高だった。熱くて蠢く襞は相馬を包み込み、きついほど締め付けてくる。
 正直、こんな名器には出逢ったことがないと思っていた。それだけでも充分に感じることが出来るのに、しかも相手は愛する女性だ。これ以上の快楽を得られることはないのではないかと、真剣に思うほどだ。
 今までのセックスとは比べ物にならない。いや、比べられない程良かった。
 激しい抽送を始める。未来の腰を手に取り激しく上下に動かしながら、相馬は繰り返し突き上げた。
 濡れすぎたものが潤滑油になって、相馬を更に滑りよくする。
「あああっ! ああああんっ!!」
 未来は無意識に相馬に縋り付く。腰に脚を絡めると、更にふたりは深く結びつく。
 もっと、もっと深く。
 未来の総てを貪り尽くすかのように、相馬は腰のピストン運動を続けた。
「ああ、ああ、ああああっ!」
 しめやかな相馬の熱が、今、未来を支配する。もちろん未来の柔らかな熱もすっかり相馬の中に入り混んでいた。
 蠢く内部に、容赦ない締め付け。それらが更に相馬を突き立てる。未来を突き上げて、激しく突き上げて、もうこれ以上ないほどの渾身の力で、愛する者を貫く。
「あああああああああっ!!」
 淫らな水音が更に激しくなる。もう何もいらない。
 お互いの動きが速くなり、辺りの視界が熱を帯びて揺れる。
「ああああぁああっ! もう、隼人さんっ!」
「未来っ!」
 渾身を込めて、未来の奥深くの少し手前を突き上げると、彼女の白い肌が小刻みに痙攣を始めた。極限へと快楽に上り詰めていく。
「あっ、あっああああああっ!」
 激しくも長い二度目の絶頂に、未来の躰は激しく跳ね上がった。相馬も、彼女の熱い場所が痙攣するのを感じた直後に、逞しい躰が震え出す。
「クッ…! 未来!!」
未来の胎内に欲望を迸らせると、そのまま熱い肌の上に果てた  

   □□□

 相馬は失神してしまった未来をそっと抱きしめていた。まだふたりは繋がったままだが、それがとても幸せに感じる。
「…んんっ」
 ようやく未来の瞼が動き、現実の世界に戻ってきた。
「目が覚めた?」
 声を開けると、未来の瞳は艶やかに輝いている。ただ甘えるように相馬に抱き付く。
「…隼人さん…、凄く幸せ…」
「僕も、幸せだよ」
 未来の可愛い唇に甘いキスを贈る。僅かに震える初々しい反応が、また彼をそそった。
 相馬は快適な未来の重みを感じながら、欲望が再び込み上げてくるのを感じる。
「あああっ!」
 胎内の中でどんどん力を回復してくる相馬に、未来は感じてしまい喘ぎ声を上げる。再び彼女の胎内の収縮が激しくなる。
「あっ、ダメ…あああんっ!」
 胎内で相馬はみるみるうちに元気になる。更に先ほどよりも硬く、熱くなり、未来の吐息がどんどん激しくなっていく。
 もう離すことは出来ない。相馬は再び、未来を組み敷くと、激しく攻め立てた。
「ああ、ああ、あああんっ!」
「未来…っ!」
 失神したばかりの未来の躰は敏感で、絶頂後なので更に濡れている。相馬自身の滑りも良くなり、先ほどよりも増して、激しく抱く。
「んん、んん、んんっ!」
 涙が滲むほど感じる。
 上半身を起こすような形で抱きしめられ、更に深く突き上げられていく。
 汗ばんだ肌が擦り合うのが、唇を激しく貪り合うのが心地よい。
「あああああっ!」
「未来…っ」
 相馬の激しい愛の行為に、未来はまた失神することになってしまった。

   □□□

 結局、相馬が未来を寝かしたのは、明け方近くになってからだった。満たされ、心地の良い疲れに包まれて、未来は相馬の腕の中であどけなく眠った。
 その寝顔はいつまでも見ていたいと思うほど愛らしい。
「未来、有り難う…」
 相馬はそっと額にキスをすると、未来をしっかりと抱きしめて、眠りにつく。
 起きたらきっとお昼近くで、”世界一の朝食”にはありつけないだろう。だが、世界一幸せな瞬間であるはずだ。
 相馬は満たされた想いと幸せに包まれながら、眠りに落ちた  




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